ペリオ|Phase4 メインテナンス
骨が7割以上失われた歯を前に、隣の歯を守るために抜くべきだと教わってきました。いわゆる戦略的抜歯です。2007年、MachteiとHirschは、歯周外科まで終えて定期管理に乗った110歯を平均4.4年追い、その前提を検証しました。
①戦略的抜歯という前提
骨が7割以上失われた歯を前にして、われわれはこう考えます。この歯を残すと、隣の歯まで巻き込まれる。だから隣を守るために抜く——「戦略的抜歯」という考え方です。
この前提には根拠がありました。著者らMachteiら自身が1989年に、歯周治療を受けていない129名145歯で、絶望歯を残した場合と抜いた場合の隣在歯の骨変化を4年追い、年間骨吸収が3.12%対0.23%と大きく違うことを報告しています。下顎第三大臼歯の外科的抜去が、無治療の患者では第二大臼歯遠心の歯周破壊につながりうるという報告もありました。
ところが反対の報告もあります。DeVoreらは17歯を平均3.5年追い、絶望歯の保存は隣在歯の隣接面歯周組織に有害な影響を及ぼさないと結論し、8年後の追跡報告でもそれを確認しました。ただしサンプルが17名(うち外科は15名)、追跡報告に至っては元の10名だけという弱さがあります。
そこで著者らは、今度は「歯周外科まで終えて、きちんと定期管理に乗せた患者」で同じ問いを立て直しました。
②93名110歯を、平均4.4年
イスラエル・ランバム医療センターで1990〜2003年に治療された患者のファイルから、デンタルX線をもとに後ろ向きに集めました。
「絶望的(hopeless)」の定義は、隣接面のどちらかで骨の高さを70%以上失っていること。組み入れは、絶望歯とその隣在歯が写ったデンタルがあること、術後24か月以上の追跡X線があること、非喫煙者で寄与する全身疾患がないこと、限局型または広汎型の重度慢性歯周炎と診断されていることです。
治療の流れは共通です。全員が初期治療(ハイジーンフェーズ)を受け、再評価でPD 6mm超が残った患者だけが、単一術者による外科的フラップデブライドメントを受けました。その後は3〜6か月ごとのメインテナンス(口腔衛生の強化とスケーリング)です。
設計で目を引くのがここです。絶望歯を抜くか残すかの判断は、術者がいっさい関与せず、患者自身に完全に委ねられました。結果、残した群57歯(50名)、手術時に抜いた群53歯(43名)。93名(女性59・男性34)、年齢16〜68歳(平均45.5歳)、追跡は2〜13年(平均4.40±0.23年)となりました。
X線はスキャナでデジタル化し、単一の検者が専用ソフトで計測。根長を根尖からCEJまで、骨の高さを根尖から歯槽頂まで測り、その差をX線的骨距離(RBD)としています。RBDが小さいほど骨が高いという読み方です。
術前の条件は両群でよく揃っていました。絶望歯のRBDは残した群7.18±0.35mm、抜いた群7.25±0.39mm(p=0.8841)。隣在歯のRBDも近心5.68mm対5.25mm(p=0.4015)、遠心5.46mm対5.41mm(p=0.9321)で差はありません。
③残した歯そのものが、良くなった
まず驚くのは絶望歯そのものです。RBDは7.18±0.35mmから6.45±0.41mmへ——平均0.82±0.34mmの骨増加(p=0.0061)。根長に対する割合でも57.46±1.49%から52.32±2.03%へ改善(p=0.0032)。近心で1.1±0.35mm(p=0.0032)、遠心で0.83±0.33mm(p=0.0164)の増加でした。
70%以上の骨を失った歯が、外科とメインテナンスのあとで、X線上わずかに骨を戻している。「絶望的」というラベルが、治療を受けたあとには当てはまらなくなっていた、という読み方ができます。
肝心の隣在歯です。残した群では、近心0.28±0.23mm(p=0.422)、遠心0.29±0.25mm(p=0.3673)とわずかに骨が増えており、いずれも有意ではないものの、減ってはいません。
群間比較では、抜いた群のほうが数値は大きい(近心0.71mm対0.28mm、遠心1.14mm対0.29mm)ものの、mmでの差はどちらも有意に届きません(p=0.36・p=0.1175)。唯一有意だったのは遠心隣在歯の割合変化で、残した群1.50±2.1%に対し抜いた群11.36±3.3%(p=0.0119)。著者らはこれを、遠心側は計測できた歯が96歯と、近心側の74歯より多かったことに帰しています。
④1989年と2007年で、なぜ結論が逆になったか
同じ著者が、同じ問いに、逆の答えを出しています。理由は設計に書いてあります。
1989年の研究では、患者は歯周治療を受けていませんでした。著者らは「この初期の研究で歯周治療が欠けていたことが、観察された継続的な骨吸収を説明するのだろう」と述べています。2007年の研究では、初期治療と外科、そして3〜6か月ごとのメインテナンスが入っている。
つまり「絶望歯を残すと隣が削られる」のではなく、「治療されていない絶望歯を残すと隣が削られる」というのが、2つの研究を並べたときの読み方です。著者らも、最も重要な因子は患者のプラークコントロールと厳格なメインテナンスプログラムだったと書いています。
もうひとつ、この研究は非喫煙者に限定しています。喫煙は非外科・外科いずれの反応も悪くすることが知られており、除外したことが術後の骨増加を大きく見せた可能性があると著者ら自身が認めています。
時代背景も添えられています。インプラントの5年・10年生存率が90%超と報告されるなかで、多くの臨床医が絶望歯を抜いてインプラントに置き換えることを好むようになった。著者らは「本研究の結果と、これらの歯の生存率に関する最近の報告は、この流れを、疑わしい歯・絶望的な歯を保存し維持する方向へ見直すことを促すだろう」と締めています。
⑤明日の臨床へ
第一に、抜歯の理由を「隣を守るため」に置くなら、根拠は弱い。少なくとも外科まで終えて定期管理に乗った患者では、絶望歯を残しても隣在歯の骨は減っていません。抜く理由が症状・咬合・補綴設計・患者の希望であるなら別ですが、「隣が危ない」という説明は、この論文の前では慎重に使うべきです。
第二に、条件を外さない。この結果が成立したのは初期治療+必要なら外科+3〜6か月のメインテナンスという枠の中です。治療も管理もしないまま「残しても大丈夫」と言うのは、1989年の研究のほうへ戻ることになります。
第三に、保存の判断は患者と一緒に。この研究では抜くか残すかを完全に患者が決めています。単根歯36歯のうち抜かれたのは10歯だけで、多根歯74歯では43歯が抜かれた——前歯部では審美的な影響から保存を選ぶ傾向があると著者らも述べています。この偏りは弱点であると同時に、実際の臨床の姿でもあります。
今日のひとこと
隣接面のどちらかで骨の高さを70%以上失った歯を「絶望的(hopeless)」と定義し、歯周外科まで終えて3〜6か月ごとの定期管理に乗った93名110歯を平均4.40±0.23年(2〜13年)追った後ろ向き研究(喫煙者と全身疾患のある人は除外。残すか抜くかは術者が関与せず患者自身が決めた)。残した絶望歯そのものは、X線的骨距離が7.18±0.35mmから6.45±0.41mmへ——平均0.82mmの骨増加(p=0.0061)。割合でも57.46%から52.32%へ改善(p=0.0032)。隣在歯も両群でわずかに骨が増え、残した群と抜いた群のあいだに有意差はなかった(近心 0.28mm対0.71mm、遠心 0.29mm対1.14mm、いずれもp>0.05)。唯一有意だったのは遠心隣在歯の割合変化で、残した群1.50±2.1%に対し抜いた群11.36±3.3%(p=0.0119)。著者ら自身の1989年の研究では、歯周治療を行わない集団で残した絶望歯の隣は年3.12%対0.23%と大きく失われていた——治療とメインテナンスの有無が結論を分けている。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


