ペリオ|Phase1 初期治療
「もう少しかたい歯ブラシの方が、しっかり落ちますよ」。そう言いたくなる患者さんがいます。実際、かたい毛の方がプラークは落ちる。では、その引き換えに何が起きているのか。1984年、同じ衛生士が24名を標準化して磨き、傷の数とプラークの残りを同時に数えた研究が、その収支を見せています。
①「歯肉退縮は、毎日の摩擦でできる」という仮説
機械的な口腔清掃はプラークコントロールに不可欠です。それは前提として動きません。ただし著者らは、同時にこう書きます。それが歯肉と歯の組織にとって有害でありうることも報告されてきた。
損傷の幅は広い。可逆的な歯肉の裂傷から、歯肉退縮と根面の露出、そして最終的にはセメント質と象牙質の深い摩耗まで。原因として名指しされてきたのが歯ブラシの毛のかたさと、不適切な形状であり、不適切なブラッシング法がそれをさらに悪化させるとされてきました。
歯磨剤についても議論がありました。Spies(1934)は歯磨剤の研磨性が歯肉組織を刺激し歯を摩耗させると主張、BeyelerとMooser(1960)は研磨性の高い歯磨剤とやわらかい毛の組み合わせがとくに有害だと述べています。一方でVolpe ら(1975)は反対に、歯磨剤の研磨性以外の因子が歯の摩耗に関与すると示唆していました。
そこで本研究の作業仮説はこうなります。歯肉退縮は、力を入れたブラッシングによる歯肉組織の継続的な裂傷と摩耗によって引き起こされる。 それを確かめるために、毛のかたさと歯磨剤の研磨性が、歯肉のびらんの程度にどこまで影響するかを調べました。
②同じ衛生士が、同じ力で磨く
対象は歯科衛生士学生24名(22〜34歳)。実習中に丁寧なプラークコントロールとスケーリングを受けており、研究開始時点で歯肉は臨床的に健康でした。
使ったのは2本のブラシと3つの歯磨剤条件。「やわらかい」=毛の太さ0.15mm、「かたい」=毛の太さ0.23mm。歯磨剤は中等度に研磨性のあるペースト、高度に研磨性のある粉、そして歯磨剤なし。組み合わせは6通りです。
この研究のいちばんの工夫は、ブラッシングの力の個人差を排除したこと。被験者自身は磨きません。同一の歯科衛生士が、全員の歯を3回(1週間間隔)磨きました。スプリットマウス方式で、上下顎の左右を1分ずつ、違うブラシで、変法バス法を用いて。3回のブラッシングで、2種類のブラシ×3つの歯磨剤条件の6通りが揃います。
被験者には各試験の2日前から機械的・化学的な口腔清掃をしないよう指示——これで明らかに見えるプラークが溜まります。
評価はブラッシングの前後で。磨く前に、以前のブラッシング外傷や歯肉病変がないかを確認。磨いた後に、1歯につき4か所の歯肉のいずれかに裂傷または潰瘍の明らかな徴候があれば、ブラッシングによる傷として記録します。その後塩基性フクシンで染色してPLQ指数を採点。中切歯は左右のブラッシングが正中で重なる可能性があるため採点から除外されています。
なお、この肉眼での病変の診断は、走査型電子顕微鏡を使った別の検討で約90%の一致率が確認されており、同一の検者が両方の研究で歯肉を評価しています。
③傷の数は、7倍以上に増える
もっとも被害が少なかったのは「やわらかいブラシ+歯磨剤なし」で、平均1.2個。24名中13名は傷ゼロでした(傷があった人でも1個が最頻値。ただし1名だけ9個記録されています)。
次が「かたいブラシ+中等度研磨のペースト」で平均5.3個。最多の1名で17個、一方で3名は傷なしでした。
そして最悪の組み合わせが「かたいブラシ+研磨性の高い粉」で平均9.2個。この組み合わせでは1名を除く全員に歯肉の傷ができ、最多の人は23個です。
統計的にも明快でした。かたいブラシとやわらかいブラシの差は、歯磨剤なしで平均3.5個(p<0.001)、中等度ペーストで2.8個(p<0.05)、研磨粉で5.6個(p<0.01)——どの歯磨剤条件でも、かたい方が有意に多く傷をつけました。歯磨剤どうしの比較では、やわらかいブラシでは「研磨粉 vs 歯磨剤なし」の差だけが有意(2.4個・p<0.01)、かたいブラシでは研磨粉が歯磨剤なしより4.5個、ペーストより3.9個多く(いずれもp<0.01)なりました。
④その代わりに得たものは、0.3
では、そこまでして得られたプラーク除去の上乗せはどれほどか。
傾向自体は確かにありました。毛がかたいほど、そして歯磨剤の研磨性が高いほど、残存プラークは少なくなる方向。かたいブラシとやわらかいブラシの差は、どの歯磨剤条件でも一貫して0.20(p<0.001〜0.01)で統計学的には有意です。
ところが著者らはこう書きます。「しかし、用いた指数を考えると、最大の差である1.1から0.8であっても、臨床的意義は疑わしいだろう」。
歯磨剤の種類による差はさらに小さく、やわらかいブラシで研磨粉と歯磨剤なしを比べたときだけが、かろうじて有意に近づいた(p<0.05)程度。かたいブラシでは、歯磨剤の種類はプラークスコアに影響しませんでした。
そして考察の一文が、この論文の芯です。「毛のかたさと歯磨剤の研磨性が増すことで観察されたPLQスコアのわずかな低下は、それに対応する歯肉組織への損傷とは、まったく釣り合っていない」。さらに「歯肉縁への反復した外傷は、おそらく根面の進行性の露出をもたらすだろう」と続きます。
⑤明日の臨床へ
1つ目。退縮があれば、かたい毛は外す。 著者らの結論はそのまま使えます——「歯肉退縮が認められる、あるいは疑われるときは、バス法でかたいブラシを使うことを控えるよう勧めるのが妥当」。硬さの選択は好みの話ではなく、所見に基づく判断です。
2つ目。「もっとしっかり」の中身を、力から時間・当て方へ振り替える。 この研究では力を一定にしても、毛のかたさだけで傷が3.5個増えました。患者さんに伝えるべきは「強く」ではなく、「毛先をどこに当てるか」「どれだけの時間」です。
3つ目。研磨性の高い粉を、日常使いにしない。 かたいブラシとの組み合わせで傷は4.5個増え、プラークの見返りはほぼありません。着色除去などの目的があるなら、期間と頻度を限る提案に変える価値があります。
今日のひとこと
歯肉が臨床的に健康な歯科衛生士学生24名(22〜34歳)を対象に、毛の太さ0.15mmの「やわらかい」ブラシと0.23mmの「かたい」ブラシ、中等度に研磨性のある歯磨剤・高度に研磨性のある歯磨き粉・歯磨剤なしの6通りを比べました。力の個人差をなくすため、すべて同一の歯科衛生士が1分間・変法バス法で磨き、左右で違うブラシを使う設計です(1週間あけて3回)。磨いた直後に1歯4か所の歯肉に裂傷や潰瘍の明らかな徴候があるかを数え、そのあと塩基性フクシンで染めてプラークを採点しました。結果、歯肉の傷は「やわらかい×歯磨剤なし」で平均1.2個(24名中13名は傷ゼロ)、「かたい×中等度研磨の歯磨剤」で平均5.3個、「かたい×研磨性の高い歯磨き粉」で平均9.2個——この組み合わせでは1名を除く全員に傷ができ、最多の人は23個でした。一方でプラークは、毛がかたいほど・研磨性が高いほどわずかに減る傾向があったものの、最大の差でも1.1から0.8まで。著者らは「PLQスコアのわずかな低下は、それに対応する歯肉組織への損傷とはまったく釣り合わない」とし、「歯肉退縮が認められる、あるいは疑われる場合には、バス法でかたいブラシを使うことを控えるよう勧めるのが妥当と思われる」と結論しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


