1問1答 論文 歯周病

「歯周病は糖尿病の6番目の合併症である」——網膜症や腎症と同じ列に、歯を置いた1993年

リスク因子・全身疾患

歯周病を糖尿病の合併症と位置づけた総説(1993年)

「糖尿病の方は歯周病になりやすいので」——この一言は、いまや説明の定番です。ですが、その位置づけを最初にはっきり言い切ったのは誰だったのでしょうか。1993年、糖尿病の専門誌に載った一本の総説が、網膜症・腎症・神経障害と並ぶ列に歯周病を置きました。表題そのものが、主張になっています。

論文
Periodontal disease. The sixth complication of diabetes mellitus
著者
Löe H(米国国立歯科研究所)
掲載
Diabetes Care. 1993;16(1):329-334
種類
総説(ピマインディアンの縦断研究とデンマークの1型糖尿病研究を統合)
PMID
8422804

「糖尿病の方は歯周病になりやすい」——その言葉は、どこから来たのか

いまや説明の定番です。医科からの紹介状にも書かれ、患者さんも聞いたことがある。ですが「なりやすい」で止まらず、糖尿病の合併症として並べたのは誰だったのでしょうか。

網膜症、腎症、神経障害、大血管障害、微小血管障害——古典的に数えられてきた合併症に続けて、6番目に歯周病を置いたのがこの総説です。しかも掲載誌は歯科ではなく、糖尿病の専門誌でした。

舞台:世界でもっとも2型糖尿病が多い集団

中心になったのは、アリゾナ州ヒラリバーに暮らすピマインディアンの調査です。この集団は2型糖尿病の有病率が世界で最も高いとされ、一方で1型糖尿病はほとんど見られません。2型糖尿病と歯周病の関係を見るには、これ以上ない条件でした。

15歳以上の2,180人が、1983年から1988年にかけて隔年で検査を受けています。歯周病の評価は、本人の糖尿病の有無を知らされないまま行われました。パノラマから隣接面の骨吸収を計測し、骨レベルと歯の喪失から進行度を判定しています。

結果:差がもっとも開くのは、若い世代だった

進行した歯周病の有病率は、糖尿病なしで21.6%、糖尿病ありで83%。全体でも大きな差ですが、注目すべきは年齢層別の内訳です。

0 33.3% 66.7% 100% 進行した歯周病の有病率(%) 7.9% 45.2% 7.5% 47.9% 53.2% 88.7% 62.6% 91.1% 21.6% 83% 男性 15〜31歳 女性 15〜34歳 男性 35〜54歳 女性 35〜54歳 全体 アリゾナ州ヒラリバーのピマインディアン2,180人(15歳以上)。差がもっとも開くのは若い世代で、男性15〜31歳では7.9%対45.2%(Löe 1993)

男性15〜31歳では、7.9%に対して45.2%。女性15〜34歳では、7.5%に対して47.9%。若い世代でこそ、差が際立っています。

一方で55歳以上になると、糖尿病の有無にかかわらず9割以上が罹患していました。つまり糖尿病は「いずれ起きること」を早めている——そう読める分布です。

そして、5年半追いかけた

有病率は「いま何人いるか」であって、「新たに何人なるか」ではありません。そこで調査開始時に歯周病が無かった746人を、最長5年半追跡しています。

新たに発症したのは32人。1000人年あたりの発症率は、糖尿病なしで17.0、糖尿病ありで81.1。年齢と性別を調整すると、率比は2.9でした。

年齢は強い予測因子です。ですが著者は明確に書いています——糖尿病の有無は、年齢よりもさらに強く発症を予測していた。

帰結の重さ:歯を失うところまで

この総説が「合併症」と言い切れた理由は、影響が最終的な帰結にまで届いていたからです。

年齢と性別を調整して、糖尿病のある人の平均欠損歯数は12歯、無い人は8歯完全に無歯顎である割合は15倍でした。しかも無歯顎の割合は糖尿病の罹病期間とともに上がり、5年で7%、10年で14%、20年では75%に達しています。

網膜症のある人は、無い人に比べて進行した歯周病を持つ割合が約5倍。興味深いことに、腎障害や尿中アルブミンとは関連が見られませんでした——合併症なら何とでも結びつく、という話ではないわけです。

1型糖尿病についても、デンマークの20〜40歳の男性を対象にした研究が引かれています。30歳を超えた1型糖尿病の人は付着の喪失が有意に大きく、罹病10年以上でさらに大きい。インスリンの投与量とは相関せず、網膜症のある人で大きい——2型と同じ形をしていました。

明日の臨床へ:名前がつくと、扱いが変わる

この論文に新しい実験データはありません。やったのは、既にあった知見に名前を与えたことです。ですがそれは小さな仕事ではありません。

1)医科に伝わる言葉になった。「歯周病になりやすい」は歯科の関心事に聞こえます。「6番目の合併症」は、糖尿病診療の枠の中の話になります。掲載誌が糖尿病専門誌だったことも含めて、これは宛先を変えた一本でした。

2)若い糖尿病患者こそ、目を配る。差が最も開いていたのは10代〜30代です。「まだ若いから」が通用しない集団がある、ということです。

3)罹病期間を聞く。無歯顎の割合が5年・10年・20年で階段状に上がっていました。問診では、いつ診断されたかまで確かめる価値があります。

ここだけ補助線

この総説について、何が言えて何が言えないか言えること有病率だけでなく発症率でも差が出た1型でも2型でも関連が見られた網膜症とは関連し腎障害とはしない言えないこと特定の集団に偏ったデータである歯周治療で合併症が減るかどうか総説であり新しい原著データではないこの論文の功績は新データではなく、既存の知見に「第6の合併症」という名前を与えたことにある(Löe 1993)

特定の集団に強く依存したデータです。ピマインディアンは2型糖尿病の有病率が世界で最も高い集団で、そのぶん関連も見えやすい。ここで得られた数字を、そのまま日本の一般集団に当てはめることはできません。

またこれは総説であって、新しい原著データではありません。中心となるピマの数値は、既刊で扱っているEmrichらの研究などから引かれています。この論文の価値は、データそのものではなく位置づけを変えたことにあります。

そして最も大切な線引き——「合併症である」は「治療すれば他の合併症が減る」を意味しません。その問いは、この論文の30年後もまだ完全には決着していません。

今日のひとこと

2型糖尿病の集団で、進行した歯周病の有病率は83%対21.6%。差は若い世代でこそ開いていた(男性15〜31歳で45.2%対7.9%)。5年半の追跡では発症率も分かれ、年齢と性別を調整した率比は2.9。1型でも同じ方向の結果が出ており、著者は「歯周病は糖尿病の合併症とみなされるべきだ」と結論した。

出典(PubMed):Löe H. Periodontal disease. The sixth complication of diabetes mellitus. Diabetes Care. 1993;16(1):329-334. PMID: 8422804
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。