ペリオ|Phase4 メインテナンス
支台歯形成でマージンを歯肉縁下に入れる。その瞬間、歯周組織の何を借りているのか。1979年、MaynardとWilsonは、修復治療を行う歯科医師が必ず把握すべき歯周組織の寸法を3つに整理し、それを侵すと何が起こるかを言葉にしました。
①「歯肉縁下1mm」と言うとき、何を借りているのか
クラウンのマージンを歯肉縁下に置く理由は、はっきりしています。う蝕や不良修復物の除去、十分な維持形態の獲得、根面の知覚過敏の防止、そして患者の審美的要求への対応。日常的な判断です。
ところが著者らは、冒頭で釘を刺します。「修復物のマージンを歯肉溝内へ延長することで歯のう蝕を予防できるという説は、証明されていない」。そして用語から整理を始めます。「subgingival margin(歯肉縁下マージン)」という言い方は曖昧である。intracrevicular margin(歯肉溝内マージン)=歯肉溝の中に入り、そこに収まっているマージン、と呼ぶべきだ——なぜなら「歯肉縁下マージン」はしばしば歯肉溝を越えて接合上皮や結合組織にまで及び、それが辺縁性・乳頭部の歯肉炎、さらには歯周炎へ進みうるからです。
この論文は、修復のマージンが「どこまでなら借りてよく、どこからが侵害か」を、3つの寸法として言語化したものです。
②寸法Ⅰ:角化組織はどれだけ要るか
表層生理学的寸法は、歯肉歯槽粘膜境から歯肉縁までを指します。角化上皮とその下の緻密な結合組織線維からなる付着歯肉が、小帯や筋の張力を分散し、可動性のある遊離歯肉縁を緊張から守っている——という構造です。
歯肉溝内に入る修復処置を計画するなら、およそ5mmの角化組織(遊離歯肉2mm+付着歯肉3mm)が必要だと著者らは述べます。これ以下の寸法でも成功することはあるが、上記の寸法があるほうが成功ははるかに予測可能である、という書き方です。
さらに、見落とされがちな第二の軸を挙げます。角化組織の「厚み」です。患者ごと、同じ患者でも歯ごとに異なる。垂直的な寸法が足りていても、組織が厚いとは限らない。遊離歯肉縁からプローブが透けて見えるようなら、たとえ表層が臨床的に角化組織と診断できても、その組織が歯肉溝内の修復処置を支える力は疑わしい——その場合は、より厚くしっかりした角化組織を外科的に付与することを考えるべきだとしています。
すでに歯肉退縮があり、軟組織の縁が歯槽粘膜になっている場合は「歯肉退縮」ではなく「辺縁組織の退縮(marginal tissue recession)」と呼ぶほうが正確であるとも述べています。この場合は2段階法——まず遊離歯肉移植を行い、治癒後に第2の処置で移植した辺縁組織を歯冠側へ移動させる(有茎弁)——を推奨しています。
③寸法Ⅱ:歯肉溝の「深さ」と「周り」
歯肉溝は遊離歯肉縁から接合上皮まで。健康な状態では通常0〜3〜4mmの深さがあり、薄い溝内上皮に裏打ちされています。この寸法には2つの側面があると著者らは言います。深さ(depth)と、周径・幅(breadth)です。
深さについて。過剰な溝の深さは歯周疾患の特徴である——「歯周ポケットは歯周疾患に特有のものであり、他のいかなる疾患にも存在しない」。視診・触診・プロービングなしには歯周疾患は見逃され、過剰な溝の深さを持つ歯にクラウンが装着されてしまう。
歯肉溝内マージンには、遊離歯肉に覆われることを前提として、最低1.5〜2mmの溝の深さが必要。それ未満なら、患者も術者も歯肉縁上マージンで満足すべきであると明快です。歯周外科の直後は溝が1.5mm未満のことが多く、そこで無理にマージンを歯肉縁下へ置こうとすると、形成時に「歯肉溝を作り出す」ことになり、接合上皮と骨縁上結合組織線維に永久的な傷害を与える。新しい歯肉溝ができるまでの待機は6週間、通常はそれよりずっと長いとされています。
周径について。健康な状態では、歯肉溝の上皮性裏装は歯面と直接接しており、両者の間に意味のある隙間はありません。ここへの侵害を著者らは2種類に分けます。
- 量的な侵害:もとの歯より大きいクラウンなど、過剰な材料が歯肉溝内に置かれること。溝内裏装と接合上皮を慢性的に押し広げる。過大なクラウンを合着した結果は永久的な伸展と傷害であり、辺縁歯肉の炎症として現れる
- 質的な侵害:マージンの適合不良と粗糙さ。溝内上皮への機械的刺激と細菌の温床となり、辺縁組織の慢性炎症と溝からの出血として現れ、やがて骨縁上結合組織線維の溶解、接合上皮の根尖側増殖、ポケット形成に至る
④寸法Ⅲ:ここを侵すと元に戻らない
溝下生理学的寸法は、歯肉溝底から歯槽骨頂までの距離であり、接合上皮と骨縁上結合組織線維を含みます。のちに「生物学的幅径」と呼ばれる領域です。
Gargiulo・Wentz・Orbanの報告では、上皮性付着の平均は0.97mm(平均値の範囲0.71〜1.35mm)、結合組織性付着の平均は1.07mm(同1.06〜1.08mm)。結合組織成分は受動的萌出の段階を通じてほぼ一定である一方、幅は骨縁上結合組織線維の幅の違いによって変わると著者らは整理しています。
この寸法は歯によって、また同じ歯でも面によって変わりうるが、ひとつの点では一定である——すべての歯に存在する、ということ。そして、マージンを「歯肉溝内」ではなく「歯肉縁下」に置こうとする修復歯科医の間で、この寸法への侵入はごく一般的である。
侵害の帰結を、著者らは連鎖として描きます。侵害は接合上皮と骨縁上結合組織線維を断ち切る。続く圧排処置、印象採得、仮歯の装着が、その傷害を維持する。進行性の炎症過程が始まる。そこへ最終補綴物が装着されると、炎症は継続する——「歯科医師は、事実上、歯肉溝の外に永久的な歯石を挿入したことになる」。隣接面では通常、歯槽骨頂の吸収が起こり、接合上皮は根尖側へ移動し、まもなく歯周ポケットが生じる。
そして一文。「溝下生理学的寸法への適切な配慮を欠いた歯の修復によって、歯周疾患が作り出されたのである」。
咬合についても触れています。健康な歯周組織で炎症がなければ、繰り返される咬合性外傷はプローブで測れるほどの深さを増やさない。Polsonは「骨縁下の歯周組織」は咬合性外傷に対して吸収・修復・適応の変化を起こすが、咬合性外傷が歯周ポケットを生じるという証拠はないと述べている。健康な歯周組織では、咬合性外傷は歯を動揺させうるが、溝内・溝下の寸法が炎症に侵されていない限り、原因を除去すればこの動揺は可逆的である。逆に、修復治療によって溝内・溝下の寸法が侵されて炎症が生じると、咬合性外傷の存在下ではより急速な歯周組織の破壊を招く——という位置づけです。
⑤明日の臨床へ
第一に、マージンの位置を決める前にプローブを入れる。1.5mmの溝がなければ、その歯では歯肉縁上マージンを選ぶ。これは審美要求との折り合いの問題になりますが、論文はその場合「クラウンのカラーが一部見えることを許容する」症例写真をあえて載せています。
第二に、歯周外科の直後に形成しない。新しい歯肉溝の成立を待つ。6週間が下限で、通常はもっと長い。この待機は、そのまま溝下寸法を守ることになります。
第三に、角化組織の「厚み」を見る。垂直的な幅だけを見て足りていると判断しない。遊離歯肉縁からプローブが透ける薄さなら、歯肉溝内マージンを支える力を疑う。この視点は、メインテナンスで補綴物周囲の炎症が繰り返す症例を読み解くときにも効きます。
今日のひとこと
著者らは歯周組織を3つの「生理学的寸法」に分けた。①表層生理学的寸法(歯肉歯槽粘膜境から歯肉縁まで=付着歯肉と遊離歯肉)②溝内生理学的寸法(遊離歯肉縁から接合上皮まで=歯肉溝の深さと周径)③溝下生理学的寸法(歯肉溝底から歯槽骨頂まで=接合上皮と骨縁上結合組織線維)。歯肉溝内にマージンを入れる修復を計画するなら、およそ5mmの角化組織(遊離歯肉2mm+付着歯肉3mm)が必要だと著者らは述べる。歯肉溝内マージンには最低1.5〜2mmの溝の深さを要し、それ未満なら歯肉縁上マージンで満足すべきである。Gargiulo・Wentz・Orbanの計測では、上皮性付着の平均は0.97mm(平均値の範囲0.71〜1.35mm)、結合組織性付着の平均は1.07mm(同1.06〜1.08mm)で、結合組織成分は受動的萌出の段階を通じてほぼ一定である。溝下生理学的寸法を侵すと接合上皮と骨縁上結合組織線維が断たれ、その後の圧排・印象・仮歯によって傷害が維持され、最終補綴物を装着することは「歯肉溝の外に永久的な歯石を挿入した」ことに等しく、隣接面では歯槽骨頂の吸収とポケット形成に至る。歯周外科後、新しい歯肉溝ができるまで6週間、通常はそれ以上待つ必要がある。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


