ペリオ|Phase4 メインテナンス
同じリコール間隔で通ってもらっても、崩れる人と崩れない人がいます。2001年、Roslingらはスウェーデンで、感受性の高い109名と一般集団に近い225名を12年間追い、その差がどれだけの数字になるのかを示しました。守り切れる部分と、守り切れない部分の両方が見えます。
①同じ間隔で呼んでも、同じ結果にはならない
リコールを3か月で回している患者が10人いても、10年後の姿は10通りです。ほとんど変わらない人がいて、少しずつ削られていく人がいて、途中で崩れる人がいる。その「差」が、数字にするとどれくらいなのか——それを12年かけて測ったのがこの研究です。
疫学的には、歯周病の有病率と重症度は加齢とともに上がるが、進行した破壊に苦しむのは集団の一部の小さなサブグループだけだと分かっていました。ではその「感受性の高い人」を、きちんと治療してきちんとメインテナンスに乗せたとき、どこまで守れるのか。同年代の一般集団と比べたデータが乏しかった、というのが著者らの出発点です。
②スウェーデンの2つの集団を12年
比べたのはスウェーデンの2つのSPTプログラムです。
- 高感受性群(HSG):1979〜1985年にヘルシンボリの歯周病科へ進行した歯周病で紹介された患者。訓練された歯科衛生士が局所麻酔下で1時間×4〜6回の非外科治療を行い、根分岐部病変のある大臼歯も含めてできる限り保存する方針で進めました。SPTは年3〜4回。毎回、口腔衛生状態の評価と全歯6点のBOP・PPD計測を行い、BOP陽性かつPPD 5mm以上の部位には縁下インスツルメンテーションを繰り返しました
- 通常感受性群(NG):ヴェルムランド地方の12の地域歯科診療所の患者から選ばれた集団。SPTは年1〜2回で、内容は担当医の判断による
ベースラインは非外科治療の1年後。再評価は12年後で、歯数・プラーク・PPD・PAL(個別作製のステントの固定基準点から計測)・全顎X線での骨レベルを、訓練・較正された術者が標準化された方法で記録しました。
ここは正直に押さえておくべき点です。HSGでは、1年目から3年目のあいだに2mm超の追加アタッチメント喪失を4歯以上に生じた34名(20%)が、追加治療のため本研究から離脱しています。NGでも7名(3%)が同様に離脱。さらにHSGでは死亡9名・転居12名・中断6名の計27名が失われ、12年を完遂した109名が解析対象となりました。
ベースラインの2群は、名前のとおり別世界です。骨レベルはHSG 6.5±1.1mm対NG 3.4±1.1mm、PPDは3.3±0.6mm対2.6±0.3mm。NGでは80%の被験者に6mm以上のポケットを持つ歯が1本もなかったのに対し、HSGではほぼ全員が持ち、半数は6歯以上。おもしろいのはプラークスコアはHSGのほうが低い(14%対32%)ことです。よく指導され、よく磨けている人たちなのに、それでも失っていく——それが感受性という言葉の中身です。
③12年で、どれだけ失ったか
アタッチメント喪失はHSG 0.8mm、NG 0.5mm(p<0.001)。1歯面あたり1年に換算すると0.06mm対0.04mmです。骨吸収はHSG 0.8mm、NG 0.3mm。2mm超の骨吸収を示した部位の割合は、非大臼歯で16%対4%、大臼歯で28%対4%——大臼歯が弱点になるのは両群に共通ですが、その幅がHSGでは7倍に開きます。
歯の喪失はもっと分かりやすい差になりました。12年間の喪失歯数はHSG 1.9±2.2本、NG 0.3±1.0本(p<0.001)。NGでは74%が1本も失わず、19%が1本、7%が2〜5本。HSGでは64%が喪失を経験し、24%が4本以上を失いました。ただし8本を超えて失った人はいません。NGでの喪失理由はう蝕・歯内療法の合併症・外傷が主で、HSGでは進行した歯周病が主でした。
抜歯に至った歯のベースライン骨レベルも記録されています。HSGでは、抜歯された非大臼歯の骨レベルは8.3mm、保存された非大臼歯は6.4mm。大臼歯では6.7mm対6.0mm。始まりが悪い歯ほど落ちる、というごく当たり前のことが、12年後にもきれいに残っています。
ポケットの深化には意外な傾向がありました。2mm超のPPD増加を示した部位の割合は、HSGの大臼歯でベースライン0〜3mmだった部位が34.3%、4〜5mmだった部位が25.6%、6mm以上だった部位が18.1%。もともと浅かった部位のほうが深化しやすいのです。NGでも同じ傾向(大臼歯で4.6%対2.4%)でした。深い部位ばかり見ていると、次の一手を見落とします。
④この数字が「良い」と言える理由
0.8mmという数字だけを見ると「12年でこれだけ失った」と読めます。しかし比較対象を並べると景色が変わります。
同じ研究グループのRosling 1997は、感受性の高い30名に徹底した縁上のケアだけを3年間行い、平均0.53mmのアタッチメント喪失を観察しました。年に直すと0.17mm/歯面——本研究のHSGの約3倍です。
歯の喪失でも同じことが言えます。Becker 1984は、基本治療を終えたあとメインテナンスを受けないことを選んだ44名を5.25年追い、年間0.29本の喪失を報告しました。本研究のHSGの年間喪失は0.16本——SPTを受けない場合のおよそ半分です。
さらに古典との一致も確かめられています。Hirschfeld & Wasserman 1978は600名を15年以上追い、83%が0〜3本の喪失(well maintained)、13%が4〜9本(downhill)、4%が10〜23本(extreme downhill)と分類しました。McFall 1982の100名(平均19年)では年間0.14本——本研究のHSGの0.16本とほぼ同じです。時代も国も違う複数の集団が、同じあたりの数字に落ちる。これは臨床医にとって心強い一致です。
⑤明日の臨床へ
この論文から、うちのメインテナンスに持ち帰れるものは3つあります。
第一に、感受性が高い患者にも「守れる」と言ってよい。年3〜4回の口腔衛生指導とデブライドメント、そしてBOP陽性かつ5mm以上への縁下インスツルメンテーション——この程度の内容で、12年間の骨とアタッチメントを1mm未満に抑えています。根分岐部病変のある大臼歯を積極的に残す方針を取ったうえでの数字であることも、実務的には大きい。
第二に、それでも一定数は崩れる。HSGの20%が最初の3年で進行し、追加治療へ回っています。この20%は109名の中に含まれていない——ここを読み落とすと、この論文の数字を楽観的に読みすぎます。崩れる人は最初の3年で分かるという読み方のほうが、臨床的には使えます。
第三に、大臼歯と「もともと浅かった部位」に目を配る。2mm超の骨吸収は大臼歯で28%(HSG)。一方でポケットの深化は、もともと浅い部位のほうが起きやすい。深い部位に時間を使うのは正しいのですが、浅い部位を「安全」と見なして計測を省くと、次の崩れを見逃します。
今日のひとこと
非外科治療の1年後をベースラインに、高感受性群(HSG)109名と通常感受性群(NG)225名を12年間のSPTで追跡した研究(SPTは年3〜4回、口腔衛生指導とデブライドメント。BOP陽性かつPPD 5mm以上の部位には縁下インスツルメンテーション)。ベースラインの骨レベルはHSG 6.5mm対NG 3.4mm、PPDは3.3mm対2.6mm。12年後の喪失歯数はHSG 1.9本対NG 0.3本(p<0.001)。NGの74%は1本も失わず、HSGでは64%が喪失を経験し24%が4本以上を失った。アタッチメント喪失はHSG 0.8mm(0.06mm/歯面/年)対NG 0.5mm(0.04mm/歯面/年)、骨吸収は0.8mm対0.3mm。2mm超の骨吸収を示した部位は大臼歯でHSG 28%対NG 4%。比較として、同じ感受性群に縁上のみのケアを3年行ったRosling 1997では年0.17mm——本研究のHSGの約3倍。ただしHSGの20%(34名)は初期3年で進行し、追加治療のため本研究から離脱している。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


