1問1答 論文 歯周病

「歯周病を治すと心臓病が防げる」は、どこまで本当か

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

患者説明で使いやすいフレーズです。「歯周病は心臓病のリスクなんですよ」。ではその一言は、どこまで科学に支えられているのか。米国心臓協会が2012年に出した科学的声明は、42本の観察研究と介入試験を洗い直し、線を引きました。関連はある。しかし因果は、まだ示されていない。

論文
Periodontal Disease and Atherosclerotic Vascular Disease: Does the Evidence Support an Independent Association?
著者
Lockhart PB, Bolger AF, Papapanou PN ほか(米国心臓協会 執筆委員会)
掲載
Circulation 2012;125:2520-2544.
種類
AHA科学的声明(系統的な文献レビュー/米国歯科医師会・世界心臓連合が支持)
PMID
22514251

その一言、どこまで言っていいのか

「歯周病は、心臓病のリスクにもなるんですよ」。

患者さんに定期受診の大切さを伝えるとき、これほど便利なフレーズはありません。口の中の話が全身の話につながり、相手の表情が変わる。実際、学会でも業界でもこの関係は繰り返し語られてきました。

ただ、正直なところ、どこまで言い切っていいのか自信がない。「治せば心臓病が防げる」まで踏み込んでいいのか。それとも「関係があるかもしれない」で止めるべきなのか。

その線を、循環器の側から引いたのがこの文書です。米国心臓協会(AHA)が2012年、歯科・感染症・循環器・疫学の専門家を集めた執筆委員会を組み、1950年から2011年7月までの文献を検索して「歯周病と動脈硬化性血管疾患(ASVD)に、独立した関連はあるのか。歯周治療はその risk や outcome を変えるのか」を検証しました。米国歯科医師会の科学問題評議会が結論に同意し、世界心臓連合も支持しています。

先に結論: 関連はある(既知の交絡因子で調整しても残る)。しかし因果は示されていない。そして歯周治療が心臓病を予防する、あるいは経過を変えるという証拠もない

この問いには、100年の前史がある

執筆委員会はまず歴史から始めます。ここが面白い。

100年以上前、口腔内の敗血症と抜歯が心臓組織の感染(感染性心内膜炎)の原因として提唱されました。この「病巣感染説(focal infection theory)」はその後半世紀にわたって膨れ上がり、口から離れたあらゆる病気が歯のせいにされるようになります。結果として何が起きたか。数十年にわたって、前例のない規模の抜歯が行われました

20世紀半ば、科学的な裏づけがないことが分かり、この熱狂は冷めます。ところが約20年前(1980年代末)、慢性歯周病と動脈硬化性血管疾患のつながりを示唆する報告が現れ、関心が再燃しました。以降、この主題の論文は190誌にわたって激増します。

つまりこれは、一度過熱して社会に実害を出し、冷めて、また熱くなっている主題なのです。AHAが慎重に構えた理由がここにあります。声明の中には、こうした主張が「専門家団体や業界の利害関係者によって支持されることが多い」という、かなり踏み込んだ一文もあります。

観察研究——関連は、確かにある

まず「関連はあるか」から。声明は動脈硬化性血管疾患をアウトカムにした42本の研究を整理しています。

0 7.3 14.7 22 研究数(本) 20 6 12 2 3 2 臨床・X線で診査(26本) 歯の喪失で評価(14本) 血清抗体価で評価(5本) AHA声明 Table 4 の42研究の内訳。濃い棒=正の関連を報告、淡い棒=関連なし。どの評価方法でも「関連あり」が多数を占める
図1:AHA声明 Table 4 の内訳。歯周病をどう評価したかで分類しても、いずれの方法でも「正の関連あり」が多数を占める。

臨床所見やエックス線で歯周病を診査した26本のうち、18本が調整後の解析で正の関連を報告し(オッズ比・ハザード比・相対危険度のいずれかが上昇)、さらに2本が未調整の解析で正の関連を報告。関連なしは6本でした。

歯の喪失で評価した研究では、10本が進行した歯の喪失や無歯顎と不良な血管イベントに統計学的に有意な関連を報告。1本は女性のみ、もう1本は動脈硬化性血管疾患のみ(冠動脈疾患では関連なし)で関連を認め、2本が関連なし血清抗体価で評価した5本では3本が正、2本が関連なしでした。

そして重要なのは、この関連が喫煙とは独立しているという点です。喫煙は歯周病と動脈硬化の両方の主要なリスク因子ですから、「実は全部タバコのせいでは」という疑いが当然出ます。しかし声明は、喫煙者でも「一度も吸ったことがない人」でも、歯周病と動脈硬化性血管疾患の関連が後ろ向き・縦断の両方で示されていることを挙げ、この関連は喫煙で説明しきれないと述べています。

それでも「因果」は別の話

関連があることと、原因であることは違います。ここが声明の核心です。

AHAは、エビデンスの水準を明示的に当てはめました。レベルA=複数のランダム化比較試験またはメタ解析による裏づけ。レベルB=単一のランダム化試験または非ランダム化研究による裏づけ。この物差しで4つの問いを採点すると、次のようになります。

AHA声明が示した「4つの問い」とエビデンスレベル

① 歯周病と動脈硬化性血管疾患に関連はあるか 既知の交絡因子で調整しても関連は残る レベル A

② 歯周治療は「歯周局所の炎症」を減らすか 歯周治療そのものの効果は確立している レベル A

③ 歯周病が動脈硬化を「起こす」か(因果) レベルAどころか、レベルBでも支持されない 支持なし

④ 歯周治療は「長期の全身炎症」を減らすか 短期の改善報告はあるが、持続性は確認されていない 支持なし

レベルA=複数のランダム化比較試験またはメタ解析による裏づけ/レベルB=単一のランダム化試験または非ランダム化研究による裏づけ

図2:AHA声明が明示した4つの判定。関連と局所効果はレベルAで支持されるが、因果と長期の全身炎症抑制は、レベルA・Bのいずれでも支持されない。

①歯周病と動脈硬化性血管疾患の関連:レベルAで支持される。②歯周介入が歯周局所の炎症を減らすこと:レベルAで支持される。③歯周病が動脈硬化性血管疾患を「引き起こす」ことレベルAでもレベルBでも支持されない④歯周介入が長期の全身炎症を減らすこと:同じく支持されない

なぜ因果に届かないのか。根拠の大半が観察研究だからです。そして声明が指摘するとおり、歯周病と心血管疾患は、たばこ・糖尿病・加齢という強力かつ高頻度のリスク因子を複数共有しています。生物学的にもっともらしい機序(炎症を介した経路)はある。しかし、もっともらしさは因果の証明ではありません。

介入試験——短期には動く、しかし

因果を確かめる最短の道は介入です。歯周治療をして、心血管イベントが減るかを見ればいい。声明はこの領域も丁寧に追っています。

短期的には、確かに動きます。 非外科的歯周治療を受けた重度歯周病患者で、内皮機能や炎症マーカーの改善を報告したコホート研究・ランダム化試験が複数あります。全顎的な機械的デブライドメントを1回で完了し深いポケットに局所抗菌薬を大量に併用した試験では、6か月後の上腕動脈FMD(血流依存性血管拡張反応)が有意に改善しました。

ただし直後は、むしろ悪化します。 同じ試験で、強い介入の直後にはFMDが一時的に悪化し、複数の血漿炎症メディエーターが有意に増加しました。器械的なデブライドメントに伴う細菌の血中散布と処置由来の炎症が、内皮機能に即時の悪影響を与えるという解釈です。米国のメディケイド請求データベースを用いた研究でも、侵襲的歯科処置の後4週間以内に心筋梗塞と脳卒中のリスクが一過性に上昇し、12〜24週かけて元に戻ったと報告されています。

炎症マーカーへの効果は一貫しません。 治療直後にTNF-α・CRP・IL-6が有意に増加した報告があり(大量の細菌散布による急性期反応と考えられます)、3か月後に有意な変化がなかった報告があり、6か月後にIL-6が中央値0.2 ng/L、CRPが中央値0.5 mg/L低下した報告もある。方向が揃っていないのです。

そして肝心の心血管イベント。ランダム化パイロット試験では、25か月の追跡で有害心血管イベントの頻度は介入群と通常ケア群で同程度でした。しかもこの試験では、歯周状態の改善が6か月時点で限定的で、1年後には維持されていませんでした。付言すると、肥満があると歯周治療による血清CRP低下効果が打ち消されるように見えたという観察も報告されています。

明日の臨床へ——説明を一段だけ書き換える

この声明を読んで現場でやるべきことは、たった一つです。説明の言い方を一段だけ弱める

✕ 「歯周病を治せば、心臓病を防げます」——これは声明が明確に否定した主張です。予防効果を示した証拠がありません。

◯ 「歯周病と心臓病は、たばこ・糖尿病・年齢という同じ危険因子を共有していて、実際に関連も報告されています」——これは声明の射程内です。

この言い換えは、患者さんの動機づけを弱めるでしょうか。ぼくはむしろ逆だと思っています。共有リスク因子として語れば、禁煙・血糖コントロール・歯周治療が「同じ一つの目標に向かう三本の道」として並びます。「歯を守るために禁煙してください」より、「心臓のためにも歯ぐきのためにも、禁煙が一番効きます」のほうが、話は太くなる。

もう一つ。重度の歯周病があり、心血管疾患のリスクも高い患者さんでは、一度に強くやりすぎないという配慮は理にかなっています。処置直後の一過性の炎症上昇とイベントリスク上昇が報告されている以上、全顎一括の強い介入をハイリスク患者に無造作に当てるのは避けたい。分割して行う判断に、この声明は根拠を与えてくれます。

今日から使える一言: 「治せば防げる」ではなく「同じ危険因子を共有している」。この一段の弱め方が、かえって説明を強くする。

ここだけ、冷静に補助線

この声明は2011年7月までの文献に基づくもので、すでに10年以上が経っています。その後2020年には歯周病学会と循環器の合同ワークショップが開かれるなど議論は続いていますが、「関連はあるが因果は未証明」という大枠は、いまも覆っていません。また、これはランダム化試験そのものではなく専門家委員会による文献レビューであり、文献の選択と重みづけには委員会の判断が入ります。とはいえ、歯科側だけでなく循環器・疫学の専門家を交え、米国歯科医師会と世界心臓連合が結論に同意しているという構図は、この分野では例外的に強い合意です。歯科の側から見ると耳の痛い結論に見えるかもしれません。ですがぼくは逆に読みます。過剰な主張を自ら削ぎ落とせる分野だけが、長い目で信頼される。100年前の抜歯の歴史を冒頭に置いたこの声明は、そのことを静かに指し示しています。

今日のひとこと

歯周病と動脈硬化性血管疾患の「関連」はレベルAのエビデンスで支持される。しかし「歯周病が動脈硬化を起こす」という因果は、レベルAどころかレベルBでも支持されない。歯周治療で心臓病を予防できるという証拠もない。

出典:Lockhart PB, Bolger AF, Papapanou PN, et al. Periodontal disease and atherosclerotic vascular disease: does the evidence support an independent association? A scientific statement from the American Heart Association. Circulation 2012;125:2520-2544. PMID: 22514251(doi: 10.1161/CIR.0b013e31825719f3)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。