1問1答 論文 歯周病

治りきらないポケットを、3か月ごとに触り続けるか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase4 メインテナンス

初期治療をやり切っても、BOPが止まらず4mm以上が残る患者はいます。その人のメインテナンスで、3か月ごとに縁下スケーリングを繰り返すことは、1年後の結果を良くするのか。2000年、Jenkinsらは「やる群」と「やらない群」に分けて1年追いました。

論文
Effect of subgingival scaling during supportive therapy
著者
Jenkins WMM, Said SHM, Radvar M, Kinane DF
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2000;27(8):590-596
種類
前向き比較試験(メインテナンス患者39名を登録・31名が完遂/縁下スケーリング群14名130部位 vs 歯冠部スケーリングのみ群17名146部位・3か月間隔・12か月追跡)
PMID
10959785

その30分、本当に効いているか

メインテナンスの枠は、たいてい30分です。再評価をして、ブラッシングを見直して、残っているポケットに縁下のスケーリングを入れる。そう習いましたし、実際そうしています。

ただ、対象が「初期治療をやり切ったのにBOPが止まらず、4mm以上のポケットが残っている患者」になると、話が急に難しくなります。深いポケットが何か所もある人を30分で丁寧に触り切ることはできません。しかも縁下を触るたびに、器具による傷は積み上がります。

その積み上がりは無視できる大きさではありません。Echeverria & Caffesseは、5mm以下のポケットへのルートプレーニングが平均0.2mmの即時的なアタッチメントロスを起こすと報告しています。Claffeyらは、1回の根面デブライドメントでベースラインのポケット深さによらず平均0.5〜0.6mmが即時に失われ、12か月後の時点で5%の部位が永続的なアタッチメントロスと判定され、そのうち半数は疾患の進行ではなく器具による外傷に帰せられたと述べています。加えてルートプレーニングは歯質を不可逆的に削り、頻回に繰り返せば歯髄に及びうる

プラークコントロールが良い患者なら、この副作用は炎症消退という見返りに対して払う価値のある代金です。では治療への反応が芳しくなかった患者では、3か月ごとに繰り返す縁下スケーリングの利益は、その代金を上回るのか。それが本研究の問いです。

先に結論: 12か月後、アタッチメントを2mm超失った部位の割合は、縁下スケーリングをした群16.2%、しなかった群14.4%で有意差なしポケット深さもBOPもプラークスコアも群間差はなかった3か月ごとの縁下スケーリングは、この患者群の1年後を変えなかった

「縁下をやめる」という設計

グラスゴー歯科病院で、従来の歯周治療を終えてメインテナンスに入っていた患者から選びました。組み入れ条件は、治療中もメインテナンス中も持続的にBOPがあること、そしてベースライン受診時に4mm以上のポケットが4か所以上あることです。全身疾患や歯周組織に影響する薬剤を使っている人、妊婦、3か月以内に抗菌薬を使った人は除外しました。

設計の要はスクリーニングの手順です。登録前に全顎の縁上・縁下デブライドメントを熟練者が1〜2回で行い、その3か月後をベースラインとしています。つまり「一度きちんと触ったうえで、その後の3か月ごとに縁下を続けるかどうか」を比べている——ここが後述する解釈の分かれ目になります。

39名を年齢・性別・喫煙状況で層化して2群へ割り付けました。

  • SS群(縁下スケーリング群):毎回の来院で、歯冠部スケーリングに加えて全対象部位の縁下デブライドメントを行う
  • CS群(歯冠部スケーリングのみ群):歯冠部スケーリングと口腔衛生指導のみ。ただし3・6・9か月時点でベースラインから2mm超のアタッチメントロスを示した部位には、倫理上その場で縁下スケーリングを行う

計測はFlorida probe(電子圧力感知プローブ)で単一術者が実施し、画面は術者から背けて歯科助手が記録するという盲検化を入れています。7名が来院不履行で脱落、1名が反復プロービングに耐えられず脱落し、解析対象は31名SS群14名130部位、CS群17名146部位。各群に喫煙者5名)となりました。

1年後、差は出なかった

0 11.7% 23.3% 35% loser部位の割合(%) 11.8% 11.6% 20.5% 28.6% 14.4% 16.2% ベースライン4.0〜5.9mm ベースライン6.0mm以上 全部位 loser部位=12か月のあいだにアタッチメントを2mm超失った部位。全部位での群間差は有意でない(χ²=0.167, p>0.1)。縁下スケーリングを毎回加えても、失う部位の割合は減っていない
12か月のあいだにアタッチメントを2mm超失った「loser部位」の割合。縁下を毎回触っても減らない

loser部位(12か月のあいだにアタッチメントを2mm超失った部位)は、SS群で21か所、CS群でも21か所割合にすると16.2%対14.4%で、群間差は有意ではありません(χ²=0.167, p>0.1)2mm超の獲得を示した部位も、SS群13か所・CS群14か所と拮抗していました。

0 0.3mm 0.7mm 1mm 12か月後の変化量(mm) 0.7mm 0.5mm 0.2mm 0.1mm ポケット深さの減少 アタッチメントの獲得 loser部位を除いた解析(CS群17名・SS群14名)。どちらの指標もベースラインとの差は有意でなく、群間差も有意でない(p=0.38・p=0.76)。数字の上ではむしろ縁下を触らない群のほうがわずかに良い
12か月後のポケット深さ減少とアタッチメント獲得。どちらもベースラインとの差・群間差ともに有意でない

連続値で見ても同じです。12か月後のポケット深さ減少はCS群0.65±0.14mm、SS群0.45±0.18mm(p=0.38)アタッチメント変化はCS群+0.20±0.18mm、SS群+0.11±0.20mm(p=0.76)loser部位を戻してLOCF処理をした解析でも結論は変わらず、MANOVAでもp=0.620でした。

BOP陽性部位の割合は、ベースラインで44%(CS)対49%(SS)、12か月後で57%対54%12か月時点のプラークインデックスも0.53対0.58で差なし(p=0.78)どの指標を取っても、縁下を毎回触った群が優れているという結果にはなりませんでした

ひとつだけ一貫していたのは深さの影響です。ベースラインで6mm以上だった部位のloser率は、SS群28.6%・CS群20.5%。4.0〜5.9mmではそれぞれ11.6%・11.8%統計的に有意になったのはSS群だけ(χ²=5.45, p<0.05)ですが、深い部位ほど失いやすいという傾向は両群に共通していました。

なぜ差が出なかったのか

この研究を「縁下スケーリングは無意味」と読むと、大きく踏み外します。設計をもう一度見てください。

両群とも、登録の3か月前に全顎の徹底的な縁下デブライドメントを受けています。つまり比べたのは「触るか触らないか」ではなく、「一度徹底的に触ったあと、3か月ごとに繰り返すかどうか」です。

この違いは、著者らが引くWestfeltら(1998)と並べると鮮明になります。Westfeltらは同一患者の2象限に徹底した縁下デブライドメントを行い、残り2象限は歯冠部スケーリングのみとして3年追いました結果、初期に4〜6mmだった部位の年間アタッチメントロス発生率は縁下群1.3%・歯冠部のみ群4.3%、6mm以上では0.9%対11%初期に縁下を触らなければ破壊は止まらないのです。裏返せば一度きちんと触ったあとなら、3か月ごとの歯冠部スケーリングと口腔衛生指導だけでも低い水準を保てる——Westfeltらの読み方はそちらでした。

もうひとつ、縁上のプラークコントロールが縁下に届く可能性があります。著者らは中等度の深さのポケットでは、縁上のプラークコントロールによって縁下細菌叢の構成と病原性が変わりうるという複数の報告を挙げています。CS群が受けた歯冠部スケーリングと口腔衛生指導は「何もしていない」のではなく、口の中がきれいになった実感が家庭でのケアを一時的に押し上げた可能性があると述べています。

本研究で両群ともポケット深さがわずかに減ったのに、アタッチメント獲得を伴わなかったのも示唆的です。著者らはこれを歯肉退縮によるもので、参加者が試験中にブラッシングを改善したホーソン効果の反映かもしれないとしています。

明日の臨床へ

この論文を、うちの30分の使い方に落とすとこうなります。

第一に、初期治療での「一度きちんと縁下を触り切る」ことの価値は揺らいでいません。むしろWestfeltらの数字が示すとおり、そこを飛ばした先に安定はありません。この論文が問うているのはその後の反復です。

第二に、反応が悪い患者でも、機械的な反復だけでは1年後は変わらない可能性がある。同じ部位を3か月ごとに触り続けても、この試験ではloser部位は減りませんでした。プラークコントロールが安定しないまま器具の回数だけ増やすことは、歯質と歯髄への負荷を積み上げるほうに効いてしまいます

第三に、深さは今日も使える指標です6mm以上の部位は4〜5.9mmの部位より明らかに崩れやすい(20.5〜28.6%対11.6〜11.8%)。30分を均等に割るのではなく、深い部位に時間を寄せて、浅い部位は縁上とセルフケアで支えるという配分は、この数字から支持できます。

ここだけ、冷静に補助線。群あたり14〜17名という小さな試験で、しかも39名中8名が脱落しています。差がなかったことは「差がないと証明された」ことではなく、この規模では差を検出できなかったという読み方が正確です。アタッチメントレベルの計測も、患者の苦痛への配慮から全部位で重複計測ができておらず、著者自身が「suboptimal」と認めています。追跡は1年。それでも、反復の是非を正面から比較した数少ない試験であり、著者らの「メインテナンス自体の失敗ではない。反復の価値と頻度をさらに評価すべきだ」という締め方は、いま読んでも誠実です。

今日のひとこと

従来治療を終えてもBOPが持続し4mm以上のポケットが4か所以上残る患者を、3か月ごとに縁下スケーリングを行う群(SS群)と、歯冠部スケーリングのみの群(CS群)に分けて12か月追った前向き試験アタッチメントを2mm超失った「loser部位」は、SS群130部位中21か所(16.2%)、CS群146部位中21か所(14.4%)で有意差なし12か月後のポケット深さ減少はCS群0.65±0.14mm、SS群0.45±0.18mm、アタッチメント変化はCS群+0.20±0.18mm、SS群+0.11±0.20mm——いずれもベースラインとの差も群間差も有意でないBOP陽性率もプラークスコアも群間差なし一方でベースラインのポケットが6mm以上の部位はloserになりやすく、SS群28.6%・CS群20.5%(4.0〜5.9mmでは11.6%・11.8%)著者らは「メインテナンス自体の失敗ではないが、3か月ごとに縁下を繰り返すことの価値は疑問だ」と結論している

出典:Jenkins WMM, Said SHM, Radvar M, Kinane DF. Effect of subgingival scaling during supportive therapy. J Clin Periodontol 2000;27(8):590-596. PMID: 10959785
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。