1問1答 論文 エンド

根管治療の術野の消毒、一般歯科と専門で差はある?——スウェーデンの一般歯科1施設と歯内療法専門1施設で、ラバーダム防湿と消毒のあとの歯面を拭って7日間培養した前向き観察研究。菌が育った検体は一般歯科31.6%、専門7.0%。ただし各1施設の比較で、根管治療の成績は測っていない(Malmberg 2023)

1問1答 論文 エンド

エンド|スウェーデンの一般歯科の診療所1施設(153歯)と歯内療法の専門クリニック1施設(200歯)で、ラバーダム防湿と術野の消毒のあとに歯面を拭った検体を培養し、菌が育つかを比べた前向きの観察研究(Malmberg 2023・Acta Odontologica Scandinavica)

根管治療では、ラバーダムで防湿したあと歯とラバーダムを消毒します。では、その消毒で術野の菌は実際に減っているのか。Malmberg らが行ったのは、スウェーデンの一般歯科1施設と歯内療法の専門クリニック1施設で、30%過酸化水素のあと5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン(70%アルコール溶液)で消毒した歯面を拭い、7日間培養した前向きの観察研究です。消毒後も菌が育った検体は、一般歯科で301件中95件(31.6%)、専門クリニックで386件中27件(7.0%)でした(p<.001)。2部位を合わせると、どちらの施設でもクロルヘキシジンの手順の方が陽性が多くなりました。ただし比べたのは各1施設で、消毒の手順は無作為に割り付けておらず、測ったのは術野の菌の培養です。根管治療の成功・失敗は測っていません。

論文
Endodontic operative field asepsis: a comparison between general dentists and specialists
著者
Leona Malmberg, Catherine Benavente Hansson, Johan Grönqvist, Malin Brundin, Annika Elisabeth Björkner(スウェーデン・マルメ大学 歯学部ほか)
掲載
Acta Odontologica Scandinavica 2023; 81(8): 603–608(オープンアクセス)
種類
前向きの観察研究(2020年8月〜2023年1月)。スウェーデンの一般歯科の診療所1施設(153歯)と、歯内療法の専門クリニック1施設(200歯)。ラバーダム防湿のあと、30%過酸化水素1分→5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン(70%アルコール溶液)1分で消毒し、消毒の前後に髄腔を開ける面と頬側の歯面を拭って7日間培養。消毒後の検体687件を、菌の発育の有無で比較(Fisherの正確検定・カイ二乗検定)
資金・利益相反
Odontologisk Forskning Region Skåne(スコーネ地域の口腔保健研究の助成)による支援。著者らは利益相反は無いとしている
PMID
37417780

①ラバーダムを張って消毒した術野、本当に菌は減っている?

根管治療では、ラバーダムで防湿したあと、歯とクランプ、周りのラバーダムまで消毒してから髄腔を開ける。教科書どおりの手順です。けれど、その消毒で術野の菌が実際にどこまで減っているかを、自分の診療室で確かめたことのある先生は多くないはずです。

スウェーデンの Malmberg らは、一般歯科の診療所と歯内療法の専門クリニックで、消毒の前と後に歯面を拭って培養し、菌が育つかどうかを数えました。

結論を先に書きます。
・スウェーデンの前向き観察研究。一般歯科の診療所1施設(153歯)と、歯内療法の専門クリニック1施設(200歯)で、根管治療を受ける成人の歯を対象にした
・ラバーダム防湿のあと、30%過酸化水素で1分、続いて5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン(70%アルコール溶液)で1分消毒し、髄腔を開ける面と頬側の歯面を拭った検体を7日間培養した
・消毒後も菌が育った(陽性の)検体は、一般歯科31.6%(301件中95件)、専門7.0%(386件中27件)(p<.001)
・髄腔を開ける面と頬側の2部位を合わせると、どちらの施設でも、クロルヘキシジンの手順の方が陽性が多かった。ただし手順は無作為に割り付けておらず、著者らは消毒薬の効き目の真の差とは限らないとしている
・注意:比べたのは各1施設。測ったのは術野の菌の培養で、根管治療の成功・失敗は測っていない

②なぜ一般歯科の術野を調べる必要があったのか

根管治療の目標は、根管の中の微生物を減らし、新たに持ち込まないことです。歯内療法の病原菌は主にもともと口の中にいる菌なので、ラバーダムで歯を口の中から隔て、さらに歯とラバーダムを消毒することが勧められてきました。スウェーデンでは多くの歯科医師が、30%過酸化水素のあとに5〜10%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン(70%アルコール溶液)を使っていると、本論文が引用した調査は報告しています。

一方で、根管治療を受けた歯の約4割に根尖性歯周炎があるという横断研究の報告もあり(本論文が引用した系統的レビュー)、一般歯科では無菌的な管理が十分でないとする報告や、専門医の治療の方が成績が良いとする報告が引用されています。ただ、術野の無菌性を調べた研究は、これまで主に専門クリニックで行われてきました。一般歯科で術野の消毒がどこまでできているかは、分かっていなかったのです。

③今回の研究:消毒の前と後に歯面を拭って培養した

  • デザイン:前向きの観察研究(2020年8月〜2023年1月)。スウェーデンのスコーネの一般歯科の診療所1施設と、ウメオの大学病院(Norrlands Universitetssjukhus)の歯内療法専門クリニック1施設
  • 対象:根管治療が必要な成人(18歳を超える)の歯353歯(一般歯科153歯・専門200歯)。半分以上が大臼歯
  • 手順:ラバーダムをクランプで装着(封鎖材の使用は術者の判断)→ 消毒前の検体 → 30%過酸化水素を綿球かガーゼで1分こする → 5%ヨードチンキ(ヨードの手順)か0.5%クロルヘキシジン70%アルコール溶液(クロルヘキシジンの手順)で歯・クランプ・周りのラバーダムを1分こすり、乾かす → 消毒後の検体
  • 検体:滅菌したスポンジで、髄腔を開ける予定の面と、頬側の歯面(歯肉縁から2mm上)をそれぞれ10秒こする。消毒後は薬剤を中和する液にスポンジを浸してから採取。1歯につき消毒の前後2部位ずつ、計4検体
  • 判定:チオグリコール酸培地で37℃・7日間培養し、目で見て菌の発育があれば陽性。消毒前の検体が陰性だった部位(19件)は、その部位の消毒後の検体も除外し、消毒後の検体687件を解析
  • 手順の割り付け:専門クリニックは最初の100歯がクロルヘキシジン、次の100歯がヨード。一般歯科は当初無作為に割り付ける計画だったが、片方の手順に抵抗のある術者がいたため、術者が好みで選ぶ形に変更された
  • 解析:Fisherの正確検定とPearsonのカイ二乗検定(有意水準 p<.05)。比べた単位は検体

④結果:消毒後の陽性は一般歯科31.6%、専門7.0%

0 15% 30% 45% 消毒後の検体に占める陽性の割合(%) 31.6% 7.0% 一般歯科(1施設・301件) 歯内療法専門(1施設・386件) 陽性=消毒後に歯面を拭った検体を7日間培養し菌が育ったもの。一般歯科95件、専門27件(原典の表4・p<.001)
図1 消毒後の検体に占める陽性(培養で菌が育った)の割合。2部位・2つの手順を合わせた値(原典の表4の合計行)。

消毒後の検体で菌が育ったのは、一般歯科で301件中95件(31.6%)、専門クリニックで386件中27件(7.0%)でした(p<.001)。髄腔を開ける面でも(25.2%と7.7%)、頬側でも(38.0%と6.3%)、一般歯科の方が有意に多く陽性でした。消毒の手順ごとに分けても、一般歯科の方が陽性が多いという結果は変わりませんでした(図2)。

表 消毒後の検体に占める陽性の割合(施設・手順・部位の全区分。原典の表2〜表5) 施設 消毒の手順 髄腔開拡する面 頬側 2部位の合計 一般歯科 ヨード 15.9%(11/69) 24.6%(17/69) 20.3%(28/138) クロルヘキシジン 32.9%(27/82) 50.6%(41/81) 41.7%(68/163) 2つの手順の合計 25.2%(38/151) 38.0%(57/150) 31.6%(95/301) 歯内療法専門 ヨード 3.1%(3/98) 5.3%(5/95) 4.1%(8/193) クロルヘキシジン 12.4%(12/97) 7.3%(7/96) 9.8%(19/193) 2つの手順の合計 7.7%(15/195) 6.3%(12/191) 7.0%(27/386) 括弧は陽性の件数/検体の件数。どちらの手順も30%過酸化水素で1分のあとに、5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン (70%アルコール)で1分 ヨードとクロルヘキシジンの比較のp値(表2):一般歯科 髄腔開拡する面 p=.017、頬側 p=.001、合計 p<.001 同じ比較のp値(表3):専門 髄腔開拡する面 p=.016、頬側 p=.563、合計 p=.028 一般歯科と専門の比較のp値(表4・表5):手順ごと・部位ごとのすべてで p=.003 以下 検定は、Fisher の正確検定と Pearson のカイ二乗検定 手順は無作為に割り付けていない(一般歯科は術者が好みで選択、専門は最初の100歯がクロルヘキシジン・次の100歯が ヨード) 一般歯科の「2つの手順の合計」の行は表4の値。表2の手順別を足すと陽性は合計96件・頬側58件で、表4の95件・57件 と原典の中で一致しない(どちらが正しいかは確定できない)
図2 施設・消毒の手順・部位ごとの陽性の割合(原典の表2〜表5の全区分)。

消毒薬で分けると(髄腔を開ける面と頬側の2部位を合わせた値)、一般歯科ではヨードの手順20.3%(138件中28件)、クロルヘキシジンの手順41.7%(163件中68件)(p<.001)。専門クリニックでもヨードの手順4.1%(193件中8件)、クロルヘキシジンの手順9.8%(193件中19件)で(p=.028)、どちらもクロルヘキシジンの手順の方が陽性が多くなりました。専門クリニックでの差は髄腔を開ける面(3.1%と12.4%・p=.016)で見られ、頬側(5.3%と7.3%・p=.563)では有意差を検出しませんでした。

一般歯科の中では、頬側の検体(38.0%)が髄腔を開ける面(25.2%)より多く陽性でした(p=.016)。また試験の前半は21.3%(150件中32件)、後半は42.4%(151件中64件)と、後半に陽性が増えていました(p<.001)。消毒後の検体では、歯種による統計学的に有意な差は検出されませんでした。

原典の数字には小さな食い違いがあります。結果の本文は一般歯科の陽性を「31.9%(95/301)」と書きますが、95÷301は31.6%で、抄録と表4も31.6%です。部位別の分母も本文(頬側151件・髄腔を開ける面150件)と表(頬側150件・髄腔を開ける面151件)で入れ替わっており、この記事は表の値を使いました。前半と後半の陽性(32件+64件=96件)は全体の95件と1件合わず、表2の手順別の陽性を足しても一般歯科は96件(28件+68件)、頬側は58件(17件+41件)で、表4の95件・57件と一致しません。どれが正しい件数かは原典からは確定できないため、この記事では各表の値をそのまま載せています(図2の「2つの手順の合計」の行は表4の値)。

⑤結果の読み方:差は「消毒薬」より「やり方」の可能性

著者らは「一般歯科の無菌的な管理は不十分だった」と結論しています。専門クリニックについては、どちらの手順でも術野の菌を培養で検出できない水準まで減らせた、とも述べています(実際には陽性は4.1%と9.8%で、ゼロではありません)。

では、なぜ一般歯科で陽性が多かったのか。著者らが挙げる候補は次のとおりで、いずれもこの研究で確かめたものではありません。

  • 防湿の不足:陽性が多かった頬側の検体は、ラバーダムと歯が接する所の近くで採っている
  • 消毒の手順が守られていない可能性:秒針つきの時計は用意されていたが、この研究の手順で決めた塗布時間(30%過酸化水素1分、消毒薬1分)を全員が守ったかは分からない。こすらずに手早く済ませたり、薬液の量が足りなかったりした可能性
  • 時期の影響:試験はコロナ禍の1年目に始まり、当初は急患が中心で1人に時間を取れ、感染対策への意識も高かった可能性。試験への新鮮さが薄れたことも候補に挙げている

消毒薬の差についても、著者らは慎重です。手順は無作為に割り付けておらず、一般歯科では術者ごとの丁寧さの違いが、専門クリニックでは検体を採った歯の面がたまたま拭き取りにくかった(凹凸や以前の充填物があった)可能性が混ざりうるため、ヨードとクロルヘキシジンの効き目の真の差とは限らない、としています。

前半の陽性が少なかったことから、著者らは「一般歯科でも条件次第でもっと高い水準の無菌性を達成できる」とも読んでいます。

⑥明日の臨床へ

この研究から言えるのは、「スウェーデンの一般歯科1施設では、ラバーダム防湿と消毒のあとでも、術野の検体の約3割で菌が育った。歯内療法の専門クリニック1施設では約7%だった」ということです。

ラバーダムの装着も術野の消毒も、難しい手技ではありません。著者らは、差はおそらく防湿と消毒にかけた時間と手間の違いを映している、と考察しています(ここから筆者の読み)。そう考えると、見直しやすいのは次のような基本です。

  • ラバーダムと歯の境目(頬側の歯頸部の周り)から漏れがないかを確かめる
  • この研究の手順(30%過酸化水素で歯を1分、5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン70%アルコール溶液で歯・クランプ・周りのラバーダムを1分)のように、塗るだけでなく時計で測ってこする
  • 著者らは、消毒の前に歯面を研磨してプラークを機械的に落とせば、消毒薬が効きやすくなるとも述べている(この研究で試したものではない)

ただし、術野に菌が残っていたことが、そのまま根管の感染や治療の失敗につながるかは、この研究では調べていません。著者らも、根管の中で生き残れる菌は限られると書いています。術野の消毒は「成績を上げる確かな一手」というより、根管治療の工程の最初の段階を丁寧に行うための基本、として読むのが妥当です(ここまで筆者の読み)。著者らは、この培養の方法を、術者が自分の術野の消毒を確かめる教育の道具として使えるとも提案しています。

⑦ここだけ補助線

一般歯科の現場で術野の無菌性を実際に測った、著者らによれば初めての臨床研究で、数字がはっきり出た点が面白い研究です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・各1施設の比較:一般歯科と専門は、地域も術者も違う1施設ずつ。一般歯科の術者の人数や経験は書かれていない。歯種の構成も違う(大臼歯は一般歯科46.4%・専門68.0%)
・手順は無作為でない:消毒薬の比較には交絡が混ざりうる(著者ら)
・培養の限界:培養で育ちにくい菌は検出できず、本当の陽性はもっと多い可能性がある。菌の種類や由来も調べていない(著者ら)
・検体の単位:1歯から2部位の検体を採り、検体の数で検定している(筆者の注)
・アウトカム:術野の菌の有無を見たもので、根管の感染や根管治療の成功・失敗は測っていない
それでも、「消毒したつもり」と「実際に菌が減っている」は別だと数字で示してくれた点で、毎日の手順を振り返るきっかけになる1本です。

今日のひとこと

スウェーデンの一般歯科1施設では、ラバーダム防湿と消毒のあとでも、術野の検体の約3割(31.6%)で菌が育ちました。歯内療法の専門クリニック1施設では7.0%でした。各1施設の前向きの観察研究で、手順も無作為に割り付けておらず、根管治療の成績までは測っていません。それでも、「消毒したつもり」と「実際に菌が減っている」は別だと数字で示した研究です。防湿の境目と、使う消毒薬ごとに決めた塗布時間(この研究では30%過酸化水素で1分、5%ヨードチンキか0.5%クロルヘキシジン70%アルコール溶液で1分)を守るという基本を振り返るきっかけになります。

Malmberg L, Benavente Hansson C, Grönqvist J, Brundin M, Björkner AE. Endodontic operative field asepsis: a comparison between general dentists and specialists. Acta Odontol Scand. 2023;81(8):603-608. doi: 10.1080/00016357.2023.2232855. PMID: 37417780
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。