エンド|鋳造ポストコア802本の生存期間と、失敗に関わる要因を診療録から調べた後ろ向き研究(Balkenhol・Wöstmann・Rein・Ferger 2007・Journal of Dentistry)。ドイツの大学病院1施設・患者565人。観察期間は1か月〜9.51年で、平均は2.1年。比較は無作為ではなく、原因と結果の関係を示した研究ではない
根管治療した歯に鋳造ポストコアを入れるとき、「これは何年もつのか」「駄目になるとしたら何が起きるのか」は気になるところです。Balkenholらは2007年、ドイツ・ギーセン大学の補綴科で1995〜2004年に装着された鋳造ポストコア802本(患者565人)の診療録を調べました。観察期間は1か月〜9.51年、平均は2.1年です。最終の診査までに記録された失敗は90本(11.2%)。失敗の43.3%はポストコアの脱離で、全例が再装着されています。Kaplan-Meier法で推定した平均生存期間は7.3年でした。Cox回帰で失敗のリスクと有意に関連したのは2つです。上部構造がテレスコープ義歯であること(クラウンに対するハザード比1.90、95%信頼区間1.08–3.34)と、グラスアイオノマーセメントでの装着(リン酸セメントに対するハザード比2.37、95%信頼区間1.52–3.72)。歯種(前歯・小臼歯・大臼歯)と上下顎は有意ではありませんでした。診療録にもとづく後ろ向きの観察研究で、セメントは試適のときの摩擦の強さで術者が選んでおり、無作為の比較ではありません。
①鋳造ポストコアは何年もつ? 駄目になるとき、何が起きている?
歯冠の崩壊が大きい歯に、鋳造ポストコアを入れる。昔からある方法です。では、入れたポストコアはどのくらいもつのでしょうか。失敗するとしたら、脱離なのか、歯根破折なのか。上にのる補綴物によって違いはあるのでしょうか。
Balkenholらは2007年、ドイツの大学病院で装着された鋳造ポストコア802本の診療録を調べて、この問いに取り組みました。
先に断っておきます。これは診療録をさかのぼって調べた後ろ向きの観察研究です。条件を無作為に割り付けて比べた試験ではありません。題名には「10年」とありますが、観察期間の平均は2.1年です。
・最終の診査までに記録された失敗は90本(11.2%)。観察期間は1か月〜9.51年、平均2.1年
・失敗の43.3%はポストコアの脱離。全例で再装着されている
・Kaplan-Meier法で推定した平均生存期間は7.3年(標準誤差0.2年)
・Cox回帰で失敗のリスクと有意に関連したのは、テレスコープ義歯の支台歯であること(クラウンに対するハザード比1.90)と、グラスアイオノマーセメントでの装着(リン酸セメントに対するハザード比2.37)
・歯種(前歯・小臼歯・大臼歯)と上下顎は、有意ではなかった
②研究の組み立て:565人・802本の診療録
調べたのは、ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンの補綴科で、1995〜2004年に鋳造ポストコアを装着した患者604人の診療録です。重い全身疾患のある患者は含めていません。非貴金属合金で作ったもの、レジンセメントで装着したもの、ポストの後に最終補綴物が入らなかったものは、数が少ないとして除かれました。残ったのが患者565人・802本です。
患者は男性279人(49.4%)、女性286人(50.6%)。平均年齢は50.1歳(16〜89歳)でした。治療したのは、経験のある歯科医師の厳しい監督を受けた学生か、歯科医師自身です。手順は規格化されていました。
・根管治療から装着までは最長3か月。症状がないことを診査とエックス線写真で確かめてから形成
・根尖側に根管充填材を3〜4mm以上残し、ポストの長さは歯根の3分の2以上
・作り方:口腔内で直接作ったもの37本、技工所で模型上に作ったもの(間接法)765本
・合金:金の含有量が高い合金89%、セミプレシャス合金(原著の表記は semi-precious alloy)11%
・セメント:試適で摩擦が大きいと歯科医師が判断したポストはリン酸セメント(原著の表記は phosphate cement。83.9%)、それ以外はグラスアイオノマーセメント(16.1%)
・ポストの本数:1根で保持したもの783本、2根に分割して保持したもの19本
・部位:前歯45.9%、小臼歯35.3%、大臼歯18.8%。上顎60.4%、下顎39.6%
・上部構造:クラウン51.4%、ブリッジ19.4%、テレスコープ義歯の支台29.2%
大事な点が1つあります。セメントは無作為に決められたのではありません。試適でしっかり止まるポストにはリン酸セメント、摩擦が小さいポストにはグラスアイオノマーセメント、という使い分けでした。
支台歯のマージンは、ポストコアと歯質の境目より少なくとも1.5〜2mm根尖側に置かれています。フェルール(歯質をクラウンが抱え込む帯)を得るためです。ブリッジは延長ブリッジを含まず、テレスコープ義歯は2本以上の支台歯で保持されていました。
「失敗」の決め方は厳しめです。最終の診査のとき、何の手直しもなくポストが元の位置にあったものだけを成功(打ち切り例)とし、それ以外は、脱離して再装着できた場合も含めて、すべて失敗に数えています。生存はKaplan-Meier法とログランク検定で、失敗に関わる要因はCox回帰(変数増加法)で調べました。
③結果:失敗は90本、いちばん多かったのは脱離
観察期間は1か月〜9.51年で、平均は2.1年でした。最終の診査までに失敗が記録されたのは802本中90本(11.2%)です。Kaplan-Meier法で推定した全体の平均生存期間は7.3年(標準誤差0.2年)でした。
失敗の内訳でいちばん多かったのは、ポストコアの脱離(43.3%)です。脱離は全例で再装着されており、著者らは「相対的な失敗」と位置づけています。それ以外の失敗では、多くの場合、補綴物を作り直す必要がありました。
歯根破折は、縦方向が8.89%、横方向が6.67%です。合わせると失敗の15.56%にあたります(筆者の計算)。ポストそのものの破折は3.33%で、内訳の中では「その他」を除いていちばん少ない項目でした。
時期で見ると、失敗の47.8%は装着後の最初の2年間に起きています。脱離にかぎると、1年目が14.4%、2年目が13.3%でした(どちらも失敗90本に占める割合。表4)。
④何が失敗と関連していたか
まず、条件ごとに生存曲線を比べたログランク検定の結果です。
・上部構造:有意差あり(p<0.001)。クラウン7.90年、ブリッジ7.51年、テレスコープ義歯6.30年
・歯種:有意差なし(p>0.05)。前歯6.84年、小臼歯7.42年、大臼歯7.58年。著者らは「大臼歯で高い傾向があるだけ」と書いている
・上下顎:有意差なし(p>0.05)。上顎7.32年、下顎7.31年
・セメント:有意差あり(p<0.05)。リン酸セメント7.61年、グラスアイオノマーセメント6.16年
・合金:有意差あり(p<0.01)。金の含有量が高い合金7.65年、セミプレシャス合金6.18年
・作り方:有意差あり(p<0.01)。間接法7.45年、直接法5.21年(直接法は37本と少なく、著者らは解釈に注意を求めている)
・ポストの本数:1根7.34年、2根に分割5.13年(2根は19本と少ない。数値は表に載っているが、著者らは生存曲線の図を省き、少数のため信頼できる評価はできないとしている)
次に、これらの条件を同時に入れたCox回帰です。変数増加法で有意と判定されたのは、上部構造の種類(p<0.05)とセメント(p<0.001)の2つだけでした。
・下顎(上顎に対して):0.97、0.62–1.52(0.90)
・小臼歯(前歯に対して):1.04、0.62–1.74(0.89)
・大臼歯(前歯に対して):0.71、0.31–1.60(0.40)
・ブリッジ(クラウンに対して):1.04、0.54–2.00(0.90)
・テレスコープ義歯(クラウンに対して):1.90、1.08–3.34(0.03)有意
・グラスアイオノマーセメント(リン酸セメントに対して):2.37、1.52–3.72(表の表記は0.00)有意
・セミプレシャス合金(金の含有量が高い合金に対して):1.46、0.89–2.42(0.14)
・直接法(間接法に対して):0.52、0.27–1.02(0.06)
・2根に分割したポスト(1根に対して):2.51、0.59–10.74(0.22)
基準にした側(かっこ内の「〜に対して」)は、表の注にある「表に載っていない区分が基準」という説明から読み取ったものです。
ハザード比は、ある時点で失敗が起きる速さの比です。「失敗する本数がその数字のぶんだけ増える」という意味ではありません。上部構造ごと・セメントごとの失敗の本数は原著に載っていないので、失敗の割合どうしを比べたリスク比は計算できませんでした。
合金と作り方は、ログランク検定では有意でしたが、Cox回帰では有意ではありませんでした。著者らはこの食い違いを受けて、追加の解析をしています。クラウンとブリッジをまとめた群では、金の含有量が高い合金のほうが生存が高い傾向でしたが、有意ではありません(p>0.05)。テレスコープ義歯の群では逆に、金の含有量が高い合金のほうが有意に低い結果でした(p<0.05)。著者らは、この結果は簡単には説明できず、今後の臨床研究が必要だと書いています。
⑤なぜテレスコープ義歯とグラスアイオノマーセメントで差が出たのか(著者らの考察)
・義歯床が顎堤にぴったり合っていない、または合わなくなったことで、歯と顎堤の負担のつり合いがくずれ、支台歯に歯軸からそれた力がかかった
・義歯の着脱のときに引っぱる力がかかる。入れ方・外し方が正しくないと、歯軸からそれた力も加わる
・他の著者が挙げる説明として、着脱の方向をそろえるために歯質を多く削ることになり、支えになる歯質が減ること、根管治療した歯では感覚が鈍くなり、守る反射が弱まること
義歯床の適合など、ここに挙げた仕組みを確かめるデータは、この研究では示されていません。
セメントについて、著者らの読み方は慎重です。グラスアイオノマーセメントは、試適で摩擦の小さかったポストに選ばれていました。つまり、もともと保持に不利なポストに使われています。
・セメントは無作為に選ばれたのではなく、術者がポストの摩擦を見て決めた
・したがって「グラスアイオノマーセメントはポストコアの装着に向かない」と結論してはいけない
・言えるのは、試適で摩擦の小さいポストの弱点を、グラスアイオノマーセメントで補うことはできない、ということ
直接法のポストコアがログランク検定で低かった点について、著者らは、口の中で作ると模型の上と同じ精度に仕上げにくいことを理由の候補に挙げています。直接法は術者の技量がより必要になる、という見方です。ただし直接法は37本で、Cox回帰では有意ではありません。
⑥明日の臨床へ
・規格化された方法で作った鋳造ポストコアは、長期の予後がよい(平均生存期間7.3年)
・上部構造の種類は、生存に有意に影響する。単冠とブリッジの下のポストコアが、最も生存が高い
・生存は、歯の位置(前歯・小臼歯・大臼歯)にも上下顎にも左右されなかった
・失敗の原因でいちばん多いのは、ポストコアの脱離
・試適で摩擦の小さいポストの持ちを、グラスアイオノマーセメントで補うことはできなかった
・生存の面からは、間接法をすすめるのが実際的と思われる
著者らは考察で、失敗の割合11.2%は、文献で「許容できる」とされる13〜30%(リコール間隔6〜8年の報告)を下回ったと書いています。また、ポストコアの入った歯をテレスコープ義歯の支台に組み込むことを禁忌とは考えない、とも述べています。
・失敗の4割強は脱離で、最初の2年間に集まっていました。装着の前に「試適でしっかり止まるか」を確かめることが、セメント選びより先にくる、と読めます
・試適でゆるいポストを「セメントで何とかする」のではなく、形成や作り直しを考える。その理由になる数字です。ただし、この研究は作り直した場合の成績を調べていません
・テレスコープ義歯の支台にする歯では、義歯床の適合とリコールでの確認が気になるところです。これも著者らの推測にもとづく読みで、この研究が確かめたことではありません
・現在よく使われるファイバーポストとレジンコア、接着性レジンセメントは、この研究の対象に入っていません。そのまま当てはめることはできません
題名には「10年」とありますが、観察期間は1か月〜9.51年で、平均は2.1年です。失敗の割合11.2%は、この短い平均観察期間での値です。Kaplan-Meier法の平均生存期間7.3年は、最長9.51年までの範囲で計算された推定値で、「半分が失敗するまでの年数」ではありません。図1の生存曲線は、観察の終わり近くで0.5付近まで下がっています(筆者が図から読み取ったもの)。長い期間まで追えた本数は原著に示されていません。後半の数字の確かさには注意がいります。
対象は、ドイツの大学病院1施設で、規格化された手順のもと、学生(監督つき)と歯科医師が治療した患者です。非貴金属合金とレジンセメントの例は除かれています。失敗の定義は「何の手直しもなくポストが元の位置にある」以外すべてで、再装着できた脱離も失敗に含まれます。同じ患者に1〜5本のポストコアが入っていますが、同じ患者の歯どうしが似ることを解析で考えたかどうかは書かれていません。残っている歯質の量やフェルールの高さ、根管治療の質は、解析に入っていません。
原著の中で、読み方に注意がいる箇所が2つあります。(1)直接法について、本文は「間接法より失敗のリスクが高い」と書いていますが、表6のCox回帰のハザード比は0.52(p=0.06)で、1を下回っています。著者らも、Cox回帰とログランク検定の結果が食い違うと認めています。直接法は37本と少なく、この研究から直接法と間接法の優劣は決められません。(2)表5の95%信頼区間は、見出しの「上限」と「下限」が入れ替わって印刷されています(数値は小さいほうが下限です)。
資金・利益相反:資金提供と利益相反についての記載は、原著に見当たりません。本文には、根管形成の器具などの製品名が登場します。
それでも、802本という数を、同じ施設の規格化された手順と記録でそろえ、上部構造の種類まで含めて多変量で調べた研究です。「鋳造ポストコアは何で失敗するのか」を、数字で考える材料になる1本です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、大学病院で規格をそろえて作られた鋳造ポストコア802本を診療録で追うと、失敗は90本(11.2%)で、その43.3%が脱離だったということです(観察期間は1か月〜9.51年、平均2.1年。脱離は全例で再装着)。Cox回帰で失敗のリスクと有意に関連したのは、上部構造がテレスコープ義歯であること(クラウンに対するハザード比1.90)と、グラスアイオノマーセメントでの装着(リン酸セメントに対するハザード比2.37)の2つで、歯種と上下顎は有意ではありませんでした。著者らは「試適で摩擦の小さいポストの持ちを、グラスアイオノマーセメントで補うことはできない」と述べています。後ろ向きの観察研究で、セメントは術者が摩擦の強さで選んでいます。平均の観察期間は2.1年と短く、長い期間まで追えた本数は原著に示されていません。長い期間の推定値の確かさには注意がいります。筆者の読みでは、装着の前の「試適でしっかり止まるか」を、セメント選びより先に確かめるきっかけになる1本です。


