1問1答 論文 保存修復

セラミックとレジンのインレー、歯への力の伝わり方は違う?——上顎小臼歯の2級MODインレーを3次元有限要素解析(コンピュータ上の模擬計算)で比べると、400Nの垂直荷重で窩洞の壁の応力はセラミック(90GPa)のモデルで10〜40MPa、加熱重合レジン(50GPa)のモデルで1〜5MPaだった(Ausiello 2004)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|上顎小臼歯1本の形の3次元モデルに2級MOD窩洞のインレーを3条件(セラミック+弾性率の高いセメント/セラミック+弾性率の低いセメント/加熱重合レジン+弾性率の低いセメント)で作り、400Nの垂直な咬合荷重をかけたときの応力を計算した有限要素解析(Ausiello・Rengo・Davidson・Watts 2004・Dental Materials)

大きな2級MOD窩洞を間接修復するとき、セラミックとコンポジットレジンのインレーで、歯にかかる力の伝わり方は違うのか。Ausiello らは2004年、上顎小臼歯の形をコンピュータ上に再現した3次元有限要素解析で調べました。400Nの垂直荷重をかけた計算で、窩洞の頬側・舌側の壁の応力は、セラミック(弾性率90GPa)のモデルで10〜40MPa、加熱重合レジン(50GPa)のモデルで1〜5MPaでした。セメントの弾性率(10GPa・6GPa)の違いは、主にセメントの層の応力に表れました。ただし、これは歯1本の形・1つの荷重方向・接着は完全と仮定した計算で、破折や臨床での成績を調べた研究ではありません。

論文
Stress distributions in adhesively cemented ceramic and resin-composite Class II inlay restorations: a 3D-FEA study
著者
Pietro Ausiello、Sandro Rengo、Carel L. Davidson、David C. Watts(イタリア・ナポリ大学 Federico II、オランダ・アムステルダム大学、英国・マンチェスター大学歯学部)
掲載
Dental Materials 2004;20(9):862-872
種類
3次元有限要素解析(コンピュータ上の模擬計算)。石膏の上顎小臼歯の模型をレーザーで読み取って作った3次元モデルに、2級MOD窩洞(咬合面の幅3.5mm・平らな窩底・ベベルなし)のインレーを3条件で設定した。A:ガラスセラミック(弾性率90GPa)+弾性率の高いレジンセメント(10GPa)、B:同じセラミック+弾性率の低いセメント(6GPa)、C:加熱重合コンポジットレジン(50GPa)+6GPaのセメント。接着材(4.5GPa・厚さ10µm)とセメント(厚さ70µm)の層は膜の要素で表した。400Nの垂直な咬合荷重を2つの咬頭にかけ、静的・線形の計算でミーゼス応力を求めた。接着は完全と仮定した。抜去した上顎小臼歯で荷重と変位の曲線を照合して、モデルを確かめたとしている
資金・利益相反
研究資金・利益相反の記載は無い
PMID
15451242

①セラミックとレジンのインレー、歯への力の伝わり方は違う?

大きな2級MOD窩洞を間接修復で治すとき、セラミックにするか、コンポジットレジンにするか。あわせて、どのレジンセメントで着けるか。迷う場面は多いと思います。材料によって「硬さ」、つまり弾性率(ヤング率)が大きく違うので、噛んだときに歯の側へ伝わる力も変わりそうです。

この点を、実際の歯ではなくコンピュータ上の模擬計算(3次元有限要素解析:FEA)で調べたのが、イタリア・ナポリ大学の Ausiello らが2004年に Dental Materials に出した論文です。

結論を先に書きます。
・上顎小臼歯1本の形のモデルに、2級MOD窩洞のインレーを3条件で設定し、400Nの垂直な咬合荷重をかけた計算です(臨床の研究ではありません)
・窩洞の頬側・舌側の壁の応力は、セラミック(弾性率90GPa)の2モデルで10〜40MPa、加熱重合レジン(50GPa)のモデルで1〜5MPaでした
・セメントの弾性率(10GPa と 6GPa)を変えても、セラミックのモデルの応力分布は大きくは変わらず、違いは主にセメントの層の応力に表れました
・著者らは「弾性率の低い修復材料のほうが、応力の大きさと分布の点で有利」と結論しています。ただし、応力の絶対値を求めることや、破折を評価することは目的の外だと著者ら自身が書いています

②なぜこの研究が必要だったか

著者らは序論で、大きな2級窩洞では、直接充填のコンポジットレジンは重合収縮などのために限界があり、加熱で後重合したレジンインレーや、金属で裏打ちしなくてよい強いセラミックが選択肢になると書いています。どちらもレジンセメントと象牙質接着材で接着して着けるのが一般的です。

一方で、着けるためのセメントの層は、修復材料より弱く収縮も大きい材料でできています。著者らは、セメントの弾性率と厚みが、そこに生じる応力全体を左右するという先行研究を引いています。

そこでこの研究は、インレーの材料(セラミックかレジンか)とセメントの弾性率の違いで、垂直に噛んだときの応力の伝わり方がどう変わるかを、3次元の有限要素モデルで比べました。

③何をどう計算したか

・モデル:石膏の上顎小臼歯の模型(5倍の大きさ)をレーザーで読み取り、エナメル質・象牙質・歯髄を分けた3次元モデルを作った(以前の研究のモデルを使い直したもの)
・窩洞:2級MOD窩洞。咬合面の幅3.5mm、平らな窩底、鋭い内側の線角、ベベルなし
・3つのモデル(表1):A=ガラスセラミック+弾性率の高いセメント、B=同じセラミック+弾性率の低いセメント、C=加熱重合コンポジットレジン+弾性率の低いセメント。接着材は3モデル共通
・層の表し方:接着材(厚さ10µm)とセメント(厚さ70µm)の層を、膜のようにふるまう薄い要素(シェル要素)で表した
・荷重:直径6mmの円柱で押す状況を想定し、2つの咬頭の点に合計400Nを垂直にかけた。歯根の外側は動かないように固定した
・計算の前提:静的・線形の計算。材料はすべて弾性体で、エナメル質・象牙質は均質で方向による違いがないとした。歯と材料の間は完全に接着しているとした
・出したもの:ミーゼス応力(いろいろな向きの応力をまとめた値。引っ張りか圧縮かには分けられない)の色分け図と、健全歯のモデルを基準にした剛性の比較
・モデルの確かめ:むし歯のない抜去上顎小臼歯(各群10本)に同じ形の窩洞と修復をして、壊れるまで圧縮し、荷重と変位の曲線が計算とよく合ったとしている(グラフは計算と実験の曲線が1本ずつ。確かめに使った材料として書かれているのはレジン系の材料だけ)

表1 3つのモデルの材料の設定(弾性率) モデル インレー レジンセメント(厚さ70µm) 接着材(厚さ10µm) A ガラスセラミック 90GPa 弾性率の高いセメント 10GPa 4.5GPa B ガラスセラミック 90GPa 弾性率の低いセメント 6GPa 4.5GPa C 加熱重合コンポジットレジン 50GPa 弾性率の低いセメント 6GPa 4.5GPa 歯の設定:エナメル質 48GPa、象牙質 18GPa(原著の表2)。上顎小臼歯1本の形の3次元モデル、2級MOD窩洞(咬合面の 幅3.5mm)。 原著の本文と表2から筆者が作表。コンピュータ上の模擬計算(3次元有限要素解析)で、歯と材料は完全に接着していると 仮定した。
表1:3つのモデルの材料の設定(原著の本文と表2から筆者が作表)。

④結果1:セラミックのモデルは、窩洞の壁の応力が高かった

結果は、ミーゼス応力の色分け図と、結果の本文に書かれた計算上の値の範囲で示されています(表2)。

表2 400Nの垂直荷重でのミーゼス応力(MPa) 部位 A・B(セラミック) C(加熱重合レジン) 荷重をかけた咬頭 約400〜500 約400〜500 咬合面の中央 100〜500 40〜100 窩洞の頬側・舌側の壁 10〜40 1〜5 歯の近遠心の面 10〜15 10〜15 歯の頬側・舌側の面 約20〜40 約20〜40 原著の結果の本文に書かれた計算上の値の範囲。近遠心の面は「すべてのモデル」の値、頬側・舌側の面はそれに続く文の 値で、モデル別の区別は書かれていない。 窩洞の壁の値は、インレーを除いて窩洞の中を見た図の値。著者らは応力の絶対値を求めることは目的の外とし、破折は評 価していない。 上顎小臼歯1本の形の3次元モデル・2級MOD窩洞・400Nを2つの咬頭に垂直にかけた静的・線形の計算。
表2:400Nの垂直荷重でのミーゼス応力(原著の結果の本文に書かれた計算上の値の範囲)。

荷重をかけた咬頭では、3つのモデルとも約400〜500MPaと最も高い値でした。咬合面の中央は、セラミックの A・B が100〜500MPa、レジンの C は40〜100MPa でした。歯の近遠心の面は3モデルとも10〜15MPa と低く、頬側・舌側は咬頭のたわみに応じて20〜40MPa ほどでした。

インレーを抜いて窩洞の中を見ると、窩洞の頬側・舌側の壁で、A・B は10〜40MPa、C は1〜5MPaでした。修復物の中では、A と B の応力は高めでほぼ似ており、セメントの弾性率による違いは小さいとされています。応力は修復物の中心に集まり、頬側・舌側へ広がって窩洞の壁へ伝わっていました。C では、修復物の内側から窩洞の壁へ向かう応力の勾配が小さくなっていました。

⑤結果2:セメントの弾性率の違いは、セメントの層に表れた

接着材とセメントの層だけを取り出した図(目盛り0〜10MPa)では、接着材の層は A と B で違いが見られませんでした。一方、セメントの層は、弾性率の高いセメント(10GPa)の A のほうが、6GPa の B より応力が高くなっていました。レジンの C は、接着材・セメントの層とも応力が最も低い条件でした(この部分は図だけで、数値の記載はありません)。

あわせて、健全歯のモデルを0とした「剛性の比較の値」も出しています(表3)。プラスは健全歯のモデルより硬く、マイナスは軟らかいことを表します。セラミックの A・B はプラス、レジンの C はわずかにマイナスで、健全歯のモデルに近い値でした。

表3 健全歯のモデルを0とした剛性の比較の値(%) A(セラミック+10GPa) B(セラミック+6GPa) C(レジン+6GPa) 健全歯 軸方向 5.00 4.29 −0.54 0.00 側方 8.60 8.60 −2.10 0.00 原著の表1の全行を転記(原著の列の順は B・A・C・健全歯)。軸方向は圧縮に対する、側方は咬頭のたわみに対する剛性。 プラスは健全歯のモデルより硬く、マイナスは軟らかいことを表す(原著の式による値)。コンピュータ上の模擬計算の値。
表3:健全歯のモデルを基準にした剛性の比較の値(原著の表1の全行を転記)。

なお、荷重を400Nから800Nに上げた線形の計算では、応力は比例して大きくなり、A では特に舌側の咬頭に強い応力の集中が出たと書かれています。

⑥著者らの結論と考察

著者らは、応力の大きさと分布の点では、弾性率の低い修復材料が最もよいと結論しています。ガラスセラミックのインレーは咬頭と窩洞の内側で応力が高く、加熱重合レジンのインレーは健全歯に近いふるまいを示した、としています。考察では、90GPa のセラミックは応力をほとんどそのまま窩洞の壁へ伝え、50GPa のレジンは応力を一部吸収し一部を壁へ伝えた、と解釈しています。

一方で、著者らは次のことも書いています。

・400N は任意に決めた荷重で、ヒトが実際にかけ得る力より低いかもしれない(臼歯部の最大咬合力として580N、男性522N・女性441Nといった他の報告を引いている)
・この研究の目的は応力の絶対値を求めることではなく、分布と場所を見ること。計算は破壊を評価するようには組まれておらず、荷重を変えても応力の大きさが変わるだけで分布は変わらない
・セメントの層の厚みや、セラミックを支えるのに必要な最小の弾性率については、さらに研究中である

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・この計算では、弾性率の高いセラミックのほうが、窩洞の壁へ応力を伝えた:同じ形・同じ荷重で、窩洞の壁は10〜40MPa 対 1〜5MPa
・セメントの弾性率の違いは、主にセメントの層の応力に表れた:セラミックの修復物の中や窩洞の壁の分布は大きくは変わらなかった
・破折のしやすさや、臨床での長持ちを調べた研究ではない:応力の絶対値も目的の外と著者らが書いている

「レジンインレーのほうが歯が割れにくい」「セラミックは避けたほうがよい」とまでは、この研究からは言えません。材料の弾性率で、計算上の応力の行き先が変わる——という仕組みの話として読み、材料選びは臨床研究の結果と合わせて考えたい一本です。

ここだけ、冷静に補助線(1)コンピュータ上の模擬計算です。上顎小臼歯1本の形、荷重は垂直の向きだけ(主な比較は400N。800Nに上げると比例して増えることにも触れている)、静的・線形の計算で、歯と材料は完全に接着していると仮定しています。斜めの力や繰り返しの咀嚼、接着のはがれは入っていません。
(2)応力の値は計算上の範囲で、著者らも絶対値を求めることは目的の外としています。破折は評価していません。
(3)抜去歯での確かめは、荷重と変位の曲線を照合したところまでです。確かめの節に書かれた材料はレジン系だけで、コンポジットの弾性率は表2では50GPa、確かめの節では「約50MPa」と単位が食い違っています。
(4)研究資金・利益相反の記載はありません。
「インレーの材料の硬さで、歯の側にかかる力の行き先が変わる」ことを目で見せてくれる、面白い計算です。臨床の成績を調べた研究と並べて読むと、材料選びの考え方が立体的になると思います。

今日のひとこと

上顎小臼歯の2級MODインレーを3次元有限要素解析で比べると、400Nの垂直荷重で、窩洞の頬側・舌側の壁の応力はセラミックのモデルで10〜40MPa、加熱重合レジンのモデルで1〜5MPaでした。セメントの弾性率の違いは、主にセメントの層の応力に表れました。著者らは弾性率の低い材料が応力を抑えるとしていますが、これは歯1本の形・1つの荷重方向・完全な接着を仮定したコンピュータ上の計算で、破折や長期の成績は調べていません。「材料の弾性率で、計算上の応力の行き先が変わる」という程度に受け取り、材料選びは臨床研究と合わせて考えるのが、この論文に合った読み方です。

Ausiello P, Rengo S, Davidson CL, Watts DC. Stress distributions in adhesively cemented ceramic and resin-composite Class II inlay restorations: a 3D-FEA study. Dent Mater. 2004;20(9):862-872. doi: 10.1016/j.dental.2004.05.001. PMID: 15451242
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。