エンド|歯学部4年生が治療した257歯を、手用ファイルの学年とWaveOneの学年で比べ、AAEの難易度評価表で分類した研究(Haug 2018・Journal of Endodontics)。器具は学年で分かれており、無作為に割り付けた比較ではない
「エンジン用のファイルに替えれば、偶発症は減るのか」。Haugらは、歯学部4年生が治療した257歯(手用141歯、WaveOne 116歯)を調べました。偶発症が1つ以上あった歯は82歯(31.9%)で、最多は根尖孔を越えた器具操作(17.5%)です。手用とWaveOneで、偶発症にも通院回数にも有意な差はありませんでした。差が出たのは症例の難易度で、AAEの評価表で高難度とされた歯は、偶発症が有意に多くなっていました(P<.001)。ただし器具は学年で分かれており、WaveOneの群には大臼歯が多く含まれます。
①エンジンファイルに替えれば、根管治療の偶発症は減りますか?
作業長を失う。根管が偏位する。ファイルが折れる。根管形成の途中で起きるこうした偶発症を減らしたくて、エンジン用のファイルを導入する。そう考える場面は多いと思います。
ノルウェーのベルゲン大学のHaugらは、歯学部4年生が治療した257歯の記録を調べました。前の学年は手用ファイル、次の学年は往復運動(レシプロケーティング)のWaveOneで根管形成をしています。全症例を、AAE(米国歯内療法学会)の難易度評価表で分類しました。
・偶発症が1つ以上あった歯は、257歯中82歯(31.9%)
・いちばん多かったのは、根尖孔を越えた器具操作(17.5%)
・手用(141歯)とWaveOne(116歯)で、偶発症にも通院回数にも有意な差はなかった
・高難度に分類された歯は、偶発症が有意に多く(P<.001)、通院回数も多かった
・著者らの結論は「偶発症を決めたのは器具の種類ではなく、症例の難易度」
・ただし、器具は学年で分かれており、無作為に割り付けた比較ではない
②2つの学年の診療記録を比べた
ベルゲン大学の学生診療室には、2014年にWaveOneが導入されました。著者らは、導入前の学年と導入後の学年を比べています。
・術者:歯学部4年生。2015年卒業の学年(42人)が手用ファイル、2016年卒業の学年(39人)がWaveOne
・患者:学生の経験や力量を知らない受付が、患者を学生へ無作為に割り当てた
・指導:学生6人に指導医1人。作業長はアペックスロケーターとX線写真で確認し、最終の根尖の太さと形成の方法は指導医と相談して決めた
・手用:Kファイル、Kフレキソファイル、NiTiのKファイル
・WaveOne:手用ファイルで少なくとも15号までグライドパスを作ってから使用。根尖をさらに広げるために手用ファイルへ戻ることもあった
・共通:ファイルは使い捨て。洗浄は0.5%次亜塩素酸ナトリウムと17% EDTA。水酸化カルシウムを2週間貼薬し、側方加圧で根管充填
・対象:257歯(手用141、WaveOne 116)。再治療、前年から別の学生へ引き継がれた症例、指導医が救急で形成を始めた症例は除外
・偶発症:歯を単位に7種類を記録。器具破折、作業長の喪失、根管の偏位、根尖孔を越えた器具操作、側方穿孔・ストリップパーフォレーション、X線的根尖から2mmを超えて短い根管充填、根尖孔を越えたガッタパーチャの溢出
・確認:診療記録に登録された内容を2人の研究者が評価し、術前と治療中のX線写真を見直して、記録されていなかった偶発症を足した(必要な時は歯内療法専門医に相談)
・難易度:AAEの評価表で、低・中等度・高の3段階
著者らは「手技の誤り(procedural errors)」ではなく「偶発症(mishaps)」という言葉を選んでいます。無知や知識の不足による誤りではなく、不運な出来事だという意味を込めた、と説明しています。
③偶発症は257歯の31.9%。最多は根尖孔を越えた器具操作
偶発症が1つ以上あったのは82歯(31.9%)です。内訳は、根尖孔を越えた器具操作が17.5%、作業長の喪失と短い根管充填がどちらも8.56%、ガッタパーチャの溢出が6.61%、根管の偏位が4.28%、器具破折が2.33%、穿孔が1.56%でした。
偶発症は重なって起きています。82歯のうち、1つだけが48歯、2つが25歯、3つが7歯、4つが2歯でした。作業長の喪失は、根管の偏位・短い根管充填・器具破折と正の相関がありました(順位相関係数 0.348、0.304、0.229。いずれもP<.01)。根尖孔を越えた器具操作は、ガッタパーチャの溢出と相関していました(0.578、P<.01)。ただし著者らによると、器具が根尖孔を越えた歯のうち、ガッタパーチャが溢出したのは半数に満たなかったそうです。
④手用とWaveOneで、有意な差はなかった
偶発症が1つ以上あった歯は、手用で141歯中43歯(30.5%)、WaveOneで116歯中39歯(33.6%)でした(原著の図3からの読み取り)。7種類のどの偶発症でも、器具による有意な差はありません。通院回数にも有意な差はありませんでした。
器具破折は6歯(2.33%)で、WaveOneが5歯、手用の15号Kファイルが1歯です。どれも根尖側3分の1で折れ、除去できないと判断されました。6歯はすべて大臼歯で、すべて高難度の歯でした。件数が少ないため、器具破折は回帰分析に入れられていません。
差が出なかった理由の候補として、著者らは、学生が根尖部のストップを作るのに、ステンレスではなくNiTiの手用ファイルを使っていたことを挙げています。
⑤差が出たのは、症例の難易度
難易度の内訳は、高難度が52.9%、中等度が113歯、低難度は9歯(3.5%)だけでした。解析では、低と中等度をまとめて高難度と比べています。大臼歯は、前歯・小臼歯より高難度に入ることが有意に多くなっていました(P<.001)。
高難度の歯で有意に多かったのは、作業長の喪失、短い根管充填、ガッタパーチャの溢出、器具破折(いずれもP<.05)と、根管の偏位(P<.01)です。根尖孔を越えた器具操作と穿孔には、有意差の印がありません。偶発症が1つ以上あった歯の数も、高難度で有意に多くなっていました(P<.001)。
・高難度との関連が有意だったのは、根管の偏位(オッズ比 2.33、95%信頼区間 1.05〜5.18)と、ガッタパーチャの溢出(オッズ比 1.81、1.02〜3.21)
・作業長の喪失(1.62、0.98〜2.68)、短い根管充填(1.61、0.97〜2.66)、根尖孔を越えた器具操作(1.32、0.89〜1.95)、穿孔(1.33、0.56〜3.18)は有意でない
・器具の種類は関連しなかった(WaveOneを基準に、手用のオッズ比 1.01、0.80〜1.27)
・このオッズ比は原著の表1の回帰分析の値で、どの変数を一緒に入れたかは明記されていない。図2の割合を単純に比べた値(根管の偏位は約7.3%と約0.7%、溢出は約10.2%と約2.4%。図からの読み取り)とは別物で、どちらも「何倍起きやすいか」をそのまま表す数字ではない
通院回数は平均でおよそ3回でした。高難度の歯と大臼歯で多く、作業長の喪失・短い根管充填・根管の偏位・器具破折があった歯でも有意に多くなっていました。
・原著の図2は、右端に「偶発症が1つ以上あった歯」として、高難度 約72%、低〜中等度 約28%の点を置いている
・これを「各難易度の歯に占める割合」と読むと、偶発症のあった歯は約132歯になり、本文の82歯と合わない(136歯×72%+122歯×28%)
・72%と28%は足すと100%で、82歯を59歯と23歯に分けた割合(59÷82=72.0%、23÷82=28.0%)と一致する。右端だけが「偶発症があった82歯の内訳」を示している、と読むと数字のつじつまが合う
・ただし原著は、右端の分母を説明していない。作図の誤りなど、別の可能性も残る
・この読みを仮定すると、偶発症が1つ以上あった歯は、高難度で約43%(136歯中59歯)、低〜中等度で約19%(122歯中23歯)という試算になる。難易度ごとの歯数にも1歯のずれがあり(下の補助線)、確定した数字ではない
・図2の左側の7つの点と、器具別の図3は、各群の歯数で割った割合として読むと、件数が本文と一致する
・この図を引用したスライドの「72%」を、そのまま「高難度の歯の7割に偶発症が起きた」とは読めない
⑥明日の臨床へ
・学生診療室で偶発症と通院回数を決めた主な要因は、器具の種類ではなく症例の難易度だった
・AAEの難易度評価表は、起こりうる偶発症と通院回数を予測する道具として、学部教育で重要で価値がある
・術前に難易度を評価することを、学生診療室では必須にすべきである
・学生は卒業までに、少なくとも1つのエンジン用の器具システムについて、適切な臨床の訓練を受けておくべきである
・この診療室では高難度の歯が過半数を占めていたが、偶発症の数は、ほかの研究の報告を超えていない
・器具を替える前に、まずその歯の難易度を見積もる、という順番が見えてきます。この研究では、器具の違いで偶発症に有意な差は出ませんでした
・高難度の歯では、作業長の喪失、短い根管充填、溢出、偏位、器具破折が多くなっていました。難易度が高いと分かった時点で、誰が治療するか、紹介するかを先に決める、という選択肢があります
・器具破折の6歯は、すべて高難度の大臼歯でした。エンジン用ファイルと高難度の大臼歯の組み合わせは、有意差が出ていなくても気に留めておきたい点です
・術者は学部4年生で、指導医がついています。開業医や専門医の偶発症の頻度として、そのまま使える数字ではありません
まず、器具の比較は無作為ではありません。手用とWaveOneは、連続する2つの学年で分かれています。学年が違えば、学生も患者も指導の中身も違います。WaveOneの群には、大臼歯が有意に多く含まれていました(P<.01)。WaveOneの群も、手用ファイルで15号まで形成してから使っています。「差がなかった」は、条件をそろえた比較の結果ではありません。
次に、難易度を付けた時期です。原著は、難易度を誰が、いつ付けたかを明記していません。治療が終わったあとの評価で、学生と指導医が難易度を話し合って見直す、という記載があります。治療の経過を知ったうえでの判定が混ざった可能性があります(筆者の読み)。そうだとすると、「術前の評価で偶発症を予測できる」とまでは、この研究だけでは言い切れません。
三つ目に、対象の絞られ方です。2つの学年が治療した歯は271歯と279歯でしたが、解析に入ったのは257歯です。再治療などを除外したとありますが、どの理由で何歯が除かれたかは書かれていません。
四つ目に、調べたのは術中の偶発症と通院回数までです。治癒したかどうかは、この論文では扱っていません。著者らが挙げた欠点は、1回ごとの治療時間を測っていないことです。
五つ目に、原著の中で数字が合わない箇所があります。図2の右端は、上で述べたとおり、各難易度の歯に占める割合として読むと本文の82歯と合いません。難易度の内訳は、高難度52.9%(136歯にあたる)、中等度113歯、低難度9歯で、足すと258歯になり、総数の257歯と1歯合いません。高難度で通院回数が多いことのP値は、本文がP<.05、抄録と図4の説明がP<.01です。考察は器具破折を「手用0.39%、エンジン1.94%」と書きますが、分母は全257歯です。各群の歯数で割ると、手用は141歯中1歯(0.7%)、WaveOneは116歯中5歯(4.3%)になります(筆者の計算)。
資金・利益相反:資金の記載はありません。著者らは利益相反なしと申告しています。
それでも、「器具か、症例か」という問いに、学生診療室の実際の数字で答えた点に、この論文の価値があります。難易度を先に見る、という当たり前の手順に、数字の裏づけを与えてくれる1本です。
今日のひとこと
歯学部4年生の257歯で、偶発症が1つ以上あった歯は82歯(31.9%)でした。手用ファイルとWaveOneで有意な差はなく、差が出たのは症例の難易度です。高難度の歯では、作業長の喪失・短い根管充填・溢出・偏位・器具破折が有意に多くなっていました。原著の図にある「72%」は、高難度の歯の発生率として読むと本文の82歯と合いません。82歯の内訳と仮定すると、高難度の歯では約43%という試算になります(筆者の検算。原著は分母を説明していません)。器具は学年で分かれた比較で、無作為ではありません。筆者の読みでは、器具を選ぶ前に「その歯の難易度」を見積もるための1本です。


