口腔顔面痛|説明のつかないことの多い4つの慢性症候群の重なりと共通の関連因子を調べた、英国の住民ベース横断研究(Aggarwal ら 2006・Int J Epidemiol)
3か月以上続く顔や顎の痛み。歯にも顎関節にも原因がはっきりしないとき、私たちは口の中の原因探しに集中しがちです。英国マンチェスター近郊の一般住民2,299人(回答率72%)を調べたこの研究では、慢性の口腔顔面痛(7%)・全身の広い慢性痛(15%)・過敏性腸症候群(9%)・慢性疲労(8%)のうち1つ以上を27%が報告し、2つ以上を抱える人は偶然なら102人のところ実際は183人でした。4つに共通して関連していたのは、健康への心配(最も高い区分でオッズ比 3.5)、ほかの身体症状(2つ以上でオッズ比 3.6)、最近のつらい出来事など。慢性の口腔顔面痛だけを見ても、抑うつや睡眠の問題と強く結びついていました(最も高い区分でオッズ比 4.6・4.0)。著者らは、こうした患者さんが最初に訪れる臨床家として歯科を名指しし、丁寧な病歴聴取を勧めています。ただし一時点の横断研究で、因果の向きはわかりません。
①顔の痛みの患者さんに、「ほかの不調」を聞いていますか
何か月も続く顔や顎の痛み。歯にも顎関節にも、はっきりした原因が見つからない。こういう患者さんを前にすると、私たちはつい口の中の原因探しに集中します。
では、その患者さんが肩や腰も痛い、おなかの調子がずっと悪い、何か月も疲れが抜けないと感じていたら。それを問診で聞いているでしょうか。
2006年、英国マンチェスター大学の疫学グループ(ロンドンの Barts and The London(Queen Mary’s School of Medicine and Dentistry)の Zakrzewska も共著者)が、一般の住民2,299人を対象に、この問いに数字で答えました。結論を先に書くと、原因の説明がつかないことの多い4つの慢性症候群は、偶然では説明できないほど同じ人に重なり、しかも共通の特徴をもっていた。慢性の口腔顔面痛は、その4つのうちの1つです。
②なぜ今まで、別々に扱われてきたのか
身体を調べても、はっきりした器質的・病理的な変化が見つからない症状があります。著者らによれば、医学の各専門科はこうした症状を、それぞれの診断名に切り分けてきました。
・全身の広い慢性痛(CWP)… リウマチ科
・顎関節症・非定型顔面痛… 歯科
・慢性疲労… 感染症科
そのため、これらは別々に研究され、別々に管理されてきた。けれども「実は1つのものではないか」という仮説もある——というのが、この研究の出発点です。
これまでの研究は、病院の外来の患者さんを対象にしたものが中心でした。そうした研究では、こうした症候群が外来で多く、複数を抱える人もいることが示されています(ある外来の研究では、新患の52%が説明のつかない症状を少なくとも1つもっていた)。ただし著者らは、病院に紹介されてくるのは重く難しいケースに偏りやすく、受診せずに自分で対処できている人が抜け落ちると指摘します。だから今回は、選ばれていない一般住民で調べることにしました。
③今回の一手:一般住民への郵送アンケート
・対象:マンチェスター近郊の町の一般診療所に登録された18〜75歳から無作為に抽出。2003年9月〜2004年6月に郵送
・人数:対象になりえた3,468人のうち2,505人が返送(回答率72%)。質問票をすべて回答した2,299人を解析
・4つの症候群:全身の広い慢性痛(米国リウマチ学会の基準・3か月以上)/慢性の口腔顔面痛/過敏性腸症候群(Rome II基準)/慢性疲労(6か月以上・疲労スケール8点以上)
・調べた因子:年齢・性別、不安と抑うつ(HADスケール)、健康不安、睡眠の問題、ほかの身体症状、最近のつらい出来事(ライフイベント)
歯科の読者に大事なのは、慢性の口腔顔面痛の定義です。「顔・口・顎の痛みが、過去1か月に1日以上あった」人のうち、その痛みが3か月以上続いているものを慢性としました。痛む場所は、頭頸部の外側の図3枚と、歯と周りの軟組織を描いた口の中の図1枚に、本人が塗って示す方式です。つまり診察はしておらず、歯が原因の痛みを除外したわけではありません(ここは⑧で触れます)。
解析では、1人が4つの症候群のどれを抱えていてもおかしくないことを踏まえ、同じ人の中での症候群どうしの相関を考慮するモデル(マルチレベルモデル)を使っています。そのうえで、ある因子との関連の強さが4つの症候群で「同じとみなせるか」を検定し、同じとみなせれば共通のオッズ比を1つ出す、という設計です。オッズ比はすべて年齢と性別で調整されています。
④結果1:4人に1人が1つ以上。そして、偶然よりずっと多く重なる
まず有病率です。全身の広い慢性痛 15%(340人)、慢性の口腔顔面痛 7%(163人)、過敏性腸症候群 9%(211人)、慢性疲労 8%(173人)。そして587人(27%)が、4つのうち少なくとも1つを報告しました。
内訳は、1つだけが404人(18%)、2つが134人(6%)、3つが34人(2%)、4つ全部が15人(1%)。ここで著者らは、それぞれの有病率から「偶然に重なるならこのくらい」という期待人数を計算し、実際と比べました。
2つ以上を抱える人は、偶然なら102人のはずが、実際は183人(P<0.001)。3つ重なる人は期待6人に対して34人、4つ全部は期待0人に対して15人でした。これらの症候群は、互いに独立して起きているわけではなさそうだ、ということです。
年齢との関係にも違いがありました。全身の広い慢性痛は年齢とともにはっきり増える一方、過敏性腸症候群と慢性の口腔顔面痛は、年齢とともにおおむね減る傾向でした。性別では、どの症候群も報告者の約3分の2が女性で、症候群のない人では女性は約半数でした(慢性の口腔顔面痛では163人中107人=66%、症候群のない人では1,597人中816人=51%)。
⑤結果2:共通の特徴があった
次に、どんな因子が症候群と関連しているかです。症候群のある人は、どの因子でも「最も高い区分」に入る割合が大きく、たとえば睡眠の問題が最も重い区分の人は、症候群のある人では54〜71%、症候群のない人では23%でした。
そして、4つの症候群で関連の強さが同じとみなせた(共通の効果があった)因子は次のとおりです。
・安心を求める行動(最も高い区分):オッズ比 1.4(95%CI 1.1–1.7)
・ほかの身体症状(2つ以上):オッズ比 3.6(95%CI 2.9–4.4)
・最近のつらい出来事(2つ以上):オッズ比 2.5(95%CI 2.0–3.0)※本文と表の値。抄録では 2.3(95%CI 1.9–2.8)と書かれている
これとは別に、抄録には女性であること:オッズ比 1.8(95%CI 1.5–2.2)が共通の因子として挙げられています(表には、この値と「共通とみなせるか」の検定結果は載っていません)。
不安・抑うつ・睡眠の問題・生活への支障については、慢性疲労の質問票と中身が重なるため、慢性疲労を除く3つの症候群で共通の効果を見ています。こちらも共通とみなせ、抑うつ 3.8、不安 3.2、睡眠の問題 4.4、生活への支障 5.6(いずれも最も高い区分・オッズ比)でした。一方、健康不安の総得点と、病気や死への恐れの2つは、症候群によって関連の強さが違い、共通の効果は出せませんでした。
では、歯科に直接関わる慢性の口腔顔面痛だけを取り出すと、どうなるか。原著の表から、慢性の口腔顔面痛の列にある10項目すべてについて、最も高い区分のオッズ比を並べました。
抑うつ 4.6、生活への支障 4.6、ほかの身体症状 4.3、睡眠の問題 4.0、健康不安(総得点)4.0、健康への心配・とらわれ 3.9、不安 3.5(いずれも最も高い区分)。顔の痛みは、こうした心理社会的な因子やほかの身体症状と、全身の広い慢性痛・過敏性腸症候群とおおむね近い強さで結びついていました。一方、慢性疲労だけは睡眠・不安・抑うつ・生活への支障との関連がはるかに強く(たとえば抑うつの最も高い区分でオッズ比 24.2)、原著もこの点を別に書いています。
⑥なぜ重なるのか:著者らの読み
ここは断定できない部分です。まず、横断研究なので、これらの因子が症候群の「原因」なのか「結果」なのかは区別できないと著者らは明記しています。痛みが続けば眠れなくなり、気分も落ちる。その逆もありえます。
そのうえで著者らは、別の前向きの住民研究で、健康不安やほかの身体症状の多さが全身の広い慢性痛や腹痛の「発症」を予測したことを引き、健康不安やほかの身体症状は、結果ではなく危険因子である可能性もあると述べています。ただし、それは前向き研究での確認が必要だ、とも書いています。
年齢の傾向についても、過敏性腸症候群や慢性の口腔顔面痛が若い時期に現れ、のちの全身の広い慢性痛の危険因子になっているのではないかという問いを投げていますが、これも今後の研究課題とされています。
原著の「KEY MESSAGES」は3行です。説明のつかないことの多い慢性症候群は、一般住民の中で重なって現れ、共通の関連因子をもち、したがって1つのものである可能性がある。
⑦明日の臨床へ
著者らは、臨床への含意をかなり具体的に書いています。患者さんは説明のつかない症候群をもってプライマリケアの臨床家のところへ来て、その訴えの症候群だけを治療され、重なっている別の症候群は見過ごされがち。その結果、病院の専門外来に紹介され、そこでは器質的な原因探しに管理の焦点が当たる。その例として挙げられているのが、まさに「慢性の口腔顔面痛の患者さんが歯科のクリニックに来る」場面です。
そして、丁寧な病歴聴取で、患者さんが受診の目的にしていない別の症候群が見つかることがある。そうであれば、1つの部位の症候群だけを管理しても役に立ちにくい。さらに、病気への向き合い方(illness behaviour)、ほかの身体症状、最近のつらい出来事についての生活歴を尋ねることが、関連する因子を浮かび上がらせるかもしれない、としています。最後の一文でも、こうした症候群をもつ人が最初に訪れるプライマリケアの臨床家として、医科と並んで歯科がはっきり名指しされています。
介入については、医学的に説明のつかない訴えで繰り返し受診する患者さんに認知行動療法を試した試験で、受診回数・症状の訴え・心理的な苦痛の減少が示されていること、集団での有酸素運動プログラムでも受診の減少が得られていることが紹介されています。ただしこれは他の研究の紹介で、この論文自体が介入を検証したわけではありません。
・3か月以上続く、原因のはっきりしない顔や顎の痛みを診たら、ほかの場所の痛み・おなかの調子・続く疲れを問診で一言聞いてみる
・睡眠・気分・最近の大きな出来事も、痛みの問診の一部として聞く。原著の数字を見る限り、これらは顔の痛みと無関係ではない
・「歯のどこかに原因があるはず」だけで検査や処置を重ねない。原因探しが必要なのは当然として、それだけで終わらせない
・重なりが見えたら、医科のかかりつけ医と情報を共有する選択肢を持っておく
⑧ここだけ、冷静に補助線
次に、症候群はすべて質問票で判定しており、診察はしていません。とくに慢性の口腔顔面痛の定義には、歯と周りの軟組織の痛みも含まれ、歯が原因の痛みなど、器質的な原因のある痛みを除外していません。著者らも、器質的な原因をもつケースが混ざれば関連は薄まる方向に働くと述べています。全身の広い慢性痛は圧痛点の診察をしていないので線維筋痛症とは別物、慢性疲労も医学的な除外診断をしていないので慢性疲労症候群とは別物です。
回答率は72%と比較的高いものの、回答した人は回答しなかった人より女性が多く、年齢も高めでした(女性55% vs 46%、年齢の中央値48歳 vs 40歳)。短い質問票だけを返した186人(若く、男性が多い)は解析から外れています。また英国の1つの地域の調査です。
細かい点では、最近のつらい出来事の共通オッズ比が、抄録(2.3)と本文・表(2.5)で食い違っています。この記事では本文と表の値を採りました。
それでも、選ばれていない一般住民で、顔の痛みがほかの説明のつかない症状と同じ土俵に乗ることを数字で示した点は大きいと感じます。口の中だけを見ていては見えない患者さんの姿を、問診の一言で拾えるかもしれない。そのきっかけをくれる論文です。
今日のひとこと
この研究がいちばん強く示したのは、原因のはっきりしない4つの慢性症候群が、一般住民の中で偶然よりずっと多く同じ人に重なり(2つ以上:期待102人→実際183人)、健康への心配・ほかの身体症状・最近のつらい出来事といった共通の特徴をもつことです。慢性の口腔顔面痛もその1つで、抑うつ・生活への支障・ほかの身体症状・睡眠の問題と結びついていました(最も高い区分と最も低い区分を比べたオッズ比 4.6・4.6・4.3・4.0)。著者らは、こうした患者さんが歯科に来て器質的な原因探しだけに焦点が当たることを問題として挙げ、丁寧な病歴聴取で、本人が訴えていない別の症候群が見つかることがあると書いています。歯科が持ち帰れるのは、長引く顔の痛みを診たら、ほかの場所の痛み・おなか・疲れ・睡眠・気分・最近の出来事を一言聞いてみるという構えです。ただし一時点の調査なので、どちらが原因かはわかりません。


