1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

顎関節症の痛みに「4回だけの認知行動療法」、効果は1年後まで残るのか?——生活への支障が消えた人は12か月で35%対13%、痛みが半分以下になった人は50%対29%。差は治療が終わってから広がった(2006年のRCT)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|慢性の顎関節症の痛みに対する、2週ごとに4回の認知行動療法と「教育と注目」の対照を、治療直後・6か月・12か月まで比べたランダム化比較試験(Turner, Mancl & Aaron 2006・Pain)

スプリントも、顎を休める工夫も伝えた。それでも生活への支障が続く慢性の顎関節症の患者さん。ワシントン大学の口腔顔面痛クリニックで、158人を臨床心理士による認知行動療法(2週ごとに4回)と教育と注目を与える対照(同じく4回)に分け、両群とも歯科の通常ケアを続けながら、主要エンドポイントを1年後に置いて追いかけた試験です。主要評価項目の生活への支障が「0」になった人は、12か月で35.3%対12.9%(開始時で調整したオッズ比4.2、両群の割合から計算したリスク比 約2.7)。痛みの強さが50%以上減った人は50%対29%。顎の機能と気分の落ち込みも認知行動療法の群が良く、顎関節症の知識の増え方は両群で同じでした。同じ試験の8週間の日記では平均の改善に有意な差が出ていなかったのに、差は治療が終わってから広がったのが印象的です。

論文
Short- and long-term efficacy of brief cognitive-behavioral therapy for patients with chronic temporomandibular disorder pain: A randomized, controlled trial
著者
Judith A. Turner, Lloyd Mancl, Leslie A. Aaron(University of Washington、米国シアトル)
掲載
Pain 2006;121:181-194. doi:10.1016/j.pain.2005.11.017
種類
ランダム化比較試験(単施設・ワシントン大学 口腔顔面痛クリニック、2001〜2004年に登録)。RDC/TMD Axis I の顎関節症で顔の痛みが3か月以上・慢性疼痛グレード II high〜IV(痛みによる生活の障害がある)の158人を、認知行動療法(PMT・臨床心理士)と教育・注目の対照(SCM・学士レベルの教育担当者)に79人ずつ割り付け。どちらも2週ごとに4回・8週間で、両群とも歯科の通常ケアを継続。評価は治療前・治療直後(3か月)・6か月・12か月の質問票で、主要評価項目は生活への支障、主要エンドポイントは12か月。解析は追跡データのある148人(PMT 72人・SCM 76人)の intent-to-treat。資金は米国国立歯科頭蓋顔面研究所(NIDCR)
PMID
16495014

①「4回の面談」は、1年後にも残っているのか

慢性の顎関節症の痛み。スプリントを作り、顎を休める工夫を伝えても、「食事がつらい」「仕事や家事に差し支える」が何か月も続く患者さんがいます。

そこに認知行動療法(CBT)を足すという選択肢があります。ただ、紹介する側としては2つの疑問が残ります。何十回も通わせないと効かないのではないか。そして、効いたとしても、治療が終われば元に戻るのではないか。

この論文は、その2つ目に正面から答えた試験です。2週ごとに4回だけの認知行動療法を歯科の通常ケアに足し、治療直後・6か月・12か月まで追いかけたランダム化比較試験で、主要エンドポイントは1年後に置かれていました。

結論を先に書きます。
・主要評価項目の生活への支障が「0」になった人は、12か月で35.3%対12.9%(P=0.004)。開始時で調整したオッズ比は4.2(95%CI 1.7–10.2)、リスク比は約2.7(両群の割合から計算)
・痛みの強さが50%以上減った人は12か月で50%対29%(P=0.01)
・顎の機能、気分の落ち込み、痛みのとらえ方も、12か月の時点で認知行動療法の群が良かった
・顎関節症の知識の増え方は両群で同じ。差は「情報を渡したかどうか」では説明しきれない

②同じ試験の「8週間」は、平均では差が出ていなかった

実はこの試験には前編があります。同じ試験の治療期間中を1日3回の電子日記で追った2005年の報告です(別記事で解説)。そこでは、8週間の平均の改善ペースは、生活への支障も痛みの強さも対照と有意な差がありませんでした。ただ、治療の最後の2週には、生活への支障と顎の機能で認知行動療法の群に改善の傾向が見えていました。そして痛みのとらえ方ははっきり動いていました。

著者らは当時、「治療の効果は、もっと長い追跡で見えてくるのではないか」と書いていました。今回の論文は、その答え合わせです。この論文で使うのは電子日記ではなく、標準的な質問票(慢性疼痛グレード尺度・顎の機能の質問票・ベック抑うつ質問票など)で、治療前・治療直後(3か月)・6か月・12か月に測っています。

背景には、心理療法の時間の問題もあります。慢性痛に対する認知行動療法のランダム化試験を集めた総説では、治療時間の中央値は16時間でした。一方で、心理療法を受ける人の多くは6回未満しか通わない。だから6回以下で効く短い認知行動療法が求められている、と著者らは書きます。

③今回の一手:4回の面談と、治療後24週までの電話

舞台はワシントン大学の口腔顔面痛クリニック(2001〜2004年)。対象は、RDC/TMD の Axis I で顎関節症と診断され、顔の痛みが3か月以上続き、慢性疼痛グレード II high〜IV(痛みによる生活の障害がある)の18歳以上の患者さんです。条件を満たして声をかけた366人のうち、158人(43%)が参加しました。断った理由でいちばん多かったのは、4回通う時間でした。

・PMT(痛みの自己管理トレーニング=認知行動療法):臨床心理士が担当。漸進的筋弛緩法と腹式呼吸の練習(音源を渡して毎日練習)、恐怖回避の考え方、痛みにまつわる否定的な考えを見つけて問い直す練習、再発予防と「ぶり返したときの対処」。毎回「顎関節症のケア計画」を作り、次の面談までの宿題にする
・SCM(セルフケア管理=教育と注目の対照):臨床心理士の指導を受けた学士レベルの患者教育担当者が担当。冊子の内容を一緒に振り返るだけで、認知行動療法の技法は含まない
・共通:どちらも2週ごとに4回・8週間。同じ顎関節症の解説とセルフケアの冊子(顎の姿勢、顎を楽にする、温冷、食事、ストレッチ)を受け取る。面談の合間と、4回目のあと2・4・8・12・16・20・24週にも15分未満の電話が入る
・両群とも、クリニックの歯科医による通常ケアを継続(顎の姿勢の指導、温冷罨法、食事の工夫、一部の人に消炎鎮痛薬・ストレッチ・スプリント)

参加者の86%が女性、平均年齢は36〜39歳。痛みが続いている期間の中央値は13.5か月(PMT)と17.5か月(SCM)で、ほぼ全員が筋の顎関節症(RDC/TMD Group I)の診断を持っていました。慢性疼痛のグレードでは、4割近くが最重度のグレードIV(重い生活の障害)でした。

解析は、少なくとも1回の追跡データがある148人(PMT 72人・SCM 76人、ランダム化した人の94%と96%)の intent-to-treat です。12か月の回答率は88%と89%でした。4回すべてに出たのはPMT 74%・SCM 67%で、1回も来なかった人も12%と9%いました。

④結果:生活への支障「0」の人が、12か月で35%対13%

主要評価項目は、慢性疼痛グレード尺度の生活への支障(日常の活動・仕事や家事・レジャーや人付き合いに、この1か月で痛みがどれだけ差し支えたか。0〜10)です。追跡時に「0」と答える人が多かったため、0か、それ以外かで比べました。

0 10% 20% 30% 40% 生活への支障が「0」だった人の割合(%) 1.4% 5.3% 12.9% 5.6% 36.8% 11.1% 35.3% 12.9% 開始時 治療直後(3か月) 6か月 12か月(主要エンドポイント) PMT(認知行動療法) SCM(教育・注目の対照) 原著Table 2。主要評価項目=慢性疼痛グレード尺度(GCPS)の生活への支障(0〜10)。値は観察値。解析はPMT 72人・SCM 76人(12か月の回答は68人・70人)。群間のP値は治療直後0.05、6か月0.0002、12か月0.004。12か月の開始時調整オッズ比4.2(95%CI 1.7–10.2)
生活への支障が「0」だった人の割合(原著Table 2)。開始時はどちらの群もほぼ全員に支障があった。PMT群では6か月から「0」の人が3人に1人を超え、12か月まで保たれた

開始時に支障が「0」だったのはPMT 1.4%・SCM 5.3%。これが12か月でPMT 35.3%(24人)、SCM 12.9%(9人)になりました(P=0.004)。開始時の値で調整したオッズ比は4.2(95%CI 1.7–10.2)です。両群の割合から計算したリスク比は約2.7で、オッズ比よりも控えめな数字になります。

面白いのは時間の流れです。治療が終わった直後(3か月)の差は12.9%対5.6%で、P=0.05とぎりぎりでした。差がはっきり開いたのは6か月(36.8%対11.1%、P=0.0002)です。治療が終わってから、差が広がったことになります。

⑤痛み・顎の機能・気分も、12か月で差がついた

ほかの評価項目も、3回の追跡を通して見るとすべて認知行動療法の群が有意に良く、12か月の時点でも差が残りました。

12か月の値(平均。PMT/SCM)と、開始時で調整した群間の差(95%CI)
・痛みの強さ(0〜10):開始時はどちらも6.8 → 3.9/4.7。差 −0.92(−1.70〜−0.14)
・咀嚼の支障(顎の機能の質問票・0〜1):0.60/0.56 → 0.40/0.50。差 −0.13(−0.19〜−0.07)
・咀嚼以外の顎の支障(同じ質問票の下位尺度・0〜1):0.38/0.36 → 0.20/0.26。差 −0.06(−0.11〜−0.01)
・気分の落ち込み(ベック抑うつ質問票):どちらも13.4 → 8.3/11.4。差 −2.93(−5.35〜−0.50)

平均の差だけでは、臨床的に意味があるかは分かりません。そこで著者らは、患者さんが「とても良くなった」と感じる水準に相当する「痛みの強さが50%以上減った人」の割合も比べています。

0 20% 40% 60% 12か月の時点で基準を満たした人の割合(%) 50% 29% 46% 24% 10% 26% 痛みの強さが50%以上減った 咀嚼の支障が「軽度」の区分 抑うつ域(BDI 21以上) PMT(認知行動療法) SCM(教育・注目の対照) 原著3.4節(12か月のデータがある人)。P値は痛み0.01、咀嚼の支障0.0006、抑うつ域0.016(ロジスティック回帰。咀嚼の支障・抑うつ域は開始時の区分で調整)。開始時の抑うつ域はPMT 25%・SCM 24%。抑うつ域は低いほど良い
12か月の時点で基準を満たした人の割合(原著3.4節)。痛み・咀嚼の支障は高いほど良く、抑うつ域(オレンジ)は低いほど良い

痛みの強さが50%以上減った人は、PMT 50%・SCM 29%(P=0.01)。4回すべてに出た人だけで見ると55%対24%(P=0.001)と差はさらに開きました。両群の割合から計算したリスク比は約1.7です。

咀嚼の支障では、PMT群で「軽度」の区分の人が17%→46%、「重度」が51%→22%に。SCM群は軽度16%→24%、重度46%→34%でした(P=0.0006)。気分の面では、抑うつ域(ベック抑うつ質問票21点以上)の人が、開始時は25%と24%で同じだったのに、12か月でPMT 10%・SCM 26%になりました(P=0.016)。ただし4回すべてに出た人に限ると、同じ傾向ながら有意な差ではなくなりました。

一方で、咀嚼以外の顎の支障を区分で比べた差は、intent-to-treat ではP=0.09と傾向にとどまりました(4回すべてに出た人に限ると P=0.0075)。

⑥「説明した」だけでは、この差は出ない

「心理士にじっくり話を聞いてもらえたから良くなったのでは」「PMTの方がもっともらしく見えたからでは」。当然出てくる疑問に、著者らは3つの角度から答えています。

1つ目は知識です。顎関節症についての10問のテストで、正答率(0〜100)はPMT 72→79、SCM 74→82と両群とも上がり、増え方に差はありませんでした(P=0.16)。知識を渡しただけでは、この差は生まれていないことになります。

2つ目は期待です。治療開始前、患者さんはPMTを6.6、SCMを5.7(0〜10)と、PMTのほうを信頼できそうだと評価していました。この信頼度を解析に加えると、痛みの強さの差だけは有意でなくなりました(P=0.079)。ただし両方の治療への信頼度を同時に加えると、痛みの強さも含めてすべての項目で差は有意でした。期待だけでは説明しきれない、というのが著者らの読みです。

3つ目は中身です。対処法の4つの尺度のうち、群で差が出たのはリラクセーションだけでした(12か月で3.0対2.1、0〜7)。粘り強く活動を続ける、前向きな自己暗示、痛いときに休む、の3つは差がありません。リラクセーションは、PMTのなかでほかの対処法よりずっと重点的に扱われた技法です。

そして痛みのとらえ方は、1年後もはっきり違いました。

12か月の値(PMT/SCM)
・痛みの破局的思考がまったく無い人:29%/4%(開始時は6%/7%)
・顔の痛みに対処できるという自信(0〜10):4.8/5.0 → 7.1/5.8
・「痛みは自分で制御できる」という考え(0〜4):どちらも1.8 → 2.9/2.2
・「痛みで体が不自由だ」「痛みは害のサイン」という考えも、PMT群のほうがより下がった(3回の追跡を通した群間差 P<0.0001)

2005年の日記の報告で見えた「考え方の変化」が、標準的な質問票でも、1年後まで確認されたことになります。

⑦なぜ、治療が終わってから差が広がったのか

ここからは筆者の読みも交えます。

PMTには再発予防、つまり「良くなった状態をどう保つか」「痛みがぶり返したらどうするか」の話し合いが含まれていました。さらに両群とも、治療後24週まで電話が入り、PMT群では心理士がリラクセーションや目標への取り組みを確認し、つまずいた点を一緒に解決していました。

著者らは、同じクリニックで行った6回の認知行動療法の先行研究(2002年)では、4か月で痛みの改善が見られても1年後には有意な差がなかったことに触れ、今回の違いとして「効果を保つ工夫」と「治療後の電話」を挙げています。終わったあとにどう続けてもらうかが効いた可能性があります。ただし電話の効果を切り分けた試験ではないので、ここは仮説です。

もうひとつは練習の積み重ねです。リラクセーションや考え方の問い直しは、4回の面談で「覚える」ものではなく、その後の毎日で「使う」ものです。日中の顎や顔の筋の緊張と痛みの関係が指摘されている顎関節症では、特にリラクセーションが効きやすいのかもしれない、と著者らは書いています。

⑧明日の臨床へ

この試験で認知行動療法を担当したのは臨床心理士で、歯科医院で同じ治療を再現できるという話ではありません。そのうえで、筆者の読みとして持ち帰れそうなことを挙げます。

・評価の軸に「生活への支障」を足す。この試験の主要評価項目は痛みの強さではなく生活への支障で、12か月で差がはっきり開いた項目の1つでもある
・「4回」と「1年」は、紹介の説明に使える数字。認知行動療法の群では、1年後に生活への支障が消えた人が3人に1人(対照は8人に1人)。ただし全員ではなく、1回も来なかった人も1割いた
・冊子と説明だけでは同じ結果にならなかった。セルフケア指導の中身は両群で共通で、知識の伸びも同じだった。指導は土台として続けつつ、支障が大きい人・「痛み=壊れている」と強く考えている人には、心理の専門家と組むことを考えたい
・治療後のフォローも治療のうち。この試験は治療後も24週まで電話でつないでいた。リコールでリラクセーションやセルフケアの続き具合を聞くことは、歯科でもできる

⑨ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線声をかけた人のうち参加したのは43%で、いちばんの理由は「4回通う時間」でした。参加者は平均年齢が少し若いほかは断った人と差がなかったものの、1つの大学病院の専門クリニックの患者さんで、女性が86%です。
担当者も違います。PMTは臨床心理士、SCMは学士レベルの教育担当者で、結果に担当者の違いが混ざった可能性は残ります。担当者の技量や手順の守られ方を録音などで直接確かめてもいません。
主要評価項目は1つに決めてありましたが、副次評価項目は多く、多重比較の補正はしていません(主要エンドポイントを事前に1つに決めたうえでの判断だと、著者らは理由を説明しています)。また、開始時の信頼度を調整すると痛みの強さの差は有意でなくなるなど、期待の影響をゼロとは言い切れません。
また、評価はすべて患者さん自身が記入する質問票で、参加者はどちらの治療を受けているかを知っていました(ここは筆者の補足です)。
それでも、主要評価項目を1年後に置き、認知行動療法の群では生活への支障が消えた人が3人に1人(対照は8人に1人)という結果は、とても面白い。短い心理療法を歯科の外来にどうつなぐか、を考える土台になる試験です。

今日のひとこと

この試験がいちばんはっきり示したのは、たった4回の認知行動療法を歯科の通常ケアに足すと、1年後の生活への支障が変わるということです。生活への支障が「0」になった人は12か月で35.3%対12.9%、痛みが半分以下になった人は50%対29%。しかも差は治療が終わってから広がり、顎関節症の知識の伸びは両群で同じでした。歯科が持ち帰れるのは、痛みの強さだけでなく生活への支障を評価の軸に入れ、支障の大きい人には心理の専門家と組む選択肢を持ち、治療後もセルフケアの続き具合を気にかけることです。

Turner JA, Mancl L, Aaron LA. Short- and long-term efficacy of brief cognitive-behavioral therapy for patients with chronic temporomandibular disorder pain: a randomized, controlled trial. Pain. 2006;121:181-194. doi:10.1016/j.pain.2005.11.017. PMID: 16495014
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。