1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

顎関節症の痛みに「4回だけの認知行動療法」を足すと何が変わる?——平均の改善ペースは対照と差がなく、はっきり変わったのは痛みのとらえ方

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|慢性の顎関節症の痛みに対する、2週ごと4回の認知行動療法と「教育と注目」の対照を比べたランダム化比較試験。1日3回の電子日記で8週間追跡(Turner, Mancl & Aaron 2005・Pain)

スプリントも、顎を休める工夫も伝えた。それでも「食事がつらい」「仕事に集中できない」が残る慢性の顎関節症の患者さん。ワシントン大学の口腔顔面痛クリニックで、158人を臨床心理士による認知行動療法(2週ごとに4回)と教育と注目を与える対照(同じく4回)に分け、両群とも歯科の通常ケアを続けながら、1日3回の電子日記で8週間追いかけた試験です。結果は二面的でした。平均の改善ペースは、主要評価項目の生活への支障を含めて対照と有意な差がなかった。一方で、50%を超えて改善した人は生活への支障で34%対13%、顎の使いにくさで29%対10%と認知行動療法の群に多く、痛みの強さは16%対14%で差なし。そして破局的思考は減り、「痛みを制御できる」感覚は増えました。

論文
Brief cognitive-behavioral therapy for temporomandibular disorder pain: Effects on daily electronic outcome and process measures
著者
Judith A. Turner, Lloyd Mancl, Leslie A. Aaron(University of Washington、米国シアトル)
掲載
Pain 2005;117(3):377-387. doi:10.1016/j.pain.2005.06.025
種類
ランダム化比較試験(単施設・ワシントン大学 口腔顔面痛クリニック)。RDC/TMD Axis I の顎関節症で顔の痛みが3か月以上の158人を、認知行動療法(PMT)と教育・注目の対照(SCM)に割り付け、どちらも2週ごとに4回・8週間。両群とも歯科の通常ケアを継続。評価は1日3回の電子日記で、解析は日記の回答が十分だった126人(PMT 61人・SCM 65人)。資金は米国国立歯科頭蓋顔面研究所(NIDCR)
PMID
16153777

①スプリントも説明もした。それでも「生活がつらい」が残る

慢性の顎関節症の痛み。スプリントを作り、顎を休める工夫を伝え、温罨法やストレッチも説明した。それでも「食事がつらい」「仕事に集中できない」という訴えが続く患者さんがいます。

こういうとき、歯科の処置に何を足せばいいのか。候補のひとつが認知行動療法(CBT)です。ただ「心理療法は何十回も通うもの」という印象があると、紹介のハードルは上がります。

この論文は、そこに1つの答えを出しました。2週ごとに4回だけの認知行動療法を、歯科の通常ケアに足したランダム化比較試験です。8週間のあいだ、患者さんに1日3回、携帯端末の電子日記をつけてもらい、痛みや生活の支障だけでなく「痛みをどうとらえているか」まで毎日追いかけました。

結論を先に書きます。
・平均の改善ペースは、生活への支障・痛みの強さ・顎の使いにくさ・気分のどれも、対照と有意な差はなかった
・一方で、50%を超えて改善した人の割合は、生活への支障で34%対13%、顎の使いにくさで29%対10%と認知行動療法の群が多かった。痛みの強さは16%対14%で差なし
・そして破局的思考は減り、「痛みを制御できる」感覚は増えた。はっきり変わったのは、痛みそのものより痛みのとらえ方でした

②なぜ「短い」認知行動療法が問われたのか

認知行動療法は、不適応な考え方を減らし、適応的な対処を増やすことをねらう心理療法で、さまざまな慢性痛に有益とされてきました。ただ、慢性痛に対する認知行動療法のランダム化試験を集めた総説(1997年より前の研究)では、治療時間の中央値は16時間でした。

一方で、保険の制約もあり、心理療法は1960年代から期間を区切って行うのが一般的になり、最近は6回以下の短い心理療法が注目されていると著者らは書きます。実際、心理療法を受ける人の多くは6回未満しか通わない、という事情もあります。

顎関節症については、認知行動療法が有益だとする研究はすでにありました。ただ著者らの指摘では、それらは非特異的な治療効果を対照で抑えていなかった。専門家に話を聞いてもらえる、注目してもらえる、それだけで良くなる分があるかもしれない。そこを切り分けるために、この試験は「教育と注目」を与える対照群を置きました。

③今回の一手:4回の面談を、2種類用意した

舞台はワシントン大学の口腔顔面痛クリニックです。対象は、RDC/TMD の Axis I で顎関節症と診断され、顔の痛みが3か月以上続く18歳以上で、慢性疼痛グレード(Von Korff)がII〜IV=痛みや生活への支障がある程度以上の患者さん。条件を満たした366人に声をかけ、158人(43%)が参加しました。

・PMT(痛みの自己管理トレーニング=認知行動療法):経験のある臨床心理士が担当。漸進的筋弛緩法(全身と顔・顎)と呼吸法の練習、リラクセーション音源、痛みにまつわる否定的な考えを見つけて問い直す練習(自動思考の記録)、恐怖回避の考え方、再発予防。毎回、患者さんごとの「顎関節症のケア計画」を更新する
・SCM(セルフケア管理=教育と注目の対照):臨床心理士の指導を受けた学士レベルの患者教育担当者が担当。顎関節症の教育と、自然経過・期待・面談での注目の効果を揃えるための面談。リラクセーションや考え方の練習は含まない
・共通:どちらも2週ごとに4回、8週間。同じ顎関節症の解説とセルフケアの冊子を受け取り、面談の合間に電話も入る。そして両群とも、クリニックの歯科医による通常ケアをそのまま受けた(顎の姿勢の指導、温冷罨法、食事の工夫、一部の人には消炎鎮痛薬・ストレッチ・スプリント)

評価は電子日記です。1日3回、端末のアラームが鳴り、痛みの強さ・生活への支障(主要評価項目)・顎の使いにくさ・否定的な気分を0〜10で答えます(否定的な気分は、直近3時間の「不幸せ・いら立ち・不安」の3項目の平均)。あわせて、痛みを制御できる感覚、「痛みは害のサイン」という考え、「痛みで体が不自由だ」という考え、破局的思考、そして使った対処法も記録しました。

解析したのは、8週間のうち6週以上にわたって日記の50%超に答えた126人(PMT 61人、SCM 65人)です。日記の回答率は両群とも平均90%でした。

④結果:平均の改善ペースには、差が出なかった

まず、いちばん知りたいところから。多層回帰で「時間とともにどれだけ良くなったか」の速さを比べると、主要評価項目の生活への支障も、痛みの強さ・顎の使いにくさ・否定的な気分も、2群のあいだに統計的に有意な差はありませんでした。

いちばん近づいたのが顎の使いにくさで、PMT群は8週で−0.4、SCM群は+0.2(0〜10)と逆向きに動きましたが、差は P=0.06 で有意には届いていません。

全体としては、痛みの強さが8週で0.5下がり(P=0.0005)、否定的な気分も0.2とわずかに改善しました(P=0.04)。一方、生活への支障は全体でも有意には変わりませんでした(P=0.28)。

⑤ただし「大きく良くなった人」は、認知行動療法の群に多かった

平均では差がなくても、個々の患者さんで見るとどうか。著者らは、1週目と8週目の日記の平均を比べ、50%を超えて改善した人の割合を出しました。50%という基準は、臨床的に意味のある改善として慎重に高めに置いたものです。

0 10% 20% 30% 40% 1週目→8週目で50%を超えて改善した人の割合(%) 34% 13% 29% 10% 16% 14% 22% 12% 生活への支障(主要評価項目) 顎の使いにくさ 痛みの強さ 否定的な気分 PMT(認知行動療法4回・61人) SCM(教育・注目の対照4回・65人) 原著Table 2。電子日記の週平均を1週目と8週目で比べた。群間の差のP値(χ²検定)は、生活への支障0.006、顎の使いにくさ0.005、痛みの強さ0.79、否定的な気分0.15。50%を超えて悪化した人は、PMT/SCMの順に生活への支障17%/24%、顎の使いにくさ17%/20%、痛みの強さ12%/8%、否定的な気分10%/6%
1週目→8週目に50%を超えて改善した人の割合(原著Table 2)。生活への支障と顎の使いにくさでは認知行動療法の群が多く、痛みの強さと否定的な気分では有意な差はなかった

主要評価項目の生活への支障では、PMT群の34%が50%を超えて改善し、SCM群は13%でした(P=0.006)。顎の使いにくさでも29%対10%(P=0.005)です。

一方で、痛みの強さは16%対14%(P=0.79)、否定的な気分は22%対12%(P=0.15)で、有意な差はありませんでした。

悪化した側も見ておきます。50%を超えて悪化した人は、生活への支障でPMT 17%・SCM 24%、顎の使いにくさで17%・20%、痛みの強さで12%・8%、否定的な気分で10%・6%でした。どちらの群にも、8週のあいだに悪くなった人が一定数いたということです。

⑥はっきり変わったのは「痛みのとらえ方」

治療の中身がねらっていた考え方と対処は、一貫して差が出ました。

0 2 4 6 電子日記の週平均(0〜10) 2.5 1.8 2.7 2.8 3.8 4.8 3.7 4.0 破局的思考PMT 破局的思考SCM 制御できる感覚PMT 制御できる感覚SCM 1週目 8週目 原著Table 1の記述統計(平均)。破局的思考は低いほど良く、「痛みを制御できる」感覚は高いほど良い。多層回帰で推定した8週間の変化は、破局的思考がPMT −0.9、SCM +0.1(群間 P=0.0005)、制御できる感覚がPMT+1.4、SCM +0.3(群間 P=0.0003)
破局的思考と「痛みを制御できる」感覚の週平均(原著Table 1)。認知行動療法の群では破局的思考が下がり、制御できる感覚が上がった
8週間の変化(0〜10、多層回帰の推定値。PMT/SCM)
・痛みを制御できる感覚:+1.4/+0.3(群間 P=0.0003)
・「痛みは害のサイン」という考え:−1.1/−0.2(P=0.016)
・破局的思考:−0.9/+0.1(P=0.0005)
・「痛みで不自由だ」という考え:−0.5/+0.1(P=0.087で差の傾向にとどまる)

対処法も変わりました。考え方で痛みに向き合う対処(認知的コーピング)はPMT群で0〜1の尺度で+0.2、1週目の平均0.21からおよそ倍になり、SCM群は+0.05でした(P=0.0007)。リラクセーションの使用もPMT群で+0.3、SCM群は−0.01です(P<0.0001)。「痛みが強まったら休む・活動を減らす」という対処は、2群で差がありませんでした。

ここで気になるのが、「PMTのほうがもっともらしく見えたから効いたのでは」という疑問です。実際、割り付けの前に参加者全員が両方の治療の説明を読んで信頼度(0〜10)を評価したところ、PMTが6.6、SCMが5.7と約1点高く評価されていました(対応のあるt検定でP<0.0001)。ただ、この信頼度を解析に加えても、群間の結果はほとんど変わりませんでした。

⑦なぜ、考え方は変わっても平均の痛みは変わらなかったのか

著者らは、いくつかの可能性を挙げています。

ひとつは時間です。認知行動療法の理論では、日々の考え方と対処が変わることが、その後の結果の改善につながるはずだとされます。実際、生活への支障はPMT群で6〜8週に下がり方が大きく見え、顎の使いにくさはPMT群が下がり続けたのに対しSCM群は6〜8週に上がっていました。治療の効果が、もっと長い追跡で見えてくる可能性を著者らは示唆し、長期の追跡を進めていると書いています。

もうひとつは量です。4回という短さでは、歯科の治療・自然経過・教育・非特異的な効果に上乗せするだけの改善を短期間に生むには足りなかったのかもしれない。長い心理療法ほど改善する人の割合が高く、問題によって反応の速さが違うことも知られています。

だから著者らは、短い認知行動療法がいちばん効く患者さんの一群を見つけること、そして短い治療で反応しなかった人に、より長い治療を重ねる段階的なケアが役立つかもしれない、と述べています。

⑧明日の臨床へ

この試験で、認知行動療法を担当したのは臨床心理士です。歯科医院で同じ治療を再現できる、という話ではありません。そのうえで、ここからは筆者の読みとして、歯科の日常に持ち帰れそうなことを挙げます。

・痛みの強さだけで経過を追わない。この試験で「50%を超えて改善した人の割合」に差が出たのは、痛みの強さではなく生活への支障と顎の使いにくさだった(平均の改善ペースの解析では有意差なし)。そして考え方の指標は、平均でも一貫して差が出た。問診で「食事や仕事にどれくらい差し支えていますか」を足すだけでも、見える景色が変わる
・「この痛みは、何かが壊れているサインだと思いますか」と聞いてみる。「痛みは害のサイン」という考えや破局的思考は、4回の面談で動く対象だった
・セルフケア指導の中身は、両群で共通だった。顎の姿勢・温冷・食事・ストレッチの指導は土台として続けつつ、生活の支障が大きい人・考え方が強く痛みに引っぱられている人には、心理の専門家と組むという選択肢がある
・「4回」は紹介のハードルを下げる数字。ただし全員が大きく良くなるわけではなく、短期の平均では差がなかったことも一緒に伝えたい

⑨ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線結果は8週間の治療期間中の短期成績だけです。長期の追跡は論文の時点で進行中でした。
解析したのはランダム化した158人のうち126人で、日記の回答が足りない人などを除いています(重み付けした感度分析でも結果はほぼ同じだったと報告されています)。また、声をかけた人のうち参加したのは43%です。
担当者も違います。PMTは臨床心理士、SCMは学士レベルの教育担当者でした。著者らは、アウトカムに大きな群間差が出なかったことから担当者の経歴はアウトカムに大きくは影響しなかったと見ています。ここからは筆者の読みですが、考え方や対処の指標については、担当者の違いが上乗せされた可能性も残ると感じます。各項目は電子日記の負担を抑えるため1〜3問で測っており、信頼性や妥当性が下がったかもしれないと著者ら自身が書いています。
参加者は女性が88.1%、白人が86%、1つの大学病院のクリニックです。そして「50%を超える改善」の差は、平均の改善ペースの解析では確認されなかった結果と並べて読む必要があります。
それでも、たった4回で、痛みのとらえ方と対処がはっきり動いたことを毎日の記録で示した点は、とても面白い。認知行動療法の群で生活への支障が大きく改善した人が3人に1人いた(対照は13%)、という数字も含めて、長期の結果が楽しみになる試験です。

今日のひとこと

この試験がいちばんはっきり示したのは、たった4回の認知行動療法で、痛みのとらえ方と対処が変わるということです。破局的思考は減り、「痛みを制御できる」感覚は増え、「痛みは害のサイン」という考えも弱まりました。一方で、8週間の平均の改善ペースは、生活への支障・痛みの強さともに対照と差がなかった。それでも生活への支障が50%を超えて改善した人は34%対13%で、大きく良くなる人は認知行動療法の群に多くいました。歯科が持ち帰れるのは、痛みの強さだけでなく生活への支障と患者さんの考え方にも目を向け、支障の大きい人には心理の専門家と組むという選択肢を持っておくことです。

Turner JA, Mancl L, Aaron LA. Brief cognitive-behavioral therapy for temporomandibular disorder pain: effects on daily electronic outcome and process measures. Pain. 2005;117(3):377-387. doi:10.1016/j.pain.2005.06.025. PMID: 16153777
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。