口腔顔面痛|オーストラリア・シドニー北部の地域住民に無作為に電話をかけ、慢性の痛み(毎日・3か月以上)を持つ474人に「痛みを和らげるのに何が役立つか」を最大5つ挙げてもらい、能動的/受け身に分類して、痛みによる生活支障・医療の受診との関連を調べた住民ベースの横断研究(Blyth 2005・Pain・シドニー大学)
痛みが長引いている患者さん。次の予約までの数週間、家でどうやって痛みをしのいでいるのでしょうか。シドニー大学のグループは、地域住民2,092人へのランダム電話調査から、慢性の痛みを持つ474人を取り出し、役に立つ対処法を最大5つ挙げてもらいました。挙がったのは薬(47.0%)・安静(31.5%)・温冷パック(23.4%)といった「受け身」の対処が上位で、能動的な対処で最多の運動は25.8%。しかも受け身の対処を使う人の67.7%はそれだけで完結していたのに対し、能動的な対処を使う人で能動だけの人は33.5%——受け身だけの人(266人)は能動だけの人(64人)の約4倍いました。そして能動的な対処だけを使う人は、高度の生活支障が7.2%(受け身だけは30.3%)。年齢・性別などを調整したモデルでも、能動的な行動の対処は調整オッズ比 0.48(95%CI 0.27〜0.85)、能動的な対処だけなら 0.18(0.06〜0.49)と、支障が少ない側に傾きました。ただし横断研究なので、対処法が支障を減らしたのか、支障の軽い人が能動的な対処を選べたのかは分けられません。
①慢性の痛みを抱えた人は、診療室の外で何をしているのか
痛みが長引いている患者さん。次の予約までの数週間、その人は家でどうやって痛みをしのいでいるのでしょうか。
聞いてみると、たいてい返ってくるのは「痛み止めを飲んでいました」「なるべく使わないようにして安静にしていました」です。こちらも、つい「無理しないでくださいね」と返してしまう。
この研究は、オーストラリア・シドニー北部の地域住民に無作為に電話をかけ、慢性の痛みを持つ474人に「痛みを和らげるのに何が役立ちますか」と尋ねたものです。結論を先に言います。挙がった対処法は薬(47.0%)・安静(31.5%)といった「受け身」が上位を占め、能動的な対処「だけ」を使っている人は全体のごく一部でした。そして能動的な対処だけを使う人たちは、痛みによる高度の生活支障が7.2%と、受け身だけの人たち(30.3%)よりはるかに少なかったのです。
ただし、これは一時点を切り取った横断研究です。対処法が支障を減らしたのか、支障の軽い人が能動的な対処を選べたのかは、この設計では分けられません。そこも含めて見ていきます。
②なぜ「外来に来ている患者」だけでは足りないのか
慢性の痛みのセルフマネジメント(自己対処)が大事だ、という話自体は新しくありません。臨床集団を対象にした多くの研究が、良いセルフマネジメントは良い経過と結びつくことを一貫して示してきました。
問題は、「臨床の場にいる人」だけを見ていると、実際にありふれた自己対処の姿が見えなくなる点です。地域には、痛みを抱えながら医療者にほとんどかからずに暮らしている人が相当数います。著者らはそこを踏まえ、こう仮説を立てました。
ここでいう能動的な対処とは、痛みに対して本人が起こす具体的な行動のうち、回避や逃避を目的としないものです(運動、仕事を続ける、姿勢を正す=能動的行動/祈り、リラクセーション・瞑想、気そらし=認知)。
一方の受け身の対処は、何かを「してもらう」立場になるものと、痛みを避ける・逃げるための手立てです(処方鎮痛薬、理学療法、TENS=従来の医療的/安静、温熱・冷却、マッサージ、熱い風呂、飲酒=受け身の行動)。
著者らは、安静は本人が始める行動だが「痛みを避けるため」なので受け身に分類すると明記しています。一方、仕事のように痛くても日常を続ける行動は能動に入ります。分類の軸は「体を動かしたかどうか」ではなく、痛みから逃げる向きか、痛みがあっても生活を進める向きかです。
③今回の一手:地域に電話をかけて、役立つ対処を5つまで挙げてもらう
・方法:住宅の電話番号の接頭辞を手がかりに無作為に番号を生成し、コンピュータ支援の電話面接(CATI)。世帯内から18歳以上の1人を無作為抽出
・回答者:2,092人が参加(回答率73.4%)。うち474人(女性293人・男性181人)が慢性の痛みありと回答。年齢・性別調整後の有病率は22.1%(95%CI 20.2〜24.0)
・慢性の痛みの定義:面接前の6か月のうち、毎日・3か月以上続いた痛み
・質問:「あなたの痛みを和らげるのに何が役立ちますか」に対し、最大5つまで挙げてもらう
・生活の支障:Chronic Pain Grade(CPG。von Korff)で4段階に格付けし、グレードIII・IVを「高度の生活支障」とした
・解析:標本抽出の重み付けを行ったうえでロジスティック回帰。すべてのモデルに年齢と性別を含めた
慢性の痛みを持つ人のうち、高度の生活支障(CPG III・IV)は27%にみられました(データのそろった439人中)。
挙げられた対処は全部で975件。そのうち870件(89%)は面接中に既定のカテゴリーへ振り分けられ、自由記述として残った59件(全体の6%)は著者2名が独立に分類しました(うち47件・80%は一致)。1人が挙げた対処の数は0〜5個、平均も中央値も2個でした。
④結果①:上位に並ぶのは「受け身」の対処
いちばん多かったのは薬を飲む(47.0%)。次が安静(31.5%)、温冷パック(23.4%)と続きます。能動的な対処でもっとも多かったのは運動(25.8%)でした。
大きなくくりで見ると、受け身の行動(安静・温熱・冷却・マッサージなど)が59.3%、従来の医療的な対処が52.1%、能動的な行動(運動・姿勢など)が34.0%、認知的な対処(リラクセーション・気そらし・祈りなど)が11.2%。受け身が能動を上回っています。
著者らは、運動という個別の対処は25.8%と比較的よく挙がるのに、能動的な行動というくくり全体では多数派になっていない点を興味深いと述べています。
⑤結果②:能動的な対処を使う人でも、それだけで済ませているのは3人に1人
ここがこの論文でいちばん効く数字です。
・受け身の行動・従来の医療的な対処を使っている人のうち、それだけで済ませている人は67.7%
・結果として、受け身だけ(266人)は能動だけ(64人)のおよそ4倍
組み合わせで多かった順は、従来の医療的+受け身の行動(19.7%)、受け身の行動のみ(19.5%)、従来の医療的のみ(16.9%)、能動的な行動のみ(9.8%)。認知的な対処だけという人はごく稀でした。なお、対処を何も挙げなかった人は3.6%です。
つまり、能動的な対処をする人はたいてい受け身の対処も併用しているのに、受け身の対処をする人は受け身だけで完結しがち、という非対称があります。
⑥結果③:能動だけの人と、受け身だけの人を並べる
差は小さくありません。高度の生活支障は7.2% 対 30.3%(P<0.0001)。本文の割合から計算するとリスク比 約0.24=能動だけの群では、高度の支障を抱える人がおよそ4分の1でした。痛む場所が3か所以上ある人も7.6% 対 20.5%(P=0.0003)とおよそ3分の1です。
医療の使い方も一貫していました。過去6か月に医師を4回以上受診した人は13.6% 対 28.2%(P=0.0018)、他の医療職を6回以上受診した人は12.9% 対 30.3%(P=0.0002)。鎮痛薬を2剤以上使っている人は23.5% 対 38.1%(P=0.0077)でした。仕事では、痛みで休んだ日がある人が17.6% 対 31.6%(P=0.0168)です。
背景も違います。能動だけの群は中等教育後の資格を持つ人が多く(51.5% 対 33.0%)、年金・手当の受給者が少ない(13.8% 対 20.5%)。社会経済的な状況が良い人ほど能動的な対処をしていたことになります。また、痛みの原因をけがに帰する人が多く(47.7% 対 37.7%)、健康問題に帰する人は少なめ(16.7% 対 26.8%)でした。
意外だったのは、「痛みは今後悪くなると思う」と答えた人が、能動だけの群でむしろ多かったこと(20.5% 対 14.9%・有意差なし)。著者らは、慢性であることを現実として受け入れている表れかもしれない、と読んでいます。
⑦結果④:年齢・性別などを調整しても、関連は残った
4つの大きなくくり(従来の医療的/能動的行動/受け身の行動/認知)をそれぞれ説明変数に入れたモデルでは、従来の医療的な対処を使うことが調整オッズ比 2.15(95%CI 1.26〜3.67)で高度の生活支障と結びつき、逆に能動的な行動の対処を使うことは 0.48(95%CI 0.27〜0.85)と、支障が少ない側に傾きました。
ここで一つ、見落とせない点があります。このモデルは後退法で変数を絞ったもので、受け身の行動(安静・温熱・冷却・マッサージ)は最終モデルに残っていません。調整後に高度の生活支障と結びついたのは、受け身のうち従来の医療的な対処(薬・理学療法・TENSなど)のほうでした。
「能動的な対処だけを使っているか」をダミー変数にした別のモデルでは、その関連はもっと強く出ます。能動的な対処だけを使っている人の調整オッズ比は 0.18(95%CI 0.06〜0.49)。著者らはこれを「highly protective(きわめて保護的)」と表現しています。
同じ枠組みで、医師・他の医療職への受診回数が上位4分の1に入るかを目的変数にすると、向きが反転します。最終モデルに残った6つの変数は、オピオイドの使用 3.74(1.63〜8.60)、受け身の行動の対処 3.62(1.69〜7.73)、従来の医療的な対処 3.57(1.54〜8.30)、CPGグレードIII・IV 3.05(1.45〜6.41)、けがが原因の慢性痛 2.96(1.42〜6.15)、家で誰かの手助けを受けている 2.23(1.03〜4.84)で、いずれも受診の多さと結びついていました。
⑧この数字をどう読むか——因果の向きは決められない
ここは慎重に行きます。著者ら自身が、横断研究であるため因果の方向は決められないと明記しています。つまり、次の2つを分けられません。
・読み方B:生活の支障が小さいから、運動したり仕事を続けたりできる(=能動的な対処を選べる)
ここからは筆者の見立てですが、おそらく両方が混ざっています。実際、能動だけの群は学歴・経済状況も良好でした。「能動的な対処ができる状況にある人」と「能動的な対処をしている人」が重なっている可能性は十分あります。
ただし著者らは、この読み方に一つ補助線を引いています。行動的な痛みマネジメントの研究では、支障の強い慢性痛患者に能動的な対処を増やし受け身の対処を減らすよう教えると、支障が実際に小さくなることが示されている(Morley 1999のシステマティックレビュー)。介入研究の側からは、少なくとも読み方Aの向きの効果が支持される、というわけです。
もう一つ、著者らが丁寧に書いている論点があります。受け身の対処そのものが悪いわけではない、という点です。
・増悪の原因が活動のしすぎなら、鎮痛薬より活動のペース配分を整えるほうが長い目で見て良いかもしれない
・「しないこと」(破局的思考をしない等)も、「すること」と同じくらい大事かもしれない
・大事なのは能動か受け身かの二者択一ではなく、その人の中での割合
⑨明日の臨床へ:慢性化した口腔顔面痛の患者さんに引ける補助線
この研究は一般の慢性痛の疫学調査で、歯科の患者を対象にしたものではありません。ですから歯科固有の数値は一つも出てきません。そのうえで、痛みが慢性化した患者さんと向き合うときの背景知識としては、次のように使えそうです。
・返ってきた答えが鎮痛薬と安静だけで埋まっていないかを見る。地域の慢性痛では、受け身の対処を使う人のうち67.7%(266人)がそれだけで完結していた
・こちらの指導が「痛む間は硬いものを避けて安静に」だけになっていないかを振り返る。それは患者さんの手持ちを受け身側に寄せる助言でもある
・慢性化した痛みでは、痛みがあっても続けられる日常を一緒に探す方向の声かけを、受け身の手立てに添える
ただし、この論文から「歯科でこうすれば支障が減る」という推奨は出てきません。あくまで、地域の慢性痛ではこういう分布と関連が見えた、という事実にとどめておくのが誠実な使い方です。急性の歯痛や、原因のはっきりしている痛みにこの話を持ち込むのも違います。原因が特定できて治療で取り除ける痛みは、まず原因を治すのが先です。
⑩ここだけ、冷静に補助線
データはすべて自己申告で、対処法の記録・分析に一般に合意された方法はまだない、とも書かれています。とくに認知的な対処(気そらし・リラクセーション・祈り)については、地域の調査で使える臨床尺度がなかったため、実際より少なく見積もられた可能性があると著者らは述べています。認知的な対処は11.2%でしたが、これは過小評価かもしれません。
オッズ比の読み方にも注意がいります。オッズ比は、アウトカムが多い集団ではリスク比(何倍なりやすいか)より差を大きく見せます。今回の高度の生活支障は27%と稀ではないので、0.48・0.18をそのまま「半分」「5分の1」と読み替えないでください(原著は曝露別の割合を出していないため、Table 5のオッズ比からリスク比は計算できません)。
調査地のシドニー北部は、高齢者と社会経済的に恵まれた層の割合がNSW州全体より高く、代表性に偏りがあります。また1998年の調査で、いま公表されている数字は当時の地域の姿です。
予想外の所見のいくつか(代替医療者の利用が多い、訴訟が多いなど)は実数が小さく有意ではありません。ここを強調するのは行き過ぎです。
それでも、診療室の外にいる人を含めて「家で何をしているか」を数えたという設計は貴重です。慢性化した痛みの患者さんの手持ちを増やす、という発想の土台として読むと面白い1本だと思います。
今日のひとこと
慢性の痛みを持つ地域住民474人が挙げた対処法は、薬(47.0%)・安静(31.5%)・温冷パック(23.4%)という「受け身」が上位で、能動的な対処で最多の運動は25.8%でした。受け身の対処を使う人の67.7%はそれだけで完結し、受け身だけの人(266人)は能動だけの人(64人)の約4倍。そして能動的な対処だけを使う人は高度の生活支障が7.2%(受け身だけは30.3%)、調整後も能動的な行動の対処はオッズ比 0.48(95%CI 0.27〜0.85)、能動だけなら 0.18(0.06〜0.49)でした。ただし横断研究なので因果の向きは決められません。持ち帰るのは「慢性化した痛みの患者さんに、痛み止めと安静以外の手持ちがいくつあるかを一度聞いてみる」という視点です。


