1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

スタビライゼーションスプリント、1年後も効いている?——筋筋膜痛のTMD60人を追うと、スプリント群は30人全員が装置を続け12か月でも73%が改善を報告。咬合面を覆わない対照装置の群は12か月で10人に減った(2004年のRCT追跡)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|筋筋膜痛の顎関節症(TMD)に対するスタビライゼーションスプリントと対照装置の無作為化比較試験を、6か月・12か月まで追跡(Ekberg & Nilner 2004・Acta Odontol Scand)

筋筋膜痛タイプの顎関節症にスプリントを渡したあと、半年後・1年後にどうなっているかを追えているでしょうか。この論文は、60人をスタビライゼーションスプリント(T群)と咬合面を覆わない口蓋床の対照装置(C群)に30人ずつ無作為に振り分けた試験の、6か月・12か月の追跡です。著者らの仮説は「10週の良い結果は長期では続かない」でしたが、結果はその逆でした。T群は12か月後も30人全員が同じ装置を続け、全般的な自覚症状の改善は6か月83%・12か月73%。毎日または常に痛い人は23人→3人になりました。一方、C群は10週後に17人が別の装置を希望し、12か月では10人しか残っていません(生存分析 log rank P<0.0001)。ただし10週以降は無作為化が崩れた比較で、C群の数字には読み方の注意が要ります。

論文
Treatment outcome of appliance therapy in temporomandibular disorder patients with myofascial pain after 6 and 12 months
著者
EwaCarin Ekberg, Maria Nilner(Malmö University 歯学部 顎口腔機能学講座、スウェーデン)
掲載
Acta Odontol Scand 2004;62:343-349. doi:10.1080/00016350410010063
種類
無作為化比較試験の長期追跡(前報=10週の結果の続き)。筋筋膜痛のTMD患者60人(女性52人・男性8人、平均29歳)を、封筒法でスタビライゼーションスプリント群30人と対照装置群30人に割り付け。評価者は盲検。10週後に対照装置群の17人が別の装置を希望して移ったため、6か月・12か月は3群(T・C・M)で評価。主な解析は intent-to-treat(χ²検定)と、装置を続けられたかの生存分析(log rank)
PMID
15848979

①スプリントを渡したあと、1年後も効いていますか

顎の筋肉が痛い、朝起きると顎がだるい。筋筋膜痛タイプの顎関節症(TMD)の患者さんに、スタビライゼーションスプリントを作る。短期的には楽になったと言ってもらえることが多い処置です。

でも、半年後、1年後にどうなっているかは、案外追えていないのではないでしょうか。「スプリントは短期の効果しかない」「長期の効果は示されていない」——当時の総説にはそう書かれたものもありました。

2004年、スウェーデン・マルメ大学の Ekberg と Nilner は、この問いに対して自分たちの無作為化比較試験(RCT)の患者を6か月・12か月まで追いかけました。結果は、著者ら自身の仮説を裏切るものでした。

この記事の一言:筋筋膜痛のTMDで、スタビライゼーションスプリント群の30人は12か月後も全員が同じ装置を使い続け、73%が全般的な症状の改善を報告した。一方、咬合面を覆わない対照装置の群は、別の装置を希望する人が相次ぎ、30人→12か月で10人まで減った。

②「スプリントは効かない」という結論もあった

スプリント療法の評価は、当時割れていました。総説によっては、RCTを集めても結論がそろわず、長期の効果が示せないことを理由に、筋骨格性の顔面痛にスプリントを勧めないものもありました。

よく知られた Dao ら(1994)のRCTでは、10週後に治療群と対照群の差が出ませんでした。一方、著者ら自身の過去のRCTでは差が出ています。著者らは、両者の大きな違いとして装着の仕方を挙げています。Dao らは昼も夜も装着、Ekberg らは夜だけでした。

そして著者らのチームは、筋性のTMD患者でのRCT(10週間)で、治療群の97%、対照群の53%が改善を報告したという結果を先に出していました(今回の論文の前報)。本論文は、その患者たちのその後を追った報告です。

著者らが立てた仮説は、控えめなものでした。「10週の良い結果は、長期では続かないだろう」。

③今回の一手:60人を2つの装置に振り分けて、1年追う

対象は、筋筋膜痛のTMD患者60人(女性52人・男性8人、平均年齢29歳)。封をした不透明な封筒で、2つの装置に30人ずつ無作為に振り分けました。

・T群(治療群):スタビライゼーションスプリント
・C群(対照群):上顎の口蓋を覆い、クラスプで留める装置。咬み合う歯の間には入らない(咬合面を覆わない)
・装着:最初の10週間は毎晩。その後の追跡期間は「必要なときに」使うよう指示
・評価:10週・6か月・12か月に質問票と診察。基準時と経過の評価をした専門医は、どちらの装置か知らされていない。装置の受け渡しと調整は別の専門医が担当

ここで一つ、この試験ならではの事情があります。10週後、C群の17人が「別の装置にしてほしい」と申し出ました。結果が思わしくない、装置が不快、という理由です。倫理的に断れないため、この人たちにはスタビライゼーションスプリントが渡され、第3の群(M群=混合群)になりました。

6か月の時点で、T群30人・C群12人・M群17人(M群の1人は6か月前に参加を辞退)。6か月の評価のあとにC群からさらに2人が移り、12か月ではT群30人・C群10人・M群19人になりました。

④結果1:スプリント群は誰も装置を替えなかった

まず、いちばん分かりやすい数字から。「同じ装置を使い続けた人数」です。

0 10人 20人 30人 同じ装置を続けた人数(人) 30人 30人 30人 30人 12人 10人 スタビライゼーションスプリント群 対照装置群 開始時 6か月 12か月 棒は左から開始時・6か月・12か月。対照装置群から抜けた人は別の装置を希望し、スタビライゼーションスプリントへ移った(生存分析 log rank P<0.0001)
図1 同じ装置を使い続けた人数。スタビライゼーションスプリント群は12か月後も30人全員。対照装置群は12か月で10人(原著 Fig.1 と本文の人数から作図)

T群からは、別の装置を希望した人は一人もいませんでした。T群の患者は全員、必要に応じた再調整に満足し、別の装置を求めなかったと書かれています。装置を使い続けられたかの生存分析では、両群の差は log rank P<0.0001。12か月時点の生存分析で、非遵守(装置を続けられないこと)の相対的な率は2.0(患者数に対して。P<0.0001、χ²=29.48)と報告されています。

対照装置群から抜けた人も最初の群のまま数える intent-to-treat 解析(原著 Fig.2 では、抜けた人は「改善なし(変わらない・悪化・大きく悪化)」の側に数えられています)でも、全般的な自覚症状の改善についてT群とC群の差は、6か月で P<0.0001、12か月で P=0.003と有意でした。

⑤結果2:痛みの頻度と強さは、1年後も下がったまま

T群30人の中で、痛みの中身がどう変わったかを見てみます。

0 10人 20人 30人 スプリント群30人のうち該当した人数(人) 23人 6人 3人 29人 14人 15人 14人 3人 1人 毎日・常に痛い 中等度以上の痛み 重度以上の痛み 開始時 6か月 12か月 棒は左から開始時・6か月・12か月。筋筋膜痛の頻度と強さ(質問票)。開始時からの減少はいずれも有意(P<0.0001〜P=0.03)
図2 スタビライゼーションスプリント群(30人)で、筋筋膜痛の頻度・強さの各区分に該当した人数(原著本文の数値から作図)
・毎日または常に痛い人:23人 → 6か月 6人 → 12か月 3人(いずれも P<0.0001)
・中等度以上の痛み:29人 → 6か月 14人 → 12か月 15人(いずれも P<0.0001)
・重度・きわめて重度の痛み:14人 → 6か月 3人(P=0.03)→ 12か月 1人(P=0.01)
・安静時の痛み:6か月で 24人 → 5人(P<0.0001)。12か月では、安静時痛のあった24人のうち19人で有意に減少
・顎を動かしたときの痛み:6か月で 29人 → 16人、12か月では29人中13人で減少(いずれも P<0.0001)
・咀嚼筋の圧痛部位の数(平均):7 → 6か月・12か月とも 4(P<0.001)
・痛みが完全に消えた人:6か月で6人、12か月で7人(T群の23%)

全般的な自覚症状が「良くなった」と答えた割合は、T群で6か月 83%、12か月 73%。M群(あとからスプリントに替えた群)でも6か月 82%、12か月 68%でした。

最も強かった痛みのVAS(視覚的評価スケール)は、3群とも開始時から有意に下がっています。VASが30%以上下がった人の割合は、T群で6か月・12か月とも60%でした。

⑥対照装置群も良くなっている?——数字の読み方に注意

ここで引っかかる数字があります。C群は、6か月で残った12人中83%、12か月では残った10人全員が改善を報告しました。VASが30%以上下がった人の割合も、6か月・12か月の両方でC群のほうが高くなっています。

VASが30%以上下がった人の割合
・6か月:T群 60%/C群 83%/M群 47%
・12か月:T群 60%/C群 68%/M群 63%
最も強い痛みのVASの平均も、原著の図(Fig.3)から読み取ると、12か月ではC群のほうがT群より低く描かれています。

これは「対照装置でも十分効く」という意味ではありません。著者ら自身が書いているとおり、C群は、うまくいった人だけが残った群です。うまくいかなかった人は途中で別の装置を希望して抜けているので、残った10人の成績が良く見えるのは当然です。著者らは、この群の良い結果は装置そのものの治療効果というより、プラセボ効果に近いと述べています。

だからこの論文で比べるべきは、残った人の割合ではなく、最初に振り分けた30人ずつを丸ごと比べた intent-to-treat の結果と、装置を続けられた人数です。

⑦どのくらい使っていたのか・副作用は

追跡期間中は「必要なときに」使う指示でした。実際の使い方は、次のとおりです。

・少なくとも週に数回使う:全患者の67%(6か月)→ 47%(12か月)
・まったく使っていない:全患者の15%(6か月)→ 10%(12か月)
・装置による不快感:試験期間中、T群の20%、C群の10%、M群の11%が報告(吐き気、装置の締め付け感、歯の圧痛、口の乾き、痛みの増加、開口量の減少)
・ほかの治療:6か月でT群の1人だけ(鍼治療。12か月では理学療法も)。他の群はゼロ

つまり、1年後に毎晩きちんと使っていた人ばかりではありません。12か月で週に数回以上使っていたのは全患者の47%でした。ただし原著は、使う頻度ごとに効果を比べる解析はしていません。「毎晩でなくてもよい」かどうかは、この論文からは可能性の段階です。

⑧効果を保つための条件

この論文は、スプリントが効く仕組みを調べた研究ではありません。本文中で触れられているのは、効果を最大にするための条件と、効果がどれだけ続いたかです。

著者らは、咬合面は定期的に調整すべきだとしています。痛みや筋活動の変化、軟組織の変化で上下顎の関係が変わるので、それに合わせる必要があるからです(ただし、全員に調整が必要だったわけではない)。

また著者らは、10週の治療で得られた効果(痛みの頻度・痛みの強さ・咀嚼筋の圧痛部位の数)が、T群では12か月までほぼそのまま保たれたとまとめています。

⑨明日の臨床へ

・筋筋膜痛のTMDに、スタビライゼーションスプリントは1年の単位で選択肢になる。著者らの結論も「使用を勧める」
・咬合面を覆わない装置では、患者さんのほうが続かない。10週の時点で30人中17人が別の装置を希望した
・10週で得た効果は、1年保たれうる。筋筋膜痛のT群では、痛みの頻度・強さ・筋の圧痛の改善が12か月まで続いた
・ずっと毎晩でなくてもよい可能性。追跡期間は「必要なときに」使う指示で、12か月で週に数回以上使っていたのは全患者の47%(使う頻度と効果の関係は解析されていない)
・咬合面は定期的に調整する。ただし全員に必要なわけではない
・スプリント群の2割は不快感を訴えた。吐き気・締め付け感・歯の圧痛・口の乾きなどを事前に説明しておく

⑩ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線RCTとして始まった試験ですが、10週以降の比較は、無作為化が崩れた状態での比較です。対照装置群は、うまくいかなかった人が抜けて、うまくいった人だけが残りました。著者らもこの群の結果をプラセボ効果に近いものとして扱っています。
また、盲検化が明記されているのは評価者だけで、患者さんは自分の装置が歯の間に入るかどうかを見て分かります。自然寛解や症状の波、プラセボ効果が良い結果に寄与しうることも、著者らが明記しています。VASは継続して記録したものではなく、慢性の痛みを振り返って答える形のため、信頼性に限界があります。
対象は1施設の60人で、女性が52人、平均29歳。筋筋膜痛のTMDに限った結果で、関節の痛みが主体のTMDにそのまま当てはまるとは限りません。
それでも、「スプリントの効果は長く続かない」という仮説を、自分たちで立てて自分たちで棄却した1年追跡です。「30人中30人が装置を替えなかった」という数字は、臨床の手応えとして素直に受け取ってよいと思います。

今日のひとこと

筋筋膜痛のTMDで、スタビライゼーションスプリント群は12か月後も30人全員が同じ装置を続け、73%が全般的な症状の改善を報告しました。毎日または常に痛い人は23人から3人へ、重度以上の痛みは14人から1人へ。咬合面を覆わない対照装置の群は、10週後に30人中17人が別の装置を希望し、12か月で残ったのは10人でした。追跡期間は「必要なときに」使う指示で、12か月で週に数回以上使っていたのは全患者の47%。使う頻度と効果の関係は解析されていないものの、毎晩でなくてもよい可能性は、装着がつらい患者さんへの説明の手がかりになります。ただし10週以降は無作為化が崩れた比較で、対照群に残った人の良い成績は、うまくいった人だけが残った結果として読む必要があります。

Ekberg EC, Nilner M. Treatment outcome of appliance therapy in temporomandibular disorder patients with myofascial pain after 6 and 12 months. Acta Odontol Scand. 2004;62:343-349. doi:10.1080/00016350410010063. PMID: 15848979
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。