エンド|根管治療後の歯の破折を減らすには、細いテーパーのファイルで象牙質を残すべきか、それとも入口(アクセス窩洞)を小さくすべきか。抜去した下顎第一大臼歯4本をマイクロCTで撮り、窩洞2種類×ファイル2種類の組み合わせで「壊れるまでの荷重」を計算した有限要素解析(Vorster 2023・Journal of Endodontics)
根管治療後の歯の破折を防ぐには、歯頸部の象牙質を残すことが大事だと言われます。では、それを担うのはアクセス窩洞の大きさなのか、ファイルの細さ(テーパー)なのか。著者らは抜去した下顎第一大臼歯4本に、従来の窩洞(TAC)と小さい窩洞(CAC)、WaveOne Gold と TruNatomy を1本ずつ組み合わせ、形成前後をマイクロCTで撮影してコンピュータ上で「壊れるまでの荷重」を計算しました(有限要素解析)。形成前の同じ歯と比べた破壊荷重の低下は、従来の窩洞で26.32%・29.12%、小さい窩洞で2.22%・9.52%。同じ窩洞どうしでは、ファイルの違いによる差は小さいと著者らは判断しています。ただし各条件は歯1本ずつのコンピュータ解析で、くり返しの力(疲労)は見ていません。
①細いファイルに替えれば、歯は折れにくくなる?
根管治療が終わった歯が、数年後に割れて抜歯になる。エンドをしていると、いちばん悔しい結末のひとつです。
そこで最近よく聞くのが「歯頸部の象牙質を残せ」という話。残す手段は大きく2つあります。ひとつはアクセス窩洞(歯の入り口)を小さくすること。もうひとつはテーパーの小さい、細いファイルで形成すること。では、歯の折れにくさに効くのはどちらなのか。
結論を先に言います。下顎第一大臼歯のコンピュータ模型で計算すると、形成前と比べた破壊荷重の低下は従来の窩洞で26.32%・29.12%、小さい窩洞で2.22%・9.52%でした。一方、同じ窩洞どうしで比べたファイルの違い(WaveOne Gold と TruNatomy)は小さいと著者らは判断しています。
②なぜ「窩洞か、ファイルか」が問題になるのか
根管治療後の歯の長持ちには、歯質、とくに歯頸部の象牙質(ペリサービカル・デンティン)をどれだけ残せるかが大事だと考えられてきました。ところが、アクセス窩洞のデザインと破折の関係を調べた研究は、歯質を残すことが大事という結果と、そうでもないという結果に割れています。窩洞のデザインより、辺縁隆線や咬頭を失うかどうかのほうが効くという報告もあります。
ファイル側にも「歯質を残す」ことをうたう製品があります。
・WaveOne Gold:往復運動(レシプロ)の単一ファイル。最終ファイル Primary は 25号・テーパー7%で、TruNatomy より形成が太くなる
同じ著者らは以前の研究で、TruNatomy のほうが WaveOne Gold より歯頸部象牙質の体積の減りが少なかったと報告しています(ただし同じ窩洞の中で比べると、象牙質の減りに有意差はなかったとされています)。では、その差は本当に歯の折れにくさにつながるのか。窩洞の大きさと並べて確かめたのが今回の研究です。
③今回の一手:抜去歯4本から「壊れるまで」を計算した
・組み合わせ:従来の窩洞(TAC)/小さい窩洞(CAC)× WaveOne Gold Primary/TruNatomy Prime の4通りに、歯を1本ずつ割り当てた。形成はマイクロスコープ下で1人の術者
・模型:形成の前後をマイクロCTで撮影し、根管充填とコンポジットレジン修復、歯根膜(0.2mm)と歯槽骨(15mm角)を加えて8つのコンピュータ模型を作成
・力のかけ方:咬合面の接触点に垂直方向の力、頬側と舌側から横方向の力をかけ、少しずつ増やして歯が壊れる荷重を計算(非線形の有限要素解析)
・比べ方:歯の形が1本ずつ違うので、実数ではなく形成前の同じ歯と比べて何%下がったかで比較
従来の窩洞は、髄室の天蓋をすべて取って根管口までまっすぐ届く形。小さい窩洞は、中心窩から入って天蓋を一部だけ取り、根管口を見つける形です。
④結果:低下が大きかったのは従来の窩洞だった
従来の窩洞では、破壊荷重が26.32%(WaveOne Gold)・29.12%(TruNatomy)下がりました。小さい窩洞では2.22%(WaveOne Gold)・9.52%(TruNatomy)。著者らはこれを、小さい窩洞の歯は形成前とほぼ同じ荷重で壊れたと表現しています。なお各条件は別々の歯1本ずつなので、この差をすべて窩洞のせいと言い切ることはできません。
一方、同じ窩洞どうしでファイルを替えても、低下の差は小さいと著者らは判断しています。数字の上では、どちらの窩洞でもTruNatomy のほうが低下がやや大きいくらいで、「細いファイルのほうが折れにくい」という形にはなっていません。
実数を見ると、形成前の値そのものが16.41〜30.47kgと歯ごとに大きく違います。著者らが実数ではなく低下率で比べたのはこのためです。
⑤なぜ窩洞の大きさが効くのか
計算では、応力はどの模型でも歯頸部に集中し、ひずみは大きい遠心根に集まっていました。壊れ始めるのは、力を直接受けるエナメル質の表面でした。
・レジンは壊れなかった:コンポジットレジンはエナメル質より10倍以上しなやかで、応力が低く、4つの処置後の模型すべてで損傷しなかった
・骨も壊れなかった:歯槽骨は土台として十分だった
・根管の太さは主役ではない:力は歯の表面にかかるので、根管や根管充填材が壊れ方を決めていたわけではない
著者らはここから、この模型では入口でどれだけエナメル質と象牙質を削ったかが、壊れるまでの荷重に大きく関わりうると結論しています。著者らは、別の有限要素解析でも「根管のテーパーより、アクセスと歯質の削除のほうが破折抵抗に効く」とされたことを挙げ、今回も同じ方向の結果だとしています。
⑥明日の臨床へ
・入口で削る歯質を意識する。髄室の天蓋や歯頸部の歯質を、見やすさのためだけに大きく削っていないか見直すきっかけになる。
・ただし小さい窩洞にも代償がある。著者らは、器具破折のリスク、清掃・形成・根管充填への影響、形成時間が延びること(同じ著者らの以前の研究)を挙げ、窩洞を選ぶときはほかの要素も考えるべきと書いている。
・これはコンピュータ上の計算で、「小さい窩洞にすると患者さんの歯が割れにくくなる」ことを臨床で示した研究ではない。
「どのファイルを使うか」と同じくらい、あるいはそれ以上に「入口をどう開けるか」に目を向ける——そんな物差しとして使うのがちょうどよさそうです。
⑦ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。本文では「有意に低下」「有意差なし」と書かれていますが、方法には統計の検定が書かれておらず、各条件1本の数値の比較として読むのが妥当です。また、Table 2の実数から計算すると CAC+TruNatomy の低下は約9.6%で、表の9.52%とわずかにずれます。ファイルはメーカー(Dentsply Sirona)から提供され、著者らは利益相反はないとしています。それでも、窩洞の大きさとファイルの種類を同じ土俵で並べ、「効くのは入口の削り方」という方向を数字で示した点は、アクセスの考え方を見直す材料になります。
今日のひとこと
下顎第一大臼歯のコンピュータ模型では、形成前と比べた破壊荷重の低下が従来の窩洞で26.32%・29.12%、小さい窩洞で2.22%・9.52%でした。同じ窩洞どうしでは、WaveOne GoldとTruNatomyの違いは小さいと著者らは判断しています。著者らの結論は、アクセス窩洞の大きさと、そこで削るエナメル質・象牙質の量が、破折抵抗に大きく関わりうるということ。ただし各条件は歯1本ずつのコンピュータ解析で、くり返しの力(疲労)や形成時の微小なひびは入っていません。持ち帰るのは「細いファイルに替えるより、入口で削る歯質を意識する」という視点です。


