エンド|手用ファイルを、どの号数・どの動かし方・どの順番で使うか。#8から入り、バランスドフォースとHファイル、GGのクラウンダウンを組み合わせた手用の形成法(BHT)を、ステップバック法・パッシブステップバック法と抜去大臼歯で比べた研究(Bolourchi 2018・Iranian Endodontic Journal)
ロータリーのNiTiファイルが広まった今も、歯学部で最初に習うのは手用ファイルの根管形成です。この研究は、考案者のBolourchi先生が、#8 Kファイルから入る・バランスドフォースとHファイルを組み合わせる・ゲイツグリデン(GG)でクラウンダウンする手用のハイブリッド形成法(BHT)を紹介し、抜去大臼歯30本(3群×10歯)でステップバック法・パッシブステップバック法と比べました。術者は訓練を受けた歯学部生、評価は歯内療法医3人によるX線写真の0〜100点の採点です。形成の出来はBHT 86.3点・ステップバック75.6点、作業長の保持は89.5点・77.7点で、BHTとステップバックの差は有意でした。一方、パッシブステップバック(82.2点・84.8点)とBHTの差は有意ではありません。偶発症の報告はステップバック群だけで、形成時間(32.4〜39.6分)に有意差はありませんでした。
①手用ファイル、どの順番で使っていますか?
ロータリーのNiTiファイルが当たり前になった今でも、歯学部の実習で最初に習うのは手用ファイルでの根管形成です。狭い根管の穿通や、NiTiを入れる前の道づくり(グライドパス)では、いまも手用ファイルに頼る場面があります。
では、手用ファイルはどの号数を、どんな動かし方で、どの順番に使うのがよいのか。この研究は、イランの歯内療法医Bolourchi先生が考案した手用のハイブリッド形成法(Bolourchi Hybrid Technique=BHT)を紹介し、昔ながらのステップバック法、パッシブステップバック法と、抜去大臼歯で比べたものです。
結論を先に言います。歯内療法医3人がX線写真で0〜100点をつけたところ、形成の出来はBHT 86.3点、ステップバック75.6点、作業長の保持はBHT 89.5点、ステップバック77.7点で、どちらもBHTとステップバックの差は有意でした。ただしパッシブステップバック(82.2点・84.8点)とBHTの差は有意ではありません。レッジや穿孔などの偶発症が報告されたのはステップバック群だけでした。
②なぜ手技の「順番」が問題になるのか
著者らは緒言で、これまでの手用の形成法を次のように整理しています。
・クラウンダウン系(歯冠側から根尖側へ):成績はよくなったが習得が難しい。最初に太いゲイツグリデン(GG)ドリルを使うためレッジが増えうる。偶発症が起きると直しにくく、根尖側へ届くまでに象牙質を多く削って根が弱くなる
どの手技にも長所と短所がある。それならいいところを組み合わせた「ハイブリッド」にすればよい、というのがBHTの発想です。著者らは、昔の手用の手技は今の器具に合っておらず、更新が必要だとも書いています。
③今回の一手:BHTの流れと、比べ方
BHTの手順を、原著の記述どおりにまとめます(号数はISOのKファイル・Hファイル、GGはゲイツグリデンドリル)。
・2. グライドパス:作業長を電気的根管長測定器で確かめ、ウォッチワインディングと上下運動で#10まで広げる
・3. 根管口を広げる:#3 GGで歯冠側を広げ、象牙質の張り出しを取る。作業長を測り直し、#15 Kで作業長まで
・4. 根尖部を#25まで:#20より太い号数はバランスドフォース(1/4回転時計回り→3/4回転反時計回り→1/4回転時計回りで引き抜く)で進め、同じ号数のHファイルで湾曲の内側(危険域)を避けるアンチカーバチャーを意識しながら上下運動。#25が楽に作業長まで届くまで繰り返す
・5. GGでクラウンダウン:根管を5.25%次亜塩素酸ナトリウムで満たし、#4→#3→#2のGGを順に、前より約2mm深く、湾曲の始まりまで。作業長を再確認
・6. 仕上げ:#30 Kのバランスドフォース+#30 Hで、根尖部を#30か#35まで。マスターアピカルファイルは根の太さと湾曲で#25〜#45から選ぶ。その先の3サイズを根尖から約0.5〜1mm手前まで入れて、漏斗状に整える
比べ方はこうです。
・群分け:無作為に3群×10歯(各群 上顎5・下顎5)。BHT/ステップバック(Kファイル、1mm刻みで3サイズ)/パッシブステップバック(Torabinejad法、Kファイル+GG)
・術者:訓練を受けた歯学部生。根管充填はすべて側方加圧
・評価:歯内療法医3人が盲検で、X線写真から症例の難しさ・形成の出来・作業長の保持を0〜100点で採点。偶発症(根尖の穿孔・レッジ・変位など)も報告。形成時間は分で記録。二元配置分散分析とTukeyの多重比較
④結果:ステップバックとは差、パッシブステップバックとは差なし
形成の出来は3群で差があり(P=0.008)、BHTが最も高く86.3点、ステップバックが最も低く75.6点でした(2群の差 P=0.006)。パッシブステップバックの82.2点は、BHTとも(P=0.399)ステップバックとも(P=0.116)有意な差がありません。
作業長の保持も同じ傾向で、BHT 89.5点、パッシブステップバック 84.8点、ステップバック 77.7点。有意だったのはBHTとステップバックの間だけで、パッシブステップバックとの差はどちらも有意ではありませんでした。上顎か下顎かで結果が変わる(交互作用)ことは、どの項目でもありませんでした。
形成時間はBHT 32.4分、ステップバック 34.6分、パッシブステップバック 39.6分で、有意な差はありません(P=0.166)。症例の難しさの点数にも有意な差はありませんでした(P=0.086)。
⑤なぜよかったのか——著者らの説明
ここからは考察で著者らが挙げている理由です。この研究で一つずつ確かめたものではありません。
・バランスドフォース:ファイルが根管の中心に保たれやすく、変位が少ない。清掃効率がよく、根尖外への削片の押し出しや作業長の短縮も減らせる、という先行研究を引用
・GGのクラウンダウン+アンチカーバチャー:湾曲の内側の薄い壁を削りすぎず、ストリップパーフォレーションの心配を下げる。#25まで先に広げておくので、GGが適切な深さ(まっすぐな根管で根尖から3〜4mm手前、湾曲根管では湾曲の始まり)まで入る
・次亜塩素酸ナトリウムを満たしてGGを使う:GGの発熱を吸収し、温まることで組織溶解も進む。削片は液に浮いて洗い流しやすい
著者らはこの手技を、ファイルの動かし方とGGの使い方を順に身につけられる教育向けの方法として位置づけています。
⑥明日の臨床へ
・進まないときは先端を曲げ直して道を探す。力で押し込まない。
・Hファイルやゲイツを使うときは、湾曲の内側(危険域)を削りすぎないことを意識する。
・ただしこれは抜去歯30本・歯学部生の術者・X線写真の採点で比べた実験室の研究で、BHTで治療成績がよくなることを示した研究ではない。パッシブステップバックとの差も有意ではなかった。
「新しい決まった手順」として丸ごと取り入れるより、手用ファイルの基本動作を点検する見本として読むくらいがちょうどよさそうです。
⑦ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。要旨には「偶発症はステップバック群で有意に多かった」とありますが、結果の項には偶発症の群間比較の検定結果(P値)が載っていません。また、手技の考案者ご本人が著者の研究で(利益相反は「なし」と記載)、結論の「ほかの手用の手技よりかなりよい結果」という表現は、パッシブステップバックとは有意差がなかったデータより強めです。形成時間についても、有意差はないが平均の差は臨床的に意味がありうる、と著者らは書いています。臨床例のX線写真(Figure 8)は考案者の経験として示されたもので、比較データではありません。それでも、#8から入る・ブラッシュ・アンド・フォロー・バランスドフォースとHファイルの組み合わせ・GGのクラウンダウンまでを、図つきで一つの流れにまとめた点は、手用ファイルの教え方・見直し方の材料になります。
今日のひとこと
抜去大臼歯30本の比較では、考案者のハイブリッド法BHTはステップバック法より形成の出来(86.3点対75.6点)と作業長の保持(89.5点対77.7点)の点数が有意に高く、偶発症の報告はステップバック群だけでした。ただしパッシブステップバック法とBHTの差は有意ではなく、形成時間にも有意差はありません。歯学部生が術者で、X線写真の点数で比べた実験室の研究です。持ち帰るのは「いきなり#15を押し込まず、#8・#10から少しずつ進める」「湾曲の内側を削りすぎない」という手用ファイルの基本動作です。


