エンド|クラウンダウンで湾曲根管の根尖側を形成するとき、ステンレス製手用ファイルの「先端の形」だけで仕上がりは変わるのか。先端形状だけが違う3種類(両円錐形・円錐形・ピラミッド形)を、アクリルレジンの湾曲根管で比べた実験研究(Ponce de Leon Del Bello 2003・Journal of Endodontics)
湾曲根管の根尖側を形成していると、ファイルが湾曲の外側を削って根管がまっすぐにずれる(移送・トランスポーテーション)、さらに進むと段差(レッジ)ができる。クラウンダウンでは形成を主にファイルの先端が担うため、先端の形が結果を左右するのでは、というのが著者らの問いです。湾曲30〜44°のアクリルレジン製の湾曲根管90本を湾曲度がそろうよう3群(各30本)に分け、先端の形だけが違う3種類のステンレス製手用ファイル——両円錐形(Flex-R)・円錐形(Mor-Flex)・ピラミッド形(Flex-O)——で、#60から#25まで同じ手順で形成しました。1群あたり7サイズ×30根管=210回の器具操作のうち、移送は両円錐形4回、円錐形69回、ピラミッド形76回。レッジはピラミッド形だけで64回、ほかの2種は0回でした。ただし抜去歯ではなくレジンブロックでの実験で、両円錐形ファイルの設計の特許ライセンスを著者の1人が持っていることも原著に明記されています。
①湾曲根管、ファイルの「先端」まで見て選んでいる?
湾曲した根管の根尖側を広げていくと、いつの間にか湾曲の外側ばかり削れて、根管がまっすぐな方向へずれていく。ひどくなると段差(レッジ)ができて、次のファイルが先へ進まなくなる。多くの人が一度は経験する場面です。
ファイルを選ぶとき、材質やテーパー、断面は気にしても、先端の形まで意識することは少ないかもしれません。この研究は、先端の形だけが違う3種類のステンレス製手用ファイルで、同じ湾曲根管を同じ手順で形成し、仕上がりを比べました。
結論を先に言います。1群あたり210回の器具操作のうち、移送(トランスポーテーション)は両円錐形4回・円錐形69回・ピラミッド形76回。レッジはピラミッド形だけで64回、ほかの2種は0回でした。ただしアクリルレジンの湾曲根管での実験です。
②なぜ「先端の形」が問題になるのか
根管形成の目標は、もとの根管の位置からずらさずに広げ、根尖に向かって細くなる形に仕上げること。湾曲が強いほど難しくなり、移送・閉塞・レッジ・穿孔が起きやすくなります。
著者らが採用したのはクラウンダウンです。太いファイルから先に使い、1本ごとに少しずつ深く進めていくやり方で、歯冠側の内容物を早めに取り除けるので根尖の外へ押し出しにくい、洗浄液も届きやすい、といった利点が挙げられています。一方で、クラウンダウンでは形成を主にファイルの先端が担う。だからこそ、先端の形が移送やレッジを左右するのでは、というのがこの研究の着眼点です。
・ピラミッド形(Flex-O):先端の面に稜(リッジ)があって前向きに削れる。刃と先端の境目の「角」(トランジションアングル)が鋭い
・円錐形(Mor-Flex):先端の面はなめらかで稜がない。ただし境目の「角」は鋭いまま
・両円錐形(Flex-R):先端の円錐の手前にもう1段の円錐(二次円錐)があり、境目の「角」が落とされている。なめらかな面が根管壁に沿ってファイルを湾曲へ導く
つまり、円錐形とピラミッド形の違いは「前に削る稜の有無」、円錐形と両円錐形の違いは「角の鋭さ」。この組み合わせで、何が移送を生み、何がレッジを生むのかを切り分けられる設計になっています。
③今回の一手:同じ湾曲根管、同じ手順で、先端だけを替える
・歯冠側:根尖から7mmより上は、全ブロック共通でゲーツグリッデン#6→#2でクラウンダウン形成
・群分け:湾曲度がそろうように3群(各30本)へ
・根尖側7mm:#60から始め、1サイズ細くするごとに1.5mmずつ深く進める。基本は時計回りの回転、進まないときはバランスドフォース。1本ごとに水1mLで洗浄し、#25で確認
・仕上げ:#45は終わりから1mm手前、#35は0.5mm手前、#25は根尖孔を通過するまで
・記録:移送・レッジ・バイパス・器具の損傷と破折。形成前後の写真から、根尖側7mmの面積と、各サイズが届いた深さの直径を測定
移送とレッジの区別は明確に定義されています。ファイル先端が湾曲の外側の壁だけを削り、その深さがファイル径の半分未満なら「移送」、先端の中心がはまり込むほど深ければ「レッジ」。レッジは移送が進んだ重症版で、レッジの場合は移送としても数えています。術者は2人で、各群15本ずつを担当しました。
④結果①:レッジはピラミッド形だけ、移送は「角」の鋭い2種で多発
1群あたり7サイズ×30根管=210回の器具操作のうち、
・円錐形(Mor-Flex):移送69回、レッジ0回、器具の破折0回
・ピラミッド形(Flex-O):移送76回、レッジ64回、器具の破折3回
レッジができたのも、器具が折れたのもピラミッド形だけ。一方で、先端に稜のない円錐形でも移送は69回と、ピラミッド形に近い回数でした。
ピラミッド形のレッジは、先へ進むほど増えています(#60で2本、#55で11本、#50で20本、#45で23本。各30本中)。円錐形の移送も同じく、#55で17本、#50で20本、#45で23本と増えました。細いファイルほどしなやかなのに、根尖側ほど移送やレッジが増えたことを、著者らは「予想外」と書いています。
⑤結果②:仕上がりの太さも、両円錐形がいちばんファイル径に近い
各サイズが届いた深さで根管の直径を測り、ファイル径との差を移送の大きさとみなしています。#45(0.45mm)が届いた深さでは、両円錐形0.48mm・円錐形0.58mm・ピラミッド形0.67mm。両円錐形と他の2種の差は、すべてのサイズで有意でした(P<0.001)。
根尖側7mmの形成後の面積も、両円錐形5.02mm²に対して円錐形5.98mm²・ピラミッド形6.13mm²で、両円錐形だけが有意に小さく(P<0.001)、円錐形とピラミッド形の間には有意差がありませんでした(P=0.19)。形成前の面積は3群で差がありません。
⑥術者の感覚と、意外だった点
術者2人とも、いちばん形成しにくかったのはピラミッド形でした。所定の1.5mmを進めるのに強い力が要り、削って広げるよりねじ込むように入っていく傾向があった、と報告されています。
一方で、器具の損傷は両円錐形が20回と、円錐形の4回より多くなりました(ピラミッド形は59回)。著者らは、最初に形成したのが両円錐形の群で、術者が時計回りの回転によるクラウンダウンにまだ慣れていなかったためだろう、と説明しています。「両円錐形なら器具が傷まない」という結果ではない点は押さえておきたいところです。
⑦明日の臨床へ
・「先端に刃がない」だけでは足りないかもしれない。稜のない円錐形でも、角が鋭ければ移送は69回起きていた。
・前向きに削る稜のある先端は、湾曲部でレッジを作りやすい。今回、レッジと破折が出たのはピラミッド形だけ。
・根尖側ほど移送・レッジが増えていたので、湾曲の先で細いファイルを使う場面ほど注意が要る。
・ただし使ったのはステンレスの手用ファイルとレジンブロック。いまのNiTiロータリーや実際の歯の象牙質に、数字をそのまま当てはめない。
手元のファイルの先端がどんな形をしているか、一度メーカーの資料で確かめてみる——このくらいの距離感で活かすのがちょうどよさそうです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
また、原著には著者の1人(Roane先生)が両円錐形(Flex-R)の設計の特許ライセンス契約を持っていると明記されています。
数字の細部では、ピラミッド形のバイパスは本文で67回、Fig.5では57回、形成後の面積は本文で6.13mm²、Fig.6では6.08mm²と、本文と図で食い違いがあります(本記事の数値は本文に合わせた)。
それでも、先端の形だけを替えて比べ、「角」と「稜」の役割を切り分けた点は、ファイルの先端を見る目を養う材料になります。
今日のひとこと
レジンの湾曲根管では、ファイルの先端の形だけで仕上がりが大きく変わりました。210回の器具操作あたりの移送は両円錐形4回・円錐形69回・ピラミッド形76回、レッジはピラミッド形だけで64回。#45が届いた深さの直径は、ファイル径0.45mmに対して両円錐形0.48mm・円錐形0.58mm・ピラミッド形0.67mmでした。著者らは、先端の刃の「角(トランジションアングル)」が移送の主な要因、前向きに削る稜がレッジの原因と考えています。ただしこれはレジンブロックでの実験で、ステンレスの手用ファイルを使ったもの。両円錐形ファイルの特許ライセンスを著者の1人が持っていることも含めて、「先端の形も器具選びの物差しになる」という視点を持ち帰るのがちょうどよさそうです。


