エンド|再根管治療でポストを外すときの超音波。見やすさを優先して水を止めると、歯根の外側はどこまで熱くなるのか。圧電式と磁歪式の2機種・4つの冷却条件を赤外線カメラで比べた実験室研究(Budd 2005・International Endodontic Journal)
再根管治療でポストを外すとき、超音波チップをポストに当てて振動でセメントを崩すのは定番の手です。ただ、水を出すと視野が悪くなるので、水を止めて当てる先生もいます。では、そのとき歯根の外側はどれくらい熱くなるのか。著者らは下顎第一大臼歯の遠心根1本にチタン製のねじ込み式ポストをセメント合着し、圧電式(Pi)と磁歪式(Ma)の2機種で、冷却なし(NN)・エアのみ(A)・注水15mL/分(W15)・注水30mL/分(W30)の4条件ごとに120秒ずつ当て、赤外線カメラでポストの境目と根面の温度上昇を測りました。結果、冷却を強めるほど温度上昇は小さく、有意差はNN>A、A>W30。著者らは、水の冷却がないと温度上昇が10℃(歯根膜・骨の傷害の目安)を超えうること、15mL/分でも超えうること、30mL/分では一度も超えなかったことをまとめ、超音波でポストを外すときは最低30mL/分の注水をと勧めています。
①水を止めて当てると、根の外側はどうなる?
再根管治療で既存のポストを外す。超音波チップをポストに当てて、振動でセメントを崩していく——多くの先生が使う手です。
ただ、注水すると水しぶきで視野が悪くなる。だから水を止めて当てる場面もあります。気になるのは熱です。超音波の熱が根の外側まで伝わり、歯根膜や骨を傷めないか。
結論を先に言います。この実験では冷却を強めるほど温度上昇は小さくなりました。著者らのまとめでは、注水30mL/分では一度も10℃を超えず、逆に水の冷却がないと10℃を超えうる、15mL/分でも超えうる、とされています。
②なぜ「10℃」が目安になるのか
著者らが基準に置いたのは、Eriksson & Albrektsson(1983)のウサギの骨を使った研究です。原著はこれを引いて、10℃を超える温度上昇は歯根膜と骨に不可逆な傷害を起こしうると述べています。
③今回の一手:同じ1本の歯を、赤外線カメラで80回測る
同じ1本の歯・1本のポストを使い回すことで、残っている象牙質の厚みの違いを消しています。
超音波は圧電式(Pi)=Mini-Endo IIと磁歪式(Ma)=Cavitronの2機種。冷却は4条件です。
・NN:エアなし・注水なし・吸引なし
・A:エアのみ+強力吸引
・W15:エア+注水15mL/分+強力吸引
・W30:エア+注水30mL/分+強力吸引(水温は18℃)
付属のチップをポストと歯の境目に120秒、ポストの周りを回すように当てます。赤外線カメラでポストと歯の境目(P)と遠心根面・根尖から3mm=ポスト先端の高さ(R)を測り、30・60・90・120秒の最高温度から室温を引いて「温度上昇」としました。各条件5回ずつ、計80測定です。
原著の赤外線画像の例(圧電式・エアのみ)では、室温22.6℃に対して、ポストと歯の境目が59.1℃、根面が31℃を示していました。
④結果①:冷却を強めるほど、温度上昇は小さくなった
原著は、温度上昇は冷却(エアと注水)に反比例したと書いています。冷却条件の有意差はNN>A、A>W30。AとW15、W15とW30の間には有意差がありませんでした。
・何らかの水の冷却がないと、温度上昇が10℃を超えうる
・15mL/分の注水でも、10℃を超えうる
・30mL/分の注水では、一度も10℃を超えなかった
15mL/分と30mL/分に統計の差はありません。それでも著者らは「目安を超えなかった」30mL/分を最低ラインとして推奨しています。
原著の図3・図4(冷却条件別の棒グラフ)を見ると、圧電式・冷却なし(NN)の棒がほかを大きく引き離しています。見やすさの代わりに、いちばん熱を持つ条件です。
⑤結果②:根面は遅れて上がり、90秒でほぼ頭打ち
ポスト側は最初の30秒で大部分が上がり(23.8℃)、根面は90秒ごろまで上がり続けました(6.7℃→12.0℃→14.8℃→15.6℃)。熱がポストを伝って根面に届くまで時間がかかるため、と著者らは説明しています。著者らは根面も90秒で定常状態に達したとしています(120秒の平均は15.6℃で、標準偏差は20.9℃と大きい)。なお、この表がどの機種・条件の平均かは原著に書かれていません。4時点を平均するとポスト27.9℃・根面12.3℃で、下の圧電式の値と一致するため、圧電式の値である可能性が高いと読めます。
場所で比べると、ポスト側が根面より有意に高い(P>R)。機種別の平均はこうです(原著Table 3)。
・磁歪式:ポスト 13.9℃/根面 7.9℃
全体では圧電式>磁歪式で有意差あり。ただし著者らは、注水したW15・W30では逆に磁歪式のほうが高かったとも書いています(ハンドピース内で温まった水が流れるため、と推測)。「機種で決まる」より「冷却で決まる」と読むのが素直です。
⑥明日の臨床へ
・エアと吸引だけでは足りない。有意差はA>W30で、エアのみでは注水30mL/分の冷却に届きませんでした。
・当てる時間は必要最小限に。原著は「15mL/分でも10℃を超えうる」ことから、目的を達する最短の時間でと述べています。
・2分ごとに止めて確認する流れは原著の想定そのもの(120秒で様子を見る設定)。根面はポストより遅れて温まり、90秒ごろまで上がり続けます。ポスト側が落ち着いて見えても、根面はまだ上がっている途中かもしれません。
自院のユニットの注水量が何mL/分か、一度計ってみる価値はあります。「水は出している」と「30mL/分出ている」は別の話です。
なお著者らは、根の細い前歯(犬歯など)では、大臼歯の遠心根より温度上昇が高くなると予想されるとも書いています。細い根ほど慎重に。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:超音波でポストを外すときは、最低30mL/分の注水を使う。この実験では冷却を強めるほど温度上昇は小さく、冷却条件の有意差はNN>A、A>W30でした。著者らのまとめでは、水の冷却がないと温度上昇が10℃を超えうる、15mL/分でも超えうる、そして30mL/分では一度も10℃を超えなかった。15mL/分と30mL/分に統計の差はありませんでしたが、著者らは「一度も超えなかった」ほうを推しています。あわせて、根面の温度はポスト側より遅れて上がり、90秒ごろまで上昇を続けた点も押さえどころです。ただし抜去歯1本・歯冠なし・血流なしの実験室研究で、歯根膜の傷害そのものを見た研究ではありません。


