1問1答 論文 エンド

シングルファイルは洗浄が減っていない?——抜去歯の実験で、洗浄が少ない(2.5%・8mL)ReciprocはBioRaCe(7本・洗浄多め)より形成後の細菌が多く残った(洗浄量をそろえると差なし)(2019年)

1問1答 論文 エンド

エンド|1本で形成を終えるシングルファイルは、形成が速いぶん次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)の量と根管内にとどまる時間が減りやすい。Reciprocで洗浄の濃度・量を変えた3群と、7本を順に使うBioRaCeを、細菌を感染させた抜去歯で比べた実験研究(Gazzaneo 2019・Journal of Endodontics)

シングルファイルは形成が速い。そのぶんNaOClの量も、根管にとどまる時間も減りやすい——この心配を確かめた研究です。著者らは上顎第一大臼歯の口蓋根をマイクロCTで形をそろえて4群に分け、根尖性歯周炎の歯から採った混合細菌を30日間培養して感染させました。そしてReciproc R50で「6%・少量(8mL)」「2.5%・少量(8mL)」「2.5%・多量(13mL)」、BioRaCe 7本で「2.5%・多量(13mL)」の4通りで形成し、前後の細菌数をqPCRで測っています。結果、4群とも細菌は99%以上減りました。群間で有意差が出たのはBioRaCe(2.5%・多量)とReciproc(2.5%・少量)の間だけで、術前の数で調整した比較では、Reciproc 2.5%・少量の残存細菌数はBioRaCeより多く、その比は約2.5でした(P=.036)。一方、Reciprocでも洗浄を13mLにそろえた群はBioRaCeと差がなく、Reciprocの3群どうし(濃度6%か2.5%か、量8mLか13mLか)にも有意差はありませんでした。つまり1つの条件だけを変えても差は出ず、差が出たのは「器具の本数・洗浄量・滞留時間」がすべて違う2群の間だけです。そしてどの群でも26〜50%の根管に細菌が残りました。抜去歯での実験で、治癒や痛みは測っていません。

論文
Root Canal Disinfection by Single- and Multiple-instrument Systems: Effects of Sodium Hypochlorite Volume, Concentration, and Retention Time
著者
Isbelia Gazzaneo, Gaya C.S. Vieira, Alejandro R. Pérez, Flávio R.F. Alves, Lucio S. Gonçalves, Ibrahimu Mdala, José F. Siqueira Jr, Isabela N. Rôças(ブラジル・ノルウェー)
掲載
Journal of Endodontics 2019;45(6):736-741. doi:10.1016/j.joen.2019.02.017
種類
抜去歯を使った実験研究(ex vivo)。抜去された上顎大臼歯200本から口蓋根98本を選び、マイクロCTで根管の形(根尖の径・容積・湾曲)が近いもの同士を4本1組にして、各組から1本ずつ無作為に4群へ割り付けた(各群24本。2本は感染の確認用)。根管をBioRaCe BR1で少し広げたのち、根尖性歯周炎の歯から採った混合細菌を嫌気条件・37℃で30日間培養して感染させた。根尖孔はふさいで閉じた系とした。REC-6LOW=Reciproc R50(往復運動)・6% NaOCl 計8mL、REC-2.5LOW=R50・2.5% 計8mL、REC-2.5HI=R50・2.5% 計13mL(この3群はNaOClの滞留時間 平均4.5分)、BR-2.5HI=BioRaCe BR0〜BR6の7本(回転)・2.5% 計13mL(滞留時間 平均9分)。どの群も最後に17% EDTA 5mLを使用。洗浄は30GのNaviTip針を作業長の3mm手前に置き、ポンプで流量を管理。形成前(S1)と後(S2)にペーパーポイントで採取し、16S rRNA遺伝子のqPCRで総細菌数を測定。群間比較は術前の数で調整した回帰モデル(ゼロ過剰負の二項回帰)、検出の有無はFisherの正確検定(有意水準5%)
PMID
30981431

①シングルファイル、洗浄まで「時短」になっていない?

Reciprocのようなシングルファイルなら、根管形成はあっという間に終わります。でも、ふと気になりませんか。形成が速く終わるぶん、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を流す量も、根管の中にとどまる時間も減っているのでは?

この研究は、その心配を正面から確かめました。Reciprocで洗浄の濃度(6%か2.5%か)と量(8mLか13mLか)を変えた3群と、7本を順に使うマルチファイルのBioRaCe(2.5%・13mL)を、細菌を感染させた抜去歯で比べています。

結論を先に言います。4群とも細菌は99%以上減りました。有意差が出たのはReciprocで洗浄が少ない群(2.5%・8mL)とBioRaCeの間だけ。そしてReciprocでも洗浄を13mLにそろえた群は、BioRaCeと差がありませんでした。ただし抜去歯での実験で、治癒や痛みは測っていません。

②なぜ「洗浄の量と時間」が気になるのか

根尖性歯周炎の治療の成否は、根管内の細菌をどこまで減らせるかに大きく左右されます。その主役が、器具による機械的な形成と、NaOClによる化学的な消毒の組み合わせです。そしてNaOClの効き目には、濃度だけでなく、量と根管内にとどまる時間が関わるとされてきました。

シングルファイルは形成時間が大きく短くなります。器具を何度も入れ替えないので、ファイルを抜いて洗う回数も少ない。つまり洗浄の量・交換・時間が減る「理論上のリスク」がある、と著者らは指摘します。

これまでの研究では、シングルファイルとマルチファイルの細菌の減り方は同程度という報告が多くありました。ただ著者らが原著Table 2にまとめた先行研究10本では、NaOClを使った研究はどれも濃度が1通りだけ(2本は蒸留水などNaOCl以外で洗浄)。滞留時間をそろえた研究は1本だけ。洗浄の量も、著者らによれば量を記載した研究は比べる器具どうしでそろえて使っていました(臨床研究の2本は量の記載なし)。
実際の臨床では、シングルファイルのほうが洗浄量が少なくなりがちなのに、その条件を比べた研究は無かった——ここが今回の着眼点です。

③今回の一手:形をそろえた口蓋根を感染させ、4通りの形成法で比べる

対象=抜去された上顎第一大臼歯の口蓋根。マイクロCTで根管の形(根尖の径・容積・湾曲)が近いものを4本1組にし、1本ずつ4群へ無作為に割り付けました(各群24本)。
・感染:根尖性歯周炎の歯から採った混合細菌を、嫌気条件で30日間培養して根管に定着させた
・REC-6LOW:Reciproc R50・6% NaOCl 計8mL(滞留時間 平均4.5分)
・REC-2.5LOW:Reciproc R50・2.5% 計8mL(平均4.5分)
・REC-2.5HI:Reciproc R50・2.5% 計13mL(平均4.5分)
・BR-2.5HI:BioRaCe 7本・2.5% 計13mL(平均9分)
・測り方:形成前(S1)と後(S2)にペーパーポイントで採取し、細菌のDNAをqPCRで数えた

Reciprocは3回つついたら抜いて洗う、BioRaCeは1本ごとに洗う、という手順です。どの群も仕上げに17% EDTA 5mLとNaOClで洗い、洗浄針は作業長の3mm手前、流量はポンプで管理しました。根尖孔はふさいで、閉じた根管の状態にしています。群間の比較は、術前の細菌数の違いを調整する回帰モデルで行いました(術前の細菌数が群によって有意に違っていたため)。

④結果①:差が出たのは「Reciproc・洗浄少なめ」とBioRaCeの間だけ

0 150 300 450 形成後に残った細菌数の平均(細胞相当数) 174 329 145 122 Reciproc 6% 少量 Reciproc 2.5% 少量 Reciproc 2.5% 多量 BioRaCe 2.5% 多量 原著Table 1(qPCR・各群22〜23本)。少量=NaOCl 8mL、多量=13mL。表の平均値は術前の数で調整していない値。有意差は、術前の数で調整した比較でのBioRaCe多量とReciproc 2.5%少量の間だけ(P=.036)。単位は原著の表に記載がなく、qPCRの「細菌の細胞相当数(bacterial cell equivalents)」から付けた表記
形成後(S2)に残った細菌数の平均(原著Table 1)。術前の数で調整していない値

まず大前提として、4群とも細菌は大きく減りました。形成前後の減少率は99.3%、99.4%、99.9%、99.5%で、どの群も形成の前後で有意に減っています(P<.001)。

群どうしを比べると、有意差があったのはBR-2.5HI(BioRaCe・13mL)とREC-2.5LOW(Reciproc・2.5%・8mL)の間だけでした(P=.036)。術前の数で調整した比較で、REC-2.5LOWの残存細菌数はBioRaCeより多く、その比は約2.5と報告されています。形成後の平均はREC-2.5LOWが約329、BioRaCeが約122(細胞相当数)でした。

ここが大事なところです。REC-2.5HI(Reciprocでも13mL)とBioRaCeの間には差がありませんでした。さらに、Reciprocの3群どうし——濃度を6%に上げた群も、量を13mLに増やした群も——REC-2.5LOWとの間に有意差はありませんでした。
つまり1つの条件だけを変えても差は出ず、差が出たのは「器具の本数・洗浄量・滞留時間」が3つとも違う2群の間だけです。

⑤結果②:どの方法でも、細菌が残る根管はあった

0 20% 40% 60% 形成後も細菌が検出された根管の割合(%) 43.5% 50% 26% 43.5% Reciproc 6% 少量 Reciproc 2.5% 少量 Reciproc 2.5% 多量 BioRaCe 2.5% 多量 原著の結果本文(10/23、11/22、6/23、10/23本)。4群の間に有意差なし(P>.05)。どの群でも細菌が残る根管があった
形成後も細菌が検出された根管の割合(原著の結果本文)。4群の間に有意差なし

形成後も細菌が検出された根管は、REC-6LOW 10/23本(43.5%)、REC-2.5LOW 11/22本(50%)、REC-2.5HI 6/23本(26%)、BR-2.5HI 10/23本(43.5%)。この「残ったか・残らなかったか」の割合には、4群の間で有意差がありませんでした(P>.05)。

著者らはこれを、形成と洗浄はほとんどの症例で細菌を大きく減らせるが、器具・濃度・時間・量にかかわらず、根管を確実に無菌にはできないという、これまでの研究と同じ結論だとしています。残った細菌は、器具が触れなかった壁や、イスムス、側枝、根尖部の分岐などに潜んでいる可能性があります。

⑥なぜBioRaCeが有利だったのか——3つの要素の「合わせ技」

著者らの解釈はこうです。BioRaCeは7本すべてを作業長まで入れるので、器具の入れ替えのたびに根尖部の洗浄液が入れ替わりやすい。そこに多めの洗浄量(13mL)と長い滞留時間(9分)が重なって、消毒がよく効いたのだろう、と。

この「合わせ技」という結論は、1つの条件だけを変えた比較ではどれも差が出なかったことが根拠です。量だけを変えた比較(REC-2.5HIとREC-2.5LOW)も、器具の本数と時間を変えた比較(BR-2.5HIとREC-2.5HI)も有意差なし。
また、試験管の中では濃いNaOClほど殺菌力が高いものの、根管の中では量と交換で濃度の差が埋まるという先行研究があり、今回も、6%・少量群は2.5%・少量群と有意差がなく、6%に上げた効果ははっきりしませんでした。なお6%・少量群はBioRaCeとも有意差がありませんでしたが、これは「同等だった」という意味ではありません。

著者らは、「濃度を上げればシングルファイルでも同じくらいになる」かどうかは、両方の器具を同じ高い濃度で比べないと分からず、今回は調べていないと明記しています。

⑦明日の臨床へ

・シングルファイルでも、洗浄の量はマルチファイルと同じくらい確保する。著者らも、シングルファイルで同等の結果を得るには「少なくとも同程度の洗浄量」を考えるべきだと述べている。
・形成が速く終わっても、洗浄まで一緒に短くしない。今回の少量群は計8mL、多量群は計13mL。
・濃度で量を補えるかは、この研究では決められない。6%の少量群は2.5%の少量群とも、BioRaCeとも有意差がなかったが、同等と示されたわけではない。著者らも、同じ高い濃度で両方の器具を比べないと確かめられないと書いている。
・どの方法でも26〜50%の根管に細菌が残った。形成と洗浄だけで無菌にはならない前提で、治療を組み立てる。
・数字は上顎大臼歯の口蓋根(形をそろえた抜去歯)・根尖孔を閉じた状態という条件のもの。ほかの歯種や扁平な根管、実際の患者さんにそのまま当てはめない。

「シングルファイル=洗浄も少なくてよい」ではなく、器具は時短しても、洗浄は時短しない。この研究から持ち帰るなら、このくらいの一言がちょうどよさそうです。

⑧ここだけ、冷静に補助線

これは感染させた抜去歯での実験研究で、患者さんの治癒や術後の痛みを比べたものではありません。著者ら自身も、ペーパーポイントでの採取は主根管の内腔と壁の近くの細菌しか反映しないことを限界に挙げています。一方で、マイクロCTで根管の形をそろえて群分けし、単一菌ではなく根尖性歯周炎の歯から採った混合細菌を使い、培養より感度の高いqPCRで数えた点は、この研究の工夫です。
ここからは筆者の読みです。有意差が出たのは6通りの組み合わせのうち1つだけで、P値も.036と境界に近い値です。各群の本数は22〜23本で、事前の計算は「5%の差を検出力90%で見つける」ためのものでした。BioRaCeが有利だった理由は「器具の本数・量・時間」のどれか1つに絞れておらず、3つの要素のどれが効いたのかはこの研究からは分かりません。器具の比較も、Reciproc R50(50/.05)とBioRaCe BR6(50/.04)で仕上がりのテーパーが少し違います。それでも、シングルファイルで洗浄が減る場面を実際に再現して比べた点は、日々の洗浄量を見直すきっかけになるデータです。著者らは利益相反は無いと記載しています。

今日のひとこと

感染させた抜去歯の実験で、4つの形成法はどれも細菌を99%以上減らしました。差が出たのはReciprocで洗浄が少ない群(2.5%・8mL)とBioRaCe 7本(2.5%・13mL)の間だけで、術前の数で調整すると前者の残存細菌数が多く、その比は約2.5でした。ただしReciprocでも洗浄を13mLにそろえればBioRaCeと差はなく、濃度を6%に上げても、量を増やしても、Reciprocの群どうしで有意な差はありませんでした。持ち帰るのは、著者らの提案どおり「シングルファイルでも、洗浄の量はマルチファイルと同じくらい確保する」こと。そしてどの方法でも26〜50%の根管に細菌が残ったことです。治癒や術後の痛みを比べた研究ではありません。

Gazzaneo I, Vieira GCS, Pérez AR, Alves FRF, Gonçalves LS, Mdala I, Siqueira JF Jr, Rôças IN. Root canal disinfection by single- and multiple-instrument systems: effects of sodium hypochlorite volume, concentration, and retention time. J Endod. 2019;45(6):736-741. doi:10.1016/j.joen.2019.02.017. PMID: 30981431
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。