エンド|ロンドンのEastman Dental Hospitalで1970〜1982年に行われた根管治療を、5年以上のリコールがある歯だけに絞って数え直した後ろ向き調査。材料・術式・術前条件・充填の位置を、それぞれ成功率と突き合わせた(Smith 1993・International Endodontic Journal)
根管充填の材料を何にするか——ガッタパーチャか、シルバーポイントか、アマルガムか。当時の歯内療法ではここが大きな論点でした。ところが5年以上追跡できた821歯を数え直すと、材料の違いは成功率に差を生んでいませんでした(アマルガム85.19%・ガッタパーチャ84.91%・シルバーコーン83.18%、P<0.780)。代わりにはっきり効いていたのが根管充填の先端が根尖に対してどこで止まっているかです。適正(根尖から2mm以内)613歯で86.95%、長い92歯で75.00%、短い116歯で77.59%(P<0.001)——長すぎても短すぎても、ほぼ同じように不利でした。さらにこの影響は術前の条件で濃淡がつきます。失活歯では位置が長い/短いと有意に失敗が多く(P<0.006)、失活かつ術前に根尖部透過像がある歯でも有意(P<0.036)。一方生活歯では位置の差は有意になりませんでした。ほかに有意差が出たのは、根管形成法(円錐形成534歯82.21% 対 フレア形成287歯88.15%・P<0.026)、術前の歯髄の生死(生活216歯88.89% 対 失活605歯82.64%・P<0.020)、術前の根尖部X線像(正常340歯88.24% 対 透過像あり379歯80.74%・差7.5ポイント・P<0.022)。全体の成功率は84.29%(692/821)で、著者ら自身が他の調査より低いと認め、その理由を「5年という長い観察期間」と「難症例を引き受ける傾向の増加」に求めています。なお失敗の起き方はバスタブ曲線を描かず、どの術式もほぼ1年目から年1〜2%(全体でおよそ年1.7%)のペースで失敗し続けました。
①「何で詰めたか」より「どこまで詰めたか」
根管充填の材料を何にするか——ガッタパーチャか、シルバーポイントか、アマルガムか。1970〜80年代の歯内療法では、ここが大きな論点でした。ところが5年以上追いかけた821歯を数え直すと、材料の違いは成功率に差を生んでいませんでした(P<0.780)。
結論を先に言います。この研究で成否と最も強く結びついていたのは、根管充填の先端が根尖に対してどこで止まっているかでした。適正(根尖から2mm以内)なら86.95%、長い(オーバー)なら75.00%、短い(アンダー)なら77.59%(P<0.001)。長すぎても短すぎても、失敗する確率はほぼ同じように上がります。
②そもそも「成功率」は比べられない
著者らはまず、この種の調査につきまとう厄介さを正面から書いています。文献上の成功率は70%から97%まで開いており、しかも「何をもって成功とするか」が研究ごとに違う。だから絶対値を比べるのではなく、研究の中の傾向を比べるほうが筋がよい——これが本論文の立ち位置です。
この論文が判定に持ち込んだ手当ては具体的です。1つの根管治療につき最低3枚のX線写真を撮り、多くは長い筒による平行法。読影は卓上ビューアで、黒い厚紙にデンタル大の窓を開けて余計な光を遮り、3倍のハンドレンズを使う。第1著者が迷った写真は上級著者と一緒に見て合意してから振り分けました。
③今回の一手:5年で線を引き、821歯を数え直す
ロンドンのEastman Dental Hospitalで1970〜1982年に行われた根管治療を後ろ向きに集めました。この研究の性格を決めているのはリコール期間を2年から5年へ延ばしたことです。
結果、成功692歯(84.29%)・失敗129歯(15.71%)。著者ら自身、この数字を「他の調査と比べて低い」と書いています。理由は2つ挙げられています。ひとつは5年という長い観察期間そのものが失敗の割合を押し上げること。もうひとつは、患者の意識が高くなるにつれ難症例を「英雄的に」引き受ける傾向が増えていることです。
参考までに、同じ821歯を2年時点で判定していたら失敗は30歯(3.65%)だったと著者らは計算しています。何年で切るかで成功率はこれだけ動く、という例として読めます。
④結果:位置が最も効いた
適正と比べると、長い場合は失敗が13.05%から25.00%へ、短い場合は22.41%へ上がります。しかもこの差は、条件によって濃くなったり薄くなったりします。
つまり術前の条件が悪いほど、充填の位置が効いてくるという関係が見えます。下顎右側の成績が他の3象限より低かった(象限IV 78.57%、下顎右側大臼歯に限れば72.55% 対 その他86.36%・P<0.017)のも、著者らはこの象限で短い充填が27.5%(他は13.2%)と多かったことを指摘しています。左利き・右利きに関係する術者の立ち位置の問題を思わせる所見です。
⑤術前の条件と、形成法
材料で差がつかなかった一方、根管の形成法では差が出ました。1977年を境にこの病院の標準術式は変わっており、それ以前はリーマーとファイルを交互に使って根尖部に円錐形の受け皿を作り、そこだけ封鎖するやり方(前歯では根管の残り3分の2は空のまま、歯冠側の封鎖だけで閉じることもあった)。1977年以降はフレア形成+ガッタパーチャの側方加圧で根管全体を詰める方向へ移りました。
術前の条件も同じ図に並べました。術前に生活だった216歯88.89% 対 失活605歯82.64%(P<0.020)、術前の根尖部X線像が正常だった340歯88.24% 対 透過像があった379歯80.74%(P<0.022)。原著本文は「正常な群は根尖部の変化がある群より7.5%高い」と書いており、この340歯は生活で正常216歯(88.89%)と失活で正常124歯(87.01%)の合計です(Table 8の残る1行は失活で歯根膜腔の肥厚102歯84.31%で、正常群との差は有意ではありません)。
ただし著者らはこの95.65%に自分でブレーキをかけています。この術式を使えたのはアクセスがよく、まっすぐで、太く広げられて、明確な根尖のストップがある根管に限られていた——つまり術式ではなく症例の性質が成績を押し上げた可能性がある、と。数字の読み方として誠実な書き方です。
⑥失敗はいつ起きるのか
もうひとつ面白いのが、失敗の起き方の形です。機械や人工物の故障は普通「バスタブ曲線」——初期不良が多く、いったん落ち着き、老朽化でまた増える——を描きます。ところがこの821歯では違いました。
著者らは「初期不良が見えないのは、5年リコールに到達しなかった歯や治療中に失敗した歯がそもそも記録に入っていないから」と説明しています。見えているのは根管治療の”使用期間中”の失敗率だ、という読みです。9〜10年で平らになるように見える部分については、この時期には症例数も来院率も減っているのでそのまま鵜呑みにしないほうがよいと自ら釘を刺しています。
⑦明日の臨床へ
この論文が示すのは、シルバーポイントの是非でも材料の優劣でもありません。術前に条件の悪い歯ほど、作業長と充填の止め位置で結果が変わるという構図です。
・短い(アンダー)と長い(オーバー)はほぼ同じくらい不利。「少し出たほうが安全」でも「少し手前で止めたほうが安全」でもない。
・根管を全長にわたって形成・充填するほうが、根尖部だけ封鎖するより成績がよかった。著者はその理由として、フレア形成が中央〜歯冠側をよく清掃できること、根尖側3分の1への洗浄・器具操作のアクセスがよくなること、テーパーのある形態のほうが充填しやすいことを挙げている。
・自分の苦手な象限を疑う価値はある。下顎右側の成績低下は、短い充填の多さと重なっていた。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:根管充填材の種類は5年成功率に差を生まなかったが、根管充填の先端の位置は成否を左右する最も重要な因子だった。適正(根尖から2mm以内)613歯で86.95%、長い92歯で75.00%、短い116歯で77.59%(P<0.001)。長すぎても短すぎても、ほぼ同じだけ不利になります。しかもこの影響は術前の条件で濃淡がつき、失活歯では位置の差が有意(P<0.006)、失活かつ根尖部透過像がある歯でも有意(P<0.036)、生活歯では有意になりませんでした。ほかに効いたのは根管の形成法で、フレア形成287歯88.15%が円錐形成534歯82.21%を上回りました(P<0.026)。なお充填の範囲(根尖部だけの封鎖 対 全長の充填)で分け直すと、全体では有意になりません。有意だったのは前歯に限った場合だけで、根尖部のみ350歯81.14% 対 全長144歯88.89%(P<0.035)です。フレア形成が有利だった理由として著者は「中央〜歯冠側がよく清掃できる」「根尖側3分の1への洗浄と器具操作のアクセスがよくなる」「テーパーのある形態のほうが充填しやすい」と説明しています。全体の成功率は84.29%(692/821)。そして失敗はバスタブ曲線を描かず、1年目から10年目まで年1〜2%のペースで起き続けました。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「材料選びの議論より、作業長と止め位置の精度のほうが成績に効く」という優先順位を、5年という長い物差しで示した点にあります。ただし対象の45.92%が追跡不能で除外された後ろ向き調査であり、術式の比較は同時期の割付ではなく時代の比較でもあります。


