1問1答 論文 保存修復

その4mmは、失敗ではない——歯周基本治療のゴールを現実に合わせる

ウェビナー解説

実践セミナー 歯周基本治療の実際(2026年8月25日開催)

歯周基本治療には、教科書に書かれた理想がある。ポケットは3mm以下に。BOPはゼロに。

開催
2026年8月25日(火)
形式
講義+実習(シャープニング・スケーラー操作)
テーマ
歯周基本治療/SRPの到達点/患者説明
対象
プライムデンタルネット会員

はじめに

歯周基本治療には、教科書に書かれた理想がある。ポケットは3mm以下に。BOPはゼロに。

ところが現場では、4mmも5mmも残る。取り切れたと思った根面に歯石が残っている。真面目にやっている人ほど、それを自分の腕のせいだと感じてしまう。

この回の講義は、その居心地の悪さに正面から数字をぶつけるものだった。どこまで取れているのか。どこまで治るのか。そして、どこで手を止めるべきか。

講義の途中で示された研究の一つは、5年以上メンテナンスを続けた患者の集計だった。理想的なゴールを達成できていた患者は、1.35%。ほぼ誰も届いていない。だがそこには続きがある。

それでも、ほとんどの歯は残っていた。

この記事では、その落差をどう理解し、日々の判断にどう落とすかを追っていく。

①歯周病は、薬では治らない

歯周病が薬で治るという情報は、一定の周期で流行する。うがい薬で治るという商品が話題になり、新聞にも載り、患者からの問い合わせが殺到する。学会が「科学的根拠が不十分」という見解を出したこともある。

患者には、これを見分ける材料がない。そして正直なところ、開業医にも判断が難しい場合がある。

前提として押さえておくべきことは単純だ。歯周病の原因はバイオフィルムであり、バイオフィルムは機械的にしか除去できない。

風呂のぬめりもバイオフィルムだ。洗剤をかけて流しただけでは落ちない。スポンジでこすらなければ取れない。薬剤は、スポンジに付ける洗剤のようなもの——あくまで補助である。

うがい薬も、超音波スケーラーの注水に加える薬液も、位置づけは同じだ。主役はハンドスケーラーと超音波スケーラーである。

②ルートプレーニングとデブライドメント

根面の処置には、2つの考え方がある。

ルートプレーニング デブライドメント
手段 主にハンドスケーラー 主に超音波スケーラー
セメント質 一層削る 原則として温存する
仕上がり ツルツルにする(滑沢化) ややザラつきが残る
歯石の除去 取り切れる 取り残しが起きうる

かつては前者が標準だったが、現在の主流は後者だ。そして重要なのは、ガイドラインでも研究でも、両者の治療成績に差が出ていないという点である。ハンドでも超音波でも構わない、というのが現在の到達点だ。

演者自身は両方を使うが、ハンドの割合は年々減り、臨床のほとんどは超音波で完結するという。

場面 選ぶ器具 理由
全体のSRP 超音波 効率、到達性
分岐部 超音波(細いチップ) ハンドのキュレットは物理的に入らないことが多い
根面の凹み・遠心隅角 超音波 ハンドでは角度が作れない
確実に取り切りたい部位 ハンド(ルートプレーニング) 探知しながら確実に除去できる
取り残しのチェック ハンド 超音波では感触が分かりにくい
「どちらかを選ぶ」のではなく、局面ごとに持ち替える。ハンドの手技を捨てる必要はない。

③超音波スケーラーは、角度とパワーで根面を削る

超音波スケーラーには2つの駆動方式がある。

マグネット式 ピエゾ式
チップの動き 楕円運動(全面が使える) 直線運動(側面が主とされてきた)
除去の速さ 中間 最も速い
根面の粗さ 中間 最も粗くなる
患者の不快感 比較的少ない 強くなりやすい

ただし「ピエゾは側面だけ」という説明には続きがある。パワーを上げると、ピエゾのチップも楕円運動になることが示されている。とくに細いチップではその傾向が強い。だから実際にはどの面でも歯石は取れるし、背面・内面を当てれば側面よりも強く削れる(音が高くなるのが目安だ)。

メーカーは「側面で」と指導するが、口腔内で側面だけを当て続けるのは現実的でない。当ててはいけないのではなく、当たれば強くなると理解しておくことが要点だった。

そのうえで、明確に避けるべき角度がある。

方式 危険な角度 起きること
マグネット式 根面に対して90° 側方圧が加わると段階的に削れる
ピエゾ式 根面に対して45° 油断すると入りやすい角度。ハイパワーで根面が削れていく

一方で、マグネット式には固有の注意もある。メーカー推奨のパワーでは、硬い歯石はほとんど取れないのだ。有効なのは、チップを押し付けるのではなく、プローブで歩かせるように叩き落とすように当てる使い方だという。この場合の90°は押圧を伴わないため、削り込みにはつながらない。

麻酔下で歯石がしっかり付いている状況なら、ほぼフルパワーで使う。一方、メンテナンス時に同じパワーで当てれば患者は痛いだけだ。何をする時間なのかで、適切なパワーは変わる。

④「取り切れた」は幻想——77.4%が残っていた

講義でいちばん重い数字がここだった。

抜歯予定の歯101本をSRPし、歯周病専門医がプローブで「歯石なし」と判定する。その後、実際に抜いて顕微鏡で観察したところ——77.4%に歯石が残っていた。

プローブで探知できることには、限界がある。腕の問題ではなく、感覚の物理的な限界だ。

除去率を部位別に見ると、その難しさはさらに具体的になる。

条件 単根歯 複根歯
専門医・フラップを開けた場合 ほぼ全て除去 比較的良好
専門医・非外科(盲目的) 約8割 6mm超で約5割
研修医・非外科(盲目的) 6mm超で約3割 ほとんど除去できない

複根歯の深いポケットは、専門医が盲目的に行っても半分しか取れない。 これが出発点の現実だ。

だからこそ、分岐部には細いチップの超音波を使う。キュレットが入らない場所を、入らないまま触っているつもりになるのがいちばん危ない。

⑤BOPは「曇り空」

BOPは歯周治療の重要な指標だが、万能ではない。

メンテナンスのたびにBOPが陽性でも、実際に進行するのは30%程度にとどまる。本当に病的な所見だけを拾えているなら、もっと高い割合で進行するはずだ。つまりこの検査は、偽陽性を含みやすい。

BOPは「曇り空」だ。雨が降るかもしれないが、必ず降るわけではない。

だから見るべきは、有無ではなく質である。

出血の性状 考えられる背景 対応
毎回、入れるたびにドバッと出る 歯石の残存、活動性の炎症 再SRP、レントゲンでの確認
わずかに滲む程度 圧が強い、出血しやすい歯肉 経過観察
さらっとした出血が毎回続き、根面にザラつきもある 取り残しの可能性 カルテに記録し、再SRPを検討

講義後の質疑でも、この「さらっとした出血」の扱いが問われた。答えは、一度では判断できない。毎回続くかどうかを記録し、根面の感触と合わせて判断する。見極める目は臨床経験の中でしか育たない、というのが率直な回答だった。

⑥非外科でどこまで治るのか

では、基本治療でどこまで治せるのか。比較的新しいマルチセンター研究の結果が示された。複数の医院の歯科衛生士が実際に行ったSRPで、ポケットが4mm以下になる確率を集計したものだ。

初診時のポケット 4mm以下になる確率(おおよその目安)
5mm 約7〜8割
5mm(喫煙者・大臼歯) 7割弱
7mm・単根歯 約5割
さらに深いポケット 約3割

7mmでも2回に1回は閉鎖する。 深いポケットを見た瞬間に外科と決めつける必要はない、という根拠になる数字だ。

再SRPについても報告がある。5〜6mmのポケットで約4割、7mm超で約3割が閉鎖する。そして超音波とハンドを併用したほうが閉鎖率が高まるとされていた。

初回のSRPは全顎が対象で、集中力が続かない。再SRPは悪い部位だけに絞れるから精度が上がる。2回目のほうが丁寧にできる——これは実感としても腑に落ちる。

ただし3回目は勧められなかった。2回やって炎症が引かないなら、削り続けても根面が痩せるだけだ。外科に回すか、全身状態や患者の希望で外科ができないならメンテナンスで見る。手を止める判断も治療の一部である。

⑦削りすぎは、戻せない

講義では、演者自身の失敗症例が示された。

70歳女性、重度歯周炎。年齢を考えて「切るのはかわいそうだ」と判断し、非外科で通した。だが前歯部の垂直性骨欠損が治らない。再SRPを重ねるうちに、根面がえぐれてステップができてしまった。

判断 結果
年齢を理由に非外科で粘った ポケットが閉じず、歯肉も退縮
治らない部位を繰り返し器具で触った 根面が削れ、段差が残った(不可逆)
最終的に外科を行った 骨は回復したが、削った根面は戻らない

「かわいそうだから」は適応の理由にならない。 適切なときには切る、という学びだったと演者は述べている。

同じ危険はメンテナンスにもある。治らない部位を、考えなしに毎回ガリガリと触る。その積み重ねが根面を削っていく。エナメル質と違い、セメント質と象牙質は取り返しがつかない。

⑧術後に言えば、それは言い訳になる

SRPのあとに起きることは、決まっている。

  • 歯が長く見えるようになる
  • 歯と歯のあいだに隙間ができる
  • しみる
  • 処置後に痛むことがある

これを術前に言えば説明であり、術後に言えば言い訳である。 重症であるほど、その差は決定的になる。

講義で紹介された説明の型はこうだ。

「いまの歯肉は腫れている状態です。捻挫で腫れるのと同じで、これは病的な状態です。歯石を取ると腫れが落ち着いて、キュッと引き締まります。そうなった右の写真のほうが、健康な状態です。ただし隙間はできますし、これまで腫れた歯肉に覆われていた部分に刺激が直接当たるようになるので、冷たいものや熱いものがしみるようになります。」

写真を並べて見せると、患者は理解しやすい。

さらに踏み込むべき点が2つある。

1つは、不良補綴・不良CRを除去する場合。 患者が以前の医院で隙間を埋めてもらっていたなら、それを外してSRPすれば隙間は確実に戻る。術者にとっては正しい治療でも、患者にとっては「前の先生が埋めてくれたものを取られた」になりうる。

もう1つは、費用。 ブラックトライアングルは、ダイレクトボンディングやセラミックのロングコンタクトで一定まで改善できる。歯間乳頭の再建術は、上手な術者でも成功率は5割程度とされ、補綴のほうが確実だ。だが、それが1本10万円・4本で40万円であることは、最初に伝えておかなければならない。 治療が終わってから金額を出せば、患者は不信感を抱く。

伝えるタイミング 患者の受け取り方
着手前に伝える 納得して選択できる
処置後に伝える 「聞いていない」「こんなはずじゃなかった」

⑨ゴールは3mmではない

国家試験や従来のガイドラインでは、3mm以下がゴールとされてきた。だがこの基準は現在、見直されている。

基準 許容されるライン
従来の一般的な目標 ポケット3mm以下
2018年の新分類 ポケット4mm以下かつBOP10%未満で安定と判定
ヨーロッパの歯周病学連盟のガイドライン さらに緩やかな許容範囲を設定

4mmが許容された背景は、現実的な議論だった。 すべてを3mm以下にするなら、残ったポケットはすべて外科で処理しなければならない。それは現実的ではない——そういう結論だったとされる。

そして2023年、15の研究・約1万2000人・32万本の歯を対象に、5年以上メンテナンスを継続した患者でゴール達成率が集計された。

判定基準 達成率(おおよそ)
新分類の安定基準(4mm以下・BOP10%未満) 約1.35%
ポケット6mm未満(5mmは許容) 約3割

理想の基準を満たしていた患者は、ほぼいなかった。

だが同じ研究で、ほとんどの歯は保存されていた。4mmや5mmが残っていても、歯は残り、患者は噛めている。

学会発表や雑誌に載るのは、最も治った症例だ。大学の医局でも、引き継いだ患者には4mmや5mmが残っている。理想と現実の両方を知っておくことが、自分の臨床を正しく評価するために要る。

ただし、これは誤読されやすい。「ポケットもBOPも残っていい」という話ではない。 11年の経過を追った研究では、ポケットが深くBOPがあるほど歯を喪失する確率は明確に上がっている。

問うべきは「4mmか3mmか」ではなく、「この4mmは安全な4mmか、危険な4mmか」である。歯石が残って赤く腫れ、毎回出血する4mmは治療の対象だ。炎症がなく安定している4mmは、そのまま見ていける。

⑩現場の問い——咬合・エンド・固定・時間配分

質疑では、判断に迷いやすい点が具体的に問われた。

咬合性外傷への対応。 歯周炎は炎症性の疾患だが、咬合性外傷でも骨は溶ける。両方あれば、ダメージは二重になる。だから両方に手を打つ必要がある。ただし一律のルールはない。早期接触や干渉が明らかな部位は早めに調整する一方で、全顎的に動揺している症例では、先に削ると負担が移って原因が分からなくなる。その場合は炎症のコントロールを優先する。

ナイトガードを入れるか。 国内でも見解が分かれる。「先に入れると病的な力が見えなくなるので、まず炎症のコントロールから」という立場と、「原因が夜間のブラキシズムと明らかなら早く入れる」という立場がある。原因がそこにあるなら、放置しても治らない。

エンドが絡む場合。 歯髄は残せるなら残したい。まずSRPをして判断し、動揺が増すようなら急いで根管治療に入る。疑わしければ電気歯髄診を行い、失活が明らかならSRPをしても治らない。

動揺歯の固定。 「SRPをしたら抜けるだろう」という状態なら、初診で固定と咬合調整まで済ませる。判断を先送りにして、動揺歯や歯髄の問題を抱えたまま歯科衛生士に回すのは避けるべきだ。無理な条件で任せることになる。診断が先にある。

1部位にどれだけ時間をかけるか。 エビデンス上は1歯あたり10分程度とされるが、保険診療では現実的でない。演者は30分で1/4ブロックを目安とし、歯科衛生士には「30分なら1/6ブロック、1時間なら1/4ブロック」と指導しているという。

シャープニング。 実習では、カッティングエッジに油性ペンで色を塗ってから研ぐ方法が示された。研いだあとの色の残り方で、自分の癖が一目で分かる。

塗った色の残り方 判定
下側に赤い線が残る 正しい。カッティングエッジだけが研げている
全部消えている 研ぎすぎ。スケーラーの寿命が縮む
上側だけ消えて下が残らない 使えない状態になっている

角度は砥石とスケーラーで20°/20°。「11時5分」と教わることがあるが、それでは開きすぎでカッティングエッジに当たらず、刃だけが痩せていく。先端は掃除形(丸みを保った形)に整えること。先端だけを平らに研いでしまうと、歯肉があるなかで刃を当てようとしたときに器具を大きく傾けねばならず、使えない器具になる。

おわりに

この講義が繰り返し示していたのは、理想の基準と、自分の手の届く範囲を、同じ地図の上に置くことだった。

歯石は思っているほど取れていない。深いポケットは専門医でも半分しか触れていない。理想のゴールに届く患者はほとんどいない。

それでも、歯は残る。

だから必要なのは、基準を下げることでも、届かない理想に向かって根面を削り続けることでもない。いまここにある4mmが、安全なのか危険なのかを見分ける目だ。そしてその判断は、プローブの感触、出血の質、レントゲン、そして経過という複数の情報からしか出てこない。

歯科衛生士が基本治療を丁寧に行うほど、骨欠損は小さくなり、外科が必要になっても切開は小さくて済む。基本治療の精度は、そのまま次の手の負担を軽くする。

取り切ることを目指しながら、取り切れていない前提で見続ける。その両立が、歯周治療の実務なのだと思う。

今日のひとこと

理想のゴールを達成できている患者はごくわずかだ。それでも、ほとんどの歯は残っている。問うべきは「3mmになったか」ではなく、「この4mmは安全か」である。

本記事は、プライムデンタルネット会員向けの実践セミナー「歯周基本治療」(2026年8月25日開催)の内容を、参加できなかった方向けに再構成したものです。講義中に引用された研究の数値は演者の解説に基づく概要であり、判断にあたっては必ず原著およびガイドライン本文をご確認ください。術式・製品名は開催時点のものです。

プライムデンタルネット