エンド|知覚過敏の「しみる/しみない」を、神経の話ではなく象牙質の透過性という測れる量に置き換えた総説。細管を塞ぐ12の経路を並べ、市販の脱感作剤が本当に細管を塞いでいるかを実測値で突き合わせている(Pashley 1986・J Endod)
歯周外科のあと露出した根面が強くしみる。ところが多くの患者さんは1〜2週間で何もしなくても楽になる。この「勝手に治まる」をプラセボ効果で片づけてよいのか——ジョージア医科大学のPashleyは、そこを出発点にしています。動水力学説(象牙細管の中の液がわずかに動くと痛みが出る)を認めるなら、しみる象牙質とは透過性の高い象牙質のはずで、症状が消えたなら透過性が下がったはずだ、という筋です。実際、JohnsonとBrännströmはスミヤー層を取り除くと患者の「しみる」という訴えが増えることを示し、著者らの研究室は同じ操作で象牙質透過性が5〜10倍に上がることを測っています。そこで著者は細管が塞がる経路を12種類に整理しました。歯石の沈着、唾液由来のミネラルによる細管内結晶、象牙細管液由来の結晶、管周象牙質の伸長、細菌の侵入、う蝕結晶、コラーゲン栓、血漿タンパクの漏出、修復象牙質——ここまでの9つは生理的・病的に起きるもので、残る3つ(擦ってスミヤー層を作る/レジンで覆う/水酸化カルシウム・NaF・シュウ酸塩を塗る)が治療的な介入です。液体の流れは細管半径の4乗に比例するため、半径を半分にできれば流れは16分の1になる。これが「塞げば効く」という治療原理の土台です。ただし実測値は薬剤ごとに大きく違いました。未処理を100%としたとき、シュウ酸塩は8.3%(3%シュウ酸水素カリウム)まで落ちるのに対し、脱感作歯磨剤の主役である5%硝酸カリウムは99.2%——透過性をまったく下げていません。それでも硝酸カリウムは臨床で効くという報告が複数ある。著者はここから、細管閉塞とは別に「カリウムが歯髄神経の興奮性そのものを下げる」という第二の機序を立てています。総説であり、検索式も質の評価も示されていません。著者自身が最後に「これらの治療の有効性は盲検の臨床試験で評価されるべきだ」と書いています。
①しみる根面が、放っておいても2週間で治まるのはなぜか
歯周外科のあと、露出した根面が強くしみる。ところが多くの患者さんは、こちらが何もしなくても1〜2週間で「もう平気です」と言います。私たちはこれを経験として知っていますが、なぜ治まるのかを説明できるでしょうか。
1986年、ジョージア医科大学のPashleyは、この「勝手に治まる」を手がかりに、知覚過敏の治療全体を組み立て直しています。結論を先に言うと、しみる象牙質とは透過性の高い象牙質であり、症状が消えたのは細管が塞がって透過性が下がったからだ——そして薬剤を「細管を塞ぐもの」と「神経を鈍らせるもの」の2群に分けると、効能書きの混乱がきれいに解ける、というのが著者の主張です。
②動水力学説を裏返すと、治療の的が変わる
Brännströmの動水力学説は、触覚・温度・浸透圧の刺激に対して象牙細管の中の液や内容物がごくわずかに動き、それが痛みを起こすとする考えです。Pashleyはここに、ひとつ暗黙の前提が入っていると指摘します。細管が開いていることです。硬化した(sclerotic)細管がしみないのは、液が動けないからだ、と。
だとすれば、しみる象牙質=透過性のある象牙質であり、その裏返しとして透過性のない象牙質はしみないはずです。この裏返しが、そのまま治療の的になります。
傍証はあります。JohnsonとBrännströmは、スミヤー層(切削したすべての象牙質面にできる微結晶の切削片の層)を取り除くと、麻酔をしていない患者の「しみる」という訴えが増えることを示しました。著者らの研究室は同じ操作で象牙質透過性が5〜10倍に上がることを測っています。訴えと透過性が、同じ方向に動いている。
ところが脱感作剤の臨床研究を見ると、話がややこしくなります。無処置の対照群・プラセボ群・実薬群の3群を置いた研究(残念ながらまれです)では、4〜8週のあいだに3群とも良くなり、実薬群がいくらか速いだけだった。しかも無処置群とプラセボ群のあいだにはほとんど差がない。プラセボは痛みの中枢側の変化を打ち消すためのものですから、何もしていない群まで良くなる事実は、それでは説明がつきません。透過性と知覚過敏が結びついていると信じるなら、この改善は透過性そのものが下がったことによると考えるほかない、というのが著者の立てた問いです。
③今回の一手:細管が塞がる経路を12種類に並べ、透過性という物差しで薬剤を測り直す
著者は、細管が塞がる道筋を出自ごとに整理します。前半9つは生理的・病的に勝手に起きるもの、後半3つが私たちが手を下せるものです。
もうひとつ、著者は象牙質を通る液の流れに対する抵抗が、少なくとも3つ直列に並んでいると整理しています(原著Fig 5)。表面抵抗(スミヤー層)Rs、細管内抵抗 Ri、歯髄側抵抗(象牙芽細胞)Rp。この配分が効きます。
そのうえで著者は、自分の研究室の実測値を2つの表で示します。ひとつは各種脱感作剤が本当に透過性を下げるか(Table 3)、もうひとつは(1986年当時までに)40年使われてきた33% NaF/カオリン/グリセリン脱感作ペーストの、どの成分が効いているのか(Table 2)です。
④結果:シュウ酸塩は8.3%まで落ち、硝酸カリウムは99.2%のまま動かない
未処理を100%としたときの、生体内(in vivo・原著に種の明記なし)と試験管内の両条件での、各薬剤を塗ったあとの象牙質透過性です。
3%シュウ酸水素カリウムで8.3%、30%シュウ酸カリウムで12.8%。細管をよく塞いでいます。硝酸銀(原著の表記は AgNO₃+e⁻)も33.7%まで落としますが、歯がさまざまな濃さの灰色に変色するため臨床では使えないと著者は切り捨てています。
目を引くのは左端です。脱感作歯磨剤の主役である5%硝酸カリウムは99.2%。10%塩化ストロンチウムも97.4%。どちらも透過性をまったく下げていません。2%NaFで80.8%、カルシウムを足しても68.7%ですが、原著Table 3の脚注ではNaF系と硝酸銀はひとつの群、シュウ酸塩3種はもうひとつの群とされ、群の中どうしには統計的な差がないと注記されています(各群は前処置・KNO₃・SrCl₂ とは p<0.05 で差がある)。NaF系はシュウ酸塩の群とは別の群にとどまる、という読み方が原著の統計に沿います。著者は、NaFが作るフッ化カルシウム結晶は2〜4分の塗布でできる大きさが約0.05 μmで、金属銀粒子やシュウ酸カルシウム二水和物といった大きな結晶ほどには塞げないためだと説明しています。
もうひとつの表は、古典的な脱感作ペーストを成分ごとにばらしたものです。
この表の読みどころは、どの成分を入れても結果がほとんど変わらないことです。グリセリンだけ擦り込んで31.4%、NaFを入れて32.7%、NaClを入れて36.3%、カオリンを入れて46.8%。3成分そろった「完全なペースト」が46.0%で、いちばん良いわけでもない。そして擦り込んだ群のなかでは、何も付けず乾いたまま擦っただけの19.9%が最も低い値でした(同じ表の3%シュウ酸は4.3%)。
著者の結論は率直です。効いていた変数は「擦るという行為」であって、特定の成分ではなかった。擦ることで薄いスミヤー層ができ、細管の入口が部分的に塞がる。本文では、オレンジウッドスティックで乾いたまま擦るだけで透過性が70%下がったという著者自身の別の報告も引かれています(こちらは低下率。Table 2 の19.9%は残った透過性=約80%低下にあたり、測り方が違います)。
⑤なぜ塞ぐと効くのか、そしてなぜ塞がない薬も効くのか
まず「塞げば効く」の理屈です。象牙質を通る液の流れは、細管半径の4乗に比例します(ハーゲン・ポアズイユの法則)。著者はここから直接、臨床的な含みを引き出します。細管の半径(あるいは直径)を半分にできれば、流れは2分の1ではなく16分の1になる。部分的な閉塞でも効果が大きいのは、この4乗のためです。
だから薬剤選びには条件がつきます。著者らの検討では、結晶を作る薬剤は(a) 象牙細管より小さい結晶であること、(b) 1〜2分で結晶ができることの2つを満たす必要がありました。NaFについては、CaF₂は約0.05 μmと、金属銀粒子やシュウ酸カルシウム二水和物といったより大きな結晶にくらべて閉塞力が弱い、というのが著者の説明です。
次に、冒頭の「勝手に治まる」の中身です。著者は複数の経路を挙げています。
唾液由来のミネラル。BrännströmとGarberoglioは、抜去歯の髄腔をあらかじめ充填してから歯冠部分を切り出し、咬頭の表層エナメル質を削って摩耗象牙質を模し、それを患者の部分床義歯に組み込んで口の中で使わせました。回収してSEMで見ると、管周象牙質から細管の内腔へ、細管の長軸に直交して細かな結晶が伸びていた。髄腔は塞いであるので、この結晶の元は口腔内の液以外にありえません。酸処理エナメル質が唾液で再石灰化することは知られていますが、同じことが露出象牙質にも起きている、という話です。
象牙細管液由来のミネラル。細管が開いていれば歯髄側の圧で細管液がゆっくり口腔側へ濾し出されます。Johnsonらの計算(in vitroの実験に基づくもの)では、1日に10回、細管の中身がそっくり入れ替わるほどの流れです。細管液は細胞外液に典型的な組成(Na⁺が高くK⁺が低く、血漿タンパクを含む)で、カルシウムとリンについてはおそらく飽和している。ならば数日から数週のあいだに、細管の中でリン酸カルシウム塩が析出してもおかしくありません。
血漿タンパクの漏出。ここは実験がよくできています。イヌで窩洞形成の直後から経時的に透過性を測ると、1時間に10%ほどのペースで透過性が下がっていく。ところがあらかじめ歯髄除去をしておいた歯では、この低下が起きません。生きた歯髄が要る、ということです。さらに酵素を注射して血漿のフィブリノゲンを枯渇させたイヌでは、この速い低下が起きなかった。窩洞形成だけでも歯髄に炎症が起き、毛細血管からフィブリノゲンが漏れ出して、細管壁に吸着したりフィブリンゲルを作ったりして透過性を下げている、という筋書きです。著者らは、正常な象牙細管液のタンパク濃度は血漿の約5分の1で、イヌにヒスタミンを投与すると細管液のタンパク濃度が上がることも測っています。細管に詰まるミネラルなら「硬化象牙質」と呼びますが、タンパクの沈着は光学顕微鏡では染め分けられないため、どれだけ普遍的に起きているかはまだ分かっていないと著者は率直に書いています。
修復象牙質と、その限界。LundyとStanleyは、抜歯予定のヒトの歯に5級窩洞を形成し、充填せずに口腔内へ開放したまま置くという実験をしています。ほとんどの患者が強い知覚過敏を訴え、1週後に抜いた歯の歯髄には急性炎症、ときに膿瘍まで見られた。残存象牙質厚が1.5 mm以上あれば歯髄の反応はそこまで強くなかったとも記されています。ところが12日後には、口で息ができないほどしみていた患者が「ずっと楽になった」と報告し、組織像も急性ではなく慢性炎症に変わっていた——窩洞は口の中に開いたままなのにです。Stanleyは症状の消失が修復象牙質の形成よりずっと早かったことから、透過性が下がったに違いないと結論しています。著者はおそらく95%の患者がこの自然経過をたどると書いたうえで、ではなぜ残りは治まらないのかを問います。Trowbridgeの仮説として、繰り返す炎症で前駆細胞が壊れた、あるいは歯髄が瘢痕化して開いた細管の近くの血流が落ちた患者では、新しい象牙芽細胞も修復象牙質も作れないのではないか、という考えが紹介されています。ミネラルも抗体もフィブリノゲンも歯髄の循環から来る以上、血管が細管の近くになければ、自然な脱感作そのものが起きない。検証可能で面白い仮説だ、と著者は評しています。
最後に、塞がないのに効く薬です。硝酸カリウムは透過性を1%も下げないのに、複数の臨床報告が有効性を示している。この矛盾を、著者は第二の機序で説明します。カリウムは細管を塞ぐのではなく、機械受容器としての歯髄神経の側を鈍らせている。神経の静止膜電位は細胞外のカリウム濃度で決まりますから、細管内のカリウム濃度が上がると膜電位が−90 mVから0近くへ動き、ナトリウムを引き込む電気的な勾配が失われて活動電位が立たなくなる。神経は閾値を通過するとき一度だけ発火し、そのあとは細胞外カリウムが高いあいだ沈黙します。脱感作歯磨剤の5%硝酸カリウムは495 mM=通常の細胞外液の100倍にあたり、ブラッシングのたびに細管へカリウムの「パルス」が送り込まれる計算になります。ただし著者は、実際に細管内のカリウム濃度がどこまで上がるのかは分かっていないとも明記しています。Kimのイヌでの実験ではカリウム塩は塩化ストロンチウムより歯髄内神経の活動をよく抑え、効いているのは硝酸ではなくカリウムのほうでした。同じ「神経を鈍らせる」側の薬として、著者はユージノールも挙げています。
そしてシュウ酸カリウムは、この2つを兼ねている。シュウ酸カルシウムの結晶で細管を塞ぎ、同時にカリウムで歯髄内神経を抑える。機序が分かれば薬はこう選べる、という著者の見本です。ただし著者は同じ論文で、末梢象牙質へのシュウ酸カリウム塗布では興奮性の低下は細管閉塞によるもので、歯髄内神経への直接作用ではなかった(Hirvonenら・イヌ)とも書いており、「両取り」は総括での位置づけにとどまります。
⑥明日の臨床へ:「塞ぐ薬」か「鈍らせる薬」かで棚を分ける
接着修復が増えるほど、この問題は増えるとも著者は見ています。エナメル質のエッチングは象牙質にかかりやすく、酸処理された象牙質はきわめて透過性が高く敏感になる。コンポジットの重合収縮力が接着強さを上回れば、大きな窩洞ではさまざまな場所に、とくに隣接部ボックスの歯肉側フロアに収縮ギャップができる。著者らの実験室では、歯肉側だけに欠陥のある修復物が、空の窩洞の40〜50%の速さで漏れたといいます。だからこそ著者は、細管を塞ぐ薬を修復材料の下に日常的に敷き、接着が思うようにいかなかったときの「第二の防衛線」にする使い方に期待をかけています。
⑦ここだけ、冷静に補助線
これはナラティブ総説です。検索式も採択基準も質の評価も示されておらず、1985年の学会講演をもとにした論説という性格が強い。引かれている数値の多くは著者自身の研究室の測定値で、Table 3についていえばin vivo 列は種が明記されず、in vitro 列は著者らの1981年・1984年の別論文からの再掲です。Table 3が測っているのは透過性であって痛みではありません。透過性が下がれば症状も下がる、という等号は動水力学説から導かれた仮定であって、この論文が証明したものではない点は押さえておきたいところです。
また、硝酸カリウムの「第二の機序」の根拠として引かれているのは、当時まだ未発表だったKimのデータと私信です。Trowbridgeの仮説も「個人的なやりとり」として紹介されています。面白い筋ですが、この論文の時点では検証されていない、という扱いが正確です。数字についても、Table 3は基本的に1回塗布の結果であり、日々の使用を重ねたときにどうなるかは別の話になります。
著者自身が抄録の最後を「これらの治療の有効性は、盲検の臨床試験で評価されるべきだ」で締めていることも、そのまま受け取っておきたい一文です。それでもこの総説の値打ちは、「しみる/しみない」という主観を、透過性という測れる量に置き換えて薬を並べ替えたところにあります。発表から40年たった今でも、知覚過敏の薬を選ぶときの見取り図として、この2群の分け方はそのまま使えます。
今日のひとこと
著者の結論:象牙細管を塞げるものは、理屈のうえではすべて知覚過敏を減らす。ただし逆は成り立たない——知覚過敏を減らすもののすべてが細管を塞いでいるわけではない。実測ではシュウ酸塩が透過性を8.3%まで落とすのに対し、脱感作歯磨剤の5%硝酸カリウムは99.2%で動かない。それでも臨床で効くのは、カリウムが歯髄神経の興奮性を下げるという別の道を通っているからだ、というのが著者の見立てです。筆者の読みでは、この論文の値打ちは脱感作剤を「塞ぐ薬」と「鈍らせる薬」の2群に分けた点にあります。目の前の患者さんに何を出すかを、効能書きではなく機序で選べるようになる。ただし検索式も質の評価も示されていない総説で、Table 3 の透過性は in vivo 列は種が明記されず、in vitro 列は著者らの1981年・1984年の別論文からの再掲です。著者自身が「盲検の臨床試験で確かめるべきだ」と締めくくっています。


