1問1答 論文 エンド

ナイトガード、ハードとソフトで結果が逆になる——ソフトは咬合力が下がり、眠りは1か月で変わる

1問1答 論文 エンド

エンド|睡眠時ブラキシズム・スプリント・睡眠の質

睡眠時ブラキシズムにナイトガード。ハードかソフトか、2mmか3mmか——現場で迷うところです。イスタンブール大学の5群ランダム化比較試験は、材質によって結果が正反対に振れることを示しました。ソフトは最大咬合力が下がり、眠りの質は1か月で改善。ハードは咬合力が上がっていきます。

論文
Short-term effect of material type and thickness of occlusal splints on maximum bite force and sleep quality in patients with sleep bruxism: a randomized controlled clinical trial
著者
Benli M, Özcan M
掲載
Clinical Oral Investigations 2023;27(8):4313–4322(イスタンブール大学/チューリッヒ大学)
種類
ランダム化比較試験(5群並行・115名割付/100名解析・2か月)
PMID
37127807

「とりあえずハード」でいいのか

睡眠時ブラキシズム(SB)への対応として、オクルーザルスプリントは今もゴールドスタンダードとされています。歯ぎしりによる歯の摩耗を防ぎ、咬合力を分散し、咀嚼系と顎関節への負担を下げる——ここまでは共通了解でしょう。

問題はその先です。ハードとソフト、どちらを選ぶか。文献上は「ハードはソフトと同等かそれ以上」と一般に受け止められてきましたが、著者らによれば明確な根拠は乏しい。しかも咬合力への影響を調べた研究どうしで結果が大きく食い違っています。厚みについてはさらに手薄で、材質と厚みを同時に振って比べた研究がありませんでした。もう一つの軸である睡眠の質——SBと睡眠の質は互いに悪化させ合う関係にある——も、どのスプリントが有利かは分かっていません。そこを一度に測りにいったのが本研究です。

5群・115名を2か月——厚みと材質を同時に振る

舞台はイスタンブール大学歯学部。SBの徴候・症状を持つ学生を対象に、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)で中等度のSBと確定した115名を、5つの群に無作為に割り付けました(各23名)。

ハード2mm・ハード3mm・ソフト2mm・ソフト3mm、そしてスプリントを使わない対照群の5群です。ハードは加熱重合レジン、ソフトはEVA(エチレン酢酸ビニル)シートを吸引形成したもの。いずれも上顎全部被覆で、左右対称の同時接触と犬歯誘導を付与しました。装着は就寝中に1晩8時間以上、2か月間

測定は装着前(T0)・1か月後(T1)・2か月後(T2)の3点。最大咬合力はデジタル咬合力計を第一大臼歯部に当て、左右3回ずつの最高値の平均を採用。睡眠の質はPSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)で評価しました。PSQIは0〜21点で、5点を超えると「睡眠の質が悪い」とされる指標です。

解析対象は100名。ハード群では計4名(2mm・3mm各2名)が「装置が不快」で装着に至らず、その後にも脱落があり、最終的な解析はハード2mm 19名・ハード3mm 21名・ソフト2mm 19名・ソフト3mm 20名・対照21名になりました。ソフト群には「装着できなかった」例がいません。

結果①:咬合力は、材質で逆方向に動いた

0 23.3 46.7 70 2か月後の最大咬合力の変化幅(N) 60.3 54.6 47.7 43.9 0.2 ソフト2mm↓ 下がった ソフト3mm↓ 下がった ハード2mm↑ 上がった ハード3mm↑ 上がった 対照(なし)→ ほぼ変化なし 装着前→2か月後の実測値:ソフト2mm 625.9→565.65/ソフト3mm 634.45→579.85/ハード2mm 624.6→672.25/ハード3mm 632.95→676.85/対照 626.65→626.8 N(対照を除く4群でp<0.05)。棒は本文の数値から計算した変化幅(小数第1位で四捨五入)で、向きは群ラベルの矢印。色は材質の区別で、良し悪しではない
装着前から2か月後までの最大咬合力の変化幅(棒はすべて変化の大きさ。向きは矢印と色で示す)。同じ「ナイトガード」でも、ソフトとハードで動く向きが逆になった

装着前は5群に差がありませんでした(左右を合わせた合計値で、いずれも624〜635 N程度)。ただし左右別の値には、装着前から群内・群間の差があったと原著は断っています。ところが2か月後には、はっきり分かれます。

ソフト群は下がりました。2mmは625.9→565.65 N、3mmは634.45→579.85 N。一方でハード群は上がりました。2mmは624.6→672.25 N、3mmは632.95→676.85 N(いずれもp<0.05)。何もしない対照群は626.65→626.8 Nとほぼ動きません。1か月後(T1)の時点ですでに同じ向きの変化が出ており、2か月後はそれがさらに進んだ形です。

注目したいのは、動く向きが厚みでは変わらなかったことです。ソフトは2mm・3mmとも下がり、ハードは2mm・3mmとも上がりました。ただし、咬合力について「2mmと3mmのあいだに差があるか」を直接検定した結果は原著に報告されていません。厚みが効かないと言い切れるのは、次に見る睡眠の質のほうです。

結果②:眠りが変わったのは、ソフト群だけ

0 4点 8点 12点 PSQI(低いほど眠りの質が良い) 9点 9.5点 5点 ソフト2mm ソフト3mm (参考)「質が良い」とされる目安 ソフト群は1か月後に9.1/9.6まで下がり(全群で最低・p<0.001)、2か月後も維持された。1か月後(T1)の時点でソフト2mmと3mm、ハード2mmと3mmのあいだに差はなし(p>0.05)=厚みが検定されたのはこの時点。ハード群・対照群に有意な変化はなく、原著が数値を示していないため図には含めていない
ソフト2群の2か月後のPSQIと、「睡眠の質が良い」とされる5点の目安。改善しても5点以下には届いていない(ハード群・対照群は原著が数値を示していないため図に含めていない)

PSQIの低下幅は、ソフト群がハード群より大きく、1か月後の時点でソフト2mm 9.1点・ソフト3mm 9.6点と全群で最も低い値になりました(p<0.001)。2か月後も9.0点・9.5点で、1か月で得た改善がそのまま保たれています。そしてここでは厚みが検定されています——1か月後(T1)の時点で、ソフト2mmとソフト3mm、ハード2mmとハード3mmのあいだに差はありませんでした(p>0.05)。対照群は評価期間を通じて有意な変化なしでした。

著者らはさらに踏み込んで、2か月目の追加低下が統計的に有意でなかったことから、「長期使用でPSQIに臨床的な差は生まれないだろう。睡眠の質を上げる目的なら1か月の使用で十分かもしれない」と書いています。

つまり: 結果を分けたのは材質だった。ソフトは咬合力が下がり睡眠の質が上がる、ハードは咬合力が上がる。睡眠の質については1か月後に厚みの差が検定され、2mmと3mmで違いはなかった。そして効きは、最初の1か月でほぼ出切る

なぜ材質で逆になるのか

著者らの説明はこうです。ソフトスプリントで咬合力が下がるのは、筋の弛緩か、あるいは装置を入れたことで患者が筋の疲れを自覚しやすくなるためではないか——柔らかい装置を噛むと疲労感に気づき、無意識の食いしばりにブレーキがかかる、という筋道です。この自覚の高まりが、睡眠の質の改善にもつながっている可能性を著者らは挙げています。

ハード群で咬合力が上がったことについては、顎筋の活動に対する神経生物学的な調節への働きかけと関連づけています。ただし著者ら自身、両材質の咬合力に関する結果はさらなる研究が必要だと留保しており、過去の研究も「ハードで変化なし・ソフトで低下」から「ハードで低下」まで割れているのが現状です。

明日の臨床へ——「眠れない」を訴えるSB患者に

第一に、睡眠の質の訴えが併存するSB患者には、ソフトを1か月試して評価する。これがこの研究の射程です。1か月で変わらないなら、そのまま続けても睡眠の質は変わりにくい——著者らの見立てに従えば、漫然と続けるより早めに次の手を考える判断材料になります。

第二に、睡眠の質を目的にするなら、厚みで悩む必要は薄い。PSQIでは1か月後に2mmと3mmを比べて差が出なかったのですから、作りやすさ・違和感・対合歯とのクリアランスといった現実的な条件で選んで構わない、ということになります。咬合力のほうは厚み同士が比べられていないので、そこまでは言えません。

第三に、「装着できるか」も結果のうち。ハード群では4名が不快感で装着に至らず、ソフト群はゼロでした。どれほど設計が良くても、外されてしまえば効果はありません。ただしこの4名はCONSORTのフロー図に書かれた数で、本文は「装置に関連する有害事象やコンプライアンスの問題は報告されなかった」としており、原著のなかで食い違っています。

ただし、ここは踏み込まないこの研究は摩耗も、睡眠中の筋活動も測っていません。したがって「ソフトで咬合力が下がる=歯を守れる」とは言えませんし、「ソフトの方が優れたスプリントだ」という話でもありません。歯や補綴物の保護という目的でハードを選ぶ従来の考え方と、この結果は矛盾しません。目的が違えば選ぶ材質も変わる——そう読むのが妥当なところです。
ここだけ、冷静に補助線2か月の短期・単一施設で、対象は18〜33歳の歯学部生。中等度のSBだけで、重度は含まれていません。対照群は無処置でプラセボ対照ではなく、著者らも「プラセボ効果は今後評価すべき」と明記しています。盲検化の記述は原著のなかで揺れており、方法には「単盲検の研究者が測定した」とある一方、限界には「盲検化していない」と自ら挙げています。群間で身長・体重に有意差があった点(p=0.01・0.02)も気になります——咬合力は体格の影響を受けうると著者ら自身が述べているからです。加えて、測定したのは覚醒時の随意最大咬合力であって、睡眠中のブラキシズムの力そのものではありません。PSGでの追跡もしておらず、筋活動が実際に減ったかは分かっていません。なお著者らは「厚みは咬合力に影響しない」という帰無仮説を立てながら、咬合力について厚み同士を検定しないまま「帰無仮説は棄却された」と材質の結果だけで述べています——本文で厚みの話を慎重に扱ったのはこのためです。それでも、材質を振って睡眠の質まで同時に測った初期の一本として、日々の材質選びに一つの補助線を引いてくれます。

今日のひとこと

ナイトガードは材質で結果が逆になる。ソフトは2か月で最大咬合力が下がり(ソフト2mm 625.9→565.65 N)、睡眠の質は1か月で改善してそのまま保たれた。ハードは逆に咬合力が上がる(ハード3mm 632.95→676.85 N)。睡眠の質については2mmと3mmに差がなかった。「眠れない」を併せて訴えるブラキシズム患者には、ソフトを1か月試して評価する。

出典:Benli M, Özcan M. Short-term effect of material type and thickness of occlusal splints on maximum bite force and sleep quality in patients with sleep bruxism: a randomized controlled clinical trial. Clin Oral Investig. 2023;27(8):4313–4322. PMID: 37127807
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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