エンド|下顎大臼歯の近心根は、遠心面(分岐部側)が凹んでいて薄い。そこへゲイツグリデンとキャナルオープナーを「上下動」と「アンチカーバチャー」で使い分け、抜去歯の同じ断面で術前後の厚みを測った研究(Isom 1995・Journal of Endodontics)
根管の歯冠側を広げる(フレアリング)と、歯冠側・中央1/3の干渉が取れ、根尖側1/3で器具を操りやすくなり、洗浄針も深く届く。一方で下顎第一大臼歯の近心根は遠心面に凹みがあり、その部分の厚みは0.7±0.19mmという報告があり、穿孔の起きやすい場所として知られています。そこで推奨されてきたのが、器具を危険域から離して安全域(歯質の厚い側)へ押し当てるアンチカーバチャーという使い方です。著者らは抜去した下顎第一・第二大臼歯26本の近心根管(各方法13根管)を樹脂に埋めて輪切りにし、分岐部の高さ(A)・2mm根尖側(B)・4mm根尖側(C)の3断面で、根管から分岐部までの最も薄い厚みを拡大前後に測りました。結果、分岐部の高さではゲイツを上下動で使うと、キャナルオープナー(上下動・アンチカーバチャーとも)より有意に多く削れ、2mm根尖側ではゲイツをアンチカーバチャーで使った群が、他のどの方法より有意に多く削った(平均0.62mm、他は0.31〜0.40mm)。この研究で穿孔は起きませんでしたが、残りがわずか0.07mmの根管もありました。著者らは、ゲイツのしなりで根管口の歯頸部の膨らみが支点になり、ヘッドが遠心(分岐部側)へ振られる可能性を挙げています。
①「アンチカーバチャーなら安全」は、どの深さまで本当か
下顎大臼歯の近心根にゲイツグリデンを入れるとき、「危険域から離して、歯質の厚い側へ押し当てる」——いわゆるアンチカーバチャーで使うよう習った方は多いはずです。
結論を先に言います。抜去歯の近心根で拡大前後の厚みを測ったこの研究では、分岐部から2mm根尖側で最も多く象牙質を削ったのは、ゲイツをアンチカーバチャーで使った群でした(平均0.62mm、他の3方法は0.31〜0.40mm)。一方、分岐部の高さではゲイツを上下動で使った群が、キャナルオープナーより多く削っていました。
「アンチカーバチャー=常に安全」ではなく、アンチカーバチャーで使うのは分岐部の高さまでにとどめるのが賢明——著者らの提案です(分岐部の高さでアンチカーバチャーが上下動より少なく削れたわけではありません。ゲイツ2法の差は有意ではありませんでした)。
②近心根の遠心面は、もともと薄い
根管の歯冠側を広げる(フレアリング)利点は大きいものです。歯冠側・中央1/3の干渉が取れて根尖側1/3で器具を操りやすくなり、根管の太さが増すぶん洗浄針が深く入り、洗浄の効率が上がる。スプレッダーを根尖2〜3mmまで入れられると根管充填後の色素漏洩が減る、という報告も原著は挙げています。
そこで、ゲイツをやすりのように、安全域へ向けたアンチカーバチャーの動きで使うことが推奨されてきました。一方で、ゲイツを上下動で根管の深くまで入れる使い方を勧める意見もありました。
比較の相手は、M-Seriesのキャナルオープナー(炭素鋼・断面が四角・#30〜#70でISOの色分け)。低速ハンドピースのラッチに付けて使う、テーパーのついた器具です。
③今回の一手:同じ断面を、拡大の前と後で測る
歯根を樹脂で型(マッフル)に埋め、分岐部の高さ(A)・2mm根尖側(B)・4mm根尖側(C)で水平に切断。各断面で近心根管から、根の最も薄い部分を通って分岐部まで線を刻み、測定顕微鏡(±0.001mm)で厚みを測る。
型に組み戻して拡大し、同じ線の上でもう一度測る。その差が「削れた量」です。
拡大の方法は4通りで、各13根管ずつ。
・ゲイツ・アンチカーバチャー:#2・#3で、歯質の厚い安全域へ側方圧をかける
・キャナルオープナー上下動:#30〜#70
・キャナルオープナー・アンチカーバチャー:#30〜#70
どの器具も1根管あたり約5秒。ゲイツ#2・#3はファイルの#60・#80にほぼ相当し、キャナルオープナーの太さに近いので選ばれました。根管の湾曲度と根長は4群で有意差がありませんでした。
④結果①:分岐部の2mm下では、アンチカーバチャーのゲイツが最も削った
B断面では、ゲイツをアンチカーバチャーで使った群が、他のどの方法より有意に多く削りました。キャナルオープナーの2法より約0.3mm、同じゲイツを上下動で使った群より約0.2mm多い。
術前の平均1.17mmが、術後は平均0.55mm。そしてこの群の術後の最小値は0.07mmでした。著者らも考察で「残りがわずか0.07mmの症例があった」と書いています。
⑤結果②:分岐部の高さでは、上下動のゲイツが多く削った
A断面では、ゲイツを上下動で使った群が、キャナルオープナー(上下動・アンチカーバチャーのどちらとも)より有意に多く削りました。ゲイツ2法どうし(0.53mmと0.44mm)の差は有意ではありません。
それより深いC断面(4mm根尖側)では、削れた量は0.19〜0.25mmで群間差なし。ほとんど、あるいはまったく削れていない根管も多かったと報告されています。それ以外の組み合わせに有意差はなく、この研究で穿孔は1件も起きませんでした。
⑥なぜ深いところで削れるのか:歯頸部の膨らみが「支点」になる
歯頸部の膨らみを取ってしまえば、ヘッドの振れは小さくなるはずだ、と。
つまり、根管口の膨らみを相手にしている間は理にかなうアンチカーバチャーが、深いところではテコの反対側を分岐部へ押しつける動きに変わりうる、という読みです。キャナルオープナーはゲイツよりしなりにくいので、こうした曲がり方はしないだろう、と著者らは添えています。
⑦明日の臨床へ
・大きいゲイツは根管口付近に限る。この研究で穿孔はゼロでしたが、残りが薄くなった根管があり、根管充填の段階で穿孔や破折が起こりうると著者らは書いています。
・ゲイツのようにしなる器具は、膨らみを支点に先端が分岐部側へ振られうる——著者らの解釈です(2器具を比べて「しなやかに見えた」という観察にもとづく)。押す方向と先端の向かう方向が一致しないことがある、と意識しておく。
・B断面の平均削除量は0.31〜0.62mmでも、根管ごとのばらつきは大きい。同じゲイツ・アンチカーバチャー群のB断面で、削除量は0.01〜1.26mmの幅がありました。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:ゲイツを上下動で使うと、分岐部の高さでキャナルオープナーより多く象牙質を削る。分岐部から2mm根尖側では、ゲイツをアンチカーバチャーで使ったときに、試したどの方法よりも多く削った。臨床に効く形に直すと3つです。①アンチカーバチャーで使うのは「分岐部の高さまで」にとどめる——著者らは、根管口の歯頸部の膨らみに対してだけアンチカーバチャーで使い、それより深くは上下動に切り替えるのが賢明だと提案しています。②大きいゲイツは根管口付近に限る——この研究では穿孔こそ起きませんでしたが、残りが0.07mmの根管があり、根管充填の段階で穿孔や破折が起こりうると著者らは書いています。③ゲイツのようにしなる器具は、膨らみを支点に先端が分岐部側へ振られうる——ゲイツはキャナルオープナーよりしなやかに見えた、という2器具の観察にもとづく著者らの解釈です。ただし抜去歯・各方法13根管のin vitroの結果で、ゲイツは#2・#3の2本だけ、穿孔という臨床のアウトカムは1件も観察されていません。


