エンド|MTAの適応と臨床手順を用途ごとに書き下ろした総説。根拠として引かれているのは主に動物実験と実験室研究で、この論文自体は成績を測っていない(Torabinejad&Chivian 1999・J Endod)
MTAが世に出て数年の1999年、ロマリンダ大学のTorabinejadとNewark Beth Israel医療センターのChivianが、MTAの使いどころと手順をまとめました。挙げられた用途は、①露髄した未完成歯の覆髄・断髄 ②開いた根尖へのアピカルプラグ ③穿孔の修復(根管内から/外科的に)④逆根管充填の4つ。加えて内部漂白のバリア、仮封材、垂直破折への応用も紹介されています。材料としては、粉末を滅菌水と3:1で練ると pH 12.5 のコロイド状のゲルになり、硬化に約4時間かかること、21日での圧縮強さは約70 MPaでアマルガムの311 MPaを大きく下回ることが示されています。手順はすべてこの素性から逆算されており、根管内から行うか、外科で使うかで作法が分かれます。なお本論文は手技の総説で、症例は写真による例示にとどまり、成功率などの集計はありません。
①MTA、結局どこまで使っていい材料なのか
穿孔を見つけたとき、根尖が開いた失活歯を前にしたとき、外科で根尖を切除したとき。手が伸びる先にMTAがある——というのは、今ではごく当たり前の光景です。ただ「どの場面に、どういう手順で使うのが本来の想定だったのか」を原典で確かめたことはあるでしょうか。
その原典のひとつが、この1999年の総説です。結論を先に言うと、挙げられている用途は①生活歯髄療法(覆髄・断髄)②アピカルプラグ ③穿孔の修復 ④逆根管充填の4つ。そして手順は、MTAが水分のあるところでしか硬化せず、硬化に時間がかかり、強度が低いという素性から逆算されています。根管内から行う処置(覆髄・断髄、アピカルプラグ、根管内からの穿孔修復)では、湿った綿球を当てて仮封し、時間をおいてから次の充填へ。外科で使うとき(外科的な穿孔修復、逆根管充填)は綿球も仮封も使わず、MTAを置いたら術野を洗わずにフラップを縫合して終わります。
②なぜ「新しい材料」が要ったのか
歯髄と歯周組織は、エナメル質・象牙質・歯肉付着によって口腔内の細菌から隔てられています。そこに細菌が入れば病変が起こる——無菌環境では病変が生じず、細菌に曝されると病変ができたという動物実験(Kakehashiら1965、Möllerら1981)を引いて、著者らはこの前提を確認します。だから、露髄面も、根管系と歯周組織をつなぐ穿孔も、細菌の漏洩を止められる材料で封鎖しなければならない。そして生活組織に触れる以上、その材料は生体適合性が高く、できれば組織の再生を後押しするものであってほしい。
当時使われていたのは、アマルガム、Super-EBAやIRMといった酸化亜鉛ユージノール系セメント、Cavit、コンポジットレジン、グラスアイオノマー。原著が挙げる欠点は3つです。微小漏洩すること、程度の差はあれ毒性があること、そして湿気に弱いこと(原著の表現は「水分の存在に感受性がある」)。3つ目が歯内療法で効いてくるのは、術野がしばしば濡れているからです。
③MTAという材料の素性(原著の記載)
強さ:21日での圧縮強さは約70 MPa。IRMやSuper-EBAと同程度だが、アマルガム(311 MPa)を大きく下回る(原著の表現は「significantly less」。ただしこの総説に統計解析はない)。
封鎖性:色素漏洩・細菌漏洩の実験で、アマルガムより優れ、Super-EBAと同等かそれ以上。
細胞毒性:寒天重層法と放射性クロム遊離法で調べたところ、IRMやSuper-EBAより低かった。
組織反応:モルモットの脛骨と下顎骨に埋めた実験では、両部位とも反応が最も良く、どの標本にも炎症がなかった。脛骨では、骨が直接接して生えてくる(骨添加)所見が最も多く観察された材料だった。
「約70 MPa」という数字は、裏を返せばMTA単体では咬合力を受け止められないということです。だから原著は、覆髄・断髄の項で「MTAは圧縮強さが低く永久の充填材としては使えないので、1週間後に歯冠側3〜4 mmのMTAを除去し、硬化したMTAの上に最終修復を置く」と明記しています。
④4つの使い道と、2つの段取り
適応は「根尖が未完成の歯で歯髄が露出し、歯髄の生活力を保ちたい場合のみ」。不可逆性歯髄炎の徴候・症状がある歯は禁忌と、はっきり書かれています。手順は、麻酔とラバーダムのあと希釈した次亜塩素酸ナトリウムで露髄面を洗い、断髄では高速ダイヤモンドバーと注水で歯冠部歯髄を除去。出血は次亜塩素酸ナトリウムで湿らせた綿球で止め、MTAを置いて湿った綿球で圧接。
② アピカルプラグ
適応は「歯髄が壊死し根尖が開いた歯」。根管を清掃したあと水酸化カルシウムを1週間置いて消毒し、洗浄・乾燥してからMTAを運び、3〜4 mmのプラグを作ってエックス線で位置を確認します。うまくできなければ滅菌水で洗い流してやり直すと書かれているのが実践的です。
③ 穿孔の修復
根管治療中・ポスト形成中の偶発事故と、内部吸収が外に抜けた場合。歯冠側からのアプローチと外科的アプローチの両方が記述されています。根尖部の穿孔では3〜5 mmのプラグが要るとされます。
④ 逆根管充填
剥離・骨削除・根尖切除・逆根管窩洞形成のあと、出血を止めてからMTAを填入。表面を濡れたガーゼで清掃し、MTAを置いたあとは術野を洗わないのが要点です。
ここで注意しておきたいのが、「待ち時間」が用途ごとに違うことです。原著の記述を並べるとこうなります。
・アピカルプラグ:少なくとも3〜4時間おいてから、残りの根管をガッタパーチャかコンポジットレジンで充填
・根管内からの穿孔修復:少なくとも3〜4時間後に仮封と綿球を外し、永久修復材を入れる
・覆髄・断髄:ここだけ違い、1週間後に歯冠側3〜4 mmのMTAを除去して、硬化したMTAの上に最終修復を置く(協力的な患者では窩洞全体をMTAで満たし、3〜4時間その側で噛まないよう指示する、という記述は別の話です)
外科で使う処置(綿球も仮封も最終修復もない)
・外科的な穿孔修復:MTAは3〜4時間固まらないので、修復を試みる前に完全に止血しておく。填入して余剰を除いたら術野を洗わず、フラップを縫合する
・逆根管充填:填入中は出血を抑える。そのうえで、MTAが水分のあるところで硬化することを利用し、歯根膜と骨からあえて少し出血させて、切除面とMTAの上に血を回す。やはり洗わずにフラップを縫合する
分かれているのは段取りだけで、「MTAは水分がないと硬化しない・すぐには固まらない・強度が低い」という前提は共通です。どの記述も、その3点の裏返しになっています。
⑤「うまくいかない時」の記述が具体的
この総説が手技書として使えるのは、失敗の原因と対処が書き込まれているからです。
・炎症の強い穿孔部に置いたMTAが、次回も軟らかいまま:低いpHが適切な硬化を妨げているためと説明され、洗い流してやり直すよう指示されています。
・外科で出血が止まっていない:MTAは3〜4時間固まらないので、修復を試みる前に完全に止血しておくことが不可欠。過剰な水分があると材料が軟らかく扱えなくなる。
・逆根管充填では、あえて出血させる:MTAは水分があると固まるので、歯根膜と骨から少し出血させ、切除面とMTAの上に血を回す、と書かれています。
⑥裏づけになっているのは、動物実験と実験室研究
原著が用途ごとに引く根拠を並べると、この総説の性格がよくわかります。
アピカルプラグ:意図的に感染させ水酸化カルシウムで消毒したイヌの未完成小臼歯で、MTAは他の材料より硬組織形成が起こる頻度が高く、炎症が少なかった。
穿孔修復:Leeらの抜去歯の実験で、MTAはIRMやアマルガムより漏洩が有意に少なかった。Pitt Fordらのイヌの分岐部穿孔では、即時修復群でアマルガムは全標本に炎症があったのに対し、MTAは6本中1本のみ。炎症のなかった5本にはMTA上にセメント質が観察された。遅延群でもアマルガムは全標本に炎症、MTAは7本中4本だった。
逆根管充填:イヌとサルでアマルガムと比較し、MTA群は炎症が有意に少なく、MTA上にセメント質が形成され、根尖周囲組織がほぼ実験前の状態に再生した。
注意したいのは、これらがすべて動物実験か抜去歯・培養細胞の研究だという点です。この総説自体は、ヒトでの成功率を測っていません。掲載されている症例のエックス線写真(3年後の根尖閉鎖、9か月後の分岐部病変の消失、5年後の側方病変の治癒、3年半後の穿孔部の修復など)は、あくまで個別の例示です。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・使うたびに確認したいのは、MTAは水分がないと硬化せず、硬化に約4時間かかり、圧縮強さが約70 MPaしかないという3点です。手順はここから一直線に導かれています。根管内から行う処置では湿った綿球と仮封を置き、アピカルプラグと穿孔修復は3〜4時間後、覆髄・断髄は1週間後に次へ進む。外科で使うときは綿球も仮封もなく、洗わずに縫合して終わります。時間を省こうとすると、材料の前提を外すことになります。
・覆髄・断髄の適応が「根尖未完成で、不可逆性歯髄炎の徴候がない露髄」に限定されている点は、1999年時点の線引きとして押さえておく価値があります。成熟歯の生活歯髄温存は、その後の研究が扱う話です。
・炎症の強い穿孔部で、次回もMTAが軟らかいままだったとき。原因は材料の不良ではなく局所の低いpHだ、と原著は説明しています。指示は単純で、洗い流してやり直す。原因が分かっていれば、材料や術式を疑って迷わずに済みます。
・垂直破折への応用は原著自身が慎重で、MTAが酸性下で溶けるため、口腔内に長く露出する使い方は予後が読めない、と書いています。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:MTAは微小漏洩を防ぎ、生体適合性が高く、歯髄や根尖周囲組織に触れたときにもとの組織の再生を促すことが複数の実験で示されており、覆髄・アペキシフィケーション・穿孔修復・逆根管充填に使える。筆者の読みでは、この総説の値打ちは「効く/効かない」の判定ではなく、硬化に約4時間かかり圧縮強さが約70 MPaしかない材料を、臨床でどう扱うかという段取りを言語化したところにあります。裏づけは主に動物実験と実験室研究で、この論文自身は臨床成績を測っていません。


