保存修復|光重合・照射強度と照射時間・光重合開始剤(CQ/TPO)・硬化深度。実験用レジンを使ったin vitro研究(Leprince ほか 2011・Dental Materials)
「照射強度×時間=エネルギーが同じなら、固まり方も同じ」——高出力の照射器で照射時間を短くする考え方は、この前提に立っています。ベルギー・英国・米国のグループが、光重合開始剤だけを変えた実験用レジン(カンファーキノン系とTPO系、フィラーあり・なし)で、この前提が成り立つかを確かめました。前提どおりになったのは、フィラー入りCQ系の硬化深度(18 J/cm²の3条件で有意差なし)だけで、同じ材料でも重合率は条件によって有意に違いました。CQ系は短時間照射で重合率が下がった一方、TPO系は45秒より6秒のほうが重合率が有意に高く、時間を削ったときの振る舞いは開始剤によって逆でした。ただしTPO系は硬化深度が浅いという弱点もありました。
①高出力ライトなら、照射時間は短くていい?
積層充填のたびに20秒、40秒と照射する時間は、積み重なるとチェアタイムに効いてきます。そこで「出力の高い照射器なら、そのぶん短く当てればいい」という考え方が広まりました。
その根っこにあるのは、照射強度(mW/cm²)×照射時間(秒)=エネルギー(J/cm²)が同じなら、固まり方も同じという前提です。論文ではこれを「照射の相反則(exposure reciprocity law)」と呼んでいます。
結論を先に言うと、この実験で前提どおりになったのは、フィラー入りCQ系の硬化深度(18 J/cm²の3条件で有意差なし)だけでした。同じフィラー入りCQ系でも重合率は条件によって有意に違い、ほかの材料では重合率も硬化深度もそろいませんでした。しかも、時間を削ったときの重合率の変わり方は、光重合開始剤によって逆でした。
②「エネルギーが同じなら同じ」は、なぜ揺らいでいたのか
相反則が成り立ったという研究もあれば、エネルギーだけでなく照射強度と時間がそれぞれ別に物性へ影響し、成り立たないとする研究もありました。著者らは、先行研究によってフィラー入りの材料を使ったものと、無充填のレジンを使ったものが混在している点に注目し、両方を1つの研究で比べることにしました。
もう1つの軸が光重合開始剤です。定番のカンファーキノン(CQ)はアミンと組み合わせて使い、黄色みがあります。これに代わる開始剤として、無色で光を吸う力の強いTPO(Lucirin-TPO)が注目されていました。一方で、TPOは硬化深度が浅くなるのではないかという懸念もありました。著者らによると、市販のレジンでは、TPOは単独ではなくCQと組み合わせて使われ、配合量も公開されていないことが多いため、開始剤そのものの違いは見えにくかったといいます。
③実験のしくみ
照射:ハロゲン照射器1機種で4条件。400 mW/cm²×45秒(基準)、1500 mW/cm²×12秒、3000 mW/cm²×6秒の3つがいずれも18 J/cm²。さらに3000 mW/cm²×3秒(半分の9 J/cm²)を加えました。
測定:厚さ1.4 mmの試料で、重合率を近赤外分光(FT-NIR)で照射開始から70秒間測り、70秒時点の値を比較。反応中の最高温度も測りました。硬化深度はペネトロメーター法で測定。各条件3検体です。
④結果1:重合率——CQ系は時間を削ると下がり、TPO系は6秒のほうが高かった
無充填のCQ系は、同じ18 J/cm²でも400 mW/cm²×45秒で72.1%、1500 mW/cm²×12秒で65.8%、3000 mW/cm²×6秒で43.9%と、時間を削るほど重合率が下がりました(3条件とも互いに有意差あり)。
TPO系は逆向きで、76.0%→83.3%→85.0%。45秒の基準より、12秒・6秒のほうが有意に高くなりました(12秒と6秒の差は有意ではありません)。同じエネルギーで比べると、TPO系はどの条件でもCQ系より重合率が有意に高くなっています。
フィラー入りでも傾向は同じでした。CQ系は57.6%→54.9%→50.8%で、基準と1500 mW/cm²×12秒の差は有意ではありませんでしたが、3000 mW/cm²×6秒では有意に低くなりました。TPO系は62.7%→65.2%→68.0%で、有意差があったのは両端(45秒と6秒)だけ、隣り合う条件どうしの差は有意ではありませんでした。
フィラーを加えると重合率はおおむね下がりましたが、例外が1つあります。CQ系を3000 mW/cm²×6秒で照射したときだけ、フィラー入り(50.8%)のほうが無充填(43.9%)より有意に高くなりました。著者らは、フィラーによる光の散乱や断熱効果、フィラー周囲でレジンの動きにくさが増すことなどを可能性として挙げ、さらに検討が必要としています。
⑤結果2:硬化深度——TPO系は浅かった
重合率とは反対に、硬化深度はCQ系のほうが有意に深くなりました。フィラー入りでは、18 J/cm²の3条件でCQ系が10.1〜10.8 mm(3条件間で有意差なし)だったのに対し、TPO系は3.2〜3.9 mmでした。この「フィラー入りCQ系の硬化深度」は、今回の実験で相反則が成り立った唯一の組み合わせです。
無充填ではCQ系が18.2・16.9・14.4 mm、TPO系が9.6・11.8・10.4 mmと、どちらも条件によって有意に異なりました。エネルギーを半分の9 J/cm²にすると、無充填のTPO系は重合率82.1%と18 J/cm²に近い値を保ちましたが、フィラー入りのTPO系は59.0%と、18 J/cm²の3条件より有意に低くなりました。硬化深度はどちらも18 J/cm²のどの条件より有意に浅く、無充填で4.4 mm、フィラー入りで2.5 mmでした。CQ系も9 J/cm²では重合率・硬化深度ともに有意に低下しています。
なお、ここでの硬化深度はペネトロメーター法(未硬化部分を除いて残った長さを測る方法)による実験室の値です。臨床での1回の充填厚の目安として、そのまま読み替えられる数字ではありません。
⑥なぜ開始剤で逆になるのか
著者らの説明はこうです。CQ系では、強い光で一度にラジカルができると、重合の初期にラジカル同士がぶつかって消し合う割合が増えます。その結果、重合を進める「成長点」が減り、同じエネルギーでも短時間・高出力では重合率が下がる、というものです。フィラー入りでは差が小さくなったことについて、フィラーのすき間でラジカルが動きにくくなるためではないか、と述べています。
TPO系は光を吸う力が強く、光で分解すると1分子から2つのラジカルができ、アミンも要りません。反応が一気に進んで網目がすばやく固まり、ラジカルが閉じ込められて重合が加速するため、高出力で時間を削っても補えた、という説明です。反応熱による温度上昇も重合率を押し上げたとみられ、無充填では重合率と最高温度が強く相関していました(R²=0.95)。
一方、硬化深度が浅いのは、TPOが表層で光を多く吸ってしまい、奥まで光が届きにくいためと考えられています。TPOが吸収する短い波長の光はフィラーで散乱されやすく、今回のハロゲン照射器の発光もCQの吸収に合っていました。著者らは、TPOの配合量を減らすことや、400 nm付近を強く出す光源を使うことで硬化深度が改善する可能性を挙げていますが、この研究では試していません。
⑦明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
①「出力×時間」の掛け算だけで照射時間を削らない。今回のCQ系では、同じ18 J/cm²でも3000 mW/cm²×6秒の重合率は基準の45秒より有意に低くなりました。
②速く固まる開始剤でも、深さは別の話。TPO系は表層の重合率が高くても、硬化深度はCQ系より浅くなりました。
③自分の材料と照射器の組み合わせを確かめる。市販のレジンは開始剤の組み合わせや配合量が今回の実験用レジンと異なり、照射器もハロゲンではないことが多いので、この数値をそのまま当てはめず、材料メーカーの推奨する照射条件を基本に考えるのが現実的です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論は、多くの条件で「エネルギーが同じなら同じように固まる」という前提(照射の相反則)は成り立たなかった、というもの。成り立つかどうかは、光重合開始剤の種類やフィラー量などで変わる。CQ系の実験用レジンは、同じ18 J/cm²でも短時間照射で重合率が下がった(45秒→6秒で無充填72.1%→43.9%、フィラー入り57.6%→50.8%)。TPO系は逆に、45秒より6秒のほうが重合率が有意に高く(無充填76.0%→85.0%、フィラー入り62.7%→68.0%)、同じエネルギーではCQ系を上回った。一方で硬化深度は浅く(フィラー入り・18 J/cm²で3.2〜3.9 mm、CQ系は10.1〜10.8 mm)、著者らもこれを残された課題としている。CQ系ではフィラー量によって高出力照射の効き方が変わるため、照射法は材料のフィラー量に合わせて考える必要がある、とも述べている。ハロゲン照射器と実験用レジンによる実験室の結果で、市販のレジンやLED照射器にそのまま当てはまるかは、この研究では調べていない。


