1問1答 論文 外科

ジルコニアは「どこまで」磨けるのか——5分の手順で0.054 µmまで、ただし磨くほど良い証拠はまだない

1問1答 論文 外科

市販の研磨システムとダイヤモンドペーストを段階ごとに止めて、ジルコニアの表面粗さを光学式プロフィロメータで測ったin vitro研究(Linkevicius 2020・Int J Prosthodont)

ジルコニアのカスタムアバットメント。歯肉の下に入る面をどう仕上げるかは、技工指示書でいちばん曖昧になる欄かもしれません。「よく磨いておいてください」——では、どこまで? 研磨の終点はたいてい主観で決まり、実際に何µmになっているのかは誰も知らないまま装着されています。リトアニアのグループが、まずそこを数字にしました。

論文
The Effect of a Polishing Protocol on the Surface Roughness of Zirconium Oxide
著者
Linkevicius T, Valantiejiene V, Alkimavicius J, Gineviciute E, Andrijauskas R, Linkeviciene L
掲載
The International Journal of Prosthodontics 2020;33(2):217-223(doi:10.11607/ijp.6686)
種類
in vitro 実験研究(ジルコニア試験片50枚・研磨段階別の5群・光学式プロフィロメータによる表面粗さ測定)
PMID
32069347

「ツルツルに磨いておいて」の、ツルツルはどこか

ジルコニアのカスタムアバットメント。歯肉の下に入る部分をどう仕上げるかは、技工指示書でいちばん曖昧になる欄かもしれません。

「よく磨いておいてください」。——では、どこまで?

研磨の終点は、たいてい技工士さんの主観で決まります。実際に何µmになっているのかは、誰も知らないまま装着されている。リトアニアのLinkeviciusらは、まずそこを数字にしました。市販の研磨システムを、段階ごとに止めて測っています。

先に言っておくと、この研究が答えたのは「どこまで磨けるか」であって、「磨いたほうがよいのか」ではありません。そこが読みどころです。

研磨を1段階ずつ止めて、粗さを測る

研究の骨格: ジルコニア(Lava Classic・3M ESPE)を焼結した10 × 10 × 3 mmの試験片50枚を、5群(各10枚)に無作為に割り付けた。①対照=焼結したまま無研磨 ②粗研磨(緑・NTI CeraGlaze P301/16,000 rpm・2分)③+中研磨(青・P3001/12,000 rpm・1分)④+仕上げ研磨(黄・P30001/6,000 rpm・1分)⑤+ヤギ毛ブラシとダイヤモンド研磨ペースト(Zirkopol/15,000 rpm・1分)。全工程を経験20年の同一の技工士が顕微鏡下(×3.2)で、通常のジルコニア加工を模して行った。研磨後は35℃蒸留水で10分間の超音波洗浄。光学式プロフィロメータで1枚につき3か所(中央・左右1mm)を走査し、Ra・Rq・Rz・Rtを算出。ANOVAとGames-Howell検定(α=.05)で比較した。

ポイントは、研磨機ではなく人の手で、実際の技工作業をなぞっていることです。先行研究には研磨機で条件を厳密に揃えたものがありますが、それだと「実際のラボで出る値」からは離れてしまう——という問題意識です。

結果——1段階ごとに、有意に滑らかになった

0 0.2 0.4 0.6 表面粗さ Ra(µm) 0.525 0.252 0.196 0.114 0.054 焼結のまま(無研磨) 粗研磨緑2分 中研磨青1分 仕上げ黄1分 ペースト1分 1段階ごとに有意に滑らかになった(Games-Howell、全群間でP<.05)。値は平均±標準偏差で 0.525±0.099/0.252±0.038/0.196±0.035/0.114±0.031/0.054±0.020 µm。合計の研磨時間は5分。参考として、チタンで得られた0.2 µmという線は「これより滑らかにしてもプラーク付着は減らない」という頭打ちの目安であり、達成すべき目標値ではない(ジルコニアに当てはまるかは未検証)
研磨段階ごとの表面粗さ。全群間で有意差がついた(Games-Howell、P<.05)

数字は、きれいな階段状でした。

焼結したまま 0.525 µm →(粗研磨)0.252 →(中研磨)0.196 →(仕上げ)0.114 →(ペースト)0.054 µm。すべての群間に有意差がつきました(値は平均±標準偏差で 0.525±0.099/0.252±0.038/0.196±0.035/0.114±0.031/0.054±0.020 µm。もっとも滑らかなペースト群でも最大値は 0.126 µm あり、群内のばらつきは無視できません)。

これが意味するのは、技工士が「狙った粗さ」を選べるということです。段階ごとに有意に変わるのだから、どこで止めるかが結果を決める。プロフィロメータの画像でも、粗研磨から仕上げにかけて研磨具の条痕(縦の溝)が減って浅くなり、ペーストまで進めた面ではほとんど溝が見えなくなっていました

到達点の 0.054 µm は、先行研究と比べても滑らかです。著者らが「より滑らかだ」と明言しているのは Happe らの 0.09 µm に対してで、Bollen らは 0.06 µm まで研磨できたと報告している、と並記しています。またNothdurft らが市販の研磨システムで到達した 0.12 µm は、この研究の仕上げ研磨(0.114 µm)とほぼ同等です。参考までに、既製のチタンアバットメントの表面粗さは 0.1〜0.2 µmと報告されています(この研究では測っていません)。

そして、かかった時間。2分+1分+1分+1分=合計5分です。フルの手順を踏むなら、その手間がかかる、ということでもあります。

ここが本題——「磨けた」と「磨くべき」は別

この研究が答えたこと・答えていないこと

答えたこと = 「どこまで磨けるか」 ・市販の研磨システムとペーストを順に使えば Ra 0.054 µm まで到達できる ・1段階ごとに有意に滑らかになる(=技工士が狙った粗さを選べる) ・所要時間は合計5分

答えていないこと = 「磨いたほうがよいのか」 ・細菌の付着も、上皮の接着も、歯肉の反応も測っていない ・著者ら自身「0.2 µm より滑らかにする利点を示すデータは現状ない」と明記 ・その検証は臨床試験に委ねられている(著者らの言葉)

この論文は「手順書」であって、「磨くほど良い」という証明ではない

この研究が答えたことと、答えていないこと

ここまで読んで「では 0.054 µm まで磨こう」と進みたくなりますが、この研究は細菌の付着も、上皮細胞の接着も、歯肉の反応も測っていません。測ったのは粗さだけです。

そして著者ら自身が、いちばん大事な留保を本文に書いています。

「現状、0.2 µm より滑らかな表面のほうがプラーク付着の点で有利だと示すデータは存在しない」。

この 0.2 µm は、Quirynen らが示した閾値です。それより滑らかにしてもプラークの付着は減らないとされる線で、逆に粗さが 0.8 µm まで上がるとプラークは最大25倍に増えうるとも報告されています。ただしこの閾値はチタンで得られたもので、ジルコニアにそのまま当てはまるかは分からない——というのが著者らの立場です。

実際、この分野には対立する意見が並んでいます。ある程度粗いほうが線維芽細胞が入り込んで守りになるという説と、上皮細胞は滑らかな面のほうが接着・移動しやすいという説。前者の立場からは「超研磨した面は細胞の付着を妨げ、歯肉の退縮とプロービングデプスの増加を招くので推奨できない」という正面からの反論も出ています(ただしこれもチタンを調べた研究に基づくもので、ジルコニアには当てはめられない、というのが著者らの再反論です)。なお著者らは、プロービングデプスの横断的な差は疾患の指標ではなく、浅いことを軟組織の防御が強い証拠と読んではならないとも釘を刺しています。著者らは後者に立っていますが、「これらの仮説は臨床試験で検証されるべきだ」と明記したうえで、「今回の結果は、少なくとも狙った滑らかさを達成する具体的な手順を示せる」と締めています。

もうひとつ、著者らが文献の読み違いを正している箇所も面白い。「超研磨したジルコニアはプロービングデプスが深くなる」という主張の根拠としてよく引かれるBollenらの研究は、実際の数値がジルコニア 2.91 mm・チタン 3.12 mm で、むしろ逆向き(かつ有意差なし)だった——引用のされ方が事実と食い違っている、と指摘しています。

明日の臨床へ

①指示書の「よく磨いて」を、段階の言葉にする。この研磨システムなら「粗研磨まで」で 0.252、「中研磨まで」で 0.196、「仕上げまで」で 0.114、「ペーストまで」で 0.054 µm。どの段階で止めるかを技工士さんと共有するだけで、主観の幅がかなり縮みます。

②「滑らかにするほど良い」とは、この論文からは言えない。0.2 µm という線はチタンのアバットメントで得られたもので、しかも「これより滑らかにしてもプラーク付着は減らない」という頭打ちの目安です(達成すべき目標値ではありません)。ジルコニアに当てはまるかも未検証で、著者ら自身が「0.2 µmより滑らかにする利点を示すデータは現状ない」と書いています。一方で粗さが 0.8 µm まで上がるとプラークは最大25倍に増えうるという報告もあります(これも同じQuirynenらの一件・チタン)。焼結したままの 0.525 µm をどう見るかは、この不確かさを込みで判断する話になります。

③「5分」を工程として見込む。フルの手順は片手間では終わりません。歯肉縁下に入る面をどう仕上げるかは、時間の配分を含めてラボと決めておく話です。

なお、これはカスタムアバットメントの利点でもある、と著者らは書いています。既製品では表面がメーカー任せになりますが、カスタムなら粗さを自分たちで管理できる。管理できることと、どこに合わせるべきかは別の問題ですが、選べること自体は前進です。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 これは平らなジルコニア板を測った実験室研究で、臨床アウトカムはひとつも見ていません——細菌・上皮細胞・プロービングデプス・炎症、いずれも未評価です。だから「0.054 µmのほうが歯肉に良い」とは、この論文からは言えません(著者ら自身が「0.2 µmより滑らかにする利点を示すデータはない」「仮説は臨床試験で検証すべき」と書いています)。素材はジルコニア1製品(Lava Classic)、研磨具も1式のみ(ポリッシャーとブラシはNTI-Kahla、ダイヤモンドペーストはFeguramed)。実際のアバットメントは平面ではなく曲面で、歯肉縁下の到達しにくい面まで同じ値が出るとは限りません。研磨は1人の技工士が行っており、術者間のばらつきも分かりません。加えて、筆頭著者は超研磨ジルコニアを支持する症例報告を自ら発表している立場で、考察はその方向に寄って読めます(利益相反は「なし」と申告)。それでも——これまで主観でしか語られてこなかった「ツルツル」に、段階ごとの数字と再現できる手順を与えた意味は大きい。まず測れるようにする、というのは地味ですが強い一歩です。

今日のひとこと

市販の研磨システムを順に使えば、ジルコニアは焼結したままの Ra 0.525 µm から 0.054 µm まで滑らかにできる——粗研磨0.252、中研磨0.196、仕上げ0.114、ペースト0.054と、1段階ごとに有意に下がった。所要は合計5分。つまり技工士は「狙った粗さ」を選べる。ただしこの研究が測ったのは粗さだけで、細菌も上皮細胞も歯肉の反応も見ていない。よく引かれる0.2 µmという線もチタンで得られた「これより滑らかにしてもプラーク付着は減らない」という頭打ちの目安であって、達成すべき目標値ではない。著者ら自身が「0.2 µmより滑らかにする利点を示すデータは現状ない」「仮説は臨床試験で検証されるべき」と書いており、ある程度粗いほうが軟組織の付着に有利だとする反対の立場も併存している。これは磨き方の手順書であって、磨くほど良いという証明ではない。実務としては、指示書の「よく磨いて」を段階の言葉に置き換えるところから。

Linkevicius T, Valantiejiene V, Alkimavicius J, Gineviciute E, Andrijauskas R, Linkeviciene L. The Effect of a Polishing Protocol on the Surface Roughness of Zirconium Oxide. Int J Prosthodont. 2020;33(2):217-223. doi:10.11607/ijp.6686 PMID: 32069347
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。