歯内-歯周病変の診断と治療に関する専門家合意(Chen 2024・Int J Oral Sci)
根尖まで届く深いポケットがあり、歯髄の反応も落ちている。歯周から来たのか、歯髄から来たのか。そして根管治療と歯周治療、どちらを先にやるのか——この順番については長く議論が続いてきました。20名を超える専門家がまとめた合意は、まず問うべきは原因の由来ではなく「根の損傷があるかどうか」だと言います。それが予後を決める最も重要な因子だからです。
①「根管からか、歯周からか」を先に考えていませんか
根尖近くまで届く深いポケットがある。歯髄の反応が落ちている、あるいは無い。歯内-歯周病変(EPL)を疑う場面です。
このとき、まず頭に浮かぶのはこの問いではないでしょうか。「歯髄から来たのか、歯周から来たのか」。由来が分かれば治療の順番も決まるはずだ——そう考えるのは自然です。
ところが、20名を超える専門家がまとめた2024年の合意は、診断の第1ステップに別の問いを置きました。「根に損傷があるか」。これが予後を決める最も重要な因子だからです。
②由来ではなく、予後で分ける分類へ
この文書は、中国の主要大学の歯周科・歯内療法科の専門家が集まってまとめた専門家合意(expert consensus)です。原因・病態・臨床像・診断・治療・予後の最新の知見を統合し、生物学的根拠と臨床的根拠の両方から最適な治療を選べるようにすることを目的としています。
臨床像も整理されています。EPLの最も多い所見は、根尖に達するかそれに近い深い歯周ポケットと、歯髄の反応の変化(陰性を含む)で、ほぼすべての患者がこの2つを併せ持つとされています。ほかに、根尖部・側方部・分岐部の骨吸収、自発痛や打診痛、排膿、動揺、瘻孔の形成。歯冠や歯肉の色調変化を示すものも少数あります。
急性か慢性かは原因で変わります。外傷・歯根破折・穿孔が原因なら急性膿瘍と痛みが出やすい。一方、歯周炎の治療中やメインテナンス中の患者では、症状が目立たないまま緩やかに進むのが普通だとされています。
③診断は3ステップ
ステップ1:根の損傷の検出。判断材料は3つです。病歴(外傷、歯の亀裂、根管治療、歯周の機械的処置、矯正治療、失活歯の漂白などの既往)、口腔内所見(打診痛と咬合痛、歯周の状態、歯髄と根尖の状態、咬合)、画像検査(歯根破折・亀裂・穿孔・吸収・根の形成異常)。ここで「根の損傷を伴うEPL」か「根の損傷を伴わないEPL」かが決まります。
ここで合意が正直に書いているのが、早期の歯根破折は診断が難しく、CBCTでも100%は写らないという点です。だから病歴と臨床像で疑うためのリストが示されています——破折の既往/特定の一点に力を加えたときに強く出る咬合痛/咬合異常/罹患歯の周囲の狭くて深いポケット/根面に凹凸や引っかかりが触れることがある/目立つう蝕が無いのに歯髄が異常に生きている。
ステップ2:全顎の歯周評価。根の損傷が無ければ、歯周炎の既往を問診し、通法の歯周検査を行って、2018年の新分類にしたがって歯周炎の有無を確認する。歯周炎があれば「歯周炎患者のEPL」、無ければ「非歯周炎患者のEPL」です。
ステップ3:罹患歯の歯周破壊の程度を決める。根の損傷が無いことが確認されれば、歯周炎の有無にかかわらずプロービングと画像検査を行い、グレードを付けます。グレード1は1歯面の狭くて深いポケット、グレード2は1歯面の広くて深いポケット、グレード3は2歯面以上に及ぶ深いポケット。
④予後を決めるのは、まず根の損傷
2018年の分類では、EPL罹患歯の予後は絶望的(hopeless)・不良(poor)・良好(favorable)の3つに分かれます。それを決める因子として合意が挙げたのは、根の損傷の有無(最も重要な因子)、歯周炎の有無、解剖学的因子、罹患歯の歯周破壊の程度です。
歯根破折・髄腔や根管の穿孔・根の吸収を伴うEPLは、常に予後が不良で、抜歯が推奨されることが多い——ただし例外的な症例もある、と付け加えられています。
それぞれの扱いも具体的です。歯根破折は早期の発見と診断が非常に難しいため、CBCTで検出されなかった場合でも、その後の歯周外科や根尖外科の際には破折の可能性を念頭に置くべきとされました。とくに非歯周炎患者のEPLで注意が要ります。穿孔は一般に抜歯が推奨されますが、治療可能なものもあり、成功率は穿孔の大きさ・位置・歯周破壊の程度、そして修復材料の封鎖性と生体親和性に関係します。根の吸収は穿孔の大きさが第一に考慮され、大きいほど予後が悪い。ただし材料の進歩により、特に外部吸収による穿孔の予後への影響は次第に小さくなっている、と書かれています。
⑤治療の順番——ここがいちばん実務に効く
長く議論されてきた「どちらが先か」に、合意ははっきり答えています。
抜歯しなければならない歯を除けば、根の損傷の有無にかかわらず、ほとんどのEPL罹患歯はまず歯内療法を受けるべき。そして歯周外科に進むかどうかを決める前に、十分な再評価の時間を置くことが望ましい。
理由も示されています。適切な根管治療は感染性物質の移動を断ち、歯髄感染を制御し、痛みや不快感を減らし、歯周組織の治癒を促す。さらに内部吸収を伴う症例では、根管を清掃・充填・封鎖することで吸収の進行を止め、歯根破折や抜歯のリスクを下げる。根管治療の徹底度そのものが予後の決定的な因子だと明記されています。
並行してよい処置と、待つべき処置も分けられました。非外科の歯周治療は根管治療と同時に進めてよい。歯周外科は歯内療法を完了してから行う。
歯周治療の進め方はEFPのS3レベル診療ガイドラインに沿うとされ、ステップ1がリスク因子の管理(口腔衛生指導、歯肉縁上のスケーリング、糖尿病などの全身的リスク因子の管理)、ステップ2が原因除去(SRPと補助的方法)。治癒期間ののちに全顎の歯周再評価を行い、4mm以上でプロービング時に出血する部位が残る、または6mm以上の深いポケットが残る場合は、ステップ3の外科治療へ進む。目標が達成されていれば、組織立てられた支持療法(SPT)のプログラムに入ります。
⑥明日の臨床へ
深いポケットと歯髄反応の低下が揃った歯を見たら、問いの順番を入れ替えます。
1)まず根の損傷を探す。破折の既往、一点を押したときの咬合痛、狭く深い単独のポケット、う蝕が無いのに歯髄が生きている——このパターンが揃えば破折を強く疑う。CBCTで写らなくても、外科に入る際は破折の可能性を持ったまま術野を見る。
2)損傷が無ければ、全顎を診る。この患者は歯周炎の患者なのか、そうでないのか。歯周炎患者で根の損傷が無いEPLは、通常ステージIIIかIVの歯周炎と診断される——つまりEPLの治療は、包括的な歯周治療の一部として位置づけられます。
3)順番は、根管治療 → 再評価 → 必要なら歯周外科。非外科の歯周治療は根管治療と並行してよい。歯周炎の患者で、歯周炎から二次的に歯髄疾患が起きており、かつ将来の歯周の炎症をコントロールできる見込みがある場合には、その手前に急性症状の対応と歯髄感染の制御が置かれます。ここを覚えておくだけで、治療計画の立て方が安定します。
そして再評価を急がない。合意が「十分な時間を置くことが望ましい」と書いているのは、根管治療による歯周組織の治癒がどこまで進むかを見てから外科の要否を決めるためです。早く切ると、切らなくてよかった歯を切ることになります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
最初に見るのは原因の由来ではなく、根の損傷の有無。それが予後を決める最も重要な因子であり、診断の第1ステップでもある。そして抜歯が決まる歯を除けば、根の損傷の有無にかかわらず、まず歯内療法。歯周外科はそのあと、十分な再評価期間を置いてから——非外科の歯周治療だけは、根管治療と並行して進めてよい。


