AAP再生ワークショップ・分岐部病変のコンセンサスレポート(Reddy 2015・J Periodontol)
分岐部が出てきた大臼歯を前に、ルートセパレーション・ヘミセクション・抜歯のどれにするかを考える——その手前に、AAPの9人の委員会は「再生療法の検討」を置きました。Class II は組織学的にも臨床的にも再生が示された、予測性の高いシナリオである。だから切除も抜歯も、その次に考える。合意されたのはそこまでの範囲であり、Class III は下顎で症例報告1本、上顎では予測不能のままです。どこまでが合意で、どこからが未解決かを整理します。
①分岐部が出てきた大臼歯、最初に何を考えますか
プロービングで根分岐部にプローブが入る。エックス線で分岐部に透過像が見える。ここから先の思考は、多くの場合こう進みます。
「ルートセパレーションか、ヘミセクションか。それとも保存をあきらめて抜歯か」。
つまり「どう切るか」から入る。分岐部は器具が届かず、清掃性が悪く、予後が読みにくい——そう習ってきたからです。
ところが2014年にアメリカ歯周病学会(AAP)が開いた再生ワークショップの委員会は、この思考の順番そのものに手を入れています。切除療法や抜歯を考える前に、再生療法を検討する——それが合意事項として文章になりました。
②これは「研究1本」ではなく「合意の記録」
今回の文献はランダム化比較試験でも、メタ解析でもありません。コンセンサスレポート——専門家が集まって、どこまでが言えてどこからが言えないかを合意した文書です。
だからこの論文には、オッズ比も平均差も出てきません。読むべきは数値ではなく、「Class ごとに、根拠がどこまで届いているか」の地図です。分類は Hamp ら(1975)の Class I〜III が使われています。
③合意された地図——Class II だけが別格
委員会が受け入れた結論は、次の4つでした。
1つめ。Class II の分岐部——上顎の頬側・近心・遠心、下顎の頬側・舌側——では、歯周組織の再生が組織学的にも臨床的にも実証されている。ここが最も強い部分です。ただし原著が組織学的な実証を述べているのは、併用療法を適用したあとの話です(併用については後述)。
2つめ。下顎の Class III は、組織学的には再生が示されたものの、臨床エビデンスは症例報告1本に限られる。
3つめ。上顎大臼歯の Class III と、小臼歯の分岐部病変を支える根拠は臨床症例報告のみで、しかもそれらは結果が予測できなかったと報告している。
4つめ。Class I では、再生療法が有益になる場面もあるが、大半は非再生療法で成功させられる。
この4つを並べると、合意の輪郭がはっきりします。Class II だけが「予測性の高いシナリオ」として名指しされている。Class III は、下顎なら組織学の裏づけはあるものの臨床エビデンスが症例報告1本にとどまり、上顎ではその組織学的な裏づけすら示されていません。同じ Class III でも、下顎と上顎では根拠の届き方が違います。
④だから「切除の前に再生を検討する」になる
臨床推奨の1番目と2番目が、この記事のいちばんの持ち帰りです。
① 歯周組織再生は、さまざまな分岐部病変に対する実行可能な治療選択肢として確立している。なかでも Class II は予測性の高いシナリオである。
② したがって、再生療法は切除療法や抜歯より前に検討されるべきである。
③ 併用療法(バリア膜、骨補填材、±生物学的材料)は、単独の材料に頼るアルゴリズムより有利に見える。
④ 予測性のある結果を得るには、不利な全身的・局所的因子を評価し、可能な範囲で管理する。
⑤ 厳格な術後管理と、その後のSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)が、長期に持続する再生の成果には不可欠である。
「再生も選択肢のひとつ」ではなく、順番として先に置くと書かれている点が重要です。切除療法は歯質を失い、清掃性は上がっても補綴の設計に制約を残します。抜歯はもちろん元に戻せません。戻せない一手の前に、戻せる可能性のある一手を検討する——順序の合理性はここにあります。
⑤効かせ方も合意されている——単独ではなく組み合わせ
材料の話は、意外なほどシンプルにまとめられています。バリア膜だけ、骨補填材だけ、生物学的材料だけ——という単独使用より、組み合わせたほうが有利に見える。委員会の表現は「appears to offer an advantage(有利を提供するように見える)」で、断定ではありません。効果量の数値も示されていません。それでも、材料選びで迷ったときの方向としては十分に使えます。
そして、推奨④と⑤が意味しているのは「再生療法は術式ではなく、術前から術後までの一連の管理である」ということです。ただし原著の書きぶりは「不利な全身的・局所的因子を評価し、可能な範囲で管理する」までで、具体的な因子名は挙げていません(今後の研究課題の項で「代謝性疾患」が、十分に研究されていない因子として触れられているだけです)。そのうえで、術後に厳格な管理を敷きSPTへつなぐことが欠けたときに再生の成果が保たれない、というのが委員会の見方でした。
⑥明日の臨床へ
この合意を診療室に持ち込むと、判断の分かれ道が1つ増えます。
分岐部病変を見つけたら、まず Hamp の Class を確定する。水平的な支持の喪失が歯の幅の1/3を超え、しかし貫通はしていない Class II なら、切除・抜歯を口にする前に「再生療法の適応か」を検討する(Class の定義はこのコンセンサスレポート自身には書かれておらず、Hamp ら1975 が引用されているだけなので、判定の際は原典に当たってください)。上顎大臼歯なら頬側・近心・遠心のどこかを、下顎なら頬側・舌側かを見る——合意が届いているのはこの範囲です。
Class I なら、非再生療法で十分に対応できるというのが委員会の見立てです。無理に再生を持ち出す必要はありません。
Class III は正直に伝えるべき領域です。下顎でも臨床エビデンスは症例報告1本、上顎はさらに薄い。ここで再生を選ぶなら、それが確立した予測性のある選択ではないことを、患者さんとも自分自身とも共有しておく必要があります。
そして、どの Class を選んでも変わらないのが術後管理とSPTです。委員会が「essential(不可欠)」という語を使ったのはここだけでした。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
分岐部を見たときの初手は「切るか、抜くか」ではない。Class II なら再生療法が予測性の高い選択肢として確立している——だから切除療法と抜歯は、その検討を通り抜けたあとに来る。ただし合意が届いているのはそこまでで、Class III の上顎はいまも症例報告の世界にある。


