ヨーロッパ歯内療法学会 ポジションステートメント:外部歯頸部吸収(Patel 2018・Int Endod J)
外部歯頸部吸収(ECR)には「典型的なエックス線像」がありません。吸収期には透過像、修復期には不透過像、その混在もある。臨床でも歯頸部う蝕と見誤られる。ヨーロッパ歯内療法学会の専門家委員会は、デンタルエックス線写真の限界がECRの誤診と不十分な処置につながりうると指摘し、診断がはっきりしないとき、そして治療を計画するときにCBCTを推奨しました。
①歯頸部の透過像を、う蝕として削り始めていませんか
デンタルエックス線写真に、歯頸部の透過像が写る。臨床では歯肉の発赤と出血が少しある。「歯肉縁下のう蝕ですね」——そう判断して、麻酔をして削り始める。
ところが窩洞を開けると、思っていた深さでは終わらない。歯冠側から根の方へ、周囲へと広がっていく。出血が止まらない。ここではじめて外部歯頸部吸収(ECR)だったと気づく——という展開は、この疾患でいちばん避けたいものです。
ヨーロッパ歯内療法学会(ESE)が招集した専門家委員会のポジションステートメントは、この状況をはっきり言葉にしています。ECRは臨床的にもエックス線的にも歯頸部う蝕と誤られることがある。そしてデンタルエックス線写真の限界が、誤診と不十分な処置につながりうる。
②ECRには「典型像」が無い
この文書はESEが招集した専門家委員会の合意であり、現時点の臨床的・科学的エビデンスと委員の専門知に基づいています。目的は、原因・組織病理・臨床像・マネジメントについて臨床家に拠りどころを示すこと、そしてエビデンスがほとんど無い領域を明示することとされています(手元のPDFは査読通過後・未組版のAccepted Article版で、最終版とは表現が一部異なります)。
原因については、委員会は慎重です。ECRが起こり進展するには歯根膜とセメント質の損傷に加えて、破歯細胞の活動を誘導・維持する刺激因子が必要だと考えられている。最も多く関連づけられているのは外傷の既往と矯正治療ですが、因果関係を確定するにはさらなる研究が必要と明記されています。
そして診断で問題になるのが、「典型的なエックス線像」が存在しないことです。吸収期には透過像、修復期には不透過像、段階によっては両者の混在——病変の見え方が固定していません。
③デンタルで足りるところ、足りないところ
デンタルでもできることはあります。内部吸収との鑑別——病変越しに根管壁の輪郭が追えるかどうかで見分ける方法が示されています。追えればECR、追えなければ内部吸収を疑う。またパララックス法を使えば、内部吸収との鑑別に加えて、プロービングでは触知できない病変の位置を確認できます。
足りないのはその先です。CBCTは病変の性状と広がりを正確に把握させる——具体的には三次元的な形態、歯を取り巻く方向への広がりの程度、根管までの近さの3つです。この3つが分からないまま治療方針を立てることの危うさが、この文書の主題といえます。
実際、従来から使われてきたHeithersay分類は2次元画像に基づくため、吸収の実際の広がりを過小評価する、あるいは十分に把握できない結果になりうると指摘されています。Patel分類——デンタルエックス線写真とCBCTの両方に基づく三次元的な分類——が、正確な診断と臨床家どうしの意思疎通のために提案されました。
④撮るのは「2つの場面」——線量の話も明記されている
ESEの推奨は限定的です。診断がはっきりしないとき、および/または治療を計画するときにCBCTが推奨される。ECRを見たら必ず撮る、ではありません。
線量についても具体的な記述があります。小照射野CBCTの線量は、CTと比べれば相対的に低く、複数枚のパララックス撮影と同じオーダーである——だからECRの診断と経過観察への使用は正当化される、という論理です。
そのうえで、電離放射線を出す装置である以上、スキャンの利益がリスクを上回ることと、ALARA(合理的に達成可能な限り低く)の原則の適用が前提だと釘を刺しています。
⑤治療の選択肢は5つ
治療の目的は、患部の歯を健康で機能する状態に保つこと、必要なら審美を改善することです。具体的な目標は吸収組織の除去、生じた欠損と侵入口の封鎖、再発の防止の3つ。
選択肢は上図の5つで、どれを選ぶかは病変の広がり・性状・到達しやすさで決まります。つまり治療方針の分岐点そのものが、画像で分かる情報に依存している。ESEが「治療を計画するとき」をCBCTの適応に挙げた理由が、ここにあります。
予後については、到達可能で保存的な治療が可能な病変は予後が良いとされました。ただし患者には治療成績に関するエビデンスが限られていることを説明すべき、という一文が続きます。
⑥明日の臨床へ
まず、歯頸部の透過像を見たときの鑑別リストにECRを常駐させることです。好発部位は上顎切歯・犬歯・第一大臼歯と下顎第一大臼歯。問診で外傷歴と矯正治療歴を確認する。ピンクスポットが見えたら鑑別に挙げる(歯冠側に及ぶ血管に富む病変がそう見えることがあり、歯肉縁上まで及んだ内部吸収も同じように見えうる、と原著は両方に触れています)。
次に、デンタルでできる鑑別をきちんとやる。病変越しに根管壁の輪郭が追えるか。パララックス法で位置を確認できるか。ここまでは追加の被曝も設備投資も要りません。
そのうえで、診断がつかない、あるいは治療に踏み込むと決めたなら、CBCT。なお推奨として名指しされているのはこの2場面ですが、原著は線量の記述に続けて「診断と経過観察への使用は正当化される」と書いており、経過を追う目的での撮影も否定していません。
そして最後に、削り始める前に決める。窩洞を開けてから「思っていたのと違う」と気づくのが、この疾患でいちばん避けたい展開です。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
ECRに典型像は無い。だからデンタル1枚だけで治療方針まで決めるのは無理がある。診断がはっきりしないとき、そして治療を計画するときにCBCTを撮る——ESEが推奨として引いたのはこの2本の線である。小照射野のCBCTの線量は、複数枚のパララックス撮影と同じオーダーだと明記されている。


