ペリオ|Phase2 歯周外科
拡大視野で組織を最大限に温存し、2層縫合で確実に閉じる。マイクロサージカルアクセスフラップは、それだけでもよく治ります。ではそこにエムドゲインを足す意味はどこにあるのか。2003年、Wachtelらは同じ患者の中で対になる骨縁下欠損を比べ、1年後に差がどう動いたかを見ています。
①膜が露出する、という積年の問題
1980年代初頭、GTR(組織再生誘導法)の原理によって新付着が形成されうることが示されました。その後の症例報告や比較試験でも、遮蔽膜を置くほうがフラップ単独よりも付着の獲得が大きいと報告されています。
ところが臨床研究が明らかにしたのは、結果のばらつきの大きさでした。症例によっては、むしろ中等度の付着喪失すら起きています。
何が結果を左右するのか——プラークコントロール、全顎の出血スコア、喫煙、歯周病原細菌の存在、欠損の位置と形態、そして膜の露出。とりわけ歯間部での膜の露出と、目立つ歯肉退縮は、術後数週によく観察される問題でした。露出した膜は細菌に汚染されます。
そこでマイクロサージェリー(拡大視野での低侵襲な手技)とGTRの組み合わせが試され、一次閉鎖の割合と組織温存の量に良い影響を与えることが示されました。けれど、エムドゲイン(EMD)を用いた欠損については、そうした情報がありませんでした。
②同じ患者の中で、対にして比べる
対象は骨内成分が3mm以上の骨縁下欠損を、少なくとも1対持つ患者11名。計26対の欠損が解析されました(1名で6対を提供した症例もあります)。患者の27%は1日10本未満の喫煙者。ベースラインの全顎プラークスコアは28±4.7%、全顎出血スコアは19±1.6%——口腔衛生はよく管理された集団です。
ベースラインの欠損は、テスト側でPPD 7.0±1.3mm・CAL 7.7±1.6mm・骨内成分4.8±1.8mm、対照側でPPD 6.5±0.8mm・CAL 7.2±1.4mm・骨内成分4.4±1.5mm。いずれも群間に有意差はありません。
両群とも、組織を最大限に温存するよう設計されたマイクロサージカルアクセスフラップで開きます。テスト側だけ、露出した根面を24%EDTAゲルで処理してからエムドゲインを応用。一次閉鎖は2層の縫合法で獲得します。
評価はベースライン・6か月・12か月で、盲検化された検者が担当。さらに術後1週と2週に、新しく提唱された早期創傷治癒指数(EHI)で治癒を評価しました。
EHIは5段階です。1=完全な閉鎖でフィブリン線なし、2=完全な閉鎖で細いフィブリン線、3=完全な閉鎖でフィブリン塊あり、4=不完全な閉鎖で歯間部組織の部分的な壊死、5=不完全な閉鎖で完全な壊死。「閉じたかどうか」を白黒でなく段階で記録するための道具です。
③1年で、差が開いていく
付着の獲得は、6か月でテスト2.8mm・対照2.0mm、12か月でテスト3.6mm・対照1.7mm。両群ともベースラインからは有意に改善(p<0.05)し、群間の差も両時点で有意(p<0.05)です。
数字の動き方に、目を留めたいところです。対照側は6か月の2.0mmから12か月の1.7mmへ、わずかに戻っています。一方テスト側は2.8mmから3.6mmへ、伸び続けました。6か月の時点では0.8mmだった差が、12か月では1.9mmに開いたことになります。
つまり、この試験の差は「術直後の勢い」ではなく「その後の1年で分かれた」——半年で評価を打ち切っていたら、この形は見えませんでした。
12か月時点の追加の歯肉退縮は、テスト0.3mm・対照0.4mm。有意差はありません。従来の研究では追加の退縮が0.6〜1.7mmと報告されていたことを考えると、どちらも極めて小さい数字です。
④閉じ続けられたことが、土台にある
術後2週で一次閉鎖が維持されていたのは、テスト側89%・対照側96%。膜を用いた術式で頻発していた歯間部の露出は、この術式ではほとんど起きていません。
EHIの平均値は、術後1週でテスト1.85±0.78——「完全な閉鎖で、細いフィブリン線がある」あたりです。創が開かなければ、細菌汚染の機会は最小限になります。
この論文の隠れた主役は、実はここかもしれません。再生材料の優劣を語る前に、まず創が閉じ続けていること。「両群ともマイクロサージカルフラップにより高い一次閉鎖率と最大限の組織温存が得られた」と著者らが最初に書いているのは、その順序を示しています。
⑤明日の臨床へ
1つ目。まず「閉じ続けられるか」を設計する。 組織を最大限に温存する切開と、2層の縫合。この土台がなければ、材料の議論に進めません。89〜96%という一次閉鎖率は、目標値として持っておける数字です。
2つ目。再評価を6か月で切らない。 6か月の差は0.8mm、12か月では1.9mm。再生療法の評価は、1年見てからのほうが実像に近いということになります。
3つ目。退縮の説明は、術式とセットで。 追加の退縮0.3〜0.4mmは、従来報告(0.6〜1.7mm)よりはるかに小さい。組織温存を狙った切開と縫合が効いています。「どの材料を使うか」より「どう開けてどう閉じるか」が、見た目を決めるとも読めます。
4つ目。適応は「骨内成分3mm以上」から考える。 この試験の対象は、骨内成分が3mm以上(平均4.4〜4.8mm)ある欠損です。浅い欠損に同じ結果を期待するデータではありません。
今日のひとこと
骨内成分が3mm以上の骨縁下欠損を、少なくとも1対(同一患者内)持つ患者11名・計26対の欠損を対象に、両群とも組織の最大限の温存を狙ったマイクロサージカルアクセスフラップで開き、テスト側だけ24%EDTAゲルで根面処理したうえでエナメルマトリックスデリバティブ(エムドゲイン)を応用した対照研究。一次閉鎖は2層の縫合法で獲得し、術後1週・2週に新しく提唱された早期創傷治癒指数(EHI・5段階)で治癒を評価しました。臨床的付着レベルの獲得は、6か月でテスト2.8mm・対照2.0mm、12か月でテスト3.6mm・対照1.7mm——両群ともベースラインから有意に改善し、かつ群間の差も両時点で有意(p<0.05)です。注目すべきは対照側が6か月の2.0mmから12か月の1.7mmへ戻っているのに対し、テスト側は2.8mmから3.6mmへ伸び続けた点。12か月時点の追加の歯肉退縮はテスト0.3mm・対照0.4mmで、有意差はありません。術後2週で一次閉鎖が維持されていたのは、テスト側89%・対照側96%。著者らの結論は「どちらの術式もマイクロサージカルフラップにより高い一次閉鎖率と最大限の組織温存が得られたが、ポケットの減少と付着の獲得という点では、エムドゲインの併用が単独のフラップより優れているように見える」というものです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


