30研究・10,136人・28薬剤を整理したシステマティックレビュー(Wierichs 2015・Journal of Dental Research)
根面う蝕は、削って詰めるのが難しい病変です。ではどの薬剤に、削らずに止める証拠があるのか。10,136人分のデータを「新しく発生させない」と「軟らかい病変を硬くする」の2つに分けて整理したところ、それぞれ別の答えが出てきました。
①根面の軟らかい病変を、削らずに硬くできるか
歯周治療が進み、退縮した歯肉から根面が出てくる。そこに軟らかい、境界のはっきりしない病変ができる。
根面う蝕は、削って詰めるのが難しい病変です。隣接面の根面はアクセスが限られ、健全な歯質を大きく削らないと届かない。しかも象牙質は臨界pHがエナメル質より高く、バイオフィルム下でその値に達しやすい——つまり進行が速い。
ドイツでは、65〜74歳の根面う蝕の有病率が1997年の15.5%から2006年には45%へ上がったと報告されています。歯が残る時代になったぶん、根面は増える。
では、削らずに止める手段のうち、どれに証拠があるのでしょうか。
②30研究・10,136人・28種類の薬剤
アーヘン工科大学のWierichsとMeyer-Lueckelが、1947年から2014年までの3つのデータベースを走査しました。
ただし、この10,136人がそのまま結論を支えているわけではありません。メタ解析は「2件以上の研究で比較された組み合わせ」に限って行われ、実際に統合できたのは6つの比較・17論文(14試験・患者4,270人、うち75.4%が試験を完遂)でした。後で出てくるリスク比0.49も、2件の研究(Baysan 2001とEkstrand 2013)から出た数字です。
もうひとつのポイントは、アウトカムが2種類に分かれていることです。「新しく発生させない(initiation)」と「できてしまった軟らかい病変を硬くする(inactivation)」。この2つを混ぜて読むと、結論を取り違えます。
③軟化病変を硬くするなら、5,000ppm
活動性の(軟らかい)根面病変を不活性化する——つまり硬く治癒させる——という点で、最も強い結果が出たのは高濃度フッ化物歯磨剤でした。
リスク比だけでは実感が湧きにくいので、原著が本文に出している実数も並べます。5,000ppm F⁻の歯磨剤では315病変のうち193が不活性化(61.3%)、1,100〜1,450ppmでは321病変のうち70(21.8%)(いずれも本文の実数から計算)。アルギニン配合では270病変中178(65.9%)対 258病変中147(57.0%)でした。
グラフのリスク比0.49は「軟化病変が硬くならずに残る側」の比なので、小さいほど良い、という向きになります。この2つが、標準濃度の歯磨剤よりも軟化病変の不活性化に有効でした。とくに5,000ppmは、このレビューで唯一「高い」エビデンスレベルが付いた項目です。
④発生を防ぐなら、CHXかSDFのバーニッシュ
一方、新しい根面う蝕の発生を減らす側では、プラセボバーニッシュとの比較で有意差が出たものが2つありました。
そのほかの結果も並べておきます。225〜900ppm F⁻の洗口液は、プラセボ洗口液と比べてDMFRS/DFRSが有意に減少(平均差 −0.18、95%CI −0.35〜−0.01、レベル「低い」)。自己適用のAmF/SnF₂(アミンフッ化物・フッ化第一スズ)配合の歯磨剤と洗口液は、NaF製品と比べて根面う蝕の発生を減らしましたが、標準化平均差 0.15(95%CI −0.22〜0.52)で信頼区間がゼロをまたいでいます(レベル「低い」)。
著者らの総括はこうです——5,000ppm F⁻歯磨剤の定期使用と、四半期ごとに専門家が塗布するCHXまたはSDFのバーニッシュが、それぞれ進行の抑制と発生の抑制に有効と思われる。
ただし塗布間隔については、注意書きが要ります。SDFのメタ解析に入った2つの研究は、塗布頻度が四半期ごと(Tan 2010)と年1回(Zhang 2013)に分かれていました。「3か月ごとでなければ効かない」ことが示されたわけではありません。
⑤なぜ濃度が効くのか
根面のう蝕は、エナメル質のう蝕とは条件が違います。象牙質は臨界pHが高いので、同じバイオフィルム環境でも脱灰側に振れやすい。加えて根面はコラーゲンを含むため、ミネラルが抜けたあとの構造の残り方も違います。
この条件で「硬くする」には、再石灰化を強く駆動する必要があります。5,000ppmという濃度は、1,450ppmの約3.4倍です。
原著自身がここで挙げる根拠は、機序の説明ではなく用量反応です——エナメル質のう蝕病変についてフッ化物の用量反応を報告した先行研究(Marinho 2003ほか)と一致する、と。口腔内のフッ化物濃度を高く保つほど効く、という素直な関係が、根面でも成り立っていたという読み方になります(この先の「リザーバーを厚くする」といった機序の言葉は、原著の記述ではありません)。
そして、この論文が2つのアウトカムを分けている意味も、ここで効いてきます。すでに軟らかくなった病変を硬くする(不活性化)のと、まだない病変を作らせない(発生予防)のとでは、必要な作用が違う。前者には高濃度フッ化物、後者にはCHXやSDFのバーニッシュ、という切り分けが結果から出てきました。
⑥明日の臨床へ
第一に、活動性の根面病変を見つけたら、まず歯磨剤の濃度を上げる。ただし正直に書くと、この論文が「高い」エビデンスレベルを付けた5,000ppmの歯磨剤は、日本では一般に流通していません(国内で薬用歯磨剤に認められているフッ化物濃度の上限は1,500ppmです)。そのため実務上は、上限濃度の製品を確実に、毎日2回使ってもらうところまでが現実的な射程になります。それでも「濃度を上げる」という方向性そのものには、このレビューで最も強い証拠が付いている——この事実は、製品選択と説明の優先順位を決めるうえで効きます。
第二に、発生予防と不活性化を分けて考える。「フッ素を塗っておけば全部カバーされる」ではなく、目の前の根面がすでに軟らかいのか、まだ健全なのかで打ち手が変わります。
第三に、塗布の間隔は四半期ごとを出発点に、症例で調整する。著者らの総括は四半期ごとの塗布を挙げていますが、SDFのメタ解析に入った2研究のうち1つは年1回の塗布でした。「3か月でなければ意味がない」とまでは言えません。
第四に、SDFは着色を必ず説明する。このレビューの対象ではありませんが、SDFの黒変は臨床では避けて通れない話です。根面という見えにくい部位であっても、前歯部の唇側では判断が変わります。
著者ら自身が最後に釘を刺しています——「この結論は、よく実施された無作為化比較試験がごくわずかしかないことに基づいている」。実際、エビデンスレベルが「高い」と評価されたのは5,000ppm歯磨剤のひとつだけで、CHXもSDFもアルギニンも「非常に低い」です。しかもその0.49も2件の研究から出た数字で、メタ解析に乗ったのは全体で17論文(14試験・4,270人)——看板の10,136人がそのまま結論を支えているわけではありません。言語は英語とドイツ語に限定されており、日本語をはじめ他言語の報告は拾われていません。また対象年齢が20〜101歳と極端に広く、20代の根面う蝕と90代のそれを同じ枠で扱うことの妥当性には議論があるでしょう。それでも、「発生を防ぐ」と「硬くする」を分けて整理したこの構造は、根面を前にしたときの思考の順番として、そのまま使えます。
今日のひとこと
「フッ素を塗っておく」では、この病変には足りない。すでに軟らかい病変を硬くするのか、まだ無い病変を作らせないのか——目標を先に決めれば、打ち手は分かれる。前者は高濃度フッ化物歯磨剤(315病変中193が不活性化、標準濃度は321中70)、後者は専門家によるCHXまたはSDFのバーニッシュだった。


