52本の研究・169通りの表面処理を整理したシステマティックレビュー(Özcan 2015・The Journal of Adhesive Dentistry)
ジルコニアにはシリカがないので、フッ酸+シランがそのままでは効きません。では何をすればよいのか。52本の研究を整理したところ、接着強さを最も強く動かしていたのは表面処理法でした。そして次に効いていたのは——材料の性質ではなく、測り方でした。
①ジルコニアは、なぜ「くっつきにくい」のか
ジルコニアにはシリカが入っていません。だから長年やってきた「フッ酸でエッチング→シランカップリング」の手が、そのままでは効きません。
維持形態が十分に取れる支台なら、機械的維持で足ります。しかし支台の高さが足りない、テーパーが強い、あるいは接着ブリッジ——維持が乏しい症例では、接着そのものが成否を分けます。
問題は、文献を読んでも答えが定まらないことでした。表面処理は何十通りもあり、セメントも複数系統あり、試験法も研究ごとに違う。この散らかった状態を、52本の研究を集めて整理したのがこのレビューです。
②52本の研究、169通りの表面処理
チューリッヒ大学のÖzcanとBernasconiが、MEDLINEで1995年1月1日から2011年6月1日までの原著論文を検索しました。
表面処理は4群に分類されました——コントロール(無処理)/物理的(エアアブレーションのみ)/化学的(プライマーやシランのみ)/物理化学的(エアアブレーション+化学的プライマー)。研磨材はAl₂O₃かSiO₂で、粒径は30〜250μmの範囲でした。
③無処理のジルコニアは、熱サイクルで0.61MPaまで落ちた
いちばん明快なのは、MDP系レジンセメントをマクロせん断で測ったときのふるまいです。
熱サイクルをかけると、無処理群だけが8.93から0.61へ、実質ゼロまで崩れました。一方、物理化学的処理を行った群は12.31から16.85へ、むしろ値を保っています。
同じ構図は自己接着性セメントでも見られました。マクロせん断・熱サイクルなしで、無処理 9.45(IQR 8.64)に対し、物理化学的処理 34.9(25.6)、物理的処理 18.2(17.16)MPa。ただしこちらは熱サイクルをかけるとすべての群で値が下がり、原著が置いた「10MPa」という目安を、老化後はどのデータも超えませんでした。
④ところが、試験法を変えると順序が入れ替わる
ここが、この論文をただの「エアアブレーションしろ」という話にさせない部分です。
同じMDP系セメントをマクロ引張で測ると、熱サイクルなしで最も高かったのは無処理のコントロール群(42.35、IQR 0)で、次いで物理的処理 34.2(24.18)、物理化学的処理 21.7(10.27)MPa——マクロせん断とは順序がまるごと逆になります。
ただしこの42.35という値には、重い但し書きが付きます。IQR(四分位範囲)が0——つまりこの条件に該当するデータが実質1つしかないということです。熱サイクルありのマクロ引張にいたっては、物理的処理のデータしか存在しませんでした(44.05、IQR 0)。
マイクロ引張でも、データが取れたのは物理化学的処理(熱サイクルなし12.03/あり9.4)と物理的処理(37.2/17.1)だけ。無処理と化学的処理のデータはありませんでした。
さらに、セメントの系統によってはほとんどデータが無いことも分かります。4-META系はマクロせん断・物理化学的処理のみ(熱サイクルなし19.9/あり9.35)、グラスアイオノマーにいたってはマクロせん断・物理的処理・熱サイクルなしの1条件だけ(4.7、IQR 9.12)でした。
⑤何が接着強さを動かしていたのか
統計解析(対数変換した平均接着強さを従属変数とした分散分析・表5)の結果はこうです。
いちばん強く効いていたのは表面処理法でした。ここは臨床の判断に直結します。
そして次に効いていたのが試験法——材料の性質ではなく、測り方です。しかも試験法と表面処理の交互作用が有意(p=0.003)ということは、「どの表面処理が良いか」の答えが、どの試験法で測ったかによって変わることを意味します。③と④で見た順序の入れ替わりは、まさにこれです。
なお、原著の抄録はこの4要因のp値を表面処理 0.044/セメント 0.018/試験法 0.017/エージング 0.003と報告しており、表5とは値が一致しません(とくに熱サイクルは、表5では有意でないのに抄録では有意とされています)。本記事は統計表である表5を採りました。
著者らが結論の最後に置いた一文も、この文脈で読むと重みが違って見えます——「ジルコニアの接着研究とデータの報告には、より多くの標準化が必要である」。
もうひとつ、エアアブレーション自体への留保もあります。異なるエアアブレーション条件が、ジルコニアの結晶変態やその後の低温劣化に影響を与える可能性は、歯科ではまだ明らかになっていない。だからMDP系セメントや自己接着性セメントのように、ジルコニア表面の酸化物と直接反応する化学的手段は、エアアブレーションの良い代替になりうるとも述べられています。
⑥明日の臨床へ
第一に、維持が乏しい症例で「無処理のまま装着」を選ばない。MDP系セメント・マクロせん断で、無処理群だけが熱サイクル後に0.61MPaまで崩れました。老化させたときに耐えたのは、処理をした群です。
第二に、原著が推すのは「物理化学的」処理=エアアブレーション+化学的プライマーの組み合わせである点に注意する。結論の文言は「physicochemical conditioning を行えば接着の向上が期待できる」であり、エアアブレーション単独(物理的処理)ではありません。実際、熱サイクル後に最も高い値を保ったのも物理化学的処理の群(16.85MPa)でした。
第三に、エアアブレーションの条件(粒径・圧・時間)を、技工所と揃えて記録しておく。このレビューが集めた研究では粒径が30〜250μmまで散らばっており、条件が違えば結果も違いうる、というのが著者らの立場です。
第四に、接着強さの絶対値そのものを製品比較の物差しにしない。試験法が有意に効き、しかも試験法と表面処理の交互作用まで有意でした。この論文が最も強く言っているのは、実はこの点です。
検索範囲は2011年6月までで、掲載は2015年です。この10年余りでジルコニアの組成(3Y-TZPから4Y・5Yの高透光性へ)もプライマーの処方も大きく変わっており、現行材料にそのまま当てはまるとは限りません。またこれは実験室研究のみを集めたレビューで、臨床の脱離率を測ったものではありません。統計面では、モデルの説明力がR²=0.237と低く、抄録と表5でp値が食い違う(熱サイクルは表5では有意でない)ほか、IQRが0の条件が複数ある=データ数が実質1つのセルが混じっています。記述統計として読むべき数字です。それでも、「有意に効いた要因のひとつは、材料ではなく測り方だった」という発見は、材料の数字とどう付き合うかという、もっと一般的な問いに効いてきます。
今日のひとこと
接着強さの数字は、材料の性質であると同時に、測り方の産物でもある。同じMDP系セメントが、マクロせん断では「処理した群が老化に耐える」と言い、マクロ引張では「無処理が最も高い」と言った。臨床で採るべき方針(エアアブレーション+化学的プライマー)は明確でも、数値そのものを製品比較の物差しにするには、まだ標準化が足りない。


