1問1答 論文 虫歯

健全な小窩裂溝は、塞いでも塞がなくても変わらなかった——効いたのは初期う蝕の面だった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|小窩裂溝填塞・初期う蝕・シーラントの適応

シーラントはどの歯に入れるべきか。「全部の第一大臼歯に」なのか、「怪しい溝だけに」なのか。ミシガン州フリントの学校歯科プログラムを5年追った研究が、この問いに数字で答えています。初期に健全と判定された面は、シーラントを入れても8.1%、入れなくても12.5%しか壊れませんでした(オッズ比1.63・有意差なし)。ところが初期う蝕と判定された面では、入れれば10.8%、入れなければ51.8%(オッズ比8.88)。同じシーラントが、面の初期状態によってまったく違う働きをしていました。

論文
Longitudinal Evaluation of Sealing Molars with and without Incipient Dental Caries in a Public Health Program
著者
Keith E. Heller, Susan G. Reed, Fred W. Bruner, Stephen A. Eklund, Brian A. Burt(ミシガン大学公衆衛生大学院 歯科公衆衛生プログラム)
掲載
Journal of Public Health Dentistry 1995;55(3):148-153
種類
後ろ向きコホート研究(学校歯科プログラムの5年追跡・無作為化なし)
PMID
7562727

その溝、本当にシーラントが要りますか

萌出したての第一大臼歯を見て、シーラントを入れるかどうか決める。まっさらに見える溝もあれば、着色していて探針が少し引っかかる溝もある。全部入れるのか、怪しいところだけ入れるのか

1980年代半ば、米国国立歯科研究所は初期う蝕へのシーラント使用を推奨しました。健全面を大量に塞ぐより、初期病変を選んで塞ぐほうが費用対効果が高いのではないか——公衆衛生の関心はそちらへ移っていました。

ミシガン大学のグループが、フリント市の学校歯科プログラムの記録を使って、その問いを5年間の実データで検証しています。

先に結論: 初期健全面は、シーラントを入れても8.1%、入れなくても12.5%しか壊れなかった(オッズ比1.63・有意差なし)。初期う蝕面では、入れれば10.8%、入れなければ51.8%(オッズ比8.88)。同じシーラントが、面の初期状態でまったく違う働きをした。

研究のつくりと、判定の基準

フッ化物添加地域であるフリント市の8つの小学校で、1987年から続いていたプログラムです。1987〜88年度に1年生だった557名のうち、5年後の1992〜93年度に再診査できた113名が解析対象になりました。

  • 介入:保護者の同意が得られた96名にシーラント(不透明なDelton・軽石清掃、30秒エッチング、可視光30秒/面)。同意が得られなかった17名が対照群
  • 対象面:第一大臼歯の小窩裂溝面。上顎は近心咬合面と遠心咬合面舌側、下顎は咬合面と頬側小窩。1人最大8面
  • 初期判定健全=エナメル表面に視認できる欠損や変色がなく、探針が引っかからない/初期う蝕=暗い着色・白亜様・探針がわずかに引っかかるが、エナメル表面の欠損は無い/明らかなう蝕=軟化と欠損がある(この面は解析から除外)
  • 解析面:既存の修復・シーラント・明らかなう蝕が無い797面。うち677面(84.9%)がシーラント
  • アウトカム:5年後のう蝕・修復・抜歯のいずれか

ベースラインでは54.7%(436/797)が初期う蝕と判定されています。診査した歯科医師自身が「初期う蝕の診断は難しい」と述べ、「迷ったときは初期う蝕に分類した」と明言しています。この一言は、あとで数字を読むときに効いてきます。

全体で見ると、シーラントは効いている

まず全体から。5年間で12.8%(102/797面)がう蝕・修復・抜歯に至りました。内訳はシーラント面9.6%(65/677)対 非シーラント面30.8%(37/120)オッズ比4.20(95%CI 2.56–6.88・P<.001)です。

面のデータは患者ごと・歯ごとにまとまっている(独立でない)ため、著者らはGEEでクラスター効果を調整しています。歯レベルの調整で信頼区間は2.39–7.37、患者レベルで1.96–8.98に広がりますが、どちらでも有意な関係は残りました。手堅い処理です。

シーラント面のう蝕発生率は非シーラント面の31.2%。これはRipaによる従来型シーラントの臨床研究のまとめ(およそ3分の1)とよく一致します。

ところが、初期状態で分けると絵が変わる

0 20% 40% 60% 5年後にう蝕・修復・抜歯に至った面の割合 (%) 8.1% 12.5% 10.8% 51.8% 初期健全シーラントあり 初期健全シーラントなし 初期う蝕シーラントあり 初期う蝕シーラントなし 初期健全は24/297対8/64、初期う蝕は41/380対29/56。健全面は塞いでも塞がなくても5年で1割前後しか壊れないが、初期う蝕面は塞がないと半分が壊れた
初期状態別に見た5年後のう蝕・修復・抜歯の割合。健全面はどちらでも1割前後、初期う蝕面は塞がないと半分が壊れた

初期健全面:シーラントあり8.1%(24/297)、なし12.5%(8/64)。差はありますが、統計学的には有意ではありません(P=.185)。

初期う蝕面:シーラントあり10.8%(41/380)、なし51.8%(29/56)。半分が壊れています。

0 6.7 13.3 20 シーラントなしのオッズ比(あり=1) 1.6 8.9 初期健全面 初期う蝕面 95%信頼区間は健全 0.63–4.08(P=.185・有意でない)、初期う蝕 4.56–17.35(P<.001)。2つのオッズ比の差はWoolf検定で有意(P=.0015)。本文の発生率から計算したリスク比は、健全 約1.5倍・初期う蝕約4.8倍
シーラントなしのオッズ比(あり=1)。健全面では1に近く有意でない一方、初期う蝕面では8.88まで開く

オッズ比で見ると、初期健全面は1.63(95%CI 0.63–4.08)で、信頼区間が1をまたいでいます=シーラントの有無と結果の関係は弱い。対して初期う蝕面は8.88(95%CI 4.56–17.35)

この2つのオッズ比の違いは、Woolf検定で有意(P=.0015)、ロジスティック回帰の交互作用項(シーラントの有無 × 初期う蝕かどうか)も有意(P=.0015)でした。つまりシーラントの効き方が、面の初期状態によって変わるということが統計学的に示されています。

なお本文の発生率から計算したリスク比は、初期健全面で約1.5倍、初期う蝕面で約4.8倍です。オッズ比のほうが大きく出ているのは、この題材で発生率が高い(初期う蝕・非シーラントで51.8%)ためです。臨床的な感覚に近いのはリスク比のほうになります。

子ども単位で見ても同じ

0 23.3% 46.7% 70% 子どもの割合 (%) 60% 41% 7% 41% 新たなう蝕が1面も無かった 3面以上にう蝕があった 濃い棒=シーラントを受けた群、淡い棒=受けなかった群。5年後の第一大臼歯の小窩裂溝面についての集計
子ども単位の集計。シーラント群96名と非シーラント群17名

面ではなく子どもで数えても方向は同じでした。5年後に新たなう蝕が1面も無かったのは、シーラント群で60%、非シーラント群で41%。逆に3面以上にう蝕があったのは、シーラント群で約7%、非シーラント群で41%です。

う蝕経験のある子どもの平均罹患面数は、健全群で2.0面、初期う蝕群で2.2面。う蝕がごく一部の子どもに集中しているわけではないことも確認されています。

明日の臨床へ

  • 「怪しい溝」を優先する根拠になる。着色し、探針がわずかに引っかかり、でもエナメルの欠損は無い——この面を塞ぐかどうかで、5年後の結果が10.8%と51.8%に分かれます。
  • まっさらな溝は、急がなくてよい場合がある。ただし「入れるな」ではありません。健全面でもシーラントありのほうが数字は良い(8.1%対12.5%)。有意差が出なかった理由には、健全面がそもそも壊れにくいことと、対照群が64面しかない検出力の低さの両方があります。
  • この結果はフッ化物添加地域のもの。水道水フッ化物添加のない日本では、健全面の5年う蝕率はこれより高く出る可能性があります。「健全面は塞がなくてよい」を、そのまま自院へ持ち込まない。
  • 入れたあとの点検を予定に組む。シーラント面でも9.6%が5年で壊れています。著者らも年1回の点検と再填塞は妥当だと結論しています。
  • 「迷ったら初期う蝕」で拾う。この研究の診査医が採った方針です。結果として初期う蝕の判定が多め(54.7%)になっていますが、拾ったうえで塞ぐほうが、見逃すより安全側に倒れます。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:ここは慎重に読む必要があります。無作為化されていません——群を分けたのは保護者の同意の有無で、著者ら自身が選択バイアスのリスクを認めています。実際、非シーラント群のほうがベースラインで明らかなう蝕のある面が多く(4.6%対1.1%・P=.01)、初期う蝕面は少なかった(43.1%対53.4%・P=.03)。対照群は17名・120面しかなく、初期健全面にいたっては64面です。有意差が出なかったことを「差が無い」と読むには弱すぎます。診査は単独の術者で、再現性の検証(重複診査)は行われていません。シーラントが不透明なので初期状態は見えなかったはずですが、脱離した面を厳しめに判定するバイアスの可能性は著者らも挙げています。5年間の修復は院外の開業医が行っており、その診断基準も不明です。それでも、「シーラントの効き方が面の初期状態に依存する」という交互作用が統計学的に示された点は、日々の適応判断に効く発見です。

今日のひとこと

フッ化物添加地域の学校シーラントプログラムで、第一大臼歯の小窩裂溝面797面を5年追跡した。保護者の同意が得られた96名(677面)にシーラントを入れ、同意が得られなかった17名(120面)を対照とした。全体では、シーラント面の9.6%(65/677)に対し非シーラント面は30.8%(37/120)がう蝕・修復・抜歯に至り、オッズ比4.20(95%CI 2.56–6.88・P<.001)。しかし初期状態で層別すると絵が変わる。初期健全面ではシーラントあり8.1%(24/297)対なし12.5%(8/64)、オッズ比1.63(95%CI 0.63–4.08・P=.185)で有意差なし。初期う蝕面ではあり10.8%(41/380)対なし51.8%(29/56)、オッズ比8.88(95%CI 4.56–17.35・P<.001)。2つのオッズ比の差はWoolf検定で有意(P=.0015)で、ロジスティック回帰の交互作用項も有意(P=.0015)だった。本文の発生率から計算したリスク比は、健全面で約1.5倍、初期う蝕面で約4.8倍。著者らの結論は「初期健全面は5年で壊れる可能性が低く、シーラントから大きな恩恵を受けなかった。初期う蝕面にシーラントを絞ることに明確な効率がある」。ただし対照群はわずか17名で無作為化もされていない。

Heller KE, Reed SG, Bruner FW, Eklund SA, Burt BA. Longitudinal evaluation of sealing molars with and without incipient dental caries in a public health program. J Public Health Dent. 1995;55(3):148-153. PMID: 7562727. DOI: 10.1111/j.1752-7325.1995.tb02358.x
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。