1問1答 論文 虫歯

咬耗しているから咬合高径が減っている、とは限らない——上げる前に確かめる3つの分かれ道

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|重度咬耗・咬合高径・咬合再構成・可逆的な試行

咬耗が進んだ口を前にすると、「高径が下がっているのだろう」と考えたくなります。ところがTurnerとMissirlianは1984年の総説でこう書いています。「広範な咬耗が咬合高径の低下をもたらすと広く想定されているが、それを支持する決定的な証拠は存在しない」。連続萌出が咬耗を代償しているからです。この論文は、咬耗症例を咬合高径の観点から3つに分け、それぞれで何をすべきかを整理しています。

論文
Restoration of the extremely worn dentition
著者
Kenneth A. Turner(アイオワ大学歯学部 クラウンブリッジ補綴学講座 主任教授), Donald M. Missirlian(パシフィック大学歯学部 クラウンブリッジ補綴学講座)
掲載
Journal of Prosthetic Dentistry 1984;52(4):467-474
種類
総説・臨床指針(ナラティブレビュー。比較試験ではない)
PMID
6389829

「これだけ咬耗しているのだから、高径は下がっている」

咬耗が進んで歯冠が短くなった口を見ると、そう考えたくなります。実際、修復のスペースが足りない。挙げてしまえば全部が解決するように見える。

ところがTurnerとMissirlianは、1984年の総説でこう書いています。「広範な咬耗が咬合高径の低下をもたらすと広く想定されているが、それを支持する決定的な証拠は存在しない」

理由は連続萌出です。緩慢な咬耗は、歯が萌出し続けることで代償される。咬耗の速度が萌出の速度を上回ったときにだけ、高径は下がります。だから咬耗の程度と高径の喪失は、別の話なのです。

先に結論: 咬耗症例は、咬合高径の観点から3つに分かれる。原則は「代替手段があるかぎり、高径を根拠なく上げない」。上げる第一の適応はカテゴリー1で、しかも可撤式スプリント6〜8週 → 固定式プロビジョナル2〜3か月という可逆的な試行を必ず先に置く。

なぜ「とりあえず上げる」が危ないのか

著者らは、咬合高径を上げたあとに報告されてきた術後の問題を列挙しています。原著は「わずかな挙上でも、最終補綴後に歯の移動が起こりうる」とも書いており、量だけの問題ではありません。くいしばり、筋の疲労、歯・筋・顎関節の圧痛、頭痛、歯の圧下、ポーセレンの破折、咬合の不安定、そして咬耗の継続

つまり上げること自体が治療になるとは限らず、新しい問題を作りうる。だから著者らは、修復に取りかかる前に「本当に高径が失われているのか」を確かめよ、と繰り返します。

ただし、確かめる道具のほうにも限界があります。

  • 臼歯部の支持:高径低下のおそらく最も多い原因は臼歯部の崩壊(欠損・傾斜・回転・破折)です。ただし安定した接触が少数でも高径は保たれる一方、対合する斜面同士の接触が多数あっても高径は失われうる。数ではなく安定性を見る。
  • 咬耗の病歴:長年の緩慢な咬耗(ブラキシズム)は代償されやすく、先天異常や酸蝕のように速い崩壊では萌出が追いつかない。
  • 発音(最小発語空隙):/S/音のとき、下顎前歯切縁は上顎前歯切縁の約1mm下方かつ舌側に来る。これより明らかに離れていれば高径喪失を疑う。
  • 安静空隙:Niswongerは重度咬耗の200名のうち83%で安静空隙が約3mmだったと報告している。ただし著者らは、測定法が多様で不正確で一貫しないので補助的な指標としてのみ使えと釘を刺しています。
  • 顔貌:顔面の輪郭の減少、赤唇の狭い薄い口唇、口角の下垂は過閉鎖に伴う所見。ただしシワや輪郭の喪失は正常な加齢でも起きるため、「若返らせたい」という誘惑には抵抗すべきだと明記されています。

3つの分かれ道

咬合高径は本当に失われているか 失われている 失われていない

カテゴリー1 咬耗+咬合高径の喪失 臼歯部の支持が崩れ、前歯が咬耗 典型例は最小発語空隙3mm・安静空隙6mm

材料のスペースはあるか ある 限られる

カテゴリー2 臼歯部の支持は健全 連続萌出が高径を保った 安静空隙2〜3mm 最小発語空隙1mm

カテゴリー3 最も難しい類型 中心位=中心咬合位 安静空隙2〜3mm 最小発語空隙1mm

高径を上げる第一の適応はここ 可撤式スプリントで6〜8週の試行 → 固定式プロビジョナルで2〜3か月 → その形態を最終補綴に写す

著者らの原則 代替手段があるかぎり、咬合高径を根拠なく上げることは避ける。上げるなら必ず可逆的な試行を先に置く(数値は典型例で、判定の閾値ではない)

咬耗症例を咬合高径の観点から3つに分ける。判定の目安として挙げられている数値は、著者らが示した典型例のもの

カテゴリー1:咬耗+咬合高径の喪失。典型例は、臼歯を数本失って臼歯部咬合が不安定になり、前歯が過度に咬耗し、最小発語空隙3mm・安静空隙6mm、口角の下垂など顔貌の変化を伴う患者。もうひとつの例として、35歳・象牙質形成不全症で、最小発語空隙5mm・安静空隙9mm、中心咬合位で下顎前突様に見える患者が挙げられています。高径を上げる第一の適応はこの群です(数値はあくまで典型例の記述で、判定の閾値ではありません)。

カテゴリー2:高径の喪失は無いが、スペースは作れる。臼歯部の支持は十分で、ブラキシズムや環境要因による緩慢な咬耗の長い病歴がある。安静空隙2〜3mm・最小発語空隙1mm。連続萌出が高径を保っているので、一見すると材料のスペースが無いように見えます。

しかし下顎を中心位へ誘導すると、中心位から最大咬頭嵌合位へ向かう前方すべりが大きいことが多い。ここを咬合調整するか、臼歯部を中心位で安定するように修復し、対合歯のエナメルプラスティを併用すれば、高径を上げずにスペースが作れる。これがこの論文の実務上の核心です。

カテゴリー3:高径の喪失も無く、スペースも限られる。40〜50歳で、臼歯部の咬耗は軽微、前歯だけが約25年かけて咬耗した患者。中心位と中心咬合位が一致し、最小発語空隙1mm・安静空隙2〜3mm。著者らはこれが最も難しいと書いています。

上げると決めたら、可逆的な順番で

咬合高径を上げると決めたときの段取り(可逆から不可逆へ) 1 2 3 可撤式スプリント または治療用義歯 6〜8週 完全に元へ戻せる段階 固定式プロビジョナル 診断用ワックスアップから さらに2〜3か月 快適さ・機能・審美・清掃性を評価 最終補綴 プロビジョナルで作った 高径・機能・審美を写す ここから先は戻せない 咬合高径を上げたあとに報告されている術後の問題 くいしばり / 筋の疲労 / 歯・筋・顎関節の圧痛 / 頭痛 歯の圧下 / ポーセレンの破折 / 咬合の不安定 / 咬耗の継続 わずかな挙上でも歯の移動は起こりうる。スプリントを受け入れられたことだけを根拠に確定診断しない

咬合高径を上げる場合の段取り。戻せる段階を先に、戻せない段階を最後に置く

カテゴリー1で高径を上げると判断したとき、著者らが示す順番はこうです。

  1. 可撤式のオクルーザルオーバーレイスプリント、または治療用義歯で、推定した最適位置まで高径を回復する。6〜8週のあいだ定期的に観察し、調整しながら快適さと機能を評価する。
  2. 患者が受け入れたら、支台歯を形成し固定式のプロビジョナルを装着する。診断用ワックスアップから起こした加熱重合レジンが一般的で、数か月の咬合機能に耐える。ここでさらに2〜3か月、快適さ・機能・審美・清掃性を吟味する。
  3. 最終補綴は、プロビジョナルで作り上げた高径・機能・審美をそのまま写す

ここで著者らが注意しているのが「可撤式を受け入れられたことだけを根拠に確定診断してはいけない」という点です。患者は、試した高径が過大だったことによるストレス・疲労・圧痛の時期に、装置を外している可能性がある。だから固定式で連続的に確かめる段階を挟むわけです。

スペースの作り方(カテゴリー2・3)

カテゴリー2で必要になるのは、高径ではなく形成と歯周の設計です。臨床歯冠が短く咬耗の既往がある患者では、対向する軸面の厳密な平行性が不可欠で、補助的にピンや溝を用いることもある。歯冠長を得るために歯肉整形や骨整形が必要になることもあります。

ここで著者らが添えているのが実務的な一言で、咬耗症例の多くは歯周支持が良好なので、支持骨を2〜3mm削除しても歯周的な予後を損なわないのが通常だ、と。病的な骨吸収が既にある場合は、骨をさらに犠牲にせず軟組織の手術で歯冠長を得られることが多い、とも書いています。

カテゴリー3では、スペースそのものを作りにいきます。原著が挙げる手段は4つ——矯正的移動(前後的な移動と限定的な圧下。成人の圧下は相当に難しい。矯正治療自体に通常6〜12か月かかる)、修復学的リポジショニング、歯槽骨ごとのセグメントの外科的移動(LeFort I法の応用)、そして計画的な咬合高径の変更です。

つまり高径を上げるという手段は、カテゴリー3でも消えていません。ただし原著の書きぶりは重い。「高径の喪失が明らかでない症例で、材料のスペースを得るために高径を上げることはめったに勧められない。必要と判断した場合も、増加は最小限にとどめ、修復上の必要のためだけに行う。試行的修復が決定的に重要で、より長い期間をかけて評価しなければならない」。カテゴリー1で上げるときより、条件が一段厳しくなります。

矯正で前歯を前方へ動かすと近遠心的なスペースが生じるため、最終補綴の歯がやや幅広になることを、治療前に患者から了解を得ておくべきだと著者らは念を押しています(錯覚を使って細く見せる工夫も併記されています)。また、咬耗した歯の連続萌出は歯槽骨と軟組織の萌出を伴うため、咬合平面と歯肉縁が不揃いになる。ここは歯周外科で整えると、咬合平面も見た目も収まりやすい。

なお、形成時の咬合面削除が髄腔に及ぶ場合や、咬耗そのものが歯髄を脅かす場合には歯内療法が必要になることも明記されています。

明日の臨床へ

  • 咬耗の程度から、高径の喪失を推定しない。まず臼歯部支持・咬耗の病歴・発音・安静空隙・顔貌を並べて、どのカテゴリーかを決める。
  • 安静空隙の測定値は、単独で判断根拠にしない。著者らが「多様で不正確で一貫しない」と書いている以上、複数の所見を重ねる。
  • スペースが無い=高径を上げる、と直結させない。カテゴリー2では、中心位への誘導・咬合調整・臼歯部の修復・エナメルプラスティで解決できることがある。ここを試さずに上げてしまうのが、いちばん起こりやすい失敗です。上げてはいけない、という話ではありません——代替を試したうえでなお必要なら、条件を重ねて上げる、という順番の問題です。
  • 上げるなら、戻せる順番で。スプリント6〜8週 → 固定式プロビジョナル2〜3か月。この数か月を省くと、不可逆の最終補綴で初めて問題に気づくことになります。
  • 加齢による顔貌の変化を、高径で取り戻そうとしない。著者らが名指しで戒めている誘惑です。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これは比較試験ではなく、総説・臨床指針です。3つのカテゴリーは著者らの臨床経験から組まれた枠組みであって、群分けの妥当性や治療成績を検証したデータは示されていません。挙げられている数値(最小発語空隙3mm・安静空隙6mm など)も、統計的な閾値ではなく典型例の記述です。引用されているNiswongerの83%も1930〜40年代の古い調査で、著者ら自身が測定法の不正確さを認めています。1984年の論文なので、接着修復やデジタルでの咬合分析も前提外です。それでも、「咬耗=高径低下」という思い込みを外すことと、不可逆の処置の前に可逆的な試行を置くこと——この2つの骨格は、40年たっても咬合再構成の入口で効き続けます。

今日のひとこと

重度咬耗の症例を、咬合高径の観点から3つに分ける。カテゴリー1=咬耗+咬合高径の喪失(臼歯部支持の崩壊がおそらく最も多い原因。最小発語空隙3mm・安静空隙6mm、顔貌の変化を伴う例が典型)。カテゴリー2=高径の喪失は無いが材料のスペースは作れる(臼歯部支持は健全、緩慢な咬耗を連続萌出が代償している。安静空隙2〜3mm・最小発語空隙1mm。中心位で見ると前方すべりがあり、咬合調整や臼歯部の修復、対合歯のエナメルプラスティでスペースを作れる)。カテゴリー3=高径の喪失も無くスペースも限られる(40〜50歳、臼歯部の咬耗は軽微で前歯だけが約25年かけて咬耗。最も難しく、矯正的移動・修復学的リポジショニング・セグメントの外科的移動・計画的な咬合高径の変更の4つでスペースを作る)。高径の喪失が診断できない症例でも、高径を上げる以外に方法が無いことは時にある。ただし原著は「めったに勧められない。必要と判断した場合も増加は最小限にとどめ、修復上の必要のためだけに行う。試行的修復が決定的に重要で、より長い期間をかけて評価しなければならない」と条件を重ねている。著者らの原則は「代替手段があるかぎり、咬合高径を根拠なく上げない。上げるなら必ず可逆的な試行から」——可撤式スプリントまたは治療用義歯で6〜8週、続いて診断用ワックスアップから起こした固定式プロビジョナルでさらに2〜3か月、そこで確認できた高径・機能・審美を最終補綴に写す。高径を上げた場合に報告されている術後の問題は、くいしばり・筋疲労・歯や顎関節の圧痛・頭痛・歯の圧下・ポーセレンの破折・咬合の不安定・咬耗の継続。

Turner KA, Missirlian DM. Restoration of the extremely worn dentition. J Prosthet Dent. 1984;52(4):467-474. PMID: 6389829. DOI: 10.1016/0022-3913(84)90326-3
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。