1問1答 論文 虫歯

NaFとMFP、同じ950ppmFでも歯の守り方はまるで違った——22日間のpHサイクル試験

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化ナトリウム・モノフルオロリン酸ナトリウム・耐酸性・XMR(in vitro)

歯磨剤の裏面を見ると、フッ化物の種類が書いてあります。NaFかMFPか。どちらも950ppmFなら同じことだろう——そう思って説明していないでしょうか。花王ヘルスケア研究所と愛知学院大学のグループが、この2つを同じフッ素濃度に揃えて22日間のpHサイクル試験にかけ、エナメル質の中で何が起きているかをX線マイクロラジオグラフで見ました。結果は、まるで対照的でした。

論文
950ppmFフッ化ナトリウムおよびモノフルオロリン酸ナトリウムのエナメル質耐酸性に及ぼす影響
著者
山岸敦(花王株式会社ヘルスケア研究所)、加藤一夫、中垣晴男(愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座)
掲載
口腔衛生学会雑誌 2007;57(1):13-21
種類
in vitro 実験(ウシ切歯エナメル質・1群6切片・22日間のpHサイクル試験・XMR)
PMID
なし(日本語誌のためPubMed未収載)

NaFとMFP、違いを説明できますか

歯磨剤の成分表示には、フッ化物の種類が書かれています。フッ化ナトリウム(NaF)か、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)か。どちらも950ppmFなら同じでしょう——そう説明していないでしょうか。

この研究は、その2つを同じフッ素濃度(0.05M=950ppmF)に揃えて22日間のpHサイクル試験にかけ、エナメル質の中で何が起きているかをX線マイクロラジオグラフ(XMR)で見ました。結果は、まるで対照的でした

先に結論: NaFは表層近くに強い耐酸性層を作る(耐酸性層の厚み Alt 93〜115μm)。MFPは深くまで浸透して厚い層を作る(Alt 約300μm)。22日間の脱灰量ΔZはNaF 2,637 対 MFP 3,689でNaFが有意に小さい。「どちらが優れているか」ではなく「効き方が違う」

ウシの歯を、22日間かけて酸にさらす

  • 試料30週齢前後のウシ切歯のエナメル質。厚さ約400μmの切片に約400×2,000μmのウインドウを作製。1群6切片・計18切片
  • フッ化物溶液NaF・MFPともフッ素濃度0.05M(950ppmF)に調整
  • pHサイクル試験(試験1):NaF群・MFP群はそれぞれの溶液に3分間浸漬、脱イオン水で30秒洗浄。これを室温で朝夕2回。それ以外の時間は37℃・pH4.5の脱灰ゲルに浸漬。対照群はイオン交換水で同じ操作
  • 期間22日間(対照群は、先行実験で脱灰8日目から表層の喪失が始まるため、あらかじめ6日間で終了)
  • 評価:XMRからΔZ(脱灰量)と Ld(脱灰深さ)を算出。数値が小さいほど耐酸性が高い
  • 耐酸性層の構造確認(試験2):22日間のフッ化物処理を終えた試料を、さらに厳しい pH4.0 の脱灰ゲルで2日間・6日間処理し、耐酸性層の形と厚みを比較
  • 統計:6日目までは一元配置分散分析+Tukey-Kramer法、それ以降の2群間はt検定

ポイントは「日常のセルフケアを想定した条件」だと著者らが明記していることです。1日2回・3分間という設定は、歯磨剤の使用を意識したものです。

脱灰量で見れば、NaFが優勢

0 1400 2800 4200 ΔZ(脱灰量・vol%・μm)— 小さいほど耐酸性が高い 116 673 1390 2294 1947 3341 2637 3689 2日目 6日目 10日目 22日目 濃い棒=NaF、淡い棒=MFP。対照群は2日目1,708・6日目7,799(先行実験の知見から6日間で終了)。4日目はNaF1,208対MFP 1,191とほぼ同値で、10日目以降にNaFが有意に小さくなる。2日目のNaFは116±149とばらつきが大きい(1群6切片)
ΔZ(脱灰量)の推移。値が小さいほど耐酸性が高い(試験1・表1)
  • 2日目:NaF 116±149/MFP 673±320/対照 1,708±508(NaF-MFP p<0.05、フッ化物2群と対照はいずれも p<0.01)
  • 4日目:NaF 1,208/MFP 1,191——この時点だけは数値上MFPがわずかに小さく、順位が入れ替わっている(有意差なし)
  • 6日目:NaF 1,390/MFP 2,294/対照 7,799NaFとMFPの差は4日目・6日目では有意ではなかった
  • 10日目以降:NaF 1,947 対 MFP 3,341(p<0.01)。22日目は 2,637 対 3,689(p<0.05)
  • Ld(脱灰の深さ)も同じ傾向:22日目でNaF 172.0μm 対 MFP 331.7μm(p<0.01)

初期の立ち上がりが速いのはNaFです。2日目の時点で、脱灰量は対照の約15分の1(116 対 1,708)まで抑えられていました。ただし116という値の標準偏差は±149——平均を上回るばらつきで、1群6切片という規模も踏まえて割り引いて読む必要があります。MFPも673と抑えていますが、NaFほどではありません。

ところが、層の作られ方がまったく違う

0 116.7 233.3 350 耐酸性を示した層の厚み Alt(μm) 93 303 115 295.3 脱灰2日目 脱灰6日目 濃い棒=NaF、淡い棒=MFP。試験2(22日間のフッ化物処理後にpH4.0で脱灰)のXMRパラメーターAlt。いずれもp<0.01(表3)
試験2(22日間の処理後、pH4.0で脱灰)における耐酸性層の厚み Alt(表3)
  • NaF処理表層の上部は脱灰2日目には消失しており、その下の約100μmだけが耐酸性を示して残っていたさらにその下部には強い脱灰が認められた
  • MFP処理:表層に軽度の脱灰は見られたものの、耐酸性を有する層は約300μmの厚みを持っていた
  • 耐酸性層の厚み Alt(表層喪失Slを差し引いた表面から、脱灰が最も進んだ深さVminまでの距離として算出):NaF 93.0μm/MFP 303.0μm(2日目)NaF 115.0μm/MFP 295.3μm(6日目)(ともに p<0.01)
  • 脱灰深さ Ld:NaF 216.8→269.7μm/MFP 356.3→435.2μm(ともに p<0.01)
  • 表層喪失量 Slは逆で、NaFのほうが大きい(2日目 21.7 対 8.0μm、6日目 27.2 対 16.8μm、ともに p<0.05)
  • この試験2では、ΔZには有意差がありませんでした(2日目 6,114 対 7,303、6日目 9,496 対 11,183、いずれもNS)

つまり——NaFは薄く硬い盾を表面近くに作り、MFPは表層近くの守りでは劣るが、厚く均一な盾を深くまで作るΔZという「合計の脱灰量」だけを見ていると、この違いは見えません。試験2でΔZに差がつかなかったのに、層の構造にははっきりした差があったことが、それを示しています。

なぜ効き方が分かれるのか

著者らはメカニズムの違いをこう説明しています。

  • NaF:溶液中でフッ素イオンとして存在し、複分解反応を主なメカニズムとして歯面にフッ化カルシウム(CaF₂)様物質を形成する。反応が速く、表面で完結しやすい
  • MFP:フッ素がリン酸と結合した状態(PO₃F²⁻)で存在する。歯面で急速に反応しにくいぶん、エナメル質の内部へ拡散していける——それが300μmという厚みにつながる

NaFの「表層の上部が2日目に消失した」という所見は、CaF₂様物質は酸に溶けやすいことと整合します。速く効くが、酸にさらされると先に失われる。一方MFPは立ち上がりは遅いが、深部に残る速効性と浸透性——著者らの言い方を借りれば、この2つは互いに対照的です。

明日の臨床へ

  • 「NaFのほうが良い歯磨剤です」とは言えません。この研究が示したのは効き方の違いであって、う蝕の発生率を比べたわけではありません
  • 著者らは使い分けを提案しています——健全なエナメル質のう蝕予防には速効性の高いNaF、初期う蝕病変には浸透性と耐酸性の高いMFPまたはNaFとの併用。ただしこれはin vitroの所見からの提案であって、臨床で検証されたものではありません
  • ΔZだけで判断しないという読み方の練習にもなります。総量が同じでも、守っている場所が違うことがある
  • 患者説明で使うなら——「フッ素は種類によって、歯の表面を固める働き方が少し違うことが実験でわかっています。どちらも950ppmなら、まずは毎日使い続けることのほうが大事です」くらいが、この研究から言える範囲です
ここだけ、冷静に補助線 — 最大の限界ははっきりしています。これは in vitro、しかもウシの歯です。加えて筆頭著者かつ責任著者は歯磨剤メーカー(花王)の研究所に所属しており、企業研究であることは踏まえて読む必要があります。唾液も、プラークも、細菌も、ペリクルもありません。実際の口腔内では、唾液のカルシウムやリン、ペリクルの存在がフッ化物の反応をまるごと変えます。1群6切片という規模で、う蝕の発生を見た研究ではありません——測っているのは脱灰量と層の構造です。「耐酸性が高い」は「虫歯になりにくい」と同義ではありません。また実際の歯磨剤はフッ化物以外の成分(研磨剤・界面活性剤・増粘剤)を含み、使用時間も口腔内では大きく希釈されます。この試験の「3分間の浸漬」は、現実の歯磨きとはかなり違う条件です。そして本論文の緒言でも触れられているとおり、ヒトの臨床研究での評価は必ずしも一致しておらず、NaFとMFPで明確な差が表れにくいとされています——本研究はその臨床所見を覆すものではなく、「なぜ差が出にくいのか」を考える材料として読むのが妥当でしょう。それでも、同じ濃度に揃えて22日間追い、層の構造まで見たという設計の丁寧さは、フッ化物の働きを理解するうえで価値があります。

今日のひとこと

同じ950ppmFでも、NaFは表層近くに強い耐酸性層を作り(Alt 93〜115μm)、MFPは深くまで浸透して厚く均一な層を作った(Alt 約300μm)。22日間の脱灰量ΔZはNaF 2,637・MFP 3,689でNaFが有意に小さい。ただしこれはウシ歯を使った実験室の話で、唾液も細菌もプラークもなく、筆頭著者は歯磨剤メーカーの研究所所属である。「NaFのほうが優れている」ではなく「効き方が違う」——臨床にはそこまでを持ち帰りたい。

山岸敦、加藤一夫、中垣晴男. 950ppmFフッ化ナトリウムおよびモノフルオロリン酸ナトリウムのエナメル質耐酸性に及ぼす影響. 口腔衛生学会雑誌. 2007;57(1):13-21.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。