1問1答 論文 虫歯

フッ素なしのハイドロキシアパタイト歯磨剤は、大人でも「劣らなかった」——18か月の二重盲検RCT

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カリオロジー|10%ハイドロキシアパタイト・1450ppmフッ化物・非劣性試験

「フッ素なしでも大丈夫ですか」と聞かれたとき、これまで示せる根拠は子どもと矯正患者のものしかありませんでした。大人のデータが無かったのです。ポーランドの2大学が、18〜45歳の194名を18か月追いかけて、10%ハイドロキシアパタイト歯磨剤と1450ppmフッ化物歯磨剤を二重盲検で比べています。結論は「劣らなかった」。ただし、この試験が何を証明して何を証明していないのかは、丁寧に分けて読む必要があります。

論文
Caries-preventing effect of a hydroxyapatite-toothpaste in adults: a 18-month double-blinded randomized clinical trial
著者
Paszynska E, Pawinska M, Enax J, ほか
掲載
Front Public Health. 2023;11:1199728
種類
二重盲検ランダム化比較試験(非劣性試験・2施設・194名を無作為化・18か月)
PMID
37533523

「フッ素なしでも大丈夫ですか」に、大人のデータが無かった

売り場にはフッ素なしのハイドロキシアパタイト(HAP)歯磨剤が並び、患者さんから聞かれる回数も増えました。

これまで示せる根拠はありました。ただし子ども(Paszynska 2021)と、矯正中の高リスク青年(Schlagenhauf 2019)のものです。大人で確かめた試験は、無かった

今回はそこを埋めにいった研究です。ポーランドのポズナン医科大学とビャウィストク医科大学で、18〜45歳の194名を無作為に2群へ分け、18か月追いかけた二重盲検試験

先に結論: 18か月でDMFSが増えなかった人の割合は、HAP群 89.29%/フッ化物群 87.36%(PP解析)。差の片側95%信頼区間の上限は6.84%で、あらかじめ決めた非劣性マージン20%を大きく下回った——「劣らない」は示された。ただし「優れている」は示されていない

比べたのは、有効成分だけが違う2本のチューブ

この試験の設計で、いちばん効いているのは2本の歯磨剤の作り方です。

  • 試験品10%ハイドロキシアパタイト・フッ素ゼロ(市販のKarex相当)
  • 対照品フッ化ナトリウム 1450ppmF
  • それ以外の成分は同一——水・含水シリカ・グリセリン・キシリトール・香料まで揃えてあり、違うのは有効成分だけ。両方とも同じ形の無地のチューブに入れられ、被験者も検査者も中身を知りません

その他の条件も揃えられています。

  • 電動歯ブラシ1日2回・3分(ブラシヘッドは2か月ごとに交換)
  • 試験期間中、他のフッ化物/HAP製品(洗口液・ジェル・サプリ・プロによる塗布)はすべて禁止
  • 組み入れ条件は「う蝕のない大臼歯・小臼歯が10本以上」。未処置う蝕・重度歯周炎・矯正中・唾液に影響する疾患や薬剤は除外
  • 評価はDMFS(視診)に加えて、DIAGNOcam(近赤外光透照法)とプラークコントロールレコード(PCR)。DMFSとPCRは0・6・12・18か月の4回、DIAGNOcamはベースラインと18か月の2回

主要評価項目は「18か月でDMFSが増えなかった人の割合」。非劣性マージンはΔ=20%と事前に設定されました。

結果——ほぼ9割が、どちらの群でも増えなかった

0 33.3% 66.7% 100% 18か月でDMFSが増えなかった人の割合 (%) 87.4% 89.3% 88.4% 90.4% PP解析 ITT解析 濃い棒=フッ化物群/淡い棒=HAP群。差の片側95%信頼区間の上限は6.84%(PP)で、非劣性マージン20%を下回った
18か月でDMFSが増えなかった人の割合。PP解析でHAP群89.29%(75/84)対フッ化物群87.36%(76/87)、ITT解析で90.43%対88.42%

194名が無作為化され、ITT集団189名、プロトコル遵守(PP)集団171名で解析されました。脱落は20名(10.3%)で、う蝕の発生を理由に脱落した人は一人もいません

PP解析で、DMFSが増えなかった人はHAP群 89.29%(75/84)フッ化物群 87.36%(76/87)。差(ΔDMFS%)は−1.93%で、片側95%信頼区間の上限は6.84%——非劣性マージン20%を大きく下回りました。ITT解析でも90.43%対88.42%、上限5.68%で同じ結論です。

両側95%信頼区間は−12.2%〜8.24%(PP)。ゼロを含んでいるので、優越性は主張できません。著者らは「同等性のマージンを−20%〜+20%と置けば、非劣性だけでなく同等性を示す結果とも言える」と書いています。

0 0.1 0.3 0.4 18か月でのDMFSの平均増加量(本人あたり面数) 0.31 0.02 フッ化物 1450ppm ハイドロキシアパタイト 10% 群内で見ると、フッ化物群は18か月でDMFSが有意に増え、HAP群は有意な増加が無かった。ただし両群の差そのものは有意ではない
18か月でのDMFSの平均増加量。群内で見ると、フッ化物群は有意に増え(信頼区間が0を含まない)、HAP群は有意な増加が無かった。ただし両群間の差は有意ではない

ここは読み方に注意が要る箇所です。群の中での変化を見ると、フッ化物群では18か月でDMFSが統計的に有意に増加し(95%信頼区間が0を含まない)、HAP群では有意な増加が無かった。平均増加量は0.31 対 0.02です。

ただしこれは「群内での前後比較」であって、両群を直接比べた検定ではありません。前述の信頼区間(−12.2%〜8.24%)は主要評価項目=「増えなかった人の割合の差」のもので、平均ΔDMFSの群間信頼区間は原著に示されていません。「HAPのほうが優れていた」と読むのは行き過ぎです。

DIAGNOcamとプラークでも、同じ向きの結果

  • DIAGNOcam(近赤外光透照)で数えたう蝕病変:増えなかった人はHAP群 60.71%、フッ化物群 57.47%。差は−3.24%で、上限9.27%=ここでも非劣性。視診のDMFSより「増えた人」が多く出るのは、この方法が表面下の病変も拾うためです
  • プラークコントロールレコード(PCR):両群とも18か月で有意に低下(p<0.001)。群間差は有意ではありません(p=0.59)。著者らは「HAP群のPCRに下がる傾向があった」と書いていますが、検定では差がついていません
  • 安全性:重篤な有害事象はゼロ。有害事象と歯磨剤の因果は、ほぼすべて「考えにくい」と判定されています(対照99.0%・試験99.4%)

もう一つ、副次的にわかったことがあります。18か月でDMFSが増えるリスクは、女性より男性で高かった——男性 13/57(22.8%)に対し女性 7/114(6.1%)。原著が示した調整後のオッズ比は4.7(歯磨剤・施設・性別・年齢を共変量に入れたロジスティック回帰の値)。本文の実数から計算したリスク比は約3.7です(オッズ比は「倍」で語れる数字ではないので、割合の比が知りたければこちらを見ます)。年齢や施設ではリスクは変わりませんでした。

明日の臨床へ

この論文が使える場面と、使えない場面を分けておきます。

  • 使える:「フッ素をどうしても避けたい」という大人に対して、18か月の無作為化二重盲検試験で1450ppmフッ化物に劣らなかったという根拠を、はじめて大人のデータとして示せます。しかも成分表が有効成分以外まったく同じ2本を比べた、条件のそろった試験です
  • 使えない:「HAPのほうがフッ素より優れている」という説明。この試験は優越性を示していません
  • そのまま当てはめられない:対象はう蝕のない大臼歯・小臼歯を10本以上もつ、健康な若年成人です。実際、両群とも約9割が18か月で1面も増えていません——もともと増えにくい集団だということです。高リスクの患者さん、根面う蝕を抱えた高齢者、唾液が少ない方に、この結果をそのまま持っていくことはできません
  • 環境の違い:全員が電動歯ブラシで1日2回3分、6か月ごとに歯科を受診し、他のフッ化物製品を一切使わない——という条件下の話です
ここだけ、冷静に補助線資金はDr. Kurt Wolff社(HAP歯磨剤Karexの製造元)と参加した両大学から出ており、著者のうち3名は同社の社員です(原著の利益相反に明記)。試験の設計自体は堅い——二重盲検、有効成分以外を揃えた製剤、事前登録(NCT04756557)、外部モニターによる監視——ので、この一点で結果を捨てる必要はありません。ただし「誰が調べたか」は結論の重みに関わる情報なので、患者さんに説明するときも自分の頭の中でも、外さないでおきます。加えて、非劣性マージン20%はかなり広い設定です。著者ら自身も、集団が健康で均質だったこと、6か月ごとに歯科を受診する管理された環境だったこと、プラセボ群を置けなかったことを限界として挙げています。18か月という期間について、原著は「従来のう蝕予防試験より長い」と長所に挙げていますが、著者ら自身が推奨するバイトウィングの間隔(約24か月)に照らすと、十分と言い切れるわけではありません。

今日のひとこと

18か月でDMFSが増えなかった人の割合は、HAP群 89.29%/フッ化物群 87.36%(PP解析)。差の片側95%信頼区間の上限は6.84%で、あらかじめ決めた非劣性マージン20%を大きく下回った=非劣性が示された。ただし「優れている」は示されておらず、対象は低リスクの健康な若年成人で、資金と著者3名は製品メーカー由来である。

Paszynska E, Pawinska M, Enax J, et al. Caries-preventing effect of a hydroxyapatite-toothpaste in adults: a 18-month double-blinded randomized clinical trial. Front Public Health. 2023;11:1199728. PMID: 37533523
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。