1問1答 論文 虫歯

キシリトールは「他のシュガーレスガム」にも勝てるのか——1日2.5gで2年追った

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|キシリトール・ハイリスク成人・NNT

キシリトールの研究の多くは、比較相手が「何もしない」か「砂糖入り」でした。それなら差が出て当たり前です。本当に知りたいのは「他のシュガーレスガムと比べても勝てるのか」のはず。2017年、イタリアのサッサリ大学のグループは、う蝕ハイリスクの成人179名を、見た目も味も同じキシリトールガム他のポリオールのガムに無作為に割り付けました。しかもキシリトールの量は1日2.5g——一般に推奨される量よりかなり少ない「低用量」です。2年後、う蝕経験の増加量は 1.25 対 1.80(p=0.01)。差は、出ました。

論文
The caries preventive effect of 1-year use of low-dose xylitol chewing gum. A randomized placebo-controlled clinical trial in high-caries-risk adults
著者
Cocco F, Carta G, Cagetti MG, Strohmenger L, Lingström P, Campus G(サッサリ大学 歯学部/ミラノ大学 WHO協力センターほか)
掲載
Clinical Oral Investigations 2017;21(9):2733-2740
種類
ランダム化プラセボ対照臨床試験(う蝕ハイリスク成人179名を無作為割り付け。1年間ガムを使用し、ベースラインから2年後に再評価。解析対象はキシリトール群66名・ポリオール群64名)
主題
低用量(1日2.5g)のキシリトールガムが、他のポリオールのガムと比べてう蝕を抑制するか

「キシリトールのガム、意味ありますか」

この質問に、僕らはどうにも歯切れ悪く答えてきました。理由の一つは、研究の比較相手にあります。

キシリトールの臨床試験には、「何もしない群」や「砂糖入りガムの群」と比べたものが少なくありません。それで差が出ても、驚きは小さい。ガムを噛めば唾液が出ます。砂糖入りより砂糖なしのほうが良いに決まっています。

本当に知りたいのは、こうではないでしょうか。「同じシュガーレスガムでも、キシリトールを選ぶ意味はあるのか」

先に結論: 見た目も味も同じ他のポリオールのガムを対照に置いて、それでも差がついた。2年でのう蝕経験の増加量は1.80 対 1.25(p=0.01)。ただしNNTは55歯——数字の大きさは、正直に見ておく必要があります。

色も形も味も同じガムを、封印して配る

イタリア・サッサリ大学のグループによる、ランダム化プラセボ対照試験です。

  • 480名を診査し、331名が選択基準を満たし、179名が参加に同意
  • 対象はう蝕ハイリスクの成人。もともと1日3粒を超えてシュガーレスガムを食べている人は除外
  • ガムは色・形・味が同一。無地の白い容器に「緑」「青」と符号化して配布
  • コードは独立した監査者が封印し、統計解析が終わるまで開けられなかった

中身はこうです。

  • キシリトールガム:キシリトール30%、ソルビトール26%、マンニトール11%、マルチトールシロップ1%
  • ポリオールガム(対照):イソマルト28%、ソルビトール31%、マンニトール9%、マルチトールシロップ1%

用法は1粒5分噛むを、朝2粒・昼食後2粒・午後1粒=1日5粒。1粒1.4gで、キシリトールの1日総摂取量は2.5gです。これは一般に語られる推奨量よりかなり少ない「低用量」にあたります。

食生活と口腔清掃習慣は変えないよう指示され、ガム使用後1時間は歯みがきをしないという条件がつきました。

そして見落とせないのが、全被験者に1,450ppmFのフッ化物歯磨剤が配布され、試験期間中はそれを使うよう指示されていたことです(他の口腔衛生補助品や市販のキシリトール製品は避けるよう求められました)。つまりここで見えている差は、フッ化物歯磨剤という土台の上に積まれた分です。

評価はICDASで初期・中等度・広範の3段階に分け、充填歯と欠損歯も数えています。ガムの使用は1年間、再評価はベースラインから2年後——つまり「使用1年+中止後1年」を追った設計です。

2年で 1.80 対 1.25

0 0.7 1.5 2.2 2年間のう蝕経験の増加量(平均) 1.8 1.25 ポリオールガム キシリトールガム 標準偏差はポリオール群 ±2.33、キシリトール群 ±1.26。p=0.01。比較相手は無処置ではなく、イソマルト・ソルビトール・マンニトールを配合した別のシュガーレスガムである
2年間のう蝕経験の増加量。対照は「何もしない」ではなく、別のシュガーレスガムである

解析対象はキシリトール群66名、ポリオール群64名

う蝕経験の増加量は、ポリオール群 1.80±2.33、キシリトール群 1.25±1.26(p=0.01)

病変の程度別に見ると、差の出方に濃淡があります。

0 0.2 0.4 0.6 0〜24か月の病変増加量Δ(平均) 0.2 0.14 0.18 0.16 0.44 0.3 初期病変 中等度病変 広範な病変 濃い棒=ポリオールガム/淡い棒=キシリトールガム。初期病変 p=0.01、広範な病変 p=0.03 で有意差あり。中等度病変は p=0.12 で有意差なし。判定はICDAS
0〜24か月の病変増加量。初期病変と広範な病変では差がつき、中等度病変ではつかなかった
  • 初期病変:ポリオール 0.20±0.67 対 キシリトール 0.14±0.37(p=0.01
  • 広範な病変:ポリオール 0.44±0.73 対 キシリトール 0.30±0.52(p=0.03
  • 中等度病変有意差なし(p=0.12)

なおガムを使っていない後半1年間だけを切り出すと、どの重症度でも群間差はありませんでした。効いていたのは、噛んでいた期間だということです。

23%とNNT 55歯——この二つを並べて見る

著者らは歯単位で相対リスク減少 23%治療必要数(NNT)55歯と報告しています。

この二つは同じ事実の裏表です。

  • イベント率はポリオール群 0.087、キシリトール群 0.066
  • 相対的には23%減——聞こえは良い
  • 絶対的には0.021の差。そして著者らの計算による治療必要数(NNT)は55歯——1歯のう蝕を防ぐのに55歯分の使用が要るという意味です
正直に書いておくべきことそしてもう一点。このイベント率の比較そのものは、カイ二乗 3.18・p=0.07で統計的な有意には達していません。さらに原著の表の脚注を見ると、相対リスク減少23%の95%信頼区間は −0.02〜0.41、NNT 55歯の95%信頼区間は −974〜27——どちらも符号をまたいでいます。う蝕経験の増加量(1.80 対 1.25)では p=0.01 が出ているものの、歯単位のイベント発生率で見ると差は「傾向」に留まる——ここは論文が自ら数字を出して示している部分です。23%という数字だけを切り取って持ち歩かないこと。

口の中では何が起きていたか

臨床所見だけでなく、機序を支える二つの測定も行われました。

  • プラークpH:10%スクロース洗口の前後を経時的に測り、pH 5.7 を基準線とした曲線下面積(AUC5.7)を算出。キシリトール群では試験期間を通じて有意に低下しました(11.5±0.5→9.8±0.3、群内 p=0.02)——エナメル質が溶ける領域に落ち込んだ量が減った、という意味です。ただし群間で有意差がついたのは2年時点のみ(p=0.04)で、それ以前(ベースライン・6か月・12か月)は両群に差がありません。AUC6.2でも群間差は認められませんでした
  • 唾液中ミュータンスレンサ球菌キシリトール群で有意に減少(p<0.01)

ベースラインでは両群のプラークpHもミュータンス菌濃度も同等でした。臨床の差と、細菌・pHの変化が同じ向きを向いているのは、この試験の説得力を支えています。ただし上に書いたとおり、pHの群間差が出たのは最後の1点だけ——ここは割り引いて読む必要があります。

明日の臨床へ

  • 「シュガーレスなら何でも同じ」ではない可能性が示された。同条件で比べて差がついた点に、この試験の価値がある
  • 1日2.5gという低用量でも差は出た。ただし「量が少なくてよい」とは読まない——著者らは「予防効果が主にキシリトールの量によるのか、使用の頻度によるのかを決めることは、かなり重要な論点である。本研究の結果は、キシリトール使用の頻度の重要性にいくらかの示唆を与える」と書いています。この試験の条件は1日5回・食間・1回5分の咀嚼同じ2.5gを1回でまとめて摂れば同じ、という話ではありません
  • 効いていたのは噛んでいる期間。中止後1年では差が消えている。続けている間の手段だと理解する
  • NNT 55歯を添えて話す。「効きます」ではなく「ハイリスクの人が1年続けて、これくらいの上積み」という温度で伝えるほうが誠実
  • 土台はフッ化物のまま。この試験の対象はハイリスク成人であり、ガムは土台を置き換えるものではありません
ここだけ、冷静に補助線いちばん大きな弱点は脱落です。179名が参加し、解析されたのは130名(66+64)——およそ4分の1以上が抜けています。脱落理由は「診査またはガムの受け取りができなかった」とされ、著者らは対象年代がもともとガムを噛む習慣に乏しかったことを一因として挙げています。また資金は大学とWHO協力センターに加え、本試験のガムを製造・供給した Perfetti Van Melle SpA からも提供されています(著者らは利益相反なしと申告)。把握しておくべき事実です。加えて、キシリトール群にもソルビトール26%・マンニトール11%が入っており、対照ガムとの違いは「キシリトール30%か、イソマルト28%か」という置き換えである点も押さえておきたいところです。純粋な「キシリトール対何もなし」ではありません。対象がう蝕ハイリスクの成人である以上、低リスクの人や小児にそのまま持ち込めないのも当然です。

今日のひとこと

比較相手が「無処置」ではなく「他のシュガーレスガム」でも、キシリトールに差がついた。480名を診査し、331名が選択基準を満たし、179名が参加。ガムは色・形・味が同一で「緑」「青」と符号化され、コードは独立した監査者が封印し、統計解析が終わるまで開けられませんでした。用法は1粒5分を、朝2粒・昼食後2粒・午後1粒=1日5粒、キシリトール総量2.5g。ガム使用後1時間は歯みがきをしない条件です。ベースラインから2年後(ガム使用1年+中止後1年)の結果は、う蝕経験の増加量が ポリオール群 1.80±2.33、キシリトール群 1.25±1.26(p=0.01)。病変の程度別では初期病変(0.20 対 0.14、p=0.01)と広範な病変(0.44 対 0.30、p=0.03)で有意差があり、中等度病変では差がありません(p=0.12)。歯単位の相対リスク減少は23%治療必要数(NNT)は55歯。ただしイベント率そのものの比較はカイ二乗 3.18・p=0.07で有意には至っていません。プラークpHでは、キシリトール群のAUC5.7が試験期間を通じて有意に低下しました(11.5±0.5→9.8±0.3、群内 p=0.02)。ただし群間で有意差がついたのは2年時点だけ(p=0.04)です。唾液中ミュータンスレンサ球菌もキシリトール群で有意に減少しました(p<0.01)。なお相対リスク減少23%の95%信頼区間は −0.02〜0.41、NNT 55歯の95%信頼区間は −974〜27と、いずれも符号をまたいでいます。また全被験者に1,450ppmFのフッ化物歯磨剤が配布されており、この差はフッ化物歯磨剤を土台にしたうえでの上乗せ分です。資金は大学・WHO協力センターに加え、ガムを製造・供給した Perfetti Van Melle SpA からも提供されています(著者らは利益相反なしと申告)。

出典:Cocco F, Carta G, Cagetti MG, Strohmenger L, Lingström P, Campus G. The caries preventive effect of 1-year use of low-dose xylitol chewing gum. A randomized placebo-controlled clinical trial in high-caries-risk adults. Clin Oral Investig 2017;21(9):2733-2740. PMID: 28303470
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。