カリオロジー|キシリトール・ハイリスク成人・NNT
キシリトールの研究の多くは、比較相手が「何もしない」か「砂糖入り」でした。それなら差が出て当たり前です。本当に知りたいのは「他のシュガーレスガムと比べても勝てるのか」のはず。2017年、イタリアのサッサリ大学のグループは、う蝕ハイリスクの成人179名を、見た目も味も同じキシリトールガムと他のポリオールのガムに無作為に割り付けました。しかもキシリトールの量は1日2.5g——一般に推奨される量よりかなり少ない「低用量」です。2年後、う蝕経験の増加量は 1.25 対 1.80(p=0.01)。差は、出ました。
①「キシリトールのガム、意味ありますか」
この質問に、僕らはどうにも歯切れ悪く答えてきました。理由の一つは、研究の比較相手にあります。
キシリトールの臨床試験には、「何もしない群」や「砂糖入りガムの群」と比べたものが少なくありません。それで差が出ても、驚きは小さい。ガムを噛めば唾液が出ます。砂糖入りより砂糖なしのほうが良いに決まっています。
本当に知りたいのは、こうではないでしょうか。「同じシュガーレスガムでも、キシリトールを選ぶ意味はあるのか」
②色も形も味も同じガムを、封印して配る
イタリア・サッサリ大学のグループによる、ランダム化プラセボ対照試験です。
- 480名を診査し、331名が選択基準を満たし、179名が参加に同意
- 対象はう蝕ハイリスクの成人。もともと1日3粒を超えてシュガーレスガムを食べている人は除外
- ガムは色・形・味が同一。無地の白い容器に「緑」「青」と符号化して配布
- コードは独立した監査者が封印し、統計解析が終わるまで開けられなかった
中身はこうです。
- キシリトールガム:キシリトール30%、ソルビトール26%、マンニトール11%、マルチトールシロップ1%
- ポリオールガム(対照):イソマルト28%、ソルビトール31%、マンニトール9%、マルチトールシロップ1%
用法は1粒5分噛むを、朝2粒・昼食後2粒・午後1粒=1日5粒。1粒1.4gで、キシリトールの1日総摂取量は2.5gです。これは一般に語られる推奨量よりかなり少ない「低用量」にあたります。
食生活と口腔清掃習慣は変えないよう指示され、ガム使用後1時間は歯みがきをしないという条件がつきました。
そして見落とせないのが、全被験者に1,450ppmFのフッ化物歯磨剤が配布され、試験期間中はそれを使うよう指示されていたことです(他の口腔衛生補助品や市販のキシリトール製品は避けるよう求められました)。つまりここで見えている差は、フッ化物歯磨剤という土台の上に積まれた分です。
評価はICDASで初期・中等度・広範の3段階に分け、充填歯と欠損歯も数えています。ガムの使用は1年間、再評価はベースラインから2年後——つまり「使用1年+中止後1年」を追った設計です。
③2年で 1.80 対 1.25
解析対象はキシリトール群66名、ポリオール群64名。
う蝕経験の増加量は、ポリオール群 1.80±2.33、キシリトール群 1.25±1.26(p=0.01)。
病変の程度別に見ると、差の出方に濃淡があります。
- 初期病変:ポリオール 0.20±0.67 対 キシリトール 0.14±0.37(p=0.01)
- 広範な病変:ポリオール 0.44±0.73 対 キシリトール 0.30±0.52(p=0.03)
- 中等度病変:有意差なし(p=0.12)
なおガムを使っていない後半1年間だけを切り出すと、どの重症度でも群間差はありませんでした。効いていたのは、噛んでいた期間だということです。
④23%とNNT 55歯——この二つを並べて見る
著者らは歯単位で相対リスク減少 23%、治療必要数(NNT)55歯と報告しています。
この二つは同じ事実の裏表です。
- イベント率はポリオール群 0.087、キシリトール群 0.066
- 相対的には23%減——聞こえは良い
- 絶対的には0.021の差。そして著者らの計算による治療必要数(NNT)は55歯——1歯のう蝕を防ぐのに55歯分の使用が要るという意味です
⑤口の中では何が起きていたか
臨床所見だけでなく、機序を支える二つの測定も行われました。
- プラークpH:10%スクロース洗口の前後を経時的に測り、pH 5.7 を基準線とした曲線下面積(AUC5.7)を算出。キシリトール群では試験期間を通じて有意に低下しました(11.5±0.5→9.8±0.3、群内 p=0.02)——エナメル質が溶ける領域に落ち込んだ量が減った、という意味です。ただし群間で有意差がついたのは2年時点のみ(p=0.04)で、それ以前(ベースライン・6か月・12か月)は両群に差がありません。AUC6.2でも群間差は認められませんでした
- 唾液中ミュータンスレンサ球菌:キシリトール群で有意に減少(p<0.01)
ベースラインでは両群のプラークpHもミュータンス菌濃度も同等でした。臨床の差と、細菌・pHの変化が同じ向きを向いているのは、この試験の説得力を支えています。ただし上に書いたとおり、pHの群間差が出たのは最後の1点だけ——ここは割り引いて読む必要があります。
⑥明日の臨床へ
- 「シュガーレスなら何でも同じ」ではない可能性が示された。同条件で比べて差がついた点に、この試験の価値がある
- 1日2.5gという低用量でも差は出た。ただし「量が少なくてよい」とは読まない——著者らは「予防効果が主にキシリトールの量によるのか、使用の頻度によるのかを決めることは、かなり重要な論点である。本研究の結果は、キシリトール使用の頻度の重要性にいくらかの示唆を与える」と書いています。この試験の条件は1日5回・食間・1回5分の咀嚼。同じ2.5gを1回でまとめて摂れば同じ、という話ではありません
- 効いていたのは噛んでいる期間。中止後1年では差が消えている。続けている間の手段だと理解する
- NNT 55歯を添えて話す。「効きます」ではなく「ハイリスクの人が1年続けて、これくらいの上積み」という温度で伝えるほうが誠実
- 土台はフッ化物のまま。この試験の対象はハイリスク成人であり、ガムは土台を置き換えるものではありません
今日のひとこと
比較相手が「無処置」ではなく「他のシュガーレスガム」でも、キシリトールに差がついた。480名を診査し、331名が選択基準を満たし、179名が参加。ガムは色・形・味が同一で「緑」「青」と符号化され、コードは独立した監査者が封印し、統計解析が終わるまで開けられませんでした。用法は1粒5分を、朝2粒・昼食後2粒・午後1粒=1日5粒、キシリトール総量2.5g。ガム使用後1時間は歯みがきをしない条件です。ベースラインから2年後(ガム使用1年+中止後1年)の結果は、う蝕経験の増加量が ポリオール群 1.80±2.33、キシリトール群 1.25±1.26(p=0.01)。病変の程度別では初期病変(0.20 対 0.14、p=0.01)と広範な病変(0.44 対 0.30、p=0.03)で有意差があり、中等度病変では差がありません(p=0.12)。歯単位の相対リスク減少は23%、治療必要数(NNT)は55歯。ただしイベント率そのものの比較はカイ二乗 3.18・p=0.07で有意には至っていません。プラークpHでは、キシリトール群のAUC5.7が試験期間を通じて有意に低下しました(11.5±0.5→9.8±0.3、群内 p=0.02)。ただし群間で有意差がついたのは2年時点だけ(p=0.04)です。唾液中ミュータンスレンサ球菌もキシリトール群で有意に減少しました(p<0.01)。なお相対リスク減少23%の95%信頼区間は −0.02〜0.41、NNT 55歯の95%信頼区間は −974〜27と、いずれも符号をまたいでいます。また全被験者に1,450ppmFのフッ化物歯磨剤が配布されており、この差はフッ化物歯磨剤を土台にしたうえでの上乗せ分です。資金は大学・WHO協力センターに加え、ガムを製造・供給した Perfetti Van Melle SpA からも提供されています(著者らは利益相反なしと申告)。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


