1問1答 論文 虫歯

「母乳は虫歯になる」のか——卒乳時期で分けた114名が示した、本当の分かれ目

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|母乳・卒乳時期・夜間授乳・間食回数・上顎乳前歯

「母乳はむし歯を作るかもしれない」。そう不安を抱えたまま授乳している保護者は、少なくありません。でも、本当に問題なのは母乳そのものなのか。大阪の小児歯科クリニックが、初診時3歳以下の238名から母乳群114名を抜き出し、卒乳した時期で6か月刻みに分けて、う蝕・授乳回数・間食回数を並べました。

論文
母乳の卒乳時期と齲蝕罹患性との関連性について
著者
桑田和美、野々村ひとみ、大西智之、野々村榮二(野々村小児歯科クリニック/大西のみ大阪府立急性期・総合医療センター障がい者歯科)
掲載
小児歯科学雑誌 2009;47(1):101-110
種類
横断研究(初診時3歳以下238名のうち母乳群114名・卒乳時期別の比較)
PMID
なし(日本語誌のためPubMed未収載)

「母乳はむし歯を作るかもしれない」という不安

母乳栄養児は人工栄養児よりう蝕罹患性が高い——そう報告されてきました。ただし著者らが緒言で指摘するのは、「その原因については明確な根拠が示されていない」という点です。

その結果どうなるか。母乳そのものがう蝕の発生原因だと解釈され、不安を抱えたまま授乳している保護者がいる。この研究は、その解釈が正しいのかを確かめにいきました。

先に結論: 上顎乳前歯のう蝕罹患歯率は、卒乳が1歳0〜5か月の群で15.8%1歳6〜11か月で42.1%2歳6か月以降で69.7%(p<0.0001)。同じ並びで、授乳回数も、夜間授乳回数も、間食の回数も増えていた分かれ目は母乳かどうかではなく、いつやめたか

母乳群114名を、卒乳時期で6か月刻みに分ける

  • 対象:平成18年4月〜平成19年3月に来院した初診時3歳以下の小児238名(初診時平均年齢2歳4か月)。内訳は母乳群114名・人工乳群61名・混合乳群63名
  • 解析:母乳群114名を卒乳時期で6か月ごとの5群に分けた。1歳0〜5か月が33.3%と最多で、約半数(47.3%)が1歳6か月前に卒乳していた
  • 評価部位上顎乳前歯(低年齢児のう蝕罹患性を反映しやすい部位)。ミラーと探針を用い、C1以上をう蝕とした
  • あわせて測ったものカリオスタット(CAT)検査、調査時点の含糖飲食物の摂取回数、1歳以降で卒乳した群には1日の授乳回数と夜間授乳回数
  • 統計:χ²検定とSpearmanの順位相関、有意水準5%

各群の初診時平均年齢は2歳1か月〜2歳5か月。群間の差は2〜4か月にとどまります(ただし原著は交絡の検討をしておらず、ここは筆者の見立てです)。

卒乳が遅いほど、う蝕は増える

0 25% 50% 75% 上顎乳前歯のう蝕罹患歯率(%) 18.8% 15.8% 42.1% 47.7% 69.7% 6〜11か月 1歳0〜5か月 1歳6〜11か月 2歳0〜5か月 2歳6か月〜 横軸は卒乳時期。卒乳が遅いほど有意に高い(Spearmanの順位相関 p<0.0001)。母乳群114名・上顎乳前歯で評価
卒乳時期別の上顎乳前歯う蝕罹患歯率(母乳群114名)
  • う蝕罹患歯率:6〜11か月 18.8%/1歳0〜5か月 15.8%/1歳6〜11か月 42.1%/2歳0〜5か月 47.7%/2歳6か月〜 69.7%p<0.0001
  • う蝕罹患者率も同じ形:25.0%/21.1%/57.9%/59.1%/78.9%
  • 平均CAT値:1.61/1.37/1.40/1.95/1.78。2歳未満で卒乳した群に比べ、2歳以降の群で高い傾向
  • CAT値2.5〜3.0(very high risk)の割合:1歳0〜5か月 10.0%、1歳6〜11か月 13.3% に対し、2歳0〜5か月 33.4%、2歳6か月〜 25.0%(原著はこの比較を1歳以降に卒乳した群に限っており、最も早い6〜11か月群は35.7%でした)

最も低いのは1歳0〜5か月の群(15.8%)で、それより早い6〜11か月の群(18.8%)ではありません「早ければ早いほどよい」という単純な直線ではない——ここは正確に読んでおきたいところです。1歳半を境に、数字が跳ねるのがこのデータの形です。

同じ形で、授乳回数と間食回数も増えている

0 28.3% 56.7% 85% 含糖飲食物を1日2回以上とる子の割合(%) 31.2% 36.8% 57.9% 59.1% 78.9% 6〜11か月 1歳0〜5か月 1歳6〜11か月 2歳0〜5か月 2歳6か月〜 横軸は卒乳時期。調査時点の間食回数である(χ²検定 p<0.05)。う蝕罹患歯率とほぼ同じ形の並びになる
卒乳時期別・調査時点で含糖飲食物を1日2回以上とる子の割合
  • 1日の平均授乳回数(1歳0か月以降):1歳0〜5か月 3.4回/1歳6〜11か月 4.8回/2歳0〜5か月 5.3回/2歳6か月〜 6.1回(p<0.001)
  • 平均夜間授乳回数(同じ4群):1.3/1.2/1.8/2.3回(p<0.01)。1歳6〜11か月でいったん下がってから増える
  • 含糖飲食物の平均摂取回数1.5/1.5/1.7/1.7/2.0回(p<0.001)
  • 1日2回以上とる子の割合31.2%/36.8%/57.9%/59.1%/78.9%(χ²検定 p<0.05)

う蝕罹患歯率のグラフと、この間食のグラフは、ほとんど同じ形をしています。著者らの結論はここから来ています——卒乳の遅れと授乳回数の多さが、間食の頻回摂取につながり、う蝕罹患性を高めている母乳そのものが犯人ではなく、母乳を軸にした「食べ方・飲み方の型」が問題だという読み筋です。

なぜ卒乳が遅れるのか——理由も聞いている

この論文の親切なところは、「1歳0か月前に卒乳しなかった理由」まで聞いている点です。

  • どの群でも最も多かったのは「卒乳しようとしたが子どもが欲しがるので」。その割合は1歳0〜5か月で卒乳した群では35.1%と最も低く、1歳6か月以降の群で顕著に多かった
  • 次いで「母乳が出るので」が多い
  • 2歳6か月以降の群でのみ「子どもの精神状態によいと思ったため」が4.8%
  • 離乳が「難しかった」と答えた割合:6〜11か月 18.7%/1歳0〜5か月 13.5%/1歳6〜11か月 31.6%/2歳0〜5か月 27.3%/2歳6か月〜 33.3%

原著の考察は、この回答を「子どもペースの授乳習慣が間食習慣さらには食習慣に影響を及ぼす」という育児姿勢の問題として論じています。一方で保護者の側から見れば「やめられなかった」のであって「やめなかった」のではないとも読めます。指導の入り口を「やめましょう」だけに置くと、この現実とすれ違う——ここは筆者の読みです。

明日の臨床へ

  • 「母乳だから虫歯になる」とは言わない。この研究の一番の含意です。母乳栄養そのものを否定する材料には、少なくともこのデータはなりません
  • 聞くべきは「授乳の回数」と「夜間授乳の有無」、そして「間食の回数」。卒乳時期を聞けなくても、この3つで同じ情報が取れます
  • 1歳半が一つの分かれ目に見えます。15.8% と 42.1%——ここで数字が跳ねる。1歳6か月児健診の場で聞ける項目でもあります(なお原著は健診時期との関連づけはしていません)
  • 「やめられない」保護者に、やめ方の相談ができる立場でいる。最も多い理由は「子どもが欲しがるので」でした。責める言い方は、この理由に届きません
  • 母乳を続ける選択をする家庭には——「夜間授乳の回数」と「甘い飲食物の回数」を減らすという、卒乳以外の打ち手を一緒に考える
ここだけ、冷静に補助線 — まず横断研究で、しかも単一の小児歯科クリニックを受診した子どもが対象です。歯科医院に来る子どもという時点で、一般の同年齢集団とは性格が違います。次に、曝露も間食回数も保護者の自己申告で、しかも卒乳時期は後から思い出して答えたもの——想起バイアスが乗ります。間食回数は「調査時点」の値であって、う蝕ができた当時の値ではありません。「卒乳が遅い→間食が増える→う蝕」という因果の順番は、このデータからは確定できません(逆に、う蝕ができやすい家庭がもともと間食も多かった、という説明も残ります)。各群は16〜38名と小さく、割合の推定は不安定です(原著は人数を割合でしか示しておらず、114名に按分した概数です)。フッ化物の使用状況・仕上げ磨き・保護者の口腔状態といった交絡は調整されていません——多変量解析は行われていません。そして評価部位は上顎乳前歯に限定されており、全顎のう蝕を代表するとは限りません。それでも、「母乳が悪いのか、授乳習慣が悪いのか」という保護者の一番の不安に、正面から数字で答えようとした——その姿勢と設計は、日々の説明にそのまま使える一本です。

今日のひとこと

上顎乳前歯のう蝕罹患歯率は、卒乳が1歳0〜5か月の群で15.8%、1歳6〜11か月で42.1%、2歳6か月以降で69.7%(p<0.0001)。同じ並びで、1日の授乳回数(3.4→6.1回)も、夜間授乳回数(1.3→2.3回)も、含糖飲食物の摂取回数(1.5→2.0回)も増えていた。著者らの結論は明快だ——低年齢児のう蝕の原因は母乳そのものではなく、卒乳の遅れと授乳回数の多さが間食の頻回摂取につながっていることにある。

桑田和美、野々村ひとみ、大西智之、野々村榮二. 母乳の卒乳時期と齲蝕罹患性との関連性について. 小児歯科学雑誌. 2009;47(1):101-110.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。