ペリオ|Phase2 歯周外科
根面被覆の成績は、中頬側の1点にプローブを当てて測るのが標準です。でも露出根面は「面」です。2018年、Gilらは術前後の模型を光学スキャンして重ね合わせ、面積としての被覆率を計算しました。そして、これまで測りにくかった「歯根の突出度」と「歯肉縁の厚み」を数値化し、成績との相関を調べています。
①その被覆率、プローブで測った1本の線の話です
根面被覆の成績は、ふつう「退縮が何mm減ったか」「完全被覆が何%か」で語られます。中頬側の1点にプローブを当て、歯肉縁の位置を測る——これが標準です。
ただ、露出根面は面です。幅の広い退縮と狭い退縮では、同じ1mmの改善でも覆われた根面の広さがまるで違う。プローブによる線的計測は、ミリ単位で測る器具に伴う誤差にも縛られます。
2018年、Gilらはこのギャップにデジタルでアプローチしました。術前と術後の模型を光学スキャンして重ね合わせ、3次元で「面積としての被覆率」を計算。あわせて、これまで臨床では測りにくかった「歯根の突出度」と「歯肉縁の厚み」も数値化して、成績との相関を調べたのです。
②模型をスキャンして、重ねて、削る
対象は南カリフォルニア大学で治療を受けた21名(男性8・女性13、平均52.4±9.5歳)の154歯。全例をVISTA(歯肉頬移行部の垂直切開から骨膜下トンネルを剥離するアプローチ)で、同一の歯周病専門医が治療しました。1人あたり平均7.3±5.0歯(範囲2〜24歯)、平均追跡は14.6±4.5か月です。
術前と術後の模型を光学スキャナで読み取り、STLに変換。リバースエンジニアリングソフト上で5点の再現可能な点を選んで重ね合わせ、ブール演算で体積差を算出します。そのうえで各歯の中頬側で断面を作り、線的な被覆率と面積の被覆率を計算しました。
この研究の面白さは、今まで「臨床的な勘」で語られてきた要素を数字にしたところにあります。
歯根の突出度:咬合平面と平行な2本の線を引き、近心・遠心乳頭のうち根尖側にあるほうの先端の高さで軸断面を作る。その断面で、歯根が歯肉から出る近遠心の2点を結んだ線から、根の最突出点までの距離——これを突出度としました。
歯肉縁の厚み:中頬側で隣接面コンタクトに平行な矢状断面を作り、歯肉縁のゼニス点における頬舌的な厚みを測っています。
除外条件は、1日10本を超える喫煙・ミラーIV級・歯肉に影響する薬剤の服用・当該部位の既往の粘膜歯肉手術。移植材は口蓋やタブロシティからの自家結合組織、無細胞性真皮基質、異種コラーゲンマトリックス(PDGF併用)が症例に応じて使い分けられました。
③線で見るか、面で見るか
線的な根面被覆率は、ミラーI・II級で96.2±13.1%、ミラーIII級で84.3±14.4%。面積の被覆率は、それぞれ92.1±12.0%と78.6±15.7%でした(いずれも群間差は p<.001)。
ここで注目したいのは、どちらの群でも「面積で見た被覆率」のほうが低く出ていることです。線的な数字だけを見ていると、実際に覆えた根面の広さより良い印象を持つ、ということになります。
完全被覆になると差はさらに開きます。完全な線的被覆はミラーI・II級で70.0%、ミラーIII級で22.2%。完全な面積被覆は63.0%と24.0%(ともに p<.001)。著者らは、ミラーIII級の完全被覆22.2%が先行研究より低いことを率直に認めています。
歯種による差も明確でした。切歯は大臼歯(p<.001)にも小臼歯(p=.03)にも優り、犬歯も大臼歯に優る(p<.001)。面積被覆でも、切歯・犬歯・小臼歯が大臼歯を上回っています(p<.001)。著者らはこれを、多根歯では露出面積が広く、血流のない被覆対象が大きくなるためと考察しています。
④いちばん効いていたのは「根の出っぱり」
歯根の突出度は、線的被覆率と r=−0.80、面積被覆率と r=−0.83(ともに p<.001)という強い負の相関を示しました。しかも「初期の突出度が1mmを超える部位では、被覆率が急激に落ちる(precipitous drop)」という所見です。
対照的に、歯肉縁の厚みは強い正の相関でした。線的被覆率と r=0.70、面積被覆率と r=0.73(ともに p<.001)。術前の歯肉縁の厚みが1mmを超えると、被覆率は高かったと述べられています。
初期の退縮幅も負の相関(線的 r=−0.68、面積 r=−0.67、ともに p<.001)。初期の退縮深さは面積被覆率とだけ有意な負の相関(r=−0.27、p=.02)で、線的被覆率とは有意になりませんでした(r=−0.24、p=.1)。
一方、移植材の種類や上下顎の違いでは、成績に有意な相関は見られませんでした。
⑤明日の臨床へ——術前に何を見るか
①根の突出を見る。 咬合平面から見て根が張り出している部位ほど、被覆は難しくなります。本研究では全例で根面のオドントプラスティを行って突出を減らしていますが、その削除量は定量できていません。著者らは「未処置ならもっと突出の影響が大きかったかもしれない」「オドントプラスティによる突出の低減効果は今後の研究課題」と述べています。
②歯肉縁の厚みを、術前の見積もりに使う。 従来はフラップの厚みが予後因子とされてきました。ただしデジタルスキャンではフラップの厚みは測れないため、著者らは歯肉縁の厚みを「非侵襲の代用指標」として提案しています。
③退縮の「幅」を測っておく。 深さより幅のほうが、面積被覆率との相関は強く出ました。
④臼歯・ミラーIII級では期待値を調整する。 数字を前もって共有しておくほうが、患者との合意形成は進みやすいでしょう。
今日のひとこと
VISTA(歯肉頬移行部の垂直切開から骨膜下トンネルを剥離するアプローチ)で治療した21名154歯について、術前後の模型を光学スキャンして重ね合わせ、線的な被覆率と「面積としての」被覆率を3次元で算出した後ろ向き研究。線的な根面被覆率はミラーI・II級96.2±13.1%、ミラーIII級84.3±14.4%、面積の被覆率はそれぞれ92.1±12.0%と78.6±15.7%(いずれも p<.001)。どちらの群でも面積で見た被覆率のほうが低く出ています。完全被覆はミラーI・II級で線的70.0%・面積63.0%、ミラーIII級で線的22.2%・面積24.0%。最も強い予測因子は歯根の突出度で、線的被覆率と r=−0.80、面積被覆率と r=−0.83(ともに p<.001)。とくに初期の突出度が1mmを超える部位では被覆率が急激に落ちました。対照的に、術前の歯肉縁の厚みは強い正の相関(線的 r=0.70、面積 r=0.73)。初期の退縮幅も負の相関(線的 r=−0.68、面積 r=−0.67)で、初期の退縮深さは面積被覆率とのみ有意(r=−0.27、p=.02)でした。歯種では切歯・犬歯・小臼歯が大臼歯を上回り、移植材の種類や上下顎の違いでは有意な相関は見られませんでした。全例で根面のオドントプラスティを行っていますが削除量は定量できておらず、著者らはオドントプラスティによる突出の低減効果を今後の研究課題としています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


