ペリオ|ペリオ論文100選
同じ8mmのポケットでも、歯がぐらついているかどうかで結果は変わるのか。ミシガン大学の8年間の縦断研究を、初診時の動揺度という切り口で解析し直したのがこの論文です。結果は明快でした——初診時の動揺度と、治療後のアタッチメントレベルの変化には統計学的に有意な関係がある。そしてその差は治療1年目にほぼ決まり、2年目までにもう少しはっきりして、あとはほぼ平行に推移していきます。
①同じ8mmでも、ぐらついている歯は違うのか
初診の歯周精密検査。7番遠心に8mmのポケット、動揺度2。隣の6番も8mmだが、こちらは動揺度0。
この2本は、同じ治療で同じように治るのでしょうか。
咬合と歯周治療の関係をめぐる議論は長く続いてきました。動揺度が治療結果に影響するかどうかを評価した研究は、当時ほとんど存在せず、そのため咬合治療に関する臨床判断は主観的になりがちだった——著者らはそう書いています。
②8年間・82人・1974歯を、動揺度で切り直す
使われたのはミシガン縦断研究のデータです。歯周治療を受け、少なくとも1年後のリコールまで完了した患者82人・計1974歯。5年時点で72人、8年時点で43人・1083歯が残っています。
治療の流れは共通です。初回スコアリング、スケーリング、ルートプレーニング、口腔衛生指導、咬合調整。そのうえで口腔内を分割し、無作為に3つの術式のいずれかを割り当てました——①歯肉縁下掻爬、②モディファイド・ウィドマンフラップ、③ポケット除去手術。その後は3か月ごとに歯科衛生士のプロフェッショナルケアを受け、毎年同じ歯周病専門医が評価しています。この解析では3術式のデータを1つにまとめて扱っています。
動揺度はRamfjordの基準(0〜3)です。
- M0:生理的動揺。強固な歯
- M1:わずかに増加した動揺
- M2:明らかな〜かなりの動揺の増加。ただし機能の障害はない
- M3:極度の動揺。機能時に不快な「ゆるい」歯
そして解析の肝が、初診時のポケット/サルカスの深さで重症度を3つに分けたことです——1〜3mm、4〜6mm、7〜12mm。「同じ重症度の中で、動揺度だけが違う部位を比べる」という設計になっています。
患者ごとに、同じ初期重症度・同じ動揺度の部位をまとめて平均を出し、その年次変化を算出。一元配置分散分析(有意水準0.05)とScheffé法による多重比較で検定しました。
③1年目で、もう階層に分かれている
結果は、3つの重症度すべてで同じ形をしていました。治療1年後の時点で、動揺度別の曲線がすでに分離しているのです。
初診時7〜12mm(重度)——ここが最も差がはっきり出ました。治療1年後のアタッチメント獲得は、動揺度0で+2.57mm、1で+1.90mm、2で+1.64mm、3で+0.95mm。著者らは「それぞれの曲線のあいだにおよそ0.5mmの差がある」と書いています。
初診時4〜6mm(中等度)——ここが臨床的にいちばん考えさせられる結果です。アタッチメントの獲得が見られたのは、動揺度0と1の部位だけでした。動揺度2の部位は初期には獲得するものの、その後ベースラインへ戻ってしまう。動揺度3の部位に至っては、治療後2年以内にむしろアタッチメントを喪失しています。
初診時1〜3mm(健康な部位)——ここではどの動揺度でもアタッチメントを失いますが、その量が動揺度と関係していました。動揺度2と3の群では、2年目までにおよそ1mmを失っています。
統計的にはほとんどの差が有意(P<0.05)でした。ただし例外があります。1〜3mmと4〜6mmの重症度では、動揺度0と動揺度1のあいだに有意差はありませんでした——グラフ上は曲線が分かれて見えても、です。
もうひとつ、いま挙げた7〜12mmの1年目について補っておきます。有意差がついたのは動揺度0と2、0と3の比較で、隣り合う段どうし(0対1、1対2、2対3)には有意差がありません。「1段ごとに階段状に悪くなる」と読むのは行きすぎです。
④差は1年目でつき、その後は平行に走る
もうひとつの重要な所見が、時間軸です。
著者らはこうまとめています。動揺度と治療後のアタッチメントレベルの関係は1年目までに確立し、2年目に小さな調整が起こる。そして2年目以降は、アタッチメント変化の曲線にわずかな変化しか見られない。
7〜12mmの部位で見ると、動揺度0は1年後+2.57mm → 8年後+2.31mm、動揺度1は+1.90 → +1.89mm、動揺度2は+1.64 → +1.20mm。1年目についた順位が、8年経ってもそのまま残っています。
裏を返せば、治療から1年が経ってしまえば、動揺している歯のポケットも「維持」はできているということでもあります。著者らも「1年目以降の比較的水平なアタッチメント曲線が示すように、動揺歯に関連したポケットも、重症度や動揺度にかかわらず、治療してアタッチメントを維持することに成功している」と述べています。
⑤なぜそうなるのか——著者らも断定していない
ここは正直に書かれています。「動揺度に関連した曲線の分離を生じさせている機序は分かっていない」。そのうえで、いくつかの解釈が示されます。
- 平均への回帰:1〜3mmのポケットで一貫して喪失が起きることは、統計的な回帰現象で部分的に説明できる。しかし、動揺度による階層化までは説明できない
- レベリング(平準化):深い欠損では獲得が起こりやすく、隣接する支持の高い部位ではむしろ減少する、という現象。動揺度2・3の浅いポケットで目立った喪失は、この過程の結果かもしれない
- いずれにせよ治療後1年目、おそらく2年目までのあいだに、動揺度に関係する何らかの過程がすべての歯に働いている。著者らは「動揺度が治癒に悪影響を及ぼしていることを示唆する」と書いています
先行研究との食い違いにも触れています。当時、初診時の動揺度と治療後のアタッチメントの関係を評価した研究は2本しか見当たらず、いずれも有意な関係を示していませんでした(Rosling ら 1976b、Lindhe & Ericsson 1976)。著者らはこの違いを、この研究の患者が理想的とは言えない口腔清掃状態にあり、リコールも2週間ごとではなく3か月ごとだったことに求めています。つまり動揺度が治癒に及ぼす影響は、炎症の程度と関係している可能性がある——プラークコントロールが完璧なら差は出ないのかもしれない、という読み方です。
⑥明日の臨床へ
- 同じポケット深さでも、動揺度で予後の説明を変える。7〜12mmの1年目の実測では、0→1で0.67mm、1→2で0.26mm、2→3で0.69mmの差でした(著者らはこれを「各曲線のあいだにおよそ0.5mm」と表現しています)
- 中等度(4〜6mm)で動揺度2以上の部位は、獲得を前提にしない。この研究では、獲得が続いたのは動揺度0と1だけでした
- 勝負は最初の1〜2年。差はそこでつき、以降は平行に推移します。初期治療とその後2年の管理に資源を寄せる根拠になります
- ただし「維持はできる」。動揺歯のポケットも、1年以降はアタッチメントを保てていました。悲観的な説明にしない
- プラークコントロールが効く可能性は残る。この差が炎症の程度と関係しているのなら、清掃状態を上げれば縮められるかもしれません
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
初診時の動揺度と、治療後のアタッチメントレベルの変化には、統計学的に有意な関係がある。臨床的に動揺している歯のポケットは、同じ初期重症度の強固な歯のポケットほどには歯周治療に反応しない。初診時7〜12mmの部位では、治療1年後のアタッチメント獲得が動揺度0で+2.57mm、1で+1.90mm、2で+1.64mm、3で+0.95mmと階層に分かれた(著者らはこれを「各曲線のあいだにおよそ0.5mm」と表現している。ただし1年目の7〜12mm群で有意差がついたのは0対2・0対3で、隣り合う段どうしには有意差がない)。初診時4〜6mmの部位では獲得が見られたのは動揺度0と1だけで、動揺度2は初期に獲得しても元に戻り、動揺度3は治療後2年以内にむしろ喪失した。初診時1〜3mmの部位ではどの動揺度でも喪失するが、動揺度2と3では2年目までに約1mm失う。この関係は治療1年目に確立し、2年目に小さな調整があった後は、曲線はほぼ平行に推移する。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


