1問1答 論文 歯周病

その根面被覆、9年後にどうなっているか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

「CAFにCTGを足すと完全被覆率が上がる」——短期のエビデンスは豊富です。ではその差は、10年近い時間軸でも残るのでしょうか。2018年、Rasperiniらは25名を脱落ゼロで9年追い切りました。差がついたのは術式ではなく、意外な因子でした。

論文
Predictor factors for long-term outcomes stability of coronally advanced flap with or without connective tissue graft in the treatment of single maxillary gingival recessions: 9 years results of a randomized controlled clinical trial
著者
Rasperini G, Acunzo R, Pellegrini G, Pagni G, Tonetti M, Pini Prato GP, Cortellini P
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2018;45(9):1107-1117
種類
ランダム化比較試験の9年追跡(25名・CAF+CTG 12名/CAF単独 13名・脱落ゼロ)
PMID
29777632

その根面被覆、9年後にどうなっているか

根面被覆のエビデンスは豊富です。ただし、そのほとんどは数か月から数年のもの。「CAFに結合組織移植(CTG)を足すと完全被覆率が上がる」という短期の結論を、10年近い時間軸で確かめた研究はほとんどありません

実際、時間が経つと歯肉縁は動きます。Leknesらの6年研究では、CAF治療の11部位中7部位で歯肉縁が根尖側へ移動単独退縮を14年追った研究では、CAF治療部位の39%で根尖側移動が報告されています。Pini-Pratoらの8年ケースシリーズでも、退縮の再発と角化組織(KT)の減少が示されました。

2018年、Rasperiniらは、2005〜2006年に開始した多施設RCTの1施設分・25名を、さらに8年追跡して9年の成績を報告しました。全患者が日常的に電動(オシレーティング・ロータリー)歯ブラシを使っているという条件での長期データです。

先に結論: 9年後、退縮量はCAF+CTGが0.5mm、CAF単独が1.0mm。統計学的な有意差はつきませんでした(p=0.320)はっきり差がついたのは角化組織で、CTG群だけが4.8mmまで増加(群間 p=0.019)そして最大の予後因子は術式ではなく、くさび状欠損(NCCL)の有無でした

25名を9年、脱落ゼロで追う

もとの多施設RCT(85名の単独歯肉退縮)のうち、1施設に登録された25名が9年間の追跡を完了しましたCAF+CTG 12名、CAF単独 13名、脱落ゼロ)。対象は上顎前方部のミラーI級・II級の単独退縮で、識別可能なCEJがあることが登録要件でした。

測定の作り込みが丁寧です。単一の較正された盲検検者がプローブで測定し、各実験歯には中頬側に基準スロットを設けた個別のレジンステントを作製して、プローブ位置を再現可能にしています角化組織はルゴール染色で歯肉歯槽粘膜境を同定して計測NCCLは「CEJレベルで1mm以下の欠損、または識別可能なCEJを伴う歯根/歯冠の摩耗」と定義されました。

術者は歯周形成外科10年以上の経験を持つ1名術前に少なくとも4週間、退縮の原因となる習慣を修正する口腔衛生指導を行い、全員が電動歯ブラシを使用しています。術後は2週間の機械的清掃中止と0.12%クロルヘキシジン、3週目から電動ブラシを再開6か月リコール以降は年2〜3回のプロフェッショナルケアで、各来院時に模型の上で正しいブラッシングを実演してもらうという念の入れようでした。

9年後、歯肉縁はどこにあったか

0 0.9 1.9 2.8 歯肉退縮量 (mm) 2.4 2.4 0.8 0.7 0.6 0.8 0.5 1 術前 6か月 1年 9年 淡い棒=CAF+CTG、濃い棒=CAF単独。数値が小さいほど良好。9年後の群間差は統計学的に有意ではない(p=0.320)。推定値ではCAF+CTGが年0.009mm歯冠側へ、CAF単独が年0.017mm根尖側へ動いていた
歯肉退縮量の推移(術前・6か月・1年・9年)

ベースラインの退縮はCAF+CTG 2.4±0.8mm、CAF単独 2.4±1.0mm(p=0.693)9年後はCTG群0.5±0.5mm、CAF単独群1.0±0.8mmで、群間差は有意ではありません(p=0.320)

ただし推移の向きが逆でした。CTG群の歯肉縁は時間とともにわずかに歯冠側へ(推定 年0.009mm)、CAF単独群はわずかに根尖側へ(推定 年0.017mm)動いています。統計学的には有意でなく、どちらも良好な安定性を示したうえでの傾向ですが、著者らはこれをクリーピングアタッチメントと組織の成熟、そしてCTGで得られた厚い歯肉によるものと考察しています。逆にCAF単独群の根尖側移動は、獲得できた角化組織の厚み・量が少ないことと関係するのではないかと。

完全根面被覆(CRC)は、9年後にCTG群8/12(66.7%)、CAF単独群5/13(38.5%)各時点でCTG群のほうが頻度は高いものの、統計学的な有意差は確立できませんでしたCRCを獲得し維持できる平均相対リスクで見ると、CTG群は1.70(95%CI 0.84–3.45)、調整後1.48(95%CI 0.61–3.62)——信頼区間が1をまたいでおり、著者らはこれを「CTG群で70%高い可能性」と述べつつ、症例数の少なさが結論を妨げたと考察しています。

プロービング深さ・アタッチメントレベルには、9年を通じて群間差はありませんでした知覚過敏は術前にCTG群3名(25%)・CAF単独群6名(46.2%)にありましたが、9年後は両群とも0名です。

差がついたのは角化組織、そして——

唯一はっきりした群間差は、角化組織の幅でしたCTG群は術前3.2±1.0mmから、6か月2.8mm、1年3.8mm、9年4.8±0.7mmへ(群内 p<0.001)CAF単独群は術前3.8±1.5mmから3.1、2.9、9年3.6±0.7mmと、ほぼ元の水準に戻っています9年時点の群間差は p=0.019

0 36.7% 73.3% 110% 9年後に完全根面被覆を得ていた割合 (%) 100% 42.9% 50% 28.6% CTG併用・NCCLなし CTG併用・NCCLあり CAF単独・NCCLなし CAF単独・NCCLあり CTG併用群はNCCLなし5部位・NCCLあり7部位、CAF単独群はNCCLなし6部位・NCCLあり7部位。NCCLがあると完全根面被覆を得られない方向へ働き、オッズ比 0.12(95%CI 0.02–0.74、p=0.022)
NCCLの有無別に見た、9年後の完全根面被覆率

そして、この研究がいちばん強く示したのは術式ではなく歯の側の条件でした。多変量解析(患者レベルと歯レベルの2水準ロジスティック/線形回帰)で、患者レベルの年齢・性別はRECにもCRCにも関連せず、歯レベルの2つが残りました。

①NCCLの存在退縮量に対して有意に負(平均差0.45mm、95%CI 0.15–0.74、p=0.003)完全根面被覆に対しても有意に負(オッズ比 0.12、95%CI 0.02–0.74、p=0.022)②ベースラインの退縮の深さ:これも有意な負の因子でした(p<0.0001)。

実数で見ると分かりやすいでしょう。CTG群では、NCCLのない5部位すべて(100%)が9年後も完全被覆を保っていたのに対し、NCCLのある7部位では3部位(42.9%)CAF単独群でもNCCLなし3/6(50%)に対しNCCLあり2/7(28.6%)でした。治療した歯種と術式の違いによるRECやCRCの差は、統計学的に認められていません

明日の臨床へ

①長期の視点でも、予後の見積もりに使うのは「NCCLの有無」と「ベースラインの退縮深さ」。 著者らが臨床的示唆として最初に挙げているのがこの2つです。

②CTGの価値は、9年で見ると「角化組織」にはっきり出る。 完全被覆率の差は有意にならなかった一方、KTの増加は明確でした。厚く、量のある角化組織が、歯肉縁の長期安定を支えるという考え方につながります。

③どちらの術式でも、9年の安定は得られる。 著者らの結論は「両治療法とも経時的な安定性を示した」です。単独の孤立性退縮であれば、CAF単独でも十分に成立しうる、と読めます。

ここだけ、冷静に補助線。 25名(12対13)という規模で、著者ら自身が「症例数が少ないことが、先行研究との結果の違いを生んだ可能性がある」と繰り返し述べていますCRCの相対リスクも信頼区間が1をまたいでおり、「CTGのほうが良い」と断定できる結果ではありませんまた全患者が電動歯ブラシを使用しているため、手用ブラシ集団にそのまま外挿はできません(もっともこれは、原因除去を徹底したうえでの長期成績という読み方もできます)。単一術者・単一施設・上顎前方部の単独退縮という条件も押さえておきたいところです。それでも、脱落ゼロで9年追い切り、「効くのは術式か、それとも歯の条件か」という問いに数字で答えた点で、読む価値の高い一本です。

今日のひとこと

上顎前方部のミラーI・II級単独歯肉退縮に対し、CAF+CTGとCAF単独をランダムに割り付けて9年追跡したRCTもとの多施設試験85名のうち1施設の25名・脱落ゼロ・全員が電動歯ブラシを使用)。ベースラインの退縮はCAF+CTG 2.4±0.8mm、CAF単独 2.4±1.0mm。9年後はそれぞれ0.5±0.5mm、1.0±0.8mmで群間差は有意でありません(p=0.320)ただし推移の向きは逆で、CTG群は年0.009mm歯冠側へ、CAF単独群は年0.017mm根尖側へ動いていました完全根面被覆は9年後にCTG群8/12(66.7%)、CAF単独群5/13(38.5%)で、獲得し維持できる平均相対リスクは1.70(95%CI 0.84–3.45)、調整後1.48(95%CI 0.61–3.62)——信頼区間が1をまたいでおり、著者らは症例数の少なさが結論を妨げたと考察しています唯一はっきりした群間差は角化組織で、CTG群が3.2→4.8mmへ増加(群内 p<0.001、9年時点の群間 p=0.019)したのに対し、CAF単独群は3.8→3.6mmとほぼ元の水準でした多変量解析では、患者レベルの年齢・性別は関連せず、歯レベルの2因子が残りましたNCCLの存在は退縮量に対して有意に負(平均差0.45mm、95%CI 0.15–0.74、p=0.003)、完全根面被覆に対してもオッズ比 0.12(95%CI 0.02–0.74、p=0.022)ベースラインの退縮の深さも有意な負の因子でした(p<0.0001)CTG群ではNCCLのない5部位すべて(100%)が9年後も完全被覆を保っていたのに対し、NCCLのある7部位では3部位(42.9%)にとどまりました知覚過敏は術前に9名いましたが、9年後は両群とも0名です

出典:Rasperini G, Acunzo R, Pellegrini G, et al. Predictor factors for long-term outcomes stability of coronally advanced flap with or without connective tissue graft in the treatment of single maxillary gingival recessions: 9 years results of a randomized controlled clinical trial. J Clin Periodontol 2018;45(9):1107-1117. PMID: 29777632
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。