ペリオ|Phase2 歯周外科
上顎中切歯の深い1壁性骨縁下欠損。再生療法の適応だと分かっていても、フラップを閉じたあと歯間乳頭がどこに落ち着くかが気がかりです。2017年、Zucchelliらは口蓋から切開してアクセスし、結合組織移植片(CTG)を「失われた頬側骨壁の代わり」に立てるという設計を、2つの症例で示しました。
①再生させたい。でも、歯肉は下げたくない
上顎中切歯に、深い1壁性の骨縁下欠損。再生療法の適応です——そこまでは迷いません。問題はその先でしょう。フラップを開けて閉じたあと、歯間乳頭はどこに落ち着くのか。
理屈のうえでは、骨縁下欠損の再生療法で得られるアタッチメント獲得は、ポケット減少と等しいはずです。つまり歯肉退縮は増えないはず。ところが前歯部では、患者がいちばん気にするのはまさにその退縮——治ったのに、歯が長くなった、と。
この10年、術式はその方向へ進化してきました。MIST/M-MIST(低侵襲手術)は弁の範囲を縮め、歯間組織の一次閉鎖を得て退縮を最小化。Trombelliらのシングルフラップアプローチは、頬側か口蓋側の片方だけから入り、反対側を無傷で残す。そしてZucchelliらのCTGウォールテクニックは、口蓋の緻密な結合組織を「失われた頬側骨壁の代わり」に使うという発想でした。
②なぜ「口蓋から入る」のか
元のCTGウォールテクニックは、頬側から骨欠損にアクセスし、片側フラップで済ませる設計でした。主目的がミラーIV級の歯肉退縮の根面被覆であり、口蓋側のポケットが深くないので口蓋弁を挙上する必要がなかったからです。
今回の2症例は条件が違いました。より深い1壁性の骨縁下欠損で、頬側にも口蓋側にも深いポケットがあり、しかも頬側と歯間部に歯肉退縮を伴う。そこで両側の弁を挙上して骨欠損を露出させ、アクセスは口蓋から取るという設計に変えたのです。
口蓋から入ることの利点を、著者らは6つ挙げています。要点はこの3つでしょう。
①骨頂上の軟組織と乳頭複合体が、頬側弁につながったまま残る——だから頬側弁と一緒に歯冠側へ持ち上げられる。②口蓋側の長いベベル切開により、縫合時に骨頂上軟組織と口蓋弁の結合組織どうしが広く接するため、一次閉鎖が得られやすい。③万一、理想的な閉鎖が得られなかったときも、切開線が口蓋側にあるので審美的な不利が出にくい。
そしてCTGの役割です。口蓋由来の緻密な上皮下結合組織は、欠損部の隣の乳頭と、骨欠損底部より根尖側の骨膜にしっかり固定されると、頬側の軟組織が骨欠損の中へ落ち込むのを防ぐ「壁」として十分な硬さを持ちうる——つまり、失われた頬側の骨壁を代替し、血餅を骨欠損内で安定させる、という理屈です。加えて、露出根面の上に置かれたCTGは、歯冠側移動弁単独より根面被覆を改善し、軟組織の厚みを増やします(長期安定に必要な条件です)。
③術式——口蓋のベベル切開から、CTGの縫合まで
原因除去療法として、超音波の細く薄いチップで根面のデブライドメントを行います。骨縁下欠損を覆う歯間乳頭の収縮を最小限にするため、組織への接触を極力減らすのがポイントです。再生手術は、この原因除去療法の4週間後に予定されました(術前にアモキシシリン2g)。
手術はこう進みます。骨縁下欠損を覆う口蓋側の解剖学的乳頭の基部と、その隣接する2つの口蓋乳頭の基部に、水平の部分層切開。切開は口蓋の軟組織の厚みに応じてできる限りベベルを付け、口蓋骨に到達したら全層剥離に切り替えます。
骨頂上の軟組織を水平の部分層切開で口蓋骨から分離し、コンタクトポイントの下をくぐらせて口蓋側から頬側へそっと押し出す。頬側でこの組織が可動になったら、頬側弁を挙上する番です。頬側弁は、複数歯肉退縮に対する歯冠側移動弁と同じ設計(隣接歯間部は歯肉縁下の部分層外科的乳頭)で挙上し、口蓋側から来た骨頂上軟組織の部分は全層で挙上します。
肉芽組織を除去し、根面をルートプレーニング。症例1では最深部の骨縁下成分が5mmでした。24% EDTAゲルで2分間コンディショニング、生理食塩水で洗浄したのちEMDゲルを根面と骨壁に塗布します。
CTGは口蓋から採取した遊離歯肉移植片を脱上皮して作り、近遠心的には欠損の両隣の健全な乳頭の間を、根尖ー歯冠方向には健全歯のCEJから欠損より根尖側の頬側骨までをカバーする大きさ、厚さは1mm。歯冠側は隣の2歯の解剖学的乳頭の基部に、根尖側は骨欠損より根尖側の頬側骨に残した骨膜に、7-0ポリグリコール酸の単純縫合で固定します。
頬側弁は2本の部分層切開(深いほうで骨膜上の筋付着を切り、浅いほうで粘膜内面の筋を離断)で歯冠側へ可動化。すべての歯でCEJより歯冠側に受動的に届き、骨頂上軟組織がコンタクトポイントまで歯間空隙を受動的に埋められる状態を、可動化の十分条件としています。縫合は口蓋側の舌面基底結節に懸垂させるスリング縫合、加えて水平マットレス縫合で骨頂上軟組織と口蓋弁をほぼ接触させ、口蓋側は単純縫合で一次閉鎖。
術後は0.12%クロルヘキシジンを1日3回14日間(抜糸まで)、最初の3か月は週1回のプロフェッショナルケア、以後は3か月ごとという管理でした。
④1年後の数字
症例1(35歳男性・重度侵襲性歯周炎、上顎左中切歯が挺出)。術前は遠心CAL 12mm/PD 11mm、頬側CAL 9mm/PD 8mm、近心CAL 8mm/PD 8mm、口蓋CAL 9mm/PD 9mm。1年後は遠心・近心・口蓋がいずれもCAL 3mm/PD 3mm、頬側がCAL 2mm/PD 2mm、退縮はすべて0mmとなりました。
症例2(23歳男性・1年前に前歯部の重度外傷、感染根管治療済み)。術前は近心CAL 10mm/PD 10mm、頬側CAL 8mm/PD 5mm/退縮3mm。1年後は近心CAL 4mm/PD 4mm、頬側CAL 2mm/PD 2mm、退縮0mm。頬側の歯肉退縮は完全に被覆されました。
X線では、両症例とも骨縁下成分の充填が確認されています。症例1は3年後の再来院でも臨床的・X線的に安定しており、歯間軟組織はさらに改善して歯間空隙を埋めていました。症例2も2年後のX線で骨縁下成分の充填が確認されています。
正直に書いておくと、症例2では対側歯の頬側で移植片のわずかな露出が見られました。
⑤明日の臨床へ——適応と禁忌
著者らは、この術式の主な適応を明確に示しています。①頬側の骨壁がない垂直性骨欠損、②歯間軟組織の幅が狭い、あるいは頬側・歯間部に歯肉退縮を伴う垂直性骨欠損。
そして主な禁忌は、術前に口蓋側の歯肉退縮がある症例です。口蓋から切開して弁を動かす以上、これは理にかなった線引きでしょう。
もうひとつ、症例1では1年後に挺出を修正するためのエナメロプラスティとコンポジットレジンによる形態修正、症例2では2年後に歯間離開を減らす形態修正が行われています。再生と審美を1回の外科で改善したうえで、最後に補綴的な仕上げを重ねる——この順序も含めて1つの治療設計だ、と読むべきでしょう。
今日のひとこと
CTGウォールテクニックのアクセス経路を頬側から口蓋側へ変え、EMDと併用して深い垂直性骨欠損を治療した2症例の報告。口蓋から入ることで、骨頂上の軟組織と乳頭複合体が頬側弁につながったまま残り、頬側弁とともに歯冠側へ移動できるのが要点です。口蓋の長いベベル切開により縫合時の結合組織の接触面が広がり一次閉鎖が得られやすく、切開線が口蓋側にあるため理想的な閉鎖が得られなくても審美的な不利が出にくいという利点も挙げられています。口蓋由来の緻密な上皮下結合組織は、隣接乳頭と骨欠損底部より根尖側の骨膜に固定されると、頬側軟組織が骨欠損内へ落ち込むのを防ぐ壁として働き、血餅を安定させます。症例1(35歳・重度侵襲性歯周炎)は術前の遠心CAL 12mm/PD 11mmが1年後に3mm/3mm、頬側は9mm/8mmが2mm/2mmへ改善し、退縮はすべて0mm。症例2(23歳・外傷後)は近心CAL 10mm/PD 10mmが4mm/4mm、頬側は8mm/5mm/退縮3mmが2mm/2mm/0mmとなり、頬側の退縮は完全に被覆されました。両症例ともX線で骨縁下成分の充填が確認され、症例1は3年後も安定していました。主な適応は頬側の骨壁がない垂直性骨欠損と、歯間軟組織が狭い/頬側・歯間部の退縮を伴う症例で、主な禁忌は術前に口蓋側の歯肉退縮があることです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


