ペリオ|Phase2 歯周外科
膜を外したときは、喫煙者も非喫煙者も同じくらい組織が満ちていました。差がついたのはその後です。1995年、Tonettiらは深い骨縁下欠損71か所のGTRを追い、喫煙が「作る力」ではなく「保つ力」を削っていることを示しました。
①膜を外したときは、差がなかった
GTRで深い骨縁下欠損に挑むとき、われわれは「膜の下でどれだけ組織ができたか」を成功の手応えにします。膜を外した瞬間に見える、あの新生組織の量です。
ところがこの研究を読むと、その手応えが1年後の結果を保証しないことが分かります。
1990年代前半、喫煙が歯周炎のリスク因子であることは固まりつつありました。非外科・外科ともに喫煙者の反応が悪いという報告も出ていました。ただ再生療法(GTR)については、まだ逸話的な証拠しかない状態でした。
Cortelliniらは深い骨縁下欠損のGTRで臨床的に有意で再現性のある付着獲得を得ており、続く研究で治癒反応を「組織形成期」と「組織成熟期」に分けて評価する枠組みを立てていました(この2つは膜除去によって臨床的に区別できます)。そこで未評価だったのが喫煙の影響——それが本研究の目的です。
②1日10本を境に、2群に分ける
対象は、51名(男性27名・女性24名、18〜59歳)の深い骨縁下欠損71か所。組み入れ条件は、隣接面に垂直性欠損があり、プロービングアタッチメントレベルの喪失が6mm以上、X線で骨縁下成分が確認できることです。
喫煙者の定義は「1日10本を超える」。1日10本未満の時々喫煙者・軽度喫煙者は除外しています。結果、喫煙者20名(32欠損/男13・女7、平均44.6±8.6歳)、非喫煙者31名(39欠損/男14・女17、42.6±11.2歳)となりました。
治療手順は両群で同じです。初期治療(スケーリング・ルートプレーニング・口腔衛生指導)→3か月後にベースライン計測→その1週後にGTR手術。感染管理としてテトラサイクリンHCl 250mg 1日4回、0.2%クロルヘキシジン洗口、週1回のプロフィラキシス。膜(Gore-Tex Periodontal Material)は術後4〜6週で除去し、その後1年間は月1回のリコール。1年後に臨床計測を行いました。
ここで注意しておきたいのがベースラインの非対称です。非喫煙者の欠損のほうが有意に深い——PALは9.6±1.7mm(喫煙者)対11.6±2.8mm(非喫煙者、p=0.0006)、PPDは7.3±2mm対8.7±2.1mm(p=0.0074)、CEJから欠損底までは11±1.7mm対13.2±2.9mm(p=0.0006)。ただし骨縁下成分の総深さ(INFRA)と、3壁・2壁・1壁の各成分には有意差がありません。
口腔衛生も差があります。フルマウスプラークスコアはベースラインで喫煙者16.4±5.4%対非喫煙者11.7±4.7%(p=0.0033)、1年後で9.6±5.1%対7±3.3%(p=0.0038)。両群とも1年で有意に改善しているものの、喫煙者のほうが一貫して高い。出血スコアも同様の傾向でした。
著者らはこの非対称を意識して、結果を絶対値(mm)だけでなく「骨縁下成分の深さに対する割合(%)」でも表すという手当てをしています。
③作る力ではなく、保つ力が削られる
膜除去時の組織獲得は、非喫煙者7.6±2.0mm、喫煙者6.0±1.5mm(p=0.0006)。絶対値では差があります。ところが骨縁下成分の深さに対する割合で見ると、喫煙者147±110%、非喫煙者119±30%で有意差なし(p=0.723)。
つまり「膜の下に新しい組織を作る」段階では、喫煙者も非喫煙者も同じだけ欠損を満たしていた。ベースラインの欠損の深さの差が、絶対値の差を説明していたわけです。
ところが1年後の姿は違いました。アタッチメント獲得は喫煙者2.1±1.2mm、非喫煙者5.2±1.9mm(p<0.0001)。割合で見ても、喫煙者は初期の骨縁下成分の51±68%、非喫煙者は81±30%(p<0.0001)——今度は割合で見ても有意に差が開いています。
この2つを引き算すると、何が起きたかが見えます。膜下で得た新生組織と1年後のアタッチメント獲得を比べると、非喫煙者は2.4mmを失っていました。これは既報と同程度です。対して喫煙者は3.9mm——有意に大きい喪失でした。
ポケット深さと退縮も併記しておきます。PPDは非喫煙者が8.7±2.1mm→2.3±0.8mm、喫煙者が7.3±2.1mm→3±1.5mm。歯肉縁の退縮は喫煙者が2.3±1.2mm→4.5±1.7mm、非喫煙者が2.9±1.7mm→4.2±2.2mmと、両群とも有意に増加しました。
④プラークのせいではない、と言える理由
ここで当然の疑問が出ます。「喫煙者はプラークスコアも高かった。差はプラークのせいではないのか」。
著者らはこれに多変量モデルで答えました。1年後のアタッチメント獲得を、①ベースラインの骨縁下成分の深さ、②喫煙の有無、③患者の口腔衛生(1年後のフルマウスプラークスコアの階級)で説明するモデルを組みます。
このモデルは観察された変動の62%を説明し(R²=0.62、F=21.4、p<0.0001)、口腔衛生の水準と欠損の深さを補正したうえでも、喫煙の効果は高度に有意でした(非喫煙者の係数 2.11、p<0.0001)。プラークスコアも独立して効いており、FMPS 10%未満の係数は1.85(p=0.0054)です。
もうひとつの角度がリスク評価です。著者らは「looser」を、膜除去から1年のあいだに新生肉芽組織を3mm超失った部位と定義しました。
結果、非喫煙群では39か所中9か所(23%)、喫煙群では32か所中18か所(56%)がlooser(χ²=8.208、p=0.004)。喫煙による相対リスクは4.3(95%CI 1.5–11.9)です。
プラークスコア12%以上による相対リスクは3.4(95%CI 1.2–9.8、p=0.018)で、この研究の厳しめの有意水準(α=0.01)では有意に届いていません。
そして両者を合わせると、「喫煙かFMPS 12%以上のいずれか、または両方」がある場合の相対リスクは11.4(95%CI 2.4–54.2、p<0.0001)。どちらのリスクもない患者ではlooser部位の存在率が8.7%だったのに対し、片方または両方をもつ患者では43.8〜62.5%にのぼりました。
⑤なぜ「成熟期」だけが削られるのか
著者らの解釈はこうです。タバコの煙には4000種を超える毒性成分が含まれ、とくにニコチン・一酸化炭素・シアン化水素が問題視されている。これらは組織の灌流・細胞増殖・代謝を阻害することで創傷治癒を損なうと考えられている——実際、開腹術後や形成外科(フェイスリフト・皮弁)でも喫煙者の治癒障害が示されています。
そのうえで著者らは、「喫煙のGTRへの影響が直接的なものか、それともプラーク感染を介したものかは、前向き研究で確かめる必要がある」と、慎重に留保を置いています。
ただ臨床的な含意ははっきりしています。膜下の組織形成そのものは喫煙者でも起こる。失われるのは、その後の「新しく作った組織を保つ」局面です。
⑥明日の臨床へ
①膜除去時の手応えで判断しない。 形成期には差が出ません。喫煙者では「うまくいったように見えた」あとで失う——術後1年までの追跡を前提に置く必要があります。
②再生療法の適応判断に、喫煙を組み込む。 相対リスク4.3という数字は、術式の選択そのものを左右します。喫煙者に高侵襲・高コストの再生療法を勧める前に、この数字を共有するのは誠実な説明です。
③禁煙の話を「術前」にする。 この研究は禁煙の効果を検証していません。ただ「削られるのは術後の成熟期」だという構造は、術前・術後の期間こそ介入の的だと示唆します。
④プラークコントロールは別枠で効く。 モデルではプラークスコアも独立した因子でした。喫煙とプラークの両方があると相対リスクは11.4。禁煙が難しい患者でも、プラーク側は動かせる——ここは諦めない材料になります。
今日のひとこと
深い骨縁下欠損71か所(51名)をGTR(テフロン膜)で治療し、喫煙の有無で治癒を比べた後ろ向き研究(喫煙者=1日10本超の20名32欠損、非喫煙者=31名39欠損。1日10本未満の軽度・時々喫煙者は除外)。膜除去時(術後4〜6週)の組織獲得は、喫煙者6.0±1.5mm、非喫煙者7.6±2.0mm。骨縁下成分に対する割合で見ると147±110%対119±30%で有意差なし——つまり「組織を作る」段階では差がありません。ところが1年後のアタッチメント獲得は、喫煙者2.1±1.2mm、非喫煙者5.2±1.9mm(p<0.0001)。骨縁下成分に対する割合では51±68%対81±30%(p<0.0001)。膜下で得た新生組織と1年後のアタッチメント獲得を比べると、非喫煙者の喪失が2.4mmだったのに対し、喫煙者は3.9mmと有意に大きい。口腔衛生と欠損の深さを補正した多変量モデル(R²=0.62、p<0.0001)でも、喫煙は独立した有意な因子でした。膜除去から1年で新生組織を3mm超失う「looser」部位は、喫煙群32か所中18か所、非喫煙群39か所中9か所。喫煙の相対リスクは4.3(95%CI 1.5–11.9)。喫煙とプラークスコア12%以上の両方またはいずれかがある場合、相対リスクは11.4(95%CI 2.4–54.2)。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


