1問1答 論文 歯周病

GTRの成績を、喫煙はどこで削るのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

膜を外したときは、喫煙者も非喫煙者も同じくらい組織が満ちていました。差がついたのはその後です。1995年、Tonettiらは深い骨縁下欠損71か所のGTRを追い、喫煙が「作る力」ではなく「保つ力」を削っていることを示しました。

論文
Effect of cigarette smoking on periodontal healing following GTR in infrabony defects. A preliminary retrospective study
著者
Tonetti MS, Pini-Prato G, Cortellini P
掲載
Journal of Clinical Periodontology 1995;22(3):229-234
種類
後ろ向き研究(51名・深い骨縁下欠損71か所・GTR(テフロン膜)・喫煙者20名32欠損 vs 非喫煙者31名39欠損・1年追跡)
PMID
7790529

膜を外したときは、差がなかった

GTRで深い骨縁下欠損に挑むとき、われわれは「膜の下でどれだけ組織ができたか」を成功の手応えにします。膜を外した瞬間に見える、あの新生組織の量です。

ところがこの研究を読むと、その手応えが1年後の結果を保証しないことが分かります。

1990年代前半、喫煙が歯周炎のリスク因子であることは固まりつつありました。非外科・外科ともに喫煙者の反応が悪いという報告も出ていました。ただ再生療法(GTR)については、まだ逸話的な証拠しかない状態でした。

Cortelliniらは深い骨縁下欠損のGTRで臨床的に有意で再現性のある付着獲得を得ており、続く研究で治癒反応を「組織形成期」と「組織成熟期」に分けて評価する枠組みを立てていました(この2つは膜除去によって臨床的に区別できます)。そこで未評価だったのが喫煙の影響——それが本研究の目的です。

先に結論: 膜除去時(形成期)の組織獲得は、割合で見れば喫煙者と非喫煙者に有意差なし差がついたのは1年後(成熟期)で、アタッチメント獲得は2.1mm対5.2mm膜下で得たものをどれだけ失うかが違い、喫煙者は3.9mm、非喫煙者は2.4mmを失った

1日10本を境に、2群に分ける

対象は、51名(男性27名・女性24名、18〜59歳)の深い骨縁下欠損71か所組み入れ条件は、隣接面に垂直性欠損があり、プロービングアタッチメントレベルの喪失が6mm以上、X線で骨縁下成分が確認できることです。

喫煙者の定義は「1日10本を超える」1日10本未満の時々喫煙者・軽度喫煙者は除外しています。結果、喫煙者20名(32欠損/男13・女7、平均44.6±8.6歳)、非喫煙者31名(39欠損/男14・女17、42.6±11.2歳)となりました。

治療手順は両群で同じです。初期治療(スケーリング・ルートプレーニング・口腔衛生指導)→3か月後にベースライン計測→その1週後にGTR手術感染管理としてテトラサイクリンHCl 250mg 1日4回、0.2%クロルヘキシジン洗口、週1回のプロフィラキシス膜(Gore-Tex Periodontal Material)は術後4〜6週で除去し、その後1年間は月1回のリコール1年後に臨床計測を行いました。

ここで注意しておきたいのがベースラインの非対称です。非喫煙者の欠損のほうが有意に深い——PALは9.6±1.7mm(喫煙者)対11.6±2.8mm(非喫煙者、p=0.0006)、PPDは7.3±2mm対8.7±2.1mm(p=0.0074)、CEJから欠損底までは11±1.7mm対13.2±2.9mm(p=0.0006)ただし骨縁下成分の総深さ(INFRA)と、3壁・2壁・1壁の各成分には有意差がありません

口腔衛生も差がありますフルマウスプラークスコアはベースラインで喫煙者16.4±5.4%対非喫煙者11.7±4.7%(p=0.0033)、1年後で9.6±5.1%対7±3.3%(p=0.0038)両群とも1年で有意に改善しているものの、喫煙者のほうが一貫して高い出血スコアも同様の傾向でした。

著者らはこの非対称を意識して、結果を絶対値(mm)だけでなく「骨縁下成分の深さに対する割合(%)」でも表すという手当てをしています。

作る力ではなく、保つ力が削られる

0 3mm 6mm 9mm 獲得量(mm) 7.6mm 6mm 5.2mm 2.1mm 膜除去時の組織獲得 1年後のアタッチメント獲得 濃い棒=非喫煙者/淡い棒=喫煙者。膜除去時の差は骨縁下成分に対する割合で見ると有意でない(119%対147%・p=0.723)。1年後は割合で見ても有意差がある(81%対51%・p<0.0001)
膜除去時の組織獲得と、1年後のアタッチメント獲得。差がつくのは後半

膜除去時の組織獲得は、非喫煙者7.6±2.0mm、喫煙者6.0±1.5mm(p=0.0006)。絶対値では差があります。ところが骨縁下成分の深さに対する割合で見ると、喫煙者147±110%、非喫煙者119±30%で有意差なし(p=0.723)

つまり「膜の下に新しい組織を作る」段階では、喫煙者も非喫煙者も同じだけ欠損を満たしていた。ベースラインの欠損の深さの差が、絶対値の差を説明していたわけです。

ところが1年後の姿は違いましたアタッチメント獲得は喫煙者2.1±1.2mm、非喫煙者5.2±1.9mm(p<0.0001)割合で見ても、喫煙者は初期の骨縁下成分の51±68%、非喫煙者は81±30%(p<0.0001)——今度は割合で見ても有意に差が開いています

この2つを引き算すると、何が起きたかが見えます。膜下で得た新生組織と1年後のアタッチメント獲得を比べると、非喫煙者は2.4mmを失っていました。これは既報と同程度です。対して喫煙者は3.9mm——有意に大きい喪失でした。

ポケット深さと退縮も併記しておきます。PPDは非喫煙者が8.7±2.1mm→2.3±0.8mm、喫煙者が7.3±2.1mm→3±1.5mm歯肉縁の退縮は喫煙者が2.3±1.2mm→4.5±1.7mm、非喫煙者が2.9±1.7mm→4.2±2.2mmと、両群とも有意に増加しました。

プラークのせいではない、と言える理由

0 23.3% 46.7% 70% 新生組織を3mm超失った部位の割合(%) 56% 23% 喫煙者 非喫煙者 実数は喫煙群32か所中18か所、非喫煙群39か所中9か所(χ²=8.208・p=0.004)。喫煙の相対リスクは4.3(95%CI 1.5–11.9)。喫煙かプラークスコア12%以上のいずれか/両方がある場合は11.4(95%CI 2.4–54.2)
膜除去から1年で新生組織を3mm超失った「looser」部位の割合

ここで当然の疑問が出ます。「喫煙者はプラークスコアも高かった。差はプラークのせいではないのか」

著者らはこれに多変量モデルで答えました。1年後のアタッチメント獲得を、①ベースラインの骨縁下成分の深さ、②喫煙の有無、③患者の口腔衛生(1年後のフルマウスプラークスコアの階級)で説明するモデルを組みます。

このモデルは観察された変動の62%を説明し(R²=0.62、F=21.4、p<0.0001)、口腔衛生の水準と欠損の深さを補正したうえでも、喫煙の効果は高度に有意でした(非喫煙者の係数 2.11、p<0.0001)。プラークスコアも独立して効いており、FMPS 10%未満の係数は1.85(p=0.0054)です。

もうひとつの角度がリスク評価です。著者らは「looser」を、膜除去から1年のあいだに新生肉芽組織を3mm超失った部位と定義しました。

結果、非喫煙群では39か所中9か所(23%)、喫煙群では32か所中18か所(56%)がlooser(χ²=8.208、p=0.004)喫煙による相対リスクは4.3(95%CI 1.5–11.9)です。

プラークスコア12%以上による相対リスクは3.4(95%CI 1.2–9.8、p=0.018)で、この研究の厳しめの有意水準(α=0.01)では有意に届いていません

そして両者を合わせると、「喫煙かFMPS 12%以上のいずれか、または両方」がある場合の相対リスクは11.4(95%CI 2.4–54.2、p<0.0001)どちらのリスクもない患者ではlooser部位の存在率が8.7%だったのに対し、片方または両方をもつ患者では43.8〜62.5%にのぼりました。

なぜ「成熟期」だけが削られるのか

著者らの解釈はこうです。タバコの煙には4000種を超える毒性成分が含まれ、とくにニコチン・一酸化炭素・シアン化水素が問題視されているこれらは組織の灌流・細胞増殖・代謝を阻害することで創傷治癒を損なうと考えられている——実際、開腹術後や形成外科(フェイスリフト・皮弁)でも喫煙者の治癒障害が示されています

そのうえで著者らは、「喫煙のGTRへの影響が直接的なものか、それともプラーク感染を介したものかは、前向き研究で確かめる必要がある」と、慎重に留保を置いています。

ただ臨床的な含意ははっきりしています。膜下の組織形成そのものは喫煙者でも起こる失われるのは、その後の「新しく作った組織を保つ」局面です。

明日の臨床へ

①膜除去時の手応えで判断しない。 形成期には差が出ません。喫煙者では「うまくいったように見えた」あとで失う——術後1年までの追跡を前提に置く必要があります。

②再生療法の適応判断に、喫煙を組み込む。 相対リスク4.3という数字は、術式の選択そのものを左右します。喫煙者に高侵襲・高コストの再生療法を勧める前に、この数字を共有するのは誠実な説明です。

③禁煙の話を「術前」にする。 この研究は禁煙の効果を検証していません。ただ「削られるのは術後の成熟期」だという構造は、術前・術後の期間こそ介入の的だと示唆します。

④プラークコントロールは別枠で効く。 モデルではプラークスコアも独立した因子でした。喫煙とプラークの両方があると相対リスクは11.4禁煙が難しい患者でも、プラーク側は動かせる——ここは諦めない材料になります。

ここだけ、冷静に補助線。 後ろ向きの予備研究であり、著者ら自身がタイトルに “preliminary” と付けていますベースラインで非喫煙者の欠損のほうが有意に深いという不均衡があり(著者らは割合表示と多変量モデルで補正していますが、後ろ向き研究の交絡を完全には消せません)、喫煙量も「1日10本超」という粗い二分です。「looser」の定義(3mm超の喪失)も著者らが任意に決めたものまた患者数51名は、相対リスクの信頼区間の広さ(1.5–11.9、2.4–54.2)にそのまま表れています。それでも、治癒を「形成期」と「成熟期」に分けて測り、喫煙がどちらを削るのかを特定してみせた着眼は鮮やかで、その後の再生療法における喫煙者の扱いを方向づけた一本です。

今日のひとこと

深い骨縁下欠損71か所(51名)をGTR(テフロン膜)で治療し、喫煙の有無で治癒を比べた後ろ向き研究喫煙者=1日10本超の20名32欠損、非喫煙者=31名39欠損。1日10本未満の軽度・時々喫煙者は除外)。膜除去時(術後4〜6週)の組織獲得は、喫煙者6.0±1.5mm、非喫煙者7.6±2.0mm。骨縁下成分に対する割合で見ると147±110%対119±30%で有意差なし——つまり「組織を作る」段階では差がありませんところが1年後のアタッチメント獲得は、喫煙者2.1±1.2mm、非喫煙者5.2±1.9mm(p<0.0001)骨縁下成分に対する割合では51±68%対81±30%(p<0.0001)膜下で得た新生組織と1年後のアタッチメント獲得を比べると、非喫煙者の喪失が2.4mmだったのに対し、喫煙者は3.9mmと有意に大きい口腔衛生と欠損の深さを補正した多変量モデル(R²=0.62、p<0.0001)でも、喫煙は独立した有意な因子でした膜除去から1年で新生組織を3mm超失う「looser」部位は、喫煙群32か所中18か所、非喫煙群39か所中9か所。喫煙の相対リスクは4.3(95%CI 1.5–11.9)喫煙とプラークスコア12%以上の両方またはいずれかがある場合、相対リスクは11.4(95%CI 2.4–54.2)

出典:Tonetti MS, Pini-Prato G, Cortellini P. Effect of cigarette smoking on periodontal healing following GTR in infrabony defects. A preliminary retrospective study. J Clin Periodontol 1995;22(3):229-234. PMID: 7790529
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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