ペリオ|Phase2 歯周外科
ポケット5mm。SRPで粘るか、外科に進むか。1996年、Kaldahlらは同じ患者の4つの象限に4種類の治療を割り付け、7年間のSPTを通して追いました。答えは「深さで変わる」、そして「時間とともに差が消えていく」でした。
①ポケット5mm、SRPで粘るか外科に進むか
再評価でポケットが5mm残っている。ここでSRPを繰り返すか、フラップを開けるか——歯周治療でいちばん頻繁に立つ分岐です。
この問いに答えるには、同じ口の中で複数の治療を比べ、しかも長く追うしかありません。1年の短期試験では、術直後の見た目の差がそのまま結論になってしまう。
Kaldahlらは、82名の患者の4つの象限に、4種類の治療をランダムに割り付け、最長7年のSPTを通して追いました。しかも初期ポケット深さで層別して結果を見るという設計です。
②1人の口を、4つに分けて比べる
対象は、中等度から重度の歯周炎をもつ患者82名(女性30名・男性52名、平均43.5歳)。全員が能動的治療を完了しました。
各患者の4象限に、4つの治療をランダムに割り付けます。
①CS=歯冠部スケーリングのみ(縁下器具操作なし)/②RP=歯冠部スケーリング+縁下スケーリング・ルートプレーニング/③MW=RPののち修正Widman手術/④FO=RPののち粘膜骨膜弁を翻転し、骨切除で「positive osseous architecture」を作り、フラップを根尖側に位置づける。
治療は3フェーズ構成です。Phase I(非外科)→Phase II(外科)→SPT(3か月間隔、最長7年)。すべての治療を1名の歯周病専門医と3名の歯科衛生士が担当し、データ収集は治療に関与していない別の較正済み歯周病専門医が行いました。
外科はPhase I後に5mm以上をプロービングする部位が1か所以上ある歯に対して実施。審美性を保つため、上顎前歯にはFOを行っていません。
測定は1歯6点(第三大臼歯を除く全歯)。プロービング圧を制御した較正済みプローブ(先端径0.35mm)を用い、出血の判定は25g相当、ポケット深さの測定は50g相当の圧で行っています。検者の再現性は、ポケット深さが±1mm以内で95%、アタッチメントレベルが±1mm以内で94%でした。
データは初期ポケット深さで1〜4mm、5〜6mm、7mm以上に層別して解析されます。
ひとつ重要な注意があります。CS(縁下に触れない)で治療した部位は崩壊が多く、脱落が相次ぎました。SPT 2年後には初期7mm以上の部位の37.1%が、3年後には50.2%が、不安定と判定されてルートプレーニングを受け再分類されています。そのため著者らは、CSのデータを2年までしか報告していません(残ったCS部位は「崩壊しにくかった部位」に偏るため、長期の平均比較は不適切だと明記しています)。
③差は、時間とともに消えていく
Phase II(外科)の直後、ポケット減少はどの深さでも FO>MW>RP>CS の順でした。この時点だけを見れば「外科のほうが優れている」という結論になります。
ところがSPTを重ねると、話が変わります。
1〜4mmの部位:SPT 2年終了時点で、RP・MW・FOのあいだに有意差がなくなりました。
5〜6mmの部位:Phase II後の最初の2年はFO>MW>RP>CSの順が保たれます。しかしMWとRPの差は、SPT 3年目以降なくなりました。FOはより大きな減少を6年目まで保ちましたが、その時点でMW・FO間の差も統計的に有意でなくなっています。
7mm以上の部位:Phase I(非外科)の段階で、RPはCSより有意に大きなポケット減少を示しました。Phase II後は FO>MW>RP>CS の順。この順序はSPT 4年目まで維持され、MWとRPの差は5年目以降なくなりました。FOは7年目までMWとRPより大きなポケット減少を保ち続けています。
そしてより深い部位ほど、ポケット減少もアタッチメント獲得も大きいという関係が、研究期間を通じて一貫していました。
④アタッチメントで見ると、順位が入れ替わる
ポケットの数字だけを見ていると、FOが最も優れているように見えます。しかしアタッチメントレベルで見ると、順位が変わります。
1〜4mmの部位:Phase I終了時、CSとRPは有意なアタッチメントの獲得を示し、MWを上回りました。そしてFOは、CS・RP・MWと有意に異なるアタッチメントの喪失を生じています。SPT中、RPとMWの部位ではアタッチメントが獲得された一方、FOの部位ではほとんど変化がなく、研究終了時点の正味の喪失はRP・MWを上回りました。
5〜6mmの部位:4つの治療すべてが有意な獲得を示しました。ただしRPとMWの獲得は、CSとFOより有意に大きい。SPT期間の後半でも、RPの部位はFOより、そして程度は小さいもののMWより大きな平均獲得を示しています。
7mm以上の部位:4つの治療すべてが有意な獲得を示し、RP・MW・FOの獲得は同程度でCSより大きく、7年間のSPTを通じて等しく維持されました。
つまり「深い部位ではRPでもMWでもFOでも同じだけアタッチメントが得られ、浅い部位ではFOが損をする」という構図です。
歯肉退縮は FO>MW>RP>CS の順で、この関係はSPT期間を通じて維持されました。FOのポケット減少は、隣接する浅い部位のアタッチメントを代償にして得られている——著者らはそう明記しています。
⑤縁下に触れない治療の代償
この研究のもうひとつの読みどころが、CS(縁上のスケーリングのみ)の扱いです。
CSの部位でも、平均ポケット深さの減少・アタッチメントの獲得・出血と化膿の減少は起きました。しかしその大きさは、縁下に器具を入れた他の治療がもたらした変化と比べると小さく、とくに5mm以上の深い部位で差が明らかでした。
そして歯周膿瘍です。CS象限では23回(1〜4mmで3回、5〜6mmで6回、7mm以上で14回)。対してRPは3回、MWは1回、FOは0回。
抜歯も見ておきます。7年のSPT中に、根尖またはそれを越えるまで進行したため抜歯された歯は、CS 19歯、RP 21歯、MW 20歯、FO 5歯(+2根が切除)。抜歯された歯の最深部位の初期ポケット深さは平均9.45±2.24mmでした。
ただしここは慎重に読む必要があります。FO象限では、「positive osseous architecture」を確立するために、Phase I・II の段階で24歯と8根がすでに除去されているのです。それらの歯の最深部位の初期ポケット深さも平均9.81±2.26mm——つまりFO象限は、予後不良な歯を先に失ったうえでの数字であり、著者ら自身が「これがFOの平均データを有利にした可能性がある」と述べています。
炎症指標は全体としてよく改善しました。プロービング時出血の有病率は初期79%から、7年時点でRP・MW・FO部位では39%。化膿は初期20%から10%。縁上プラークは初期74%から41%です。RP・MW・FOのあいだに、出血・化膿・プラークの有病率の差はありませんでした。
⑥明日の臨床へ
①術直後の差で、治療法の優劣を決めない。 Phase II直後は明確にFO>MW>RP>CSでした。その差は、SPTを続けると深さに応じて2〜5年で消えていきます。
②深い部位(7mm以上)では、RPでもMWでもFOでも、アタッチメント獲得は同程度。 ポケット減少はFOが勝ちますが、「付着を取り戻す」という観点では差がありません。低侵襲を選ぶ根拠になります。
③浅い部位に外科を及ぼさない。 1〜4mm部位ではFOがアタッチメントを失い、その正味の喪失は7年後まで残りました。骨切除の範囲を、必要な部位に限る——設計の問題です。
④縁下に触れない管理は、深い部位では危険。 歯周膿瘍23回のうち14回が初期7mm以上のCS部位でした。「とりあえずクリーニングだけ」で深いポケットを放置しない。
⑤最大のポケット減少が目的なら、FOには利点がある。 著者らは「最大のポケット減少が臨床家の目標なら、フラップと骨切除には利点がある」と書いています。ただし臨床的にそれが正当化される状況は限られるとも。一方で、外科的歯冠長延長術のためには骨切除の原則が必要だとも付け加えています。
今日のひとこと
中等度〜重度の歯周炎をもつ患者82名(平均43.5歳)の4象限に、4種類の治療をランダムに割り付けたスプリットマウス試験(①歯冠部スケーリングのみ(CS)②歯冠部スケーリング+縁下ルートプレーニング(RP)③RP+修正Widmanフラップ(MW)④RP+骨切除を伴うフラップ手術(FO)。3か月間隔のSPTを最長7年)。外科フェーズ直後は、どの深さでもポケット減少は FO>MW>RP>CS の順でした。ところが1〜4mmの部位では、SPT 2年終了時に治療法間の差が消えます。5〜6mmの部位ではMWとRPの差が3年終了時に、7mm以上の部位では5年終了時に消えました。FOだけは5mm以上の部位で7年目までより大きなポケット減少を保ち続けます。一方アタッチメントは、5〜6mm部位ではRPとMWがCSとFOより大きく獲得し、7mm以上ではRP・MW・FOが同程度の獲得で、いずれもSPT中に維持されました。歯肉退縮は FO>MW>RP>CS の順で、この関係は7年間維持。歯周膿瘍はCS象限に集中(23回)し、RP 3回・MW 1回・FO 0回。プロービング時出血の有病率は初期79%から7年で39%(RP・MW・FO部位)まで下がりました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


