ペリオ|歯周病の診断・予後評価
予後不良、要注意、絶望的。カルテに書くその一言を、私たちは「あと何年もつか」で決めてきました。J Periodontol 2007年のコメンタリーは、その物差しそのものを取り替えます。基準は歯の寿命ではなく、歯周組織を安定させられるかどうか。favorable/questionable/unfavorable/hopeless の4区分は、ここから生まれました。
①「この歯、あと何年もちますか?」に答えられますか
初診のカウンセリング。重度の歯周炎の大臼歯を指して、患者さんが聞きます。「先生、この歯はあとどれくらいもちますか」。
私たちは、なんとなく「予後不良です」「厳しいですね」と答えます。でも、その言葉の中身を突き詰めたことはあるでしょうか。予後(prognosis)はラテン語の「先を知る」に由来する言葉で、辞書的には「病気の経過や症例の特徴から予想される回復の見通し」です。ところが歯科では、その見通しを「歯が抜けるかどうか」=歯の死亡率(tooth mortality)で表すのが伝統でした。
Kwok と Caton は、この前提そのものに疑問を投げます。歯の喪失を物差しにした予後は、そもそも当たるのか。当たったとして、患者管理の役に立つのか。この2007年のコメンタリーは、過去の予後分類を検証したうえで、「歯周組織の安定性」を物差しにした新しい予後分類を提案しました。
②そもそも、歯の喪失は「自然に」起こらない
著者らの指摘で最も鋭いのはここです。歯の喪失は自然現象ではなく、術者が下した決定に過ぎない。
歯科医療にアクセスできる社会では、歯を抜く理由の多くは医原性で、歯周組織の状態とは関係ないことすらあります。補綴設計の都合、術者の治療哲学、患者さんの希望や経済的事情。実際、著者らは「ほとんどの歯は、歯科医が抜くまで残しておける」と書いています。
その証拠が、メインテナンスなしで経過を追った Becker らの5年研究です。75%以上の骨吸収、8〜10mmのポケット、III度根分岐部病変、著しい動揺、不良なクラウン/ルート比、繰り返す膿瘍——そんな「hopeless(絶望的)」と判定された歯のうち、実際に失われたのは33.3%だけでした。逆に言えば3分の2は口の中に残っていた。ただし著者らは冷静に付け加えます。残っていた歯が、安定していて機能的で快適だったとは限らないと。
反対の極も紹介されます。Lindhe と Nyman が14年追った、よく管理された患者では、50%以上のアタッチメントロスがあった歯でも、失われたのは2.3%にとどまりました。歯が残るかどうかは、歯そのものの重症度よりも、その後の管理の質に強く引きずられるのです。
③従来の予後分類は、どこまで当たっていたか
著者らは過去の代表的な3つの分類を、実際の歯の喪失と突き合わせて検証します。
Hirschfeld と Wasserman(1978)は、600人を平均22年追いました。予後は favorable と questionable の2段階だけ。よく管理された群では、失われた歯の79.5%が questionable と判定されていた歯で、判定はよく当たっていました。ところが歯を多く失う群(downhill・extreme downhill)では、その割合は22.7%・55.4%へ下がります。つまりもともと favorable と判定した歯が、どんどん失われていた。著者らは、喫煙・糖尿病といった全身因子や、エナメル突起・歯頸部エナメル突起・オーバーハングといった局所因子が判定に組み込まれていなかったことを、理由のひとつに挙げています。
Becker ら(1984)は good/questionable/hopeless の3段階に、ポケット深さや根分岐部病変などのより詳しい基準を持ち込みました。よく管理された患者(平均6.58年)では、good の歯の喪失は1.7%、questionable は25.8%、hopeless は80.4%。判定は見事に段階を追っています。ところが管理されていない患者(平均5.25年)では、good 3.0%・questionable 37.2%に対し、hopeless はむしろ33.3%と低くなり、順序が崩れました。
McGuire と Nunn(1996)は good/fair/poor/questionable/hopeless の5段階まで細分し、よく管理された100人を追跡しました。5〜8年予測の的中率は全体で80%。悪くない数字に見えます。しかしgood の歯を除くと、的中率は約50%以下まで落ちました。中間のカテゴリーはとにかく動く。fair の半数以上(約55%)は good へ改善し、poor で poor のまま残ったのは20%未満、questionable に至ってはquestionable のまま残った歯はゼロでした。
著者らはここから2つの示唆を引き出します。ひとつは、細かく分けても中間は当たらないので、poor と questionable のような区分は統合したほうが予測は改善するということ。もうひとつは、失われた歯の多くは5〜6年以内に失われている(good〜questionable では平均5〜6.61年、hopeless では2.68年)ので、長期予後は5年程度で区切るのが現実的だということです。
④物差しを取り替える——歯の死亡率から、歯周組織の安定性へ
そこで著者らは、予後を組み立てる3つの要素を整理します。
1つ目は、何を予測するのか(アウトカムの定義)。 歯の喪失は確定的で分かりやすい反面、いま見たとおり術者の判断に左右され、追跡に長い時間がかかります。一方、歯周組織の安定性は臨床的アタッチメントレベルとエックス線写真の骨のレベルで、いつでも継続的に評価できる。コントロール可能な局所・全身因子に影響されるという点でも、患者管理に直結します。
2つ目は、いつまでの予測か(時間軸)。 「短期」「長期」の定義は文献ごとに恣意的でしたが、著者らは McGuire らのデータを踏まえ、長期=5年以上、短期=5年未満とするのが論理的だと提案します。そして予後は静的なラベルではなく、治療の進行やメインテナンスの状況で変わる動的なものだから、定期的に再判定すべきだとします。
3つ目は、歯単位か全顎かという視点。 喫煙・糖尿病のような全身因子は全顎に効き、根分岐部や解剖学的形態異常のような局所因子は個々の歯に効きます。歯周病は口の中で一様には進みません。だから全顎の予後と個々の歯の予後を分けて記述し、全身因子を考慮したうえで個々の歯の判定を調整する——この二段構えが、患者説明にも治療計画にも効いてきます。
⑤提案された4区分——決め手は「因子をコントロールできるか」
以上を踏まえて提案されたのが、次の4区分です。基準はシンプルで、その歯の状態を左右している局所・全身因子をコントロールできるかどうか。
Favorable(好ましい):包括的な歯周治療とメインテナンスで、その歯の歯周状態を安定させられる。条件が満たされれば、歯周支持組織のさらなる喪失は起こりにくい。
Questionable(疑問が残る):局所・全身の因子に影響されており、その因子をコントロールできるかどうかが読めない。コントロールできれば安定させられるが、できなければ将来の破壊が起こりうる。
Unfavorable(好ましくない):因子をコントロールできない。包括的な治療とメインテナンスを行っても、破壊が進む可能性が高い。
Hopeless(絶望的):抜歯が必要な歯。
注目したいのは、この4区分が「歯の重症度のランク」ではないことです。同じ8mmのポケットでも、その原因が磨けていないことなら questionable〜favorable に動きうるし、コントロール不能な全身疾患や解剖学的形態が絡めば unfavorable になる。予後判定は歯を採点する行為から、因子を評価する行為へ変わるのです。
⑥判定を動かす因子——全身と局所
では、何を評価すればよいのか。著者らは因子を全身と局所に分けて整理しています。
全身因子。筆頭はメインテナンスへのコンプライアンスです。Nyman らはプラークが停滞した状態で行われたポケット除去手術の後に破壊性歯周炎が再発したことを示し、Hujoel らは非外科治療の患者でもメインテナンスが途切れると歯の喪失が増えることを示しました。喫煙は、プラーク量を補正してもなお歯周病の罹患率と骨吸収を高め、非外科・外科治療、とくに再生療法の結果を悪くします。禁煙しなければ長期予後は悪化する一方で、11年以上の禁煙で罹患のオッズは非喫煙者に近づき、元喫煙者は非喫煙者と同様の治療反応を示しうる、という前向きなデータも紹介されます。糖尿病も、コントロール不良例で重症化しやすい一方、コントロールされていれば外科・非外科ともに健常者と同等の結果が得られると報告されています。ほかに好中球機能異常を伴う疾患群、白血病、HIV、フェニトイン・ニフェジピン・シクロスポリンによる歯肉増殖なども挙がります。
局所因子。深いポケットとアタッチメントロスは、それ自体が将来の破壊と関連します。理由は単純で、5mmを超えるポケットは健康な状態に保ちにくく、プラークと歯石が残るから。加えて根分岐部病変、エナメル真珠、歯頸部エナメル突起、口蓋歯肉溝などの形態異常、叢生・根の近接・オープンコンタクト(食片圧入は深いポケットと関連)、オーバーハングの修復物。咬合性外傷とパラファンクションについては、動揺や歯根膜腔の拡大は歯周破壊の「結果」であることが多く因果は単純ではないと断りつつ、ナイトガードを使わないパラファンクション患者は長期に歯を失いやすかったという報告を挙げています。動揺も長期予後の悪化と関連しますが、炎症が減り骨が再生すれば動揺は減る、という希望も添えられています。
⑦明日の臨床へ——予後は「書き換えるもの」
この論文がいちばん現場を変えるのは、予後を一度で決めないという点です。著者らは、予後を判定するタイミングを次のように置いています。
初診時:現状・想定される治療結果・因子をコントロールできるかの不確かさをもとに、暫定的に判定する。そのうえで、プラークコントロール・血糖コントロール・禁煙といった変えられる因子を患者さんに教育する。
初期治療後の再評価時:因子の状況が変わり、新しい所見(未申告の薬剤、コントロール不良の糖尿病など)も見えているので、判定し直す。ここで治療計画そのものを見直す。
包括的治療の後:結果を踏まえて再び判定し、今後の治療の見通しを患者さんと話す。
この流れで説明すると、患者さんへの言葉も変わります。「この歯は予後不良です」ではなく、「この歯が安定するかどうかは、禁煙と、この部位を磨ききれるかで決まります」。予後が患者さんの行動と地続きになり、こちらの説明が説得力を持つ。著者らが「臨床家と患者のコミュニケーションを促進する」と書いたのは、この意味です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
予後は「この歯が何年もつか」の予言ではなく、「歯周組織を安定させられるか」の判断。決め手は因子をコントロールできるかどうかで、答えは治療のたびに書き換わります。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


