1問1答 論文 歯周病

歯周病の患者さんは、糖尿病である確率が2.27倍

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

歯周病と糖尿病が双方向に影響し合うことは、もう常識です。でも臨床でいちばん知りたいのはこれです。目の前の歯周病患者さんは、どれくらいの確率で糖尿病を持っているのか。ACTA(アムステルダム)のグループが803本の文献から27本を拾い、その数字を出しました。答えは、私たちの想像より少し高いかもしれません。

論文
Prevalence of diabetes mellitus in people clinically diagnosed with periodontitis: A systematic review and meta-analysis
著者
Ziukaite L, Slot DE, Van der Weijden FA
掲載
J Clin Periodontol 2018;45(6):650-662.
種類
システマティックレビュー+メタ解析(疫学研究27本)
PMID
29125699

目の前の歯周病患者さん、糖尿病の確率はどれくらい?

歯周病と糖尿病が双方向に影響し合う——これはもう教科書の常識です。高血糖が歯周組織の炎症を悪化させ、歯周炎の炎症が血糖コントロールを乱す。私たちは患者さんにもそう説明します。

ですが臨床で本当に知りたいのは、機序ではなく確率です。いま目の前にいる中等度〜重度の歯周炎の患者さん。この人が糖尿病を持っている確率は、どれくらいなのか。 それが分かれば、内科受診を勧めるかどうかの判断が具体的になります。

Ziukaite らはこの問いに、疫学の集計で答えました。MEDLINE・CENTRAL・EMBASE から803本の題名と抄録を検索し、27本を採用。臨床的に診断された歯周炎の人で、糖尿病の有病率とオッズを推定したシステマティックレビューです。

先に結論: 歯周病の人の糖尿病有病率は13.1%(歯周病でない人は9.6%)。歯周病の人が糖尿病である統合オッズ比は2.27倍。ただし自己申告だと6.2%、臨床検査だと17.3%と、測り方で数字が大きく変わる。

なぜ「有病率」をあらためて数える必要があったのか

関連があることは、もう分かっている。それでもこの研究に意味があるのは、臨床家が使えるのは「関連」ではなく「割合」だからです。

背景を押さえておきます。歯周病は世界の成人の50%超が罹患する、ありふれた病気です。重度歯周炎は歯の喪失の主因で、2010年の世界疾病負担研究では標準化有病率11.2%で世界6番目に多い疾患とされました。NHANES 2009-2012では30〜79歳のほぼ50%が歯周炎、65歳以上では約2/3という数字も出ています。つまり歯科医院は、糖尿病のスクリーニングにとって母集団が大きく、しかも定期的に人が来る、またとない場所なのです。

ところが「歯周病患者に糖尿病がどれくらいいるか」という素朴な数字は、個々の研究ではばらばらでした。国も、歯周病の定義も、糖尿病の測り方も違う。だから横断的に集めて統合する意味があった。それがこのレビューです。

結果——聞き方で、数字が3倍変わる

全体の数字はシンプルです。歯周病の人の糖尿病有病率13.1%、歯周病でない人は9.6%。差はありますが、劇的というほどではありません。

本当に重要なのは、その内訳です。

0 6.7% 13.3% 20% 糖尿病の有病率(%) 9.6% 13.1% 6.2% 17.3% 歯周病なし 歯周病あり(全体) 自己申告のみ 臨床検査で診断 歯周病の人の糖尿病有病率は、聞き方で6.2%〜17.3%まで変わる。自己申告は臨床検査の約3分の1しか拾えていない=隠れ糖尿病を見逃している
図1:糖尿病の有病率。歯周病の人でも、自己申告(6.2%)と臨床検査(17.3%)で約3倍も違う。自己申告は隠れ糖尿病を拾えていない。

歯周病の人でも、糖尿病を自己申告で聞くと6.2%、臨床検査で調べると17.3%。同じ集団なのに、約3倍の開きがあります。これは何を意味するか。患者さん本人が「糖尿病です」と申告する数の、およそ3倍の人が、実際には糖尿病(または未診断の高血糖)を抱えているということです。

問診票の「持病はありますか」に「なし」と書いた歯周病患者さんの中に、まだ診断されていない糖尿病が相当数まぎれている。自己申告は、隠れ糖尿病を見逃す。これがこの論文のいちばん実務的なメッセージです。

地域差と、オッズ2.27倍という数字

もう一つ、著者らが強調するのが地域差です。

0 6.7% 13.3% 20% 歯周病の人の糖尿病有病率(%) 4.3% 13.1% 17.2% ヨーロッパ 全体 アジア 地域差が大きい。歯周病の人の糖尿病有病率は、ヨーロッパの研究で4.3%(n=7,858)、アジアの研究で17.2%(n=18,002)。統合オッズ比は2.27倍(95%CI 1.90–2.72)
図2:歯周病の人の糖尿病有病率の地域差。ヨーロッパ4.3%、アジア17.2%と、4倍の開きがある。

歯周病の人の糖尿病有病率は、ヨーロッパの研究で4.3%(n=7,858)、アジアの研究で17.2%(n=18,002)。アジアがヨーロッパの約4倍です。日本もアジアに含まれることを考えると、私たちの患者層は「歯周病があれば糖尿病も高頻度」という側にいる可能性が高い。この数字は、日本の臨床にとってヨーロッパの数字より参考になります。

そして関連の強さ。歯周病の人が糖尿病である統合オッズ比は2.27倍(95%CI 1.90–2.72)。信頼区間が1.0を大きく上回っており、統計学的にしっかりした関連です。「歯周病の人は、そうでない人より2倍ちょっと糖尿病を持ちやすい」——これは患者説明にそのまま使える大きさです。

明日の臨床へ——歯科を「気づく場所」にする

この論文の使いどころは、歯科医院を糖尿病に気づく最初の場所にすることです。

1. 自己申告を鵜呑みにしない。 「糖尿病はありません」の裏に、臨床検査なら3倍見つかる隠れ糖尿病がいる。とくに治療に反応しない歯周炎、繰り返す膿瘍、コントロールしているのに進む骨吸収——これらは血糖を疑うサインです。「念のため、健診で血糖を調べたことはありますか」と一言添える。

2. 内科受診・健診受診を、根拠を持って勧める。 「歯周病の方は、そうでない方より糖尿病を持っている割合が2倍以上というデータがあります。お口だけでなく、一度血糖も確認されると安心です」。脅すのではなく、数字を添えて選択肢を示す。歯科が全身のゲートウェイになれる場面です。

3. HbA1c測定など、歯科での血糖スクリーニングの位置づけを考える。 この論文は、歯周病患者の中に未診断糖尿病が相当数いることを示しました。海外では歯科医院での簡易HbA1c測定の有用性が議論されています。日本の制度では制約がありますが、少なくとも「疑って、つなぐ」役割は今日から果たせます

今日から使える一言: 「糖尿病なし」の申告は臨床検査の3分の1しか拾えていない。歯周病患者には「血糖を調べたことは?」を一言。オッズ2.27倍を根拠に、内科へつなぐ。

ここだけ、冷静に補助線

著者ら自身が推定バイアスを率直に挙げています。歯周炎の定義が研究ごとにばらばら、自己申告と臨床検査の糖尿病が混在、そして糖尿病のコントロール状態が調整されていない——これらが数字の精度を揺らします。とくに「歯周炎あり」の閾値が緩い研究と厳しい研究では、拾われる集団が変わってしまう。また有病率(prevalence)を見た横断的な集計なので、「歯周病が糖尿病を起こした」という因果や時間的前後は示していません(双方向の関連は別のエビデンスで支持されていますが、この論文が示したのは「同時に持っている割合」です)。それでも、機序の話に偏りがちなこの領域で、「歯周病患者の何%が糖尿病か」「自己申告では何倍見逃すか」という臨床に直結する数字を、地域差まで含めて整理した価値は大きい。とりわけ日本を含むアジアで有病率が高いという所見は、私たちの日常の問診を一歩前に進める根拠になります。

今日のひとこと

歯周病の人の糖尿病有病率は13.1%(歯周病でない人は9.6%)。歯周病の人が糖尿病である統合オッズ比は2.27倍。ただし自己申告だと6.2%、臨床検査だと17.3%と、測り方で数字が大きく変わります。

出典:Ziukaite L, Slot DE, Van der Weijden FA. Prevalence of diabetes mellitus in people clinically diagnosed with periodontitis: A systematic review and meta-analysis of epidemiologic studies. J Clin Periodontol 2018;45(6):650-662. PMID: 29125699(doi: 10.1111/jcpe.12839)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。