ペリオ|歯周病の診断・予後評価
根分岐部病変は水平的な深さ(1度・2度・3度)で語られてきました。でも、同じ「2度」でも残せる歯と残せない歯があります。その違いはどこにあるのか。Tonetti らは、10年以上メインテナンスに通った200人の患者で、垂直的なサブ分類(最も弱った根の残存support)が生存率を予測することを示しました。
①同じ「2度」なのに、なぜ結果が割れるのか
下顎大臼歯の頬側、水平的に2度の根分岐部病変。カルテには「Class II」と書きます。
ところが実際に経過を追うと、同じ2度でも運命が分かれます。10年後もしっかり残っている歯がある一方で、数年で抜歯に至る歯もある。私たちはなんとなく「歯によるよね」と流してきました。その「歯による」の中身は何なのか。
前回紹介した Nibali らの研究(通わない集団)は、水平的な程度で喪失率が階段状に上がることを示しました。しかし著者らが指摘するのは、これまでの根分岐部病変の予後研究は、ほとんどが水平成分(horizontal component)にばかり注目してきたということです。プローブが分岐部を何mm貫通するか。それだけを見てきた。
Tonetti・Christiansen・Cortellini は、別の軸を持ち込みます。垂直成分=それぞれの根に、歯周組織がどれだけ残っているか(residual periodontal support)。これが分岐部大臼歯を残せるかどうかを、大きく左右するのではないか。
対象は、単一の診療所で10年以上メインテナンスに通った200人の連続症例。前回の「通わない集団」とちょうど裏返しの、条件のよい集団です。
②垂直的サブ分類とは何か——Tarnow と Fletcher の物差し
この論文が使うのは、Tarnow と Fletcher が1984年に提案した垂直的サブ分類です。考え方はシンプルで、最も歯周組織が失われた根で、骨吸収(アタッチメントロス)が歯根のどこまで進んでいるかを見ます。
サブクラスA:骨吸収が歯根の歯冠側1/3にとどまる。サブクラスB:中央1/3まで。サブクラスC:根尖側1/3まで。 エックス線(規格化された平行法)を主に、アタッチメントレベルで補いながら判定します。
ここが重要なのですが、水平的な「何度」と、垂直的な「どこまで深いか」は別の情報です。水平2度は「分岐部を器具が貫通するが反対側までは抜けない」という横方向の話。垂直サブ分類は「その分岐部を支える骨が、根に沿ってどこまで残っているか」という縦方向の話。同じ横方向の2度でも、縦方向はA〜Cまで幅がある。この論文は、その縦方向こそが予後を決めると主張します。
③結果——91%と23%は、もはや別の歯
ランダムに選んだ2度分岐部大臼歯について、垂直サブ分類ごとにKaplan-Meier生存曲線を描いた結果がこれです。
全体の10年生存率は52.5%。ちょうど半分です。これだけ見ると「2度の大臼歯は5分5分」という、あまり役に立たない結論になります。
ところがサブ分類で分けると景色が一変します。サブクラスA 91%、サブクラスB 67%、サブクラスC 23%。平均生存年数もA 9.5〜10.1年、B 8.5〜9.3年、C 6〜7.3年。生存分布の差は曲線のすべての区間で高度に有意(p<0.001)でした。
Aの91%とCの23%は、臨床的にはもはや別の歯です。 Aなら「10年はまず大丈夫」と言えるし、Cなら「数年での喪失も視野に入れて計画を」となる。同じ「2度」というラベルの下に、これだけ違うものが同居していた。
抜歯・喪失のリスクを見ると、さらにはっきりします。
サブクラスBの抜歯・喪失ハザード比は4.2、サブクラスCは14.7。Aを1とすると、Cは約15倍のリスクです。そして喫煙で層別化しても、両群で有意な差が保たれていました(p<0.001)。垂直サブ分類は、喫煙という強力な交絡を超えて効いている、ということです。
④この結果が解く、長年の謎
著者らは冒頭で、ある「うまく解釈できていなかった所見」に触れています。それは——根分岐部病変は歯の喪失リスクを高めるのに、よく管理された集団では、分岐部大臼歯の多くが20年スパンで生き残るという、一見矛盾したデータです。
Goldman、Hirschfeld と Wasserman、McFall といった古典的な長期研究は、いずれも「分岐部があっても案外もつ」ことを示していました。リスクは上がるはずなのに、多くは残る。この食い違いを、みんな「まあ管理が良ければね」で片づけてきた。
この論文は、その謎に一つの答えを出します。「分岐部大臼歯」とひとくくりにしていた集団の中に、実はA(91%残る)とC(23%しか残らない)が混ざっていた。平均すれば「半分くらい残る」になる。だから集団全体を見ると「案外もつ」ように見えていたのです。垂直成分で分ければ、もつ歯ともたない歯がくっきり分かれる。矛盾は、物差しが粗かったから生まれていた。
⑤明日の臨床へ——分岐部を「縦」でも見る
1. 分岐部病変を記録するとき、垂直も一緒に書く。 「頬側2度」で止めず、「頬側2度・サブクラスB(中央1/3まで)」まで書く。エックス線で、最も骨が失われた根の吸収がどこまで進んでいるかを見るだけです。この一手間で、予後の見通しが91%と23%のどちらに近いかが分かれます。
2. 「残す努力」の配分を変える。 同じ2度でも、Aなら通常のメインテナンスで10年もつ見込みが高い。Cなら、再生療法・ルートセパレーション・ヘミセクション、あるいは計画的な抜歯とインプラントというより積極的な選択肢を早めに検討する意味があります。限られた時間と労力を、垂直サブ分類で優先順位づけできる。
3. 患者説明を「縦」で具体化する。 「分岐部に病変があります」だけでは伝わりません。「横方向は中くらいですが、縦方向=この根を支える骨が中央まで下がっているので、同じ状態の歯は10年でだいたい3本に2本が残る、というデータです」——ここまで言えると、患者さんは自分の歯がどのグループにいるかを理解できます。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
2度の根分岐部病変がある大臼歯の10年生存率は、全体で52.5%。しかし垂直的サブ分類で分けると、サブクラスA 91%、B 67%、C 23%と大きく割れます。水平だけでなく、垂直=残っている歯周組織の量が予後を決めます。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


